近年、介護現場での労災が深刻な社会問題となっています。厚生労働省の発表によれば、令和5年に「社会福祉施設」で発生した、亡くなった、もしくは、ケガで4日以上の休業を余儀なくされた労働災害は1万4049件にのぼり、これは前年比で9.9%も増えました。
介護施設での労災の主な原因には、「動作の反動・無理な動作」「転倒」「墜落・転落」などがありますが、業務中に利用者から暴力や暴言を受けるケースも労災の原因のひとつです。このような状況の中で、「暴力や暴言も労災にあたるのか」「後遺障害が残った場合の補償はどうなるのか」といった疑問を持つ方もおられるでしょう。
今回は、利用者からの暴力・暴言に関して労災認定が受けられる条件やその申請手続き、さらには慰謝料請求の方法まで、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
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1、介護施設で利用者から暴力を受けたら、労災は適用される?
介護の現場では、利用者からの暴力や暴言に悩まされることもあるでしょう。では、そのような被害が発生した場合、労災として認められるのでしょうか。以下では、介護施設における暴力・暴言被害の実態や、労災認定の要件について解説します。
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(1)介護施設での利用者からの暴力・暴言被害の実態
介護施設に勤務する職員の中には、業務中に利用者から暴力や暴言を受けた経験を持つ方もいらっしゃるでしょう。特に、認知症を患っている高齢者の場合、感情のコントロールが困難になることが多く、突発的な行動に出ることがあります。
暴力・暴言は、身体的・精神的な苦痛をもたらすだけでなく、業務へ支障が出る、離職せざるをえなくなる、といったリスクも高めています。しかし、介護現場では、人手不足や業務量の多さによって相談しにくく、泣き寝入りしてしまうということもあるでしょう。 -
(2)介護業務に従事している際の暴力・暴言であれば労災の対象となる
介護職員が業務中に利用者から暴力や暴言を受け、それによってけがや精神障害を負った場合、「労災(労働災害)」として認定される可能性があります。労災とは、業務中または通勤中に起きた災害(負傷、疾病、障害または死亡)にあった労働者に、補償を行う制度です。
① 労災認定には「業務遂行性」と「業務起因性」が必要
労災が認められるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。- 業務遂行性:労働者が事業主の支配下で業務に従事していた状態であること
- 業務起因性:災害や疾病の原因が業務に密接に関連していること
介護施設において、職員が利用者の入浴や排せつ、食事などの介助をしている最中に暴力を受けた場合、それは明らかに業務中の出来事であり、かつ業務が原因で発生した被害です。
したがって、両要件を満たすと考えられ、労災として認定される可能性が高いといえます。
また、勤務時間外であっても、指示された業務や残業中であれば労災の適用が認められることもあります。
② 暴言による精神的苦痛も労災になることがある
身体的な暴力だけでなく、精神的な被害についても労災は認定されます。たとえば、利用者から日常的に罵倒されたり、人格を否定されるような言動を繰り返されたりしたことにより、うつ病や適応障害などを発症したケースなどが挙げられます。
このような精神障害が労災にあたるかどうかは、厚生労働省が策定する「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」に基づいて判断されます。この基準は、令和5年に心理的負荷にあたる業務が増える改正がなされており、現在は以前よりも労災認定を受けられる可能性が高くなっています。
具体的には、以下のようなケースが心理的負荷の高い業務と認められる可能性があります。- 施設利用者から暴行・暴言などの著しい攻撃を繰り返し受けた
- 施設利用者から暴行・暴言を受けたが、会社に相談しても適切に対応されず、改善されない
- 職場でずっと孤立している、適切なサポートが受けられない
③ 暴力・暴言被害を記録しておくことが重要
労災の認定を受けるためには、どのような状況で被害を受けたのかを具体的な証明をしなければなりません。そのため、暴力や暴言があった日時や内容、目撃者の有無、医療機関の受診記録などを残しておくことが重要です。
被害の事実関係を客観的に示すことで、労災保険からの給付を受けられる可能性が高まります。日頃から介護記録や業務日報などに丁寧に記録を残し、将来に備えましょう。
2、介護施設の利用者からの暴力・暴言があり、けがや精神障害を負ったときの労災認定の流れと手続き
介護業務中に利用者から暴力や暴言を受けた結果、けがや精神障害を負ってしまった場合、労災申請をすることで労災保険の給付が受けられます。以下では、労災申請の流れとポイントを詳しく説明します。
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(1)労災申請の具体的手順
労災保険の給付を受けるには、まず労働基準監督署に対して「労災申請」を行う必要があります。労災申請の具体的手順は、以下のとおりです。
① 医療機関での診断・治療を受ける
介護施設で利用者からの暴力によりけがをした場合、または暴言により精神疾患を発症した場合には、まず医療機関を受診するようにしてください。
その際は、労災保険指定医療機関を受診するのがおすすめです。労災保険指定医療機関であれば、窓口での治療費の負担なく治療が受けられますので、被災労働者の経済的負担を減らすことができます。
② 申請書類の準備
労災の種類(療養補償給付・休業補償給付など)に応じて、必要な申請書類を用意します。たとえば、療養補償給付を申請する場合、「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」が必要となります。
必要な申請書類は、労働基準監督署の窓口に備え付けられているほか、厚生労働省のホームページからもダウンロードすることができます。
③ 事業主の証明を得る
労災申請書には、事業主が業務中の災害であることを証明する欄があります。これは通常、勤務先の人事担当者や上司に記入してもらいます。
申請書類を職場に提出して、事業主の証明欄の記入をお願いするようにしてください。
④ 労働基準監督署へ提出
申請書類の記入が完了したら、その書類を勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署(療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)は、労災保険指定医療機関等)に提出します。提出後、審査が行われ、必要に応じて追加調査が行われる場合もあります。
⑤ 給付決定・支給
審査の結果、労災と認定されれば、医療費や休業補償などが支給されます。審査には数週間から数か月かかる場合もあります。 -
(2)提出先と 必要書類
労災の申請書類は、申請する労災保険給付の種類によって異なります。主な申請書類としては、以下のとおりです。
- けがや病気で療養する際の申請(療養補償給付):療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)
- 労災によるけがや病気で仕事を休み、給料がもらえないときの申請(休業補償給付):休業補償給付支給請求書(様式第8号)
- 労災によるけがや病気で後遺症が出たときの申請(障害補償給付):障害補償給付支給請求書(様式第10号)
また、これらの申請書に加えて、医師の診断書や業務に関する具体的な出来事を記載した書面、災害発生状況報告書・介護記録などの補助資料などの提出も必要になります。
なお、提出先は、様式第5号を除いて、原則として被災した労働者の勤務先を所管する労働基準監督署です。所在地が不明な場合は、厚生労働省の「労働基準監督署検索」ページから検索できます。 -
(3)労災申請で注意すべきポイント
介護施設での暴言・暴力を理由に労災申請を行う際には、以下の点に注意が必要です。
① 暴力・暴言の記録を詳細に残す
口頭の報告だけでは信ぴょう性が弱いため、被害日時や場所、状況、相手の言動などを詳しく記録し、介護記録や業務日誌に残しておくことが大切です。録音や録画が可能な場合は、そのときの状況を録音・録画をしておきましょう。証拠として役立つこともあります。
② 証人の存在を確認する
同僚や上司など被害を目撃した職員がいれば、証言を依頼することも有効です。特に、精神障害の申請では、職場環境や日常業務の過重性が重要視されるため、同僚の協力が認定のカギとなることがあります。
③ 早めの申請を心がける
被災後に時間がたちすぎると、労災との因果関係が不明瞭になる可能性があります。精神的な被害についても、症状が出た時点で早めに受診・相談し、必要な記録を集めておきましょう。 -
(4)職場が協力してくれない場合の対処法
職場によっては「施設の評判を落としたくない」「申請書類の記入が面倒」といった理由で、事業主が労災申請への協力を拒むケースもあります。もし勤務先が証明欄に記入してくれない場合でも、以下の手段で労災申請は可能です。
① 事業主証明欄が未記入のまま提出する
事業主証明がない場合でも、労働基準監督署に労災申請を行うことは可能です。
職場が事業主証明欄への記入を拒否する場合、労働基準監督署にその旨を説明すれば、事業主証明欄が未記入のままでも申請を受理してもらうことができます。
② 労災相談窓口や地域の労働基準監督署に相談する
申請に不安がある場合や書類作成に困っている場合は、厚労省の委託相談窓口「労災保険相談ダイヤル」や労働基準監督署で相談してみるとよいでしょう。
③ 弁護士に相談する
弁護士であれば、適切な手続き方法をアドバイスできるほか、施設側との交渉を代わりに行うことができる場合もあります。弁護士から事業主証明欄への記入を求めることで、応じてくれるケースもあります。
3、後遺障害が生じた場合の補償
介護施設の利用者からの暴力によって重大なけがを負い、または暴言により精神疾患を発症し、その後も障害が残ってしまった場合、労災保険による補償を受けることが可能です。
ただし、労災保険では慰謝料の支給は想定されていないため、補償が十分でないと感じるケースもあります。以下では、障害が残った場合に受けられる補償の内容を説明します。
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(1)障害等級認定が受けられれば障害補償給付が受けられる
治療の結果、元の健康な状態まで回復すれば問題ありませんが、傷病の程度によっては医学的に効果が見込まれる治療を続けても、それ以上の改善が期待できないケースがあります。
このような状態を「症状固定」といい、この時点で身体に障害がある場合には、労災保険制度における障害補償給付の申請をすることができます。申請の結果、1級から14級までの障害等級が認定されれば、等級に応じた一時金または年金が支給されます。 -
(2)労災保険からは後遺障害慰謝料は支払われない
労災保険にはさまざまな補償がありますが、「慰謝料」という概念が存在しません。つまり介護施設の利用者からの暴力や暴言によって障害が残り、日常生活に深刻な影響が出ていたとしても、その精神的苦痛に対する補償は、労災保険からは支払われないのです。
精神的損害に対する金銭的な補償(慰謝料)を求めるには、民事上の損害賠償請求を行う必要があります。慰謝料請求の相手方としては、暴力・暴言をした直接の加害者である施設利用者または介護施設が考えられますが、これについては次章で詳しく解説します。
4、労災給付だけでは補償が足りないときの対処法|利用者や介護施設への賠償請求
労災保険によって治療費や休業補償などは支給されますが、精神的苦痛に対する慰謝料や将来にわたる損害をすべてカバーできるとは限りません。このような場合、加害者である利用者本人や職場である介護施設に対する損害賠償請求を検討していきます。
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(1)利用者およびその家族に対する賠償請求
利用者から暴力を受けてけがを負った場合、民法に基づいて利用者本人に対し損害賠償請求を行うことができます。ただし、加害者が認知症などにより責任能力が欠けていると判断される場合には、損害賠償請求を行うことはできません。
そのような場合でも、認知症の本人を監護する義務のある家族などに対し、「監督義務者」として賠償を求める余地はあります。 -
(2)安全配慮義務違反が認められるときは介護施設への賠償請求
勤務先の施設に対しては、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられます。
介護施設には、職員が安心して働ける環境を整える義務があり、過去に暴力が繰り返されていたにもかかわらず何の対策もしなかったような場合には、施設側の落ち度が認められる可能性があります。
たとえば、危険性の高い利用者について十分な人員配置を行っていなかった、再三の報告にもかかわらず対応を怠ったといった場合には、職員への安全配慮を欠いていたとして、民事上の責任を問われることになります。
5、介護施設で利用者から暴力を受けたときに弁護士に相談すべき理由
介護現場で利用者からの暴力や暴言によって被害を受けた場合、自力での対応が難しいこともあるでしょう。そのような場合は、弁護士に相談することをおすすめします。以下では、介護施設で利用者から暴力を受けたときに弁護士に相談すべき理由を説明します。
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(1)利用者や介護施設への賠償請求の手続きを代行できる
加害者である利用者やその家族、さらには施設に対する損害賠償請求は、法的な根拠に基づく慎重な対応が求められます。
弁護士は、証拠の収集から法的責任の判断、交渉の窓口まで一貫して対応できますので、依頼者としては精神的負担が軽くなることでしょう。法的根拠が曖昧なまま交渉を行っても、有利な結果は得られず、逆にトラブルが拡大する可能性があるため、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。 -
(2)交渉がうまくいかないときでも裁判により解決可能
示談交渉がまとまらない場合には、民事訴訟を提起するという手段もありますが、知識や経験に乏しい一般の方では対応が難しいといえるでしょう。
弁護士であれば、代理人として訴訟手続きを適切に進めることができます。適正な補償(賠償)を受けるためにも、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
6、まとめ
介護施設での業務中に利用者から暴力や暴言を受け、それが原因でけがや精神的障害を負った場合、労災として補償を受けられる可能性があります。
ただし、労災だけでは慰謝料などが支払われないため、被害の程度によっては利用者や介護施設に対して損害賠償請求を検討することも重要です。適切な補償を受けるためにも、早期に弁護士に相談し、法的なサポートを受けながら冷静に対応を進めることをおすすめします。
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交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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