職場で扱う化学物質や粉じん、動植物などが原因でアレルギーを発症した場合や、もともとあったアレルギーが悪化した場合は、労災認定を受けられることがあります。労災認定を受ければ、原則として治療費の自己負担がなくなるほか、仕事を休んだ場合の補償などを受けられます。また、会社が換気設備や保護具などの対策を怠っていた場合には、会社に対して損害賠償を請求できるケースもあります。
ただし、アレルギーは私生活上のさまざまな原因でも生じるため、業務との因果関係が争われることも少なくありません。労災認定を受けるには、医療記録だけでなく、職場で扱っていた物質や作業環境、症状が現れた経過などを示す資料を集めることが重要です。
本記事では、アレルギーで労災認定されるケースや会社に対する損害賠償請求のポイント、集めるべき証拠などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
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1、職場で発症・悪化したアレルギーは労災認定される?
職場で扱う物質や作業環境などが原因でアレルギーを発症した場合は、業務上の疾病として労災認定を受けられることがあります。もともとアレルギー体質や既往症があった場合でも、業務によって症状が自然な経過を超えて悪化したときは労災認定の対象になり得ます。
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(1)アレルギーは労災認定されることがある
業務上の原因による負傷や疾病は「業務災害」に当たり、労災認定の対象となります。
職場で扱っていた物質や作業環境、ばく露の頻度・期間、症状が現れた時期、休日や休職中の症状の変化などから、業務が発症・悪化の原因となったことを立証する必要があります。
労働基準監督署は、提出された医療記録や職場関係資料などを基に調査を行い、業務上の疾病に該当するかどうかを判断します。 -
(2)もともとアレルギー体質や既往症があった場合は?
もともとアレルギー体質や既往症を有していた場合でも、それが業務によって自然経過を超えて悪化したと認められるときは、労災認定を受けられる可能性があります。
ただし、業務による悪化なのか、季節、生活環境、私生活上のアレルゲンなどによる悪化なのかが争われることがあります。発症前後の診療記録や、勤務日と休日における症状の違いなどを整理しておくことが重要です。 -
(3)会社が手続きに協力してくれなくても労災保険給付は請求できる
労災保険給付を請求するかどうかを最終的に決めるのは会社ではなく、労働者本人です。また、労災に該当するかどうかは、会社ではなく労働基準監督署長が判断します。
会社が、申請書への証明を拒んだ場合でも、その事情を労働基準監督署に説明したうえで、労働者自身が請求書を提出することができます。
2、労災認定の可能性がある主なアレルギー疾患・関連症状と原因
業務災害として労災認定を受けられる可能性がある主なアレルギー疾患や関連症状と、考えられる主な原因を紹介します。
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(1)職業性ぜんそく(気管支ぜんそく)
「職業性ぜんそく(気管支ぜんそく)」とは、職場で扱う物質への感作や、刺激性物質へのばく露などによって発症・悪化するぜんそくです。
たとえばパン職人の小麦粉、木工作業の木粉、塗料や接着剤に含まれる化学物質などが発症の原因となることがあります。 -
(2)接触性皮膚炎(重度のかぶれ)
「接触性皮膚炎」には、特定の物質に対する免疫反応によって生じるアレルギー性接触皮膚炎と、洗剤や薬品などの刺激によって生じる刺激性接触皮膚炎があります。いずれも、業務との因果関係が認められれば労災の対象になり得ます。
美容師の薬剤、看護師の消毒剤、清掃業の洗剤、食品加工時に扱う食材などが原因で発症する場合があります。 -
(3)アレルギー性鼻炎・結膜炎
「アレルギー性鼻炎」は、粉じん、カビ、動物由来のアレルゲンなどを吸入することによって生じる鼻炎です。「結膜炎」は、これらのアレルゲンにまぶたの裏側や眼球の表面を覆う結膜が接触することによって生じる炎症です。
ペットショップや、動物を扱う実験施設、木材・食品などの粉じんが生じる製造現場などで発症することがあります。 -
(4)アナフィラキシー
「アナフィラキシー」とは、特定の物質に対するアレルギー反応が全身に急速に現れる状態です。呼吸困難、じんましん、腹痛、嘔吐(おうと)などの症状がみられ、血圧低下や意識障害を伴う重篤な状態は「アナフィラキシーショック」と呼ばれます。
林業や建設業に従事している際に蜂に刺された場合や、医療現場でラテックスや薬剤に接触した場合などに発症することがあります。 -
(5)化学物質へのばく露による体調不良・化学物質過敏症
建材・塗料・接着剤・有機溶剤などに含まれる化学物質へのばく露後に、頭痛、めまい、倦怠(けんたい)感、吐き気、目や喉の刺激感、呼吸器症状などが現れることがあります。こうした症状について、「化学物質過敏症」と診断される場合があります。
化学物質を取り扱う工場などにおいて、換気不足や保護具の適切な使用を怠ったことなどが原因で発症する例があります。
3、アレルギーが労災認定された場合に受けられる補償
アレルギーの発症・悪化が労災と認められた場合は、治療費や休業中の収入、障害が残った場合の補償などを受けられます。
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(1)治療費を補償する療養補償給付
療養補償給付では、診察、検査、薬剤、入院など、治療に必要な費用が補償されます。
労災保険指定医療機関を受診した場合は、原則として窓口で治療費を支払う必要がありません。指定医療機関以外を受診した場合は、いったん費用を立て替えたうえで、後から請求することができます。 -
(2)仕事を休んだ場合の休業補償給付
アレルギーの療養のために働くことができず、賃金を受けられない場合は、休業4日目から休業補償給付が支給されます。
支給額は、原則として1日につき給付基礎日額の60%です。これに休業特別支給金20%が加わるため、合計で給付基礎日額の80%相当額が支給されます。 -
(3)障害が残った場合の障害補償給付
治療を続けても症状が改善せず、症状固定後に一定の障害が残った場合は、障害補償給付を受けられる可能性があります。
アレルギーに固有の障害等級があるわけではなく、職業性ぜんそくであれば呼吸機能の低下や仕事への支障の程度、皮膚炎であれば皮膚に残った症状や痕など、実際に残った障害の内容に応じて等級が判断されます。
障害の程度が労災保険の障害等級に該当すると、等級に応じて年金または一時金が支給されます。ただし、症状が残っていても、障害等級に該当しなければ支給対象にはなりません。
4、労災認定だけでなく、会社に損害賠償を請求できることもある
業務上の原因によるアレルギーの発症・悪化については、労災認定を受けられるだけでなく、会社に対する損害賠償の請求の対象にもなり得ます。慰謝料など、労災保険ではカバーされない損害について、会社に対しては損害賠償を請求できる可能性があります。
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(1)会社の「安全配慮義務違反」を追及できるケース
会社は、労働者が生命・身体の安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮を行う義務を負っています(安全配慮義務、労働契約法第5条)。
会社が予見できた危険について必要な対策を怠り、その義務違反によって労働者がアレルギーを発症・悪化して損害を受けたと認められれば、会社に安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。
たとえば次のような事情がある場合には、安全配慮義務違反が問題となります。- 有害物質を取り扱う職場において、十分な機能を有する排気設備の設置や稼働を怠った
- 有害物質を取り扱う職場において、マスクや手袋などの業務に適した保護具を支給しなかった
- 労働者がアレルギーの症状を訴えたにもかかわらず、業務軽減や配置転換などを行わなかった
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(2)労災保険ではカバーされない損害|慰謝料などは会社に対して請求を
労災保険からは、治療費や休業中の所得、障害が残った場合の補償などを受けられますが、被災労働者に生じたすべての損害が補償されるわけではありません。
休業損害や後遺症による逸失利益の補償は一部にとどまりますし、精神的損害の賠償金に当たる慰謝料は全く補償されません。
労災保険では補償されない損害についても、会社の安全配慮義務違反が認められるときは、会社に対して賠償を請求できます。労災保険では補償されない損害がある場合は、会社に対する損害賠償請求も検討しましょう。
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5、アレルギーの労災認定や損害賠償請求のために集めるべき証拠例
業務上の原因によってアレルギーを発症・悪化したことについて、労災認定を受けたり、会社に損害賠償を請求したりするためには、業務と症状の関係を示す資料を確保することが重要です。
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(1)医学的証拠(医師の診断・検査結果)
アレルギーと業務との因果関係を証明するには、医師が作成する診断書や検査結果を示す資料が役立ちます。次のような資料を確保しましょう。
- 診断名、症状、発症時期、治療経過などが記載された診断書や診療録
- 医師が把握している業務内容や、業務との関連性についての医学的意見
- 血液検査、アレルゲン検査、パッチテスト、呼吸機能検査などの結果
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(2)症状の経過に関するメモ
アレルギーの自覚症状を自ら記録したメモも、具体的かつ継続的に作成していれば有力な証拠になり得ます。次の事項などを継続的に記録しておきましょう。
- 症状が出た日時
- 症状の内容、程度
- 作業内容や接触した物質
- 通院の状況
- 服用している薬剤の種類、分量
- 勤務日と休日、休職中などにおける症状の変化
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(3)職場環境・業務内容に関する証拠
アレルギーの原因が職場に存在することを示すため、職場環境や業務内容に関する次の証拠などを確保しましょう。
- 化学物質の情報が記載されたSDS(安全データシート)
- 使用していた薬剤、洗剤、材料の種類や取扱量が分かる記録
- 作業内容や勤務状況が分かる業務日誌、勤務記録
- 作業場所、換気設備、保護具の使用状況が分かる写真や作業環境測定結果
- 会社に症状を申告したメール、面談記録、配置転換や業務軽減を求めた記録
6、【裁判例】安全配慮義務違反として会社の責任が認められたケース
労働者が業務上の原因によって化学物質過敏症となったことにつき、会社に対して損害賠償が命じられた裁判例を2つ紹介します。
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(1)有機溶剤へのばく露による化学物質過敏症について会社の安全配慮義務違反が認められた事例
【東京地裁 平成30年7月2日判決】
化学メーカーの工場に勤務していた元従業員の男性は、クロロホルムやノルマルヘキサンなどを扱う検査分析業務を担当していたところ、頭痛などを発症しました。
男性は、作業場所の排気設備が不十分であったことや、有害物質を防ぐ機能のあるマスク・手袋などの保護具が支給されなかったことによる安全配慮義務違反を主張し、会社に対して損害賠償を請求しました。
東京地裁は、発症の経過や医師の診断結果などを総合的に考慮し、有機溶剤への業務上のばく露によって、化学物質過敏症を発症したことを認定しました。
そのうえで、排気装置の設置・保護具の支給・作業環境の測定などについて会社の安全配慮義務違反を認定し、約1995万円の損害賠償を命じました。 -
(2)消毒剤へのばく露による化学物質過敏症について病院の安全配慮義務違反が認められた事例
【大阪地裁 平成18年12月25日判決】
病院に勤務していた看護師が、内視鏡などの検査器具を洗浄・消毒する業務に従事していました。消毒剤には、グルタルアルデヒドという化学物質が含まれていました。
看護師は、鼻や喉の刺激、咽頭痛、口内炎などの症状を訴えるようになり、退職後に化学物質過敏症と診断されました。
大阪地裁は、看護師がグルタルアルデヒドへのばく露によって化学物質過敏症を発症したと認定しました。そのうえで、病院が症状の訴えを把握していたにもかかわらず、防護マスクやゴーグルの着用を指示するなどの十分な措置を講じなかったとして、安全配慮義務違反を認めました。裁判所は病院に対し、後遺障害の逸失利益などを含む約1063万円の損害賠償を命じています。
7、アレルギーによる労災トラブルで弁護士にできること
アレルギーと業務との因果関係を証明するためには、医学的資料の確認や職場環境の調査などの専門的な対応が求められるため、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は主治医とコミュニケーションをとりながら、労災認定につながるよう、必要な資料の収集や請求手続きをサポートいたします。
会社に対する損害賠償請求の手続きも、弁護士にお任せください。きちんと証拠を固めたうえで請求を行い、適正額の賠償金の獲得を目指します。
配置転換を拒否された、退職を強要された、解雇されたなどの不当な取り扱いを受けた場合にも、法的根拠に基づいて反論いたします。
8、まとめ
業務上の原因によって職業性アレルギーを発症したときは、労働基準監督署に対する労災保険給付の請求や、会社に対する損害賠償請求を検討しましょう。医学的な資料や職場環境・業務内容に関する資料を確保し、十分な準備を整えてから請求を行うことがポイントです。
ベリーベスト法律事務所は、被災労働者やご家族からのご相談を随時受け付けております。ご自身の症状が労災と認められずお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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