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労働災害(労災)コラム

労災認定基準とは? 労災適用となる条件と弁護士に相談すべきケース

更新:2024年03月06日
公開:2022年03月29日
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労災認定基準とは? 労災適用となる条件と弁護士に相談すべきケース

保険証を提示するだけで使用できる健康保険とは異なり、労災保険はすべての申請に対して無条件で給付を受けられる制度ではありません。労災保険の給付を受けるためには、国があなたの傷病を労働災害であると認める「労災認定」を受ける必要があります。

労災認定を受けるためには、その傷病を労災保険でカバーすべきか否かについて、判断するための基準「労災認定基準」をクリアしていることが必要です。

本コラムでは、労災認定基準とはどのようなものなのかについての解説をはじめ、手続き方法、さらには受け取れるお金の目安、弁護士に依頼したほうがよいケースなど、労災の基礎知識について、労働災害専門チームの弁護士が解説します。

1、労働災害とは

  1. (1)労働災害とは

    通勤や業務中に発生したケガや病気のことを労災(労働災害)といいます
    業務中の事故である業務災害と、通勤中の事故である通勤災害の2種類に分けられます。

    いずれも、労働者を守るための制度であり、労働者が労災の被害にあった場合、労働者災害補償保険法に基づいて給付を受けることができます。

  2. (2)労災保険制度とは

    労災保険制度は、労災の被害にあった労働者に対して必要な保険給付を行い、労働者の支援や社会復帰の促進を進めるための国の制度です。

    原則として、1人でも労働者を使用する事業者はどんな業種であっても、労災に加入しなければなりません。なお、労災認定を受けるには雇用契約さえあればよく、正社員である必要はありません。契約社員やアルバイト、パートタイマーであっても労災に遭った場合は、保険給付を受けることができます

  3. (3)労働災害の申請手続の流れ

    労災によって負傷した場合などには、労災申請の請求書を労働基準監督署に提出します。

    書類はすべて労働基準監督署に備え付けてありますが、厚生労働省のホームページからダウンロードすることもできます。書類の中には、会社が記入する欄もありますが、会社が書いてくれない場合には空欄のままで労働者本人が請求することも可能です。

    労災申請の書類は多岐にわたりますが、まず病院にかかる場合に必要となるのは、「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」です。そして、4日以上仕事を休むことになる場合は、「休業(補償)給付支給請求書」を、管轄の労働基準監督署に提出してください。

    労災の請求書を提出すると、労働基準監督署において、労働災害の認定基準を満たすかどうかの調査が開始されます。必要な調査が完了すると、申請にしたがって保険給付が受けられます。

    労災の保険給付にはさまざまな種類があり、ご自身のケガや病気の状態によって、申請できる給付内容が異なってきます。労働基準監督署できちんと説明を受けて、順序に沿って申請を行いましょう。

2、労災認定基準とは

  1. (1)労災認定される条件

    労災給付を受けるためには、労災の認定基準を満たす必要があります。

    労災の認定上、業務災害かどうかは、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件から判断されます。

    ● 業務遂行性
    業務遂行性とは、労働者が負ったケガや病気が、業務中に起きたといえるかという要件です。具体的には、労働者がケガや病気をしたとき、労働契約に基づき、事業主の支配下にある状態で業務をしていたかどうかという意味です。

    ● 業務起因性
    業務起因性とは、ケガや病気の原因が仕事にあるのかどうかという要件です。

  2. (2)労働者のケガが労災と認められる場合

    典型的なのは工場で働く従業員が、仕事中に機械の操作を誤ったために機械に手を挟まれて骨折するようなケースです。

    そのほかにも、たとえば次のようなケースで労災認定がなされるでしょう。

    • 引っ越し業者の従業員2名で重い荷物を運んでいる際、1名がうっかり手を滑らしたために、もう1名の足の上に荷物が落ちて足の指を骨折した
    • 出張のために新幹線で移動していたところ、ホームで他人とぶつかって転倒し、ひざを負傷した
    • アルバイト従業員が、店のチラシを配っている際に、突然見知らぬ他人に蹴られてケガをした

  3. (3)労働者の病気が労災と認定される場合

    病気が労災であると主張する場合は、ケガの場合よりも認定が難しくなってきます。なぜなら、病気の場合は、発症の時期や原因を特定することが困難な場合が多いからです。

    労災による病気で認定されやすいケースは、医療従事者が業務中に患者を経由してウイルスなどに感染して病気を発症する場合です。

    そのほか、一定の脳と心臓の疾患については、厚生労働省において、「業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した」と認められる場合には、労災による病気と認定されることがあると定められています。
    上記基準が適用されるのは次の疾患です。

    • 脳内出血
    • くも膜下出血
    • 脳梗塞
    • 高血圧性脳症
    • 心筋梗塞
    • 狭心症
    • 心停止(心臓性突然死を含む)
    • 重篤な心不全
    • 大動脈解離


    なお、これらの疾病の結果、死亡した場合にも労災が認定される可能性があります。特に、長時間労働が続き、いわゆる過労死ラインを超えた場合、または過労死ラインを超えていなかった場合においても、一定の労働時間外の負荷要因があれば労災認定される可能性があります。

  4. (4)精神疾患で労災と認定される場合

    仕事上の負荷が大きくなり、精神疾患を患う人も増えています。最近はパワハラによる精神疾患も多く見られ、社会問題としても着目されています。

    しかし、精神疾患は、さまざまなストレス要因と個人のストレス対応力などが相まって発症すると考えられています。そのため、発症原因の特定は困難となる場合が多く、発病した精神障害が労災認定されるのは、その発症が仕事による強いストレスのせいであると客観的に判断できる場合に限ります。

    精神疾患についても、厚生労働省によって、労災認定のための要件が別途定められています。

    1. ① 認定基準の対象となる精神疾患を発病したこと
      具体的には、うつ病や急性ストレス反応などが代表的です。
    2. ② その精神疾患の発病前、おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷があったこと
      「業務による強い心理的負荷」とは、仕事上でなにか具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷(ストレス)を与えたことを指します。ここでいう心理的負荷は、当該被害に遭ったと感じておられる方自身が主観的にどう出来事をとらえたかではなく、同じような立場にある労働者なら一般的にどう受け止めるか、という観点で評価されます。
    3. ③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとはいえないこと
      仕事によるストレスが強かった場合でも、同時に個人生活上のストレスが強いケースや、その人が持っているもともとの病気などが関係している場合は、慎重に判断されます。


    なお、精神疾患について労災が認定された人が自殺した場合は、原則として死亡についても労災認定されます。

3、労災認定されたら受けられるお金

  1. (1)療養(補償)給付

    ケガや病気となって、それが労災と認定された場合、労災保険指定医療機関であれば、治療費や薬剤費は、労災から直接医療機関に対して医療費が支払われます。
    労災保険指定医療機関以外である場合には、ひとまずはご自身で治療費を立て替えて、その後給付を受けることができます。

    なお、療養のために仕事を休んでいる期間だけでなく、職場に復帰した後でも療養を続けることができ、療養給付を受けることはできます。また、療養中に定年退職した場合でも、症状固定(治癒)と判断されるまでは、継続して療養の給付を受けられます。

    また、転居や治療内容の変更を理由として、もともとかかっていた医療機関から別の病院に変更することも可能です。いわゆる、転医というケースです。この場合は、転医先の病院に、「療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を提出すれば手続きができます。

  2. (2)休業(補償)給付

    休業(補償)給付とは、業務上または通勤による傷病によりケガをした場合、または病気になったとき、それが原因で働けなくなってしまった場合に認められる給付です。

    ただし、賃金をもらえない休業日数が4日以上に及ぶことが条件です。これらの条件を満たすと、労災発生後3日を除いた休業1日につき給付基礎日額の60%相当額が労働者に支給されます。

  3. (3)休業特別支給金

    休業(補償)給付が支給されるとき、さらに休業特別支給金として、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額が上乗せで支給されます。

    つまり、労災によるケガまたは病気で仕事を4日以上休んだ場合、休業(補償)給付と併せて休業1日あたり給付基礎日額の80%の支給を受けることができます。なお、休業(補償)給付の計算は1日単位で行いますが、給与の締め日や月末を区切りとして、1か月単位で請求するのが一般的となっています。

  4. (4)障害(補償)給付

    労災によってケガまたは病気となって治療をしたけれども、最終的に一定の障害が残っていた場合に支給されます。

    障害(補償)給付の支給内容は、障害の程度により1級から14級までに区分されています。障害等級第1級~第7級に該当する場合は毎年もらえる年金型の支給になります。障害等級第8級から14級に該当する場合は、認定の際にもらえる一時金の支給となります。

  5. (5)傷病(補償)年金

    傷病(補償)年金とは、労災によってケガまたは病気になった際に、その治療が1年6か月を経過しても治らず、かつ、その時点での傷病の状態が傷病(補償)年金を受給できる状態にあたる場合に支給されます。

  6. (6)遺族(補償)給付

    遺族(補償)給付とは、労働者が労災によって死亡したとき、その遺族に支給される給付金です。

    労働者が亡くなったときに生計を同じくしていた遺族がいる場合は、遺族(補償)年金、遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されます。


    ここでご紹介した6種の給付のほかにも、状況によって、遺族(補償)一時金や介護(補償)給付、二次健康診断等給付などが支給されることがあります。

4、弁護士に相談すべきケース

  1. (1)障害が残存したとき

    障害が認定された場合は、その等級が適切に認定されているかを慎重に検討する必要があります。

    等級がひとつ違うだけで、給付金にも大きな差が出ることは間違いありません。実際の症状に適した障害の認定を受けられたかどうかは確認すべきでしょう。

  2. (2)未払い残業代があるとき

    労災事故が起きたとき、長時間の時間外労働がその原因になっていることがあります。もしも、適切に残業代が払われていなければ、この際、会社にきちんと請求すべきです。

    就業中にケガをしたり業務が原因で病気になってしまったりすると、たとえ労災の認定を受けられたとしても、休業補償給付などの収入の補償は、給付基礎日額の80%までしか支払われません。仕事に復帰するのに時間がかかる場合もあります。経済的な困窮を避けるためにも、未払い残業代があればしっかり請求しましょう

    ただし、未払い残業代の計算は複雑で、会社も支払いを渋るケースが大半です。残業代を請求する場合は、弁護士への相談を検討すべきです

  3. (3)退職勧奨や解雇をされたとき

    労災事故をきっかけとして退職勧奨や解雇をされることがあります。

    仕事中にケガをして、そのうえ解雇を迫られたとしたら労働者にとっては酷な事態です。
    業務災害の場合、会社は、療養のために休業する期間およびその後30日間、労働者を解雇することができません(労働基準法19条)。退職勧奨や解雇をされた場合には、弁護士に相談すべきでしょう。

  4. (4)会社の安全配慮義務違反や不法行為が原因で労災が起きたとき

    労災によるケガや病気については労災保険によって補償を受けるのが原則です。しかし、労災事故の原因が会社側の安全配慮義務違反使用者責任にある場合は、労災保険からの給付の他に、会社に対して損害賠償を求めることができます
    ただし、会社に対する損害賠償請求は、労基署による労災認定とは異なり、すべて労働者側で会社の責任について主張立証しなければなりません。法的知識が必要となるため、弁護士に相談して進めることをおすすめします

5、まとめ

労災認定の基準は決まっていますが、会社が消極的である場合などのケースでは、治療費や休業補償がきちんと出るのか不安になるかもしれません。しかし。たとえ会社が労災ではないと主張して手続きを行ってくれない場合でも、専門家の手を借りずともご自身やご家族が手続きを行えます。まずは労働基準監督署に問い合わせてみましょう。

弁護士に相談すべきケースは、労災の認定が下りたものの十分な補償が受けられないときや、会社に安全配慮義務違反や不法行為があり損害賠償請求を検討したいときです。また、未払いの残業代があるときや、労災被害をきっかけに不当解雇されそうなときなど、そのほかの労働問題がある場合でも、弁護士に相談すべきでしょう。まずは、豊富な知見と実績を持つ労災専門チームを擁するベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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