ベリーベスト法律事務所

会社が労災申請をしてくれない方

災害に遭ったご本人、またはご遺族が
自ら労災申請を行うことができます
― 事業主証明欄の記載と対応方法について ―

自ら労災申請を行うことができます

法律相談の際に「会社が労災申請をしてくれないのですが、どうしたらよいのでしょうか」という質問を受けることがあります。

このページでは、会社が労災申請に協力をしてくれない場合に労働者やその遺族はどのように対応すればよいのかという点を中心に解説をしていきたいと思います。

労災申請を行う際に
会社の同意や承認が必要なのか

会社の同意や承認が必要なのか

そもそも、労災申請を行う際は会社の同意や承認が必須であり、労働者やその遺族の方は、会社の同意や承諾がない場合には労災申請を行えないのでしょうか。

結論としては、労災申請を行う際に会社の同意や承認は必要ありません。

労災保険の給付を受け取るには、労災保険の請求者が、被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署長宛に、労災保険の請求書や添付書類を提出する必要があります。すなわち、制度の建前上は労災保険の請求者は、労災事故に遭われた労働者又はその遺族(以下「労働者等」といいます)であり、会社は労災保険の請求者ではありません。

ちなみに、一般的な慣行として会社が労働者等に代わって労災保険の請求書への記入等を行い労働基準監督署(以下「労基署」といいます)に提出することがありますが、これは本来の請求権者である労働者等の手続きを会社が代行しているのであって、会社が労災保険の請求者となっているわけではありません。

したがって、労災申請を行う際には、会社の同意や承認は必要ではなく、労働者等は、自ら労災申請を行うことができます。具体的な申請の方法については、「労災申請の方法を知りたい方」をご参照ください。

以下では、会社が労災申請をしてくれない場合に、問題となりやすい事業主証明欄の記載に関連する問題点について解説していきます。

事業主証明欄の記載について

事業主証明欄の記載

上記のとおり、労災申請を行う際には、会社の同意や承認は不要であり、労働者等は、自ら労災申請をすることができます。

しかし、労災保険の請求書の事業主証明欄には会社の署名が求められています。そのため、会社が事業主証明欄への記載をしてくれない場合には、労災申請手続きはできないのではないかという疑問を抱かれる方も多いのではないかと思います。

確かに、会社による事業主証明欄への記載は、法律上、請求書の記載事項の一つとして定められています(労働者災害補償保険法施行規則12条2項等)。
ですが、事業主証明欄への記載は、会社と労働者の間に雇用関係が成立していることなどを証明するものに過ぎず、会社に労災申請に関する拒否権を与えたものではありません。

また、法律上、会社は事業主証明欄の記載に関して協力する義務を負っており、会社が事業主証明欄への記載を拒否することは許されません。このことは、労働者災害補償保険法施行規則23条2項に、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」と定められていることからも明らかです。

このように、法律上は、労災保険の請求書に、事業主証明欄への記載が求められていることをもって、会社に労災申請に関する拒否権が与えられているわけではなく、むしろ、会社は事業主証明欄の記載に関して協力する義務を負っているわけです。

それにもかかわらず、実際には、会社が、様々な理由で(たとえば、会社の負うべき責任を免れるため、会社側が制度を誤解しているためなど)事業主証明欄への記載を拒否することがあります。このような場合、労働者等はどのように対応すべきなのでしょうか。

具体的な対応方法

会社との交渉

交渉

まずは、会社が事業主証明欄への記載を拒否している理由を確認した上で、事業主証明欄への記載をするように会社を説得することが考えられます。

たとえば、会社が、労災事故の事実関係について労働者側の主張と会社側の主張が食い違っており、会社は労働者の主張する事実を認めていないため、事業主証明欄に記載をすることはできないと主張することがあります。

これに対しては、労災申請がなされたとしても労基署が独自の調査に基づいて判断を下すのであり、事業主証明欄への記載をすることが、直ちに労働者の主張する事実関係を認めることにはなるわけではないと会社を説得することが考えられます。

なお、会社への恩義などから、会社との交渉を躊躇される方もいらっしゃいますが、本来会社には労災の発生を労働基準監督署長等に報告する義務があり、この義務への違反、いわゆる「労災隠し」は、労働安全衛生法100条1項及び同法120条5号に該当する犯罪行為となり得ます。

したがって、労働者等が会社と交渉することに躊躇する必要はありません。

ちなみに、会社側が労災の申請に協力的ではない大きな理由の一つとして、「労災を使わせたら保険料が上がってしまい、会社の経済的な負担が大きくなる」というものがあります。
確かに、労災保険料には「メリット制」というものが導入されており、一般的な傾向として、労災保険を頻繁に使う事業主は高い保険料の納付を求められます。しかし、メリット制はあくまでも「業務災害」に限った話であり、「通勤災害」には適用されません。通勤災害であるにも関わらず頑なに労災申請を渋る会社は、もしかするとこの点について誤解をしているのかもしれませんので、そのあたりを説明してみてもいいかもしれません。

労基署への相談

相談

次に、労基署に対して会社側が事業主証明欄への記載を拒否していることを伝え、今後の対応方法について相談してみるということが考えられます。

これまでにも述べてきたとおり、労災申請は労働者等の権利であり、会社側にそれを拒む権利はありません。労基署でも、具体的な状況を踏まえ柔軟に対応してくれることがありますから、一度労基署に相談してみることをおすすめします。

過去に、会社に対して事業主証明欄への記載を求める旨の書面を送付したにもかかわらず、会社が事業主証明欄への記載を拒否したため、その旨を報告書という形で書面にまとめ、その報告書と会社側に送付した文書とを労基署に提出することで、請求書の事業主証明欄に記載がない状態で労災申請を認めてもらえたというケースもありました。

社会保険労務士の先生に相談してみる

最後に、社会保険労務士の先生を頼ることも考えられます。労災の申請の代行を専門とする社会保険労務士の先生に相談してみることで、より迅速に問題が解決できるかもしれません。

まとめ

会社が労災申請に協力をしてくれない場合の対応方法を中心に解説をしましたが、いかがでしたでしょうか。

会社が労災申請をしてくれない場合には、労働者が自分で対応する必要があります。自分で全ての必要書類を揃えることは難しいと思いますので、まずは労基署の窓口に相談してみましょう。記入の仕方や、どのような添付書類を用意すればいいかなど、丁寧に教えてくれるはずです。

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