後遺障害の申請方法がわからない方
障害が残ってしまったら
― 後遺障害慰謝料等の請求方法について ―
労働災害に遭い、治療を尽くしたにもかかわらず一定の障害が残ってしまった場合、障害(補償)給付が支給される可能性があります。
厚労省は、障害(補償)給付の支給要件として、「治ったとき」に身体に一定の障害が残っている場合と定めています。この「治ったとき」というのは、完治したという意味ではなく、傷病の状態が安定し、これ以上治療を続けても医療効果が期待できなくなった最終段階を意味しています。診断書に「治癒」「症状固定」等と記載されます。
残ってしまった障害の内容が、特定の障害等級(障害の種類と、その重さに相応した等級が定められています)に該当すると認められれば、その等級に応じて障害(補償)年金/障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別年金/障害特別一時金、といった障害(補償)給付 を受けとることができます。
障害(補償)給付の請求手続
傷病について医師が「治った」(もうこれ以上治らない)と判断した翌日から5年以内に「障害(補償)給付支給請求書 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 支給申請書 業務災害用(様式第10号)/通勤災害用(様式第16号の7)」を、医師が作成した診断書を添付したうえで、所轄の労働基準監督署に提出してください。
また、「療養(補償)給付たる療養の費用請求書 業務災害用(様式第7号)/通勤災害用(様式第16号の5)」を提出すれば、診断書の作成費用(1万円以上かかることもあります)も請求することができます。
慰謝料の請求
慰謝料等の請求方法
傷病を負ったことについての慰謝料や、障害が残ってしまったことについての慰謝料は、労災保険制度から受けとることはできません。責任のある加害者や使用者に対して、民法上の請求を行う必要があります。
そして、不法行為責任(民法709条 違法なことをして他者に損害を与えた場合に、相当な範囲で損害の賠償を行う責任)を問う形で慰謝料を請求する場合、障害(補償)給付を受ける権利の時効期間である5年よりも早く時効が成立してしまう可能性があります。
そのため、後遺障害について慰謝料等も請求する場合を想定し、「治癒」「症状固定」との判断が出たら、速やかに「診断書」と「障害補償給付支給申請書」を労働基準監督署に提出しておくようにしましょう。
なお、後遺障害が残っているかの判断は労災保険制度では労働基準監督署が民法上の請求では最終的には裁判官が行うため、仮に労災保険上後遺障害があると認められたとしても、民法上の請求において同じように認定されるとは限りません(たとえば、腰の捻挫について、労災保険では12級が認定されたにもかかわらず、民事裁判では14級にとどまると判断されてしまった、ということも少なくありません)。
責任の立証
労災保険では業務に起因して疾病が発生した(その結果、障害が残った)ことを立証すれば給付を受けられますが、加害者や使用者に対して慰謝料等の損害賠償を請求する場合には、加害者や使用者の責任(ここでは災害が発生した・損害が生じたことについての落ち度と考えてください)も立証する必要があります。
たとえば、同僚の行為が原因で労働災害が発生した場合、同僚の不注意・ルール違反に基づく行為によって労働災害・損害が生じた、あるいは、使用者において安全管理が徹底されていなかったために労働災害・損害が生じた、といった形で責任を立証することが考えられます。
加害者・使用者の責任が認められれば、傷病が生じたこと自体についての慰謝料(「傷害慰謝料」「入通院慰謝料」といいます)を請求でき、後遺障害の存在も立証することができれば、さらに「後遺傷害慰謝料」「逸失利益」という2つの費目についても請求することができます。
後遺障害慰謝料の請求
まず、後遺障害の存在が認められた場合、怪我をしたこと自体についての慰謝料とは別に、そのような障害が残ったことについても慰謝料を請求することができます。
傷病が生じただけでも嫌な思いをしているのに、完全に治らなかったのであれば、さらなる精神的苦痛を受けるからです。
等級に応じて裁判における慰謝料額の相場があり、比較的請求が認められやすい費目です。
【参考】裁判所基準による慰謝料額
障害等級 | 慰謝料額 | 障害等級 | 慰謝料額 | 障害等級 | 慰謝料額 |
---|---|---|---|---|---|
第1級 | 2800万円 | 第6級 | 1180万円 | 第11級 | 420万円 |
第2級 | 2370万円 | 第7級 | 1000万円 | 第12級 | 290万円 |
第3級 | 1990万円 | 第8級 | 830万円 | 第13級 | 180万円 |
第4級 | 1670万円 | 第9級 | 690万円 | 第14級 | 110万円 |
第5級 | 1400万円 | 第10級 | 550万円 |
※こちらは目安の基準額となります。案件に応じて、慰謝料額の調整がなされます。
逸失利益の請求
また、障害が残ってしまうと多くの場合、単に嫌な思いをすることにとどまらず、業務にも支障が出てしまいます。
そうすると通常、雇用されていれば給料が下がってしまったり、経営者であれば売上が下がったりと、経済的な悪影響が発生する可能性がありますから、この将来的に損をしてしまう部分についても損害賠償を請求することができます。
これを「逸失利益」といい、通常、①年収 ②障害の重さ ③今後どれくらい働ける予定だったか(または、③どれくらい障害が残りそうか)の3点を考慮して算定します。
【参考】裁判所基準額による逸失利益(下4桁カット)
障害等級 | 慰謝料額 | 障害等級 | 慰謝料額 | 障害等級 | 慰謝料額 |
---|---|---|---|---|---|
第1級 | 7581万円 | 第6級 | 5079万円 | 第11級 | 1516万円 |
第2級 | 7581万円 | 第7級 | 4245万円 | 第12級 | 1061万円 |
第3級 | 7581万円 | 第8級 | 3411万円 | 第13級 | 682万円 |
第4級 | 6974万円 | 第9級 | 2653万円 | 第14級 | 379万円 |
第5級 | 5989万円 | 第10級 | 2046万円 |
※賃金センサス男性学歴計に基づき、43才・年収549万4300円の男性が各等級の後遺障害を負った場合の、67才までの逸失利益を算出。
なお、顔に傷が残った(12級の14「外貌に醜状を残すもの」など)といった、必ずしも労働能力の制限に直結しない障害については、逸失利益の請求が認められない可能性もあります。
とはいえ、まったく0にならない中間的な解決が図られるケースも多いため(逸失利益として認められない分、慰謝料として上乗せするなど)、弁護士の協力のもとで仕事や日常生活への悪影響を整理して、諦めずしっかり主張・立証していくことが大切です。
弁護士に依頼することの重要性
このように、慰謝料や逸失利益についても請求していく場合、障害の立証、加害者や使用者の責任の立証、損害の立証(主に逸失利益について)と3つのハードルが存在しています。
後遺障害が残ったときの慰謝料や逸失利益の額は、上記のとおり高額になりますので、ハードルを乗り越えた際のメリットは大きいですが、どのハードルも乗り越えるには専門知識や経験が必要です。特に、加害者や使用者が組織として反論してくる中、しっかりと責任を認めさせるのは容易ではありません。
労働災害で被害を受け、障害が残ってしまった方はぜひ一度、労災案件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所までご相談ください。