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労働災害(労災)コラム

仕事中に骨折! 労災認定の条件や受け取ることのできるお金は?

更新:2024年02月13日
公開:2020年11月12日
  • 労災
  • 骨折
仕事中に骨折! 労災認定の条件や受け取ることのできるお金は?

勤務中のケガは意外と多いものです。軽い打撲程度のものから、フォークリフトに足を轢かれて骨折で全治3か月など、重いケガをしてしまう場合もあります。
ケガの中には治療をすれば完全に治るものと、症状が残るものとがあります。特に、骨折をした上に神経を損傷している場合は、骨折による可動域制限に加えて、痛みやしびれが残りやすい傾向があります。今後の仕事にも影響が出る可能性が高くなります。
このようなとき、労災保険の補償だけで足りるのでしょうか。仮に労災補償だけでは不足する場合はどうしたらよいのでしょうか。
本コラムでは、仕事中に骨折をした場合の労災やそれ以外の補償について弁護士がご説明します。

1、労災とは

労災とは労働災害の略語で、労働者が通勤する途中(帰路を含む)、または業務中に発生したケガや病気、死亡のことを指します。労災には精神的な病も含まれており、長期にわたる長時間労働やハラスメントなどで精神的なダメージを受けた場合も、労災認定される場合があります。

2、骨折で労災認定を受けるポイントは?

労災認定を受けるためには、ケガや病気、死亡と労務との因果関係があると認められなければなりません。因果関係の有無は業務遂行性と業務起因性という2つの基準で判断されます。

業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて、事業主の支配下にある状態で業務をしていたかどうかという意味です。たとえば、工場で仕事中に、同僚が商品を運んでいたフォークリフトに足を轢かれた場合は、業務を遂行する際に起きた事故によるケガとして、業務遂行性が認められます。社外での出来事でも、たとえば、出張のために飛行機で移動する際に空港で他人とぶつかって転倒した、という場合でも、業務遂行性が認められます。他方、たとえ仕事の帰りでも、仕事場から遠く離れたライブハウスに行って帰りにケガをした、という場合は、事業主の管理下にも支配下にもありませんので、業務遂行性は認められません。

業務起因性とは、病気やケガ、死亡が業務に起因して生じたものかどうかという意味です。たとえば、過労死の場合は、労働者の労働時間や業務の性質、心理的負荷の大きさなどを考慮して、過剰な業務負担から死亡に至ったといえるかを判断します。なお、特に自殺の場合は、本人の性質もある程度関与すると考えられるため、労働者の日頃の習慣、体質、性格等の個人的素因も判断要素となります。

3、骨折で労災が認められると、どんな補償を受けることができる?

労災保険には、労働者の災害の実態に合わせて、さまざまな補償給付制度があります。
労働者災害補償保険法に基づいて、通勤災害または業務災害を受けた本人またはその遺族に対し、保険給付が行われます。

たとえば、治療費を給付する療養給付や、休業中の生活費を補償する休業給付、治療後も心身に障害が残存した場合の後遺障害に対する給付である障害補償給付などがあります。それぞれ詳しく解説します。

  1. (1)療養(補償)給付

    ケガや病気をしたときに、その治療費を給付する制度です。
    診察費用、血液検査費用、レントゲン等画像撮影費用、薬剤料、処置や手術費用、入院費用などが対象となります。事前に申請が必要ですが、労災と認定されれば、治療費は病院に対して直接給付されるのが原則です。
    したがって、労働者(患者)は窓口で医療費を立て替えて払う必要がなくなります。

  2. (2)休業(補償)給付

    ケガや病気で働くことができなくなると、生活費などの支払いが困難になる方も多いことでしょう。そういうとき、働けない間の生活費を支えてくれるのが休業補償給付です。

    療養中の休業の4日目から支給されます。金額は、1日あたり、給付基礎日額の60%(特別支給金20%と併せると80%)が支給されます。休業の必要性が認められ、かつ、実際に休業していた期間について、日数計算で支給されます。

  3. (3)障害(補償)給付

    治療を続けても心身に後遺障害が残ってしまうことがあります。後遺障害が生じた場合に対応するための補償が障害補償給付です。
    後遺障害の程度に応じて支給されます。医師の診断書や治療経過を踏まえて、心身に生じた障害の程度を労働基準監督署が1級から14級までの等級別に判定します。その等級によって決まった金額が、労働者に直接支給される仕組みです。一時金(8級~14級)と年金(1級~7級)の2種類があります。後遺障害等級に該当しないと判断された場合は、障害補償給付はもらえません。
    上記以外にも、労災によって労働者が死亡した場合にその遺族に給付される遺族給付や、葬儀費用を給付する葬祭給付などがあります。

4、骨折により後遺症が残ってしまった場合

骨折の後の後遺症としては、

  • 関節の可動域が狭くなり動かしにくくなる
  • 骨折部位の周辺に痛みやしびれが残る
  • 骨折した部分が変形したまま融合してしまう
  • 骨折とともに神経を損傷していた場合、神経症状(痛み、しびれなど)が残る


などが考えられます。

仮にこのような後遺症が残ってしまったとしても、労働基準監督署によって後遺障害だと認定されなければ、後遺障害による労災補償は受け取れません。したがって、気になる症状が治療をしても治らない場合には、後遺障害の認定申請を検討すべきです。

なお、障害給付は、これ以上治療を続けても大幅な症状の改善効果が認められなくなった状態(症状固定)になった後に申請するものです。なので、医師が症状固定であると判断して初めて、障害給付の申請をすることになりますので、適切な時機について医師と相談する必要があります。
なお、障害給付の申請には期限があり、症状固定時点から5年です。この期間を過ぎてしまうと、時効として障害補償給付は申請できなくなってしまいます。時効には十分に注意しましょう。

  1. (1)後遺障害の認定申請に必要な書類

    申請をすることになったら、まずは必要な書類をそろえましょう。
    ケガの状態によって必要書類は異なりますが、原則としては、労災所定の書式(療養補償給付たる療養の費用請求書)、後遺障害、ケガの状態を示すレントゲン画像等が必要です。

    労災所定の書式は、労働基準監督署のウェブページからダウンロードすることも可能ですし、労働基準監督署の担当者に相談してみるのが一番確実でしょう。後遺障害診断書やレントゲン画像等は、主治医に作成してもらいます。

    なお、申請書には会社側の記入欄もありますが、会社が協力的でない場合には空欄のままでも構いません。
    労災の認定では、交通事故の自賠責審査と異なり、調査員と本人の面談審査が行われ、実際の症状などを直接訴えることができますので、労働者としては自分の症状を理解してもらいやすいということができます。

5、不足する部分は、損害賠償によって請求可能

  1. (1)労災保険だけでは十分でない場合

    労災保険は、労働者が安全に働けるために国が定めた最低限の補償という位置付けであり、労災の発生において誰にも責任がない場合にも支給されるものであるため、労災保険の給付だけでは、損害の賠償として十分ではない場合も多くあります。
    治療のために休業した期間中の休業損害や、後遺障害による逸失利益(ケガなどをしなければ得られたはずの利益)は、一部は労災で支給されますが、発生している損害の全額を受け取ることはできません。また、労災からは慰謝料が一切支給されません。
    これは、第三者の不法行為により発生した損害の補償を目的とする自賠責や交通事故の任意保険と大きく異なる点です。しかし、労災事故で骨折などをした場合、その精神的ダメージは大きいものです。精神的な損害に対する補償が一切ないというのは納得がいかないこともあるでしょう。このように、労災からの支給だけで納得できない場合には、足りない金額を会社に請求する方法を考えましょう。

  2. (2)会社に対する損害賠償

    会社に対する請求では、労災保険では不足する損害部分、特に、慰謝料についても認められる可能性があります。
    ただし、慰謝料というのは、違法な行為によってケガや病気になったことについての精神的損害を賠償するものであるため、会社に損害賠償請求をするためには、労災認定だけではなく、会社側に不法行為責任または安全配慮義務違反が認められる必要があります。

    安全配慮義務とは、会社が、労働者が安全に働けるように配慮をするべき義務のことです。
    会社は労働者に働いてもらって利益を得ているので、仕事中の労働者の安全を守ることは会社の責任だとされています。そこで、会社が安全配慮義務を守らず、その結果として労働者がケガ等を負った場合、労働者は会社に損害賠償請求できるというわけです。

    とはいえ、安全配慮義務といわれても、具体的に何を主張すればよいのかわからないという方もいらっしゃるでしょう。多くの場合、労災に関する証拠は会社側がにぎっていますので、会社を相手に労働者側が主張立証するのは困難を伴うことも少なくありません。

    また、労災保険請求と会社への損害賠償請求は併用できますが、治療費や休業補償など重複する給付については、どちらかにしか請求できません。
    たとえば、労災保険では慰謝料は給付の対象外ですが、休業補償は給与の6割支給されるため、会社に対して請求できるのは、4割相当分だけということになります。
    重い後遺症がある場合などは、労災保険、会社への損害賠償両方の請求を検討すべきですが、実際に何をどれくらい受け取れるのかは、細かい計算をしないとわからないというのが実態です。

6、まとめ

労災で骨折をして後遺障害が残存した場合、労災保険だけでは不足する部分について、会社に請求することが考えられます。
会社への請求においては、労災保険では認められない慰謝料も請求できます。しかし、会社に対する請求のハードルは高く、そもそも請求しうる事案でないかもしれませんし、請求するとしても、その手続きも計算も複雑になりがちです。
しかし、労災による事故でその後も長く後遺障害が続くとすれば、生活や仕事に与える支障は重大です。労災により後遺障害が残ってしまい不安を抱える方は、労災による補償と会社への請求について経験豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。

ご自身の場合にはどのような可能性が考えられるか説明を受けるだけで前進します。ベリーベスト法律事務所では、労災事故や骨折の場合にも対応経験が豊富な弁護士が在籍しています。ぜひ一度ご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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