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労働災害(労災)コラム

後遺症とはどんな状態? 後遺障害等級認定によりもらえる補償とは

更新:2024年04月17日
公開:2021年05月31日
  • 後遺症
  • 後遺障害等級認定
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後遺症とはどんな状態? 後遺障害等級認定によりもらえる補償とは

日常生活を送るうえで、仕事中や通勤中に不意に怪我をしてしまうこともあるでしょう。怪我をしたときには病院等に通院をし、治療を行うことになるわけですが、治療を続けていても症状がなかなか改善されない場合もあります。このような場合には、「後遺症が残ってしまうかもしれない」と考える方も多いでしょう。

しかし、そもそも後遺症とは具体的にどのような状態であるかについて、よくわからないという方がほとんどではないでしょうか。

本コラムでは、後遺症について、その症状や後遺障害等級認定などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、後遺症(後遺障害)とは

「後遺症」という言葉自体は日常生活でも耳にすることがあるでしょう。しかし、その内容を正確に理解している方は多くはないのが現状です。以下では、そもそも後遺症とは何であるかなど、後遺症の基本的事項について説明します。

なお、後遺症は、交通事故における強制保険である自賠責では「後遺障害」、労災保険では「障害」と呼ばれたりしますが、ほとんど同じ意味で使われているため、下記では「後遺症」と統一して記載します。

  1. (1)後遺症とはどのような状態なのか?

    怪我や病気によって治療を続けたものの、完治することなく症状が残ってしまうことがあります。医療技術が進歩しているとはいえ、治療しても怪我や病気をする前の状態には戻せないこともあるのです。

    このように、医学的にみて症状がこれ以上改善しない状態(症状固定)で、身体または精神に残った症状のことを一般的に「後遺症」といいます。

  2. (2)後遺症にあたる具体的ケース

    後遺症の具体的なイメージとしてわかりやすいものに交通事故のむち打ちがあります。

    交通事故によって首や背中などに強い衝撃が加わると、背中、肩、首の痛みや手足のしびれといった症状が生じることがあります。事故後は病院に通院し、治療を続けることになりますが、治療を継続してもこれ以上改善が見込めなくなった時点で、痛みやしびれが残ってしまうと後遺症に該当します。

    また、たとえ目で見てわかる怪我が治ったからといって、後遺症が生じていないわけではありません。

    たとえば、骨折が治ったとしても、その後、手足が動かしにくいなどの機能障害が残れば後遺症にあたる可能性があります。

  3. (3)後遺症については認定を受ける必要がある

    通常、後遺症が生じただけでは後遺症が生じたことに対する補償を受けることはできません。労働基準監督署長から障害等級認定を受け、障害の残存が認められることにより、治療や休業に対する補償とは別に、後遺症に対する補償を受けることが可能となります。

  4. (4)障害等級の具体例

    労災保険における後遺症(後遺障害)については、その症状や程度に応じて第1級から第14級までの等級が定められており、第1級が最も重いものになります。
    以下、等級とともに後遺障害等級の対象となる後遺障害を、いくつか見ていきましょう。

    ① 第1級
    怪我や事故によって、両腕が肘と肩の間で切断されてしまった場合や両足が膝と股関節の間で切断されてしまった場合は、後遺障害等級第1級3号または5号の認定が受けられる可能性があります。

    ② 第3級
    脳梗塞や交通事故などが原因で生じた高次脳機能障害により、記銘力障害や感情障害、四肢の麻痺などの症状が現れ、それにより就労や就学ができなくなったり、家事労働ができなくなった場合には、後遺障害等級第3級3号の認定を受けられる可能性があります。

    ③ 第5級
    片腕のうち肘を残して手の関節までの間を切断した状態や片足のうち膝を残して足関節までの間を切断した場合には、後遺障害等級第5級4号または5号の認定が受けられる可能性があります。

    ④ 第8級
    圧迫骨折や脱臼、脊柱固定術などにより脊柱の可動域が正常な状態の2分の1以下に制限された場合には、後遺障害等級第8級2号の認定が受けられる可能性があります。

    ⑤ 第10級
    骨折などによって、肩、肘、手首の関節の可動域が正常な関節の可動域の2分の1に制限された場合には、後遺障害等級第10級10号の認定が受けられる可能性があります。

    ⑥ 第12級
    骨折などによって、痛みやしびれなどが生じた場合で、かつその原因を医学的に証明可能な場合には、後遺障害等級第12級13号の認定が受けられる可能性があります。

2、仕事中の怪我で後遺症が残ったときは?

仕事中の怪我や通勤途中の事故によって後遺症が生じたときには、労災保険から補償を受けることができる場合があります。

まずは労働災害発生後に行う申請と、症状固定後に障害が残ったときに行う障害等級の認定手続について、それぞれの内容を確認していきましょう。

  1. (1)補償を受けるには労災申請をする

    労災保険の補償を受けるためには、まずは、労災申請をする必要があります。また、労災が原因で後遺障害が生じ、その補償を受けようとする場合には、別途障害等級の認定を受ける必要があります。

    ① 労災申請
    労災とは、労働者の業務中に生じた病気や怪我で業務との因果関係があるもの及び通勤中に生じた怪我をいいます。労災が発生した場合、被災者は労災保険から治療費や休業損害等について給付を受けることができますが、その前提として、自らの怪我等が労災によるものであることを主張して労災申請を行い、労働基準監督署長から労災認定を受ける必要があります。

    上述したとおり、業務中に生じた怪我や病気が労災として認められるためには、労務と怪我・病気との間に因果関係があることが必要です。そして、因果関係の有無については、業務起因性業務遂行性という二つの基準によって判断されます。

    ● 業務起因性
    業務災害の場合、「業務上」、労働者が負傷、疾病、障害または死亡したことが必要になります。そして、「業務上」とは、その原因が業務によるものであることを指すため、業務と負傷・疾病などの間に因果関係があることが必要になります。

    ● 業務遂行性
    労災保険の給付は、労災保険が適用される事業に労働者として雇われて働いていることが原因となって生じた災害に対して支払われるものですから、労働者が労働契約に基づいて事業者の支配下にあることが必要です。これを「業務遂行性」といいます。業務遂行性がなければ、業務起因性も認められないこととなります。

    ② 障害等級認定
    後遺症が生じた場合、ケガが労災であるとの認定を受けただけではその補償を受け取ることはできず、労働基準監督署長により、後遺症が残存したことについて「障害(補償)給付」の支給決定を受ける必要があることは前述したとおりです。

    治療を継続し、医師が症状固定と判断した時点で何らかの症状が残っているときには、労働基準監督署長に対して障害(補償)給付の申請を行いましょう。

  2. (2)後遺障害等級認定を受けることでもらえる補償とは

    障害(補償)給付の支給決定を受けることによって、労災保険から障害(補償)給付を受けることが可能です。障害(補償)給付とは、労災によって後遺障害が生じた場合に、認定された障害等級に応じて、年金または一時金の支給が受けられる制度のことをいいます。

    後遺障害等級が第1級から第7級に該当する場合には、障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金が支給されます。また、第8級から第14級に該当する場合には、障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。

3、後遺障害が残ったときは弁護士へ相談

  1. (1)労災保険では補償内容は不十分

    労災保険では、精神的損害(慰謝料)が補償されないなど、労災被害に遭った労働者が被った損害のすべてが補償されるものではありません。

    後遺障害が生じたときには、将来の労働に対して支障が生じますが、労災保険ではそれに対する補償も十分とはいえず、後遺障害が生じたことに対する慰謝料の支払いもないのです。

    このように、労災保険では十分な補償を受けることができないため、不足する部分については、労災の原因を引き起こした会社や加害者に対して請求をしていくことになります

  2. (2)適切な賠償額を獲得するためのサポート

    会社に対して損害賠償請求をするためには、労災が起きたことに関して会社に落ち度(過失)があったことを損害賠償請求する労働者の側で証明する必要があります

    労災の認定を受けているからといって、会社の落ち度が直ちに認められるわけではありませんので、注意が必要です。また、労働者の側で自身が被った損害を正確に計算したり、会社が本来講じなければならなかった措置は何であったのか特定することも必要となります。

    このように、会社に対して損害賠償請求をしていくためには、会社の落ち度の立証から損害額の計算まで複雑な手続きや計算をしなければなりませんので、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。

    弁護士に依頼することによって、弁護士基準による後遺障害慰謝料算定が可能になるというメリットもありますので、労災によって後遺障害が生じた方は、弁護士への依頼を検討するとよいでしょう。

4、まとめ

労災によって後遺障害が生じた場合には、その程度によっては仕事や日常生活に大きな支障が生じます。労災保険から補償を受けることができたとしても、それだけでは労働者に生じる支障をすべてカバーすることはできません。労災事故について会社に落ち度があるときには、会社の責任を追及することも必要になります。

このように複雑な法的手続きも必要となりますので、労災によって後遺障害が生じてしまった方は、適切な被害回復のためにも、ベリーベスト法律事務所まで相談されることをお勧め致します。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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