労働災害(労災)による損害の回復の手段
労働災害(労災)の補償は「労災保険の給付請求」と「損害賠償請求」
労災保険の給付請求
労災保険は、会社に落ち度がなくても、一定の金額を被災労働者に給付する制度です。
もっとも、例えば、労働災害(労災)による休業の場合、平均賃金の80%までしか給付を受けることができません。つまり、労災保険は、労働災害による休業のために受け取ることができなかった給料のすべてをカバーするものではないのです。
また、労働災害によって、長期間の入通院を余儀なくされ、苦しい思いをしても、その精神的損害に対する慰謝料は、労災保険によっては補償されません。
民事上の損害賠償請求
労災保険は上記のような制度ですから、労災保険の給付を超える損害については、民事上の損害賠償請求により損害を回復させる必要があります。
たとえば、精神的な損害に対する慰謝料(入通院を余議なくされたことに対する「入通院慰謝料」、後遺障害の等級に応じた「後遺障害慰謝料」、「死亡慰謝料」等が考えられます)についてはそもそも労災保険給付の種類として存在しないため、民事上の損害賠償請求という手段に訴えるしかありません。
つまり、労働災害については、労災保険の給付請求に加え、会社に対し民事上の損害賠償請求をすることによって、被災労働者が被った損害全体の回復を図ることができるようになるのです。
ただし、民事上の損害賠償請求ができるためには、会社が被災労働者に対し損害賠償責任を負う法律上の理由が必要となります。
その法律上の理由が認められるのは、会社の故意または過失によって労働者に損害を与えたという場合(不法行為)や、労働者が危険な状態で会社に働かされていて、その状態が原因で労働災害に遭ったという場合(安全配慮義務違反)です。
安全配慮義務違反とは
会社と労働者との間には、雇用契約が存在しています。雇用契約は、労働者が労働することと、会社が賃金を支払うことが中心となる契約ですが、会社には、労働者が安全な環境で働くことができるようにする義務も課せられています(安全配慮義務)。そのため、危険な労働環境の中で労働災害にあったという場合、労働者は会社に対して、安全配慮義務違反を理由として、損害賠償を請求することができます。
賠償請求できる損害の範囲
賠償請求できる損害の範囲は、原則として、以下の通りです。
(以下は、裁判手続きとなった場合に認められることの多い損害です)
- 財産的損害のうち積極損害(治療費、入院費、付添費、葬儀費等)と消極損害(休業損害、後遺障害または死亡による逸失利益)
- 慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料等)
- 弁護士費用
- 遅延損害金