仕事中にケガをして搬送された後、「自宅近くの病院に転院したい」「治療とリハビリで別々の病院に通いたい」と、お考えになるシーンは多々あるでしょう。
実際に、整形外科で治療を受けながらリハビリ専門の病院に通うケースや職場近くの病院から自宅近くの病院へ転院するケースは少なくありません。結論から言えば、労働災害(労災)は、原則的には複数の病院に通院したり、治療の途中で転院したりできます。
ただし、病院の種類によって必要な手続きが異なります。安心して治療を続けるためにも、あらかじめ手続きの流れを知っておくことが大切です。
本コラムでは、労災で複数の病院にかかる場合の手続きや補償の内容、通院する際に気を付けたいポイントについて、ベリーベスト法律事務所 労働災害専門チームの弁護士が解説します。
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1、労災で複数の病院にかかることは可能?
労災によるケガは、症状や治療の内容によっては、ひとつの病院だけで完結しないことがあります。治療が長期化すれば、通院が厳しいと感じることもあるでしょう。
そこでまずは、労災保険で認められる通院の基本的な考え方について解説します。
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(1)労災で複数の病院に通うこと自体は可能
労災保険では、医学的な必要性が認められる場合には、複数の医療機関へ通院することも可能です。ただし、同一内容の治療を重複して受けるなど、療養上の必要性が認められない場合には、労災保険の対象とならないことがあります。
具体的には、以下のようなケースが代表的です。- 骨折の治療は整形外科で受け、リハビリは専門の病院で行う
- 手のケガは整形外科、歯のケガは歯科医院で治療する
- ケガだけでなく、精神的な不調も生じたため、心療内科にも通院する
実際に、それぞれの病院が異なる役割を担う場合は、同時に通院すること自体、珍しいことではありません。
ただし、治療内容が重複していたり、医学的な必要性が認められなかったりする場合は、労災保険の対象として認められない可能性があります。「この病院にも通いたい」と考えた際は、主治医にも相談しながら治療計画を立てることをおすすめします。 -
(2)職場近くから自宅近くの病院への転院も可能
労災では、症状や通院事情などから療養上相当と認められる場合には、治療の途中で医療機関を変更することも可能です。
たとえば、労災発生直後は職場近くの病院で応急処置を受け、その後は通院しやすい自宅近くの病院へ転院するケースです。
ほかにも、以下のようなケースで転院が認められます。- 入院していた病院からリハビリ専門病院へ移る
- 専門的な治療を受けるため、設備の整った病院へ紹介してもらう
ご自身の症状や生活環境に合った医療機関で治療を続けられることは、回復を目指すうえでも大切なポイントです。
2、労災で複数の病院にかかった場合の手続きと必要書類
複数の病院にかかる場合は、病院の種類によって必要な手続きが変わります。ここでいう病院の種類とは、「労災指定病院」と「労災指定病院以外(非指定病院)」です。
労災指定病院は、労災保険を利用して診療を受けられる医療機関を指します。一方、非指定病院では、いったん治療費を自己負担し、後から労働基準監督署へ請求する手続きが必要になります。
そのため、まずはどの種類の病院に通うのかを確認したうえで、適切な手続きを行うことが必要になります。ここでは、病院の組み合わせごとに必要な書類や手続きの流れを解説します。
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(1)まず準備しておくべきこと
転院や新たな病院を受診する前に、次の2点を準備しておくと、その後の手続きがスムーズになります。
① 会社から労災であることの証明を受ける
労災保険を利用するには、そのケガや病気が仕事中または通勤中に発生したものであることを会社に証明してもらう必要があります。
労災保険の請求書には事業主が証明する欄が設けられているため、あらかじめ勤務先へ相談し、必要書類を準備してもらいましょう。
もっとも、会社が証明に応じない場合でも請求は可能ですので、労働基準監督署へ相談することで手続きを進めることができます。
② 病院から紹介状を受け取る
転院する場合は、現在通院している病院で紹介状(診療情報提供書)の作成を依頼してください。
紹介状には、これまでの検査結果や治療内容、現在の症状などが記載されています。転院先の医師が状況を把握しやすくなるため、治療をスムーズに引き継げるでしょう。 -
(2)どちらも労災指定病院の場合
現在の病院も転院先の病院も労災指定病院であれば、比較的手続きはシンプルです。
新たに受診する病院へ、次の書類を提出します。- 療養の給付請求書
- 療養の給付を受ける指定病院等(変更)届
転院だけでなく、整形外科とリハビリ専門病院など、複数の労災指定病院へ同時に通院する場合も、基本的にはこの「療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を提出して手続きを行います。
必要となる書類は、転院の方法や受診先によって異なるため、受診先または所轄労働基準監督署の案内に従って提出しましょう。
書類に不備がなければ、治療費は病院から労災保険へ直接請求されるため、原則として窓口で治療費を支払う必要はありません。 -
(3)労災指定病院と非指定病院にかかる場合
一方が労災指定病院で、もう一方が非指定病院の場合は、それぞれ異なる手続きが必要となります。
労災指定病院では、通常どおり療養の給付請求書を提出します。
これに対し、非指定病院では、いったん治療費を支払ったうえで、後から労働基準監督署へ「療養の費用請求書」を提出し、支払った費用の支給を受けます。
指定病院と同じ手続きではないため、書類の提出先を間違えないよう注意してください。 -
(4)どちらも非指定病院の場合
通院する病院がどちらも非指定病院である場合は、それぞれの病院で治療費をいったん支払う必要があります。
その後、労働基準監督署へ「療養の費用請求書」を提出し、支払った治療費の支給を申請します。この場合、領収書など支払いを証明する書類が必要になります。紛失すると手続きに支障が出る可能性があるため、大切に保管しておきましょう。
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3、労災で複数の病院にかかった場合の治療費や補償
複数の病院に通院する場合でも、必要な治療であれば労災保険の補償を受けることが可能です。
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(1)労災指定病院なら原則自己負担なし
労災指定病院で治療を受ける場合は、「療養の給付」が受けられます。
療養の給付とは、労災保険が治療費を直接病院へ支払う制度です。そのため、原則として患者が窓口で治療費を支払う必要はありません。
整形外科とリハビリ専門病院など、複数の労災指定病院に通っている場合でも、それぞれの治療が労災の対象として認められれば、原則として自己負担なく治療を受けられます。 -
(2)非指定病院ではいったん全額(10割)自己負担になる
労災指定病院ではない医療機関を受診した場合は、健康保険を利用することはできず、受診時に治療費をいったん全額(10割)自己負担する必要があります。
ただし、労災保険の対象となる治療であれば、その費用が最終的に自己負担になるわけではありません。必要書類を添えて労働基準監督署へ「療養の費用請求書」を提出し、支給が認められれば、支払った治療費の支給を受けることができます。
このように非指定病院では、治療費を立て替える必要があるため、一時的に負担が生じる点には注意しましょう。 -
(3)休業補償給付や通院交通費の扱いについて
複数の病院に通院していても、休業補償給付や通院交通費の取り扱いが変わるわけではありません。
たとえば、仕事を休まざるを得ない状態が続き、休業補償給付の支給要件を満たしていれば、病院が複数であっても休業補償給付を受けることができます。
また、通院のために必要な交通費は、療養上必要であり、一定の支給要件を満たす場合に支給対象となります。
もっとも、すべての通院交通費が支給されるわけではありません。症状や治療内容からみて必要な通院であることや合理的な通院先であることなどが前提になります。
4、労災で複数の病院にかかる際の注意点
複数の病院に通院することは認められていますが、病院が増えるほど、治療内容や書類の管理が複雑になりやすくなります。
治療を円滑に続けるためにも、次の点を意識しておきましょう。
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(1)治療情報を引き継ぎ、診断内容にズレが出ないようにする
転院したり、複数の病院へ通院したりする場合は、医師同士が十分に情報共有できないことがあります。
紹介状を作成してもらえば、これまでの検査結果や治療内容を転院先へ伝えられますが、それだけに頼るのではなく、自分でも症状の経過や受けた治療を把握しておくと安心です。
たとえば、「いつから痛みがあるのか」「どのような治療を受けてきたのか」「症状は改善しているのか」といった内容を説明できるようにしておけば、診察がスムーズに進みます。医師が症状の経過を正しく把握しやすくなり、適切な治療につながりやすくなるでしょう。
また、複数の医師が同時に診療にあたる場合、それぞれの診断内容に食い違いが生じることもあります。診断内容にズレがあると、労災保険の手続きや今後の治療方針の判断に影響することがあるため、気になる点があれば、その都度担当医に確認しておくことをおすすめします。 -
(2)複数の診療科を受診する場合はそれぞれの医師から診断書をもらう
労災では、骨折だけでなく、歯や神経、精神面の不調など、複数の症状があらわれることがあります。このような場合は、必要に応じて、それぞれの医師から診断書や診療情報提供書などを取得し、症状ごとの診療内容が明確になるようにしておきましょう。
ひとつの診断書だけでは、ほかの症状まで十分に記載されないことがあります。症状ごとの診断内容が明確になっていれば、労災保険の各種手続きや、将来、症状固定後に障害補償給付の申請を行う際にも役立ちます。 -
(3)必要書類や証拠はしっかり保管しておく
複数の病院に通うと、診断書や紹介状、領収書などの書類が増えていきます。
特に非指定病院では、治療費の支給を受ける際に領収書などが必要になるため、紛失すると手続きがスムーズに進まないおそれがあります。
診断書や領収書だけでなく、通院日や交通費の記録もあわせて保管しておくと安心です。
5、まとめ
複数の病院への通院や転院は、労災保険上も問題なく認められています。ただし、病院の組み合わせによって必要な手続きや治療費の支払い方法が異なるため、事前に流れを確認しておきましょう。
ベリーベスト法律事務所 労働災害専門チームでは、仕事中や通勤中の事故によって障害が残ってしまった方や会社への損害賠償請求を検討している方からのご相談を承っています。労災保険で受けられる補償は、最低限であるケースがほとんどです。適切な補償を受けるためにも、一人で悩まず、お早めにご相談ください。
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交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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