農作業は、機械の操作や炎天下での作業など、常に事故やケガのリスクと隣り合わせです。万が一のケガや病気に備える制度として「労災保険」がありますが、農業に従事している方すべてが自動的に対象になるわけではありません。
農業法人の従業員であれば、労災保険に加入している可能性がありますが、自営農家や家族経営では加入していないケースも少なくありません。しかし、労災保険に加入していない方でも、「特別加入制度」を利用することで、労災保険の補償を受けられる可能性があります。
今回は、農業で負ったケガに労災が使えるか、農作業中に多い事故例、特別加入の利用方法、今後の制度改正の動きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
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1、農作業中にケガをしたら、労災保険は使える?
農作業中の事故でケガをしてしまった場合、労災保険が使えるか否かは、立場により異なります。
農業法人に雇用されている労働者であれば、事業主が労災保険に加入しているケースが多く、会社員として労災保険の補償を受けられます。
しかし、自営農家や家族だけで営む農業の場合、原則として労災保険の対象外です。ただし、「特別加入制度」を利用すれば、労災保険を使うことができます。労災保険の仕組みや、特別加入制度について紹介しましょう。
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(1)労災保険の仕組み
労災保険は、業務上や通勤途中の事故によるケガ・病気・死亡に対して、治療費や休業補償、遺族補償などを行う公的保険制度です。労働者が安心して働けるよう、すべての事業主に加入義務が課されている点が特徴です。
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(2)特別加入制度を利用すると、労災保険が適用される
自営農家や個人事業主、家族経営で農業を行っている方は「労働者」には該当しないため、通常の労災保険には加入できません。
しかし、「特別加入制度」を利用することで、一般的な労働者と同じように労災保険の補償を受けることができます。
具体的な補償内容は、以下のとおりです。- 治療費などの補償(療養補償給付)
- 働けない期間の賃金補償(休業補償給付)
- 後遺障害が残った場合の補償(障害補償給付)
- 本人が亡くなったときの遺族への補償(遺族補償年金・遺族補償一時金)
農作業は危険が多いため、安心して働く環境を整えるためにも、特別加入制度の利用を積極的に検討すべきでしょう。
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(3)特別加入制度の申請条件
特別加入制度は、誰でも利用できるわけではありません。以下のような方が特別加入の対象となります。
① 特定農作業従事者
特定農作業従事者とは、土地の耕作・開墾、植物の栽培・採取、家畜・蚕の飼育の作業のいずれかを行う、自営農業者(兼業農家を含む)で、農業生産物の年間総販売額が300万円以上または経営耕地面積2ヘクタール以上の規模であり、以下のいずれかの農作業に従事している方を指します。- 動力により駆動する機械を使用する作業
- 2メートル以上の高所での作業
- サイロ、むろなどの酸素欠乏危険場所での作業
- 農薬散布作業
- 牛・馬・豚に接触し、または接触するおそれのある作業
② 指定農業機械作業従事者
指定農業機械作業従事者とは、自営農業者(兼業農家を含む)の方で、以下に指定された機械を使用し農作業を行う方を指します。- 動力耕耘機その他の農業用トラクター
- 動力溝掘機
- 自走式田植機
- 自走式スピードスプレイヤーその他の自走式防除用機
- 自走式動力刈取機、コンバインその他の自走式収穫用機械
- トラックその他の自走式運搬用機械
- 動力脱穀機や動力草刈機などの定置式または携帯式機械
- 無人航空機(農薬等の散布または調査に用いるものに限る)
③ 中小事業主等
中小事業主等とは、常時300人以下の労働者を使用する事業主(事業主が法人の場合にはその代表者)および労働者以外でその事業に従事する人(特別加入ができる事業主の家族従事者など)を指します。
なお、労働者を通年雇用しない場合でも、年間100日以上労働者を使用することが見込まれる方で、以下のすべての条件を満たす方も含まれます。- 雇用する労働者について労働保険関係が成立していること
- 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること
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(4)特別加入制度の申請方法
特別加入を希望する場合は、農協(JA)などの特別加入団体を通じて手続きを行います。
申請にあたっては、農業の形態や従事時間などを確認する必要があり、団体に必要書類を提出して加入手続きを進めましょう。
加入が認められれば、加入以降の農作業中の事故については、労災保険の補償が受けられるようになります。
2、農業でよくある労災事故例
自営農家の場合、労災保険に加入していなければ労災によるケガでの補償を受けることができず、長期間働けなくなった際に生活が困窮するおそれがあります。
そのため、事故のリスクを把握したうえで、「特別加入制度」を利用して補償を確保することが大切です。
以下では、農作業中によく見られる労災事故例を紹介します。
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(1)農業機械に巻き込まれる事故
トラクターやコンバイン、草刈機などの農業機械は、作業効率を高める一方、大きな事故を引き起こすリスクも抱えています。たとえば、以下のようなケースが起こりうるでしょう。
- 回転刃に手や足が触れて切れる
- 衣服がローラー部分に巻き込まれ、骨折や窒息する
農業機械に巻き込まれると、重度の後遺障害を残すリスクが高く、労災保険による補償がなければ生活への打撃は計り知れません。特別加入制度を利用して備えることで、大きな安心につながるでしょう。
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(2)畑やハウス内での転倒・転落事故
畑やビニールハウスでの作業は、足場が不安定になりやすく、以下のような転倒・転落事故が多く発生します。
- 畝(うね)の間を移動中に足を取られる
- ぬかるんだ地面で滑る
- 収穫や整備のために脚立を使用して作業中にバランスを崩し、転落する
転倒・転落事故は、骨折や頭部外傷などの重傷に至るケースもあり、長期の治療やリハビリが繁忙期と重なると、経済的損失も大きくなります。このようなリスクは誰にでも起こり得るため、特別加入制度を利用して労災保険による補償を確保しておくことが重要です。
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(3)熱中症や長時間労働による健康被害
夏場の農作業は、炎天下で行われることが多く、強い日差しや高温多湿の環境に長時間さらされることで熱中症となる危険があります。頭痛やめまいなどの症状を引き起こすほか、重度になると意識障害や臓器障害で入院治療を要することもあります。
また、繁忙期など、早朝から深夜まで長時間労働していれば、過労により倒れてしまうこともあるでしょう。
このような健康被害は、労災保険の対象となる可能性があり、特別加入制度を利用している場合、休業補償や治療費の給付を受けることができます。 -
(4)稲わらなどの焼却中のやけど
農作業で、収穫後に出る稲わらや雑草を焼却する作業を行う方もいるでしょう。その際、炎の勢いが止まらない、風で火の粉が飛ぶといったアクシデントで、衣服や皮膚に火が燃え移り、重度のやけどを負うこともあり得ます。
また、皮膚移植やリハビリなどの治療を行っても完治せず、後遺障害として傷痕が残ってしまうケースもあります。
特別加入制度で労災保険に加入していれば、治療費や休業補償を受けることが可能です。万が一の事故に備え、安心して作業に取り組むためにも、特別加入制度の利用を検討しましょう。
3、特別加入制度を使って労災保険の給付を受ける方法・注意点
特別加入制度を利用していると、農作業中の事故やケガは労災保険の対象となります。ただし、補償を受けるには、決められた手続きを踏まなければなりません。以下では、労災保険給付を受ける流れと注意点を説明します。
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(1)給付を受ける方法
労災保険による補償を受けるには、以下のような手続きが必要です。
① 医療機関の受診
まずはケガの治療を優先し、医療機関を受診しましょう。労災指定病院であれば、労災扱いでの診療が可能で、窓口における治療費の自己負担が不要となり、手続きも比較的簡単です。
② 労災保険の特別加入団体(JAなど)に事故報告をする
受診後は、加入しているJAなどの特別加入団体へ事故を報告します。担当者に事故状況を伝えれば、労災給付申請に必要な案内や指示を受けられます。
③ 特別加入団体から必要書類を受け取る
事故の報告を行うと、特別加入団体から労災給付請求に必要な申請書類が交付されます。申請書類とともに、医師の診断書や証明が必要な場合があるため、確認しておきましょう。
④ 必要書類を提出して労災保険給付の請求をする
必要書類は、原則として本人が労働基準監督署に提出しなければなりません。一方、特別加入団体がまとめて申請を行ってくれることもあるため、事前に確認しましょう。 -
(2)後遺障害が残ったら
農作業中の事故によって後遺障害が残った場合には、労災保険の障害等級認定を受けることが可能です。障害等級認定は、障害の程度に応じて1級から14級までに区分され、等級ごとに障害補償年金または障害補償一時金が支給されます。
障害等級認定を受けるには、診断書や医療記録の提出が求められるため、医師に確認を取りましょう。 -
(3)農業の事故により家族が亡くなったら
農作業中の事故で、家族が亡くなってしまうこともあるかもしれません。その場合、遺族は労災保険から以下のような補償を受けることが可能です。
- 亡くなった方の収入によって生計を維持していた場合は「遺族補償年金」
- 遺族補償年金受給資格者がいない場合は「遺族補償一時金」
- 葬儀費用の補填(ほてん)となる「葬祭料」
事故後の経済的負担を軽減するためにも、早めに特別加入団体や労働基準監督署に相談し、適切な手続きを進めることが大切です。
4、農業の労災保険制度は今後変わる可能性も
労災保険は、原則として、労働者を雇用するすべての事業主に対して加入が義務付けられています。しかし、農業分野は、以下の条件を満たせば任意加入となります。
- 個人経営である
- 常時雇用が5人未満
田植えや収穫などの繁忙期のみ臨時で労働者を雇う農家は多く、大多数の農業従事者が労災未加入の状態になっているのが実情です。
このような状況を踏まえ、政府は、小規模農家についても労災保険への加入を義務化する方向で検討を進めているとされています。これが実現すれば、農業者全体に労災保険が適用される体制が整い、万が一事故に巻き込まれても、補償を受けられるようになるでしょう。
制度改正が行われれば、不慮の事故への不安感が軽減され、農業労働環境の改善にもつながると期待されています。今後の法改正の動向にも注目してみてください。
5、まとめ
農業に従事していると、機械への巻き込まれや転倒など、思わぬ事故に遭う可能性がゼロではありません。農業法人の従業員は、労災保険が適用されますが、自営農家や家族経営の方は「特別加入制度」による備えが不可欠です。
また、機械の欠陥や第三者の過失が原因で事故が起きた場合は、メーカーや関係者に対して損害賠償を請求できるケースもあります。このような法的判断や請求の手続きは専門的で複雑なため、弁護士によるサポートが重要です。
農業中の事故や補償に不安を感じている方や、事故により障害が残ってしまった方は、実績豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。的確なアドバイスと手厚い支援で、最適な解決策をご提案いたします。
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