
労働保険とは、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険の総称であり、いずれも一定の雇用条件の労働者であれば加入が義務付けられている保険です。しかし、労働保険とは何か、どのような場合に、どのような給付があるのかということについて、理解している方は少ないかもしれません。
労働保険に含まれる労災保険と雇用保険は、それぞれ目的や補償内容が異なります。労働保険を給付される立場になったときに、その内容を正確に理解しておくことが、生活を維持していくうえでも重要になります。
そこで、本コラムでは、労働保険に含まれる労災保険と雇用保険の違いと仕組みの基礎知識について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労働保険とは?
労働保険とは、前述の通り、労災保険と雇用保険を併せた保険の総称です。では、労災保険と雇用保険とはどのような内容の保険なのでしょうか。以下では、労災保険と雇用保険の基礎知識について説明します。
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(1)労働保険は2種類からなる
労働保険は、以下の労災保険と雇用保険の2種類を含む総称です。いずれも労働者の保護を目的とした保険です。
① 労災保険
労災保険とは、労働者が業務中または通勤時の事故や病気によって、負傷または亡くなったときに被災労働者や遺族を保護することを目的として一定の給付を行う保険のことをいいます。
労災保険の主な給付内容は、以下のとおりです。
● 療養給付
療養給付とは、労働者が労働災害により傷病を負ったときに、原則、病院で自己負担なく治療を受けられる制度です。療養給付には、治療費、入院費用、看護料など通常療養のために必要なものはすべて含まれます。
● 休業給付
労働災害に遭い、療養のため休業して賃金を受けられなくなったときには、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の支給を受けることができます。さらに給付基礎日額の20%が特別支給金として支給されますので、休業期間中であっても合計80%の収入が補償されます。
なお、給付基礎日額とは、原則として、労働災害が発生した日以前の3か月の賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額となります。
● 障害給付
障害給付とは、障害年金と障害一時金からなる給付金です。障害給付は、労働災害によって傷病が治癒した後に後遺症が生じた場合に、障害等級に応じて年金または一時金の支給を受けられる制度です。障害等級が1~7級のときは障害年金としての年金の支給、8~14級のときは障害一時金としての一時金の支給がされます。
● 遺族給付
遺族給付は、遺族年金と遺族一時金からなる給付金です。労働災害によって労働者が亡くなったときには、労働者が死亡当時に労働者の収入で生計を維持していた遺族に対し、遺族年金が支給されます。
ここでいう遺族とは、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた配偶者(内縁の者を含む)、子ども、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹をいいます。
遺族年金の対象となるべき遺族がいないときには、その他の遺族に遺族一時金が支給されます。
● 傷病年金
労働災害により傷病を負い、療養開始後1年6か月を経過しても治癒しないときは、傷病等級に応じて、傷病年金が支給されます。休業給付を受けている方が、1年6か月を経過した時点で、傷病等級第1級から3級に該当するときは、休業給付から傷病年金に切り替わります。他方、傷病等級の認定がないときには、引き続き休業給付が支給されます。
● 介護給付
傷病年金または障害年金受給権を有する労働者が、現に介護を受けている場合には、介護給付が支給されます。介護給付は、障害の状態として、常時介護または随時介護を受けている状態にあることが要件とされています。
② 雇用保険
雇用保険とは、労働者が失業したり、会社の都合で雇用の継続ができなくなったりしたときなどに、労働者の生活や雇用の安定を図り、再就職を促進することを目的とした保険です。
雇用保険の主な給付内容は、以下のとおりです。
● 基本手当
基本手当は、雇用保険のなかでも最も代表的な給付で、一般的に「失業手当」と呼ばれているものです。失業した方が失業後の生活の心配をすることなく、新たに仕事を探し、1日でも早く再就職するために支給されるものです。
基本手当の支給を受けることができる日数は、雇用保険の被保険者であった期間や離職の理由などによって決定され、90日から360日の範囲で決められます。会社の倒産や解雇によって離職した場合には、自己都合で退職した方よりも保護の必要性が高いことから、給付日数や支給までの期間が優遇されています。
● 就職促進給付
就職促進給付とは、早期に再就職してもらうことを目的として支給される給付金で、定められた期間内で就職するなどの一定の条件を満たすことで「再就職手当」、「職業促進定着手当」、「就業手当」の支給を受けることができます。
● 教育訓練給付
教育訓練給付とは、教育訓練受講に支払った費用の一部が支給される制度です。再就職にあたって、資格を取ろうと考えているときには、非常に有益な制度ですので、利用を検討するとよいでしょう。
● 雇用継続給付
雇用継続給付金とは、「高年齢雇用継続給付」、「育児休業給付」、「介護休業給付」など働くことができない理由があるときに、所得が補償される制度のことをいいます。 -
(2)労災保険と雇用保険の違い
上記のとおり、労災保険と雇用保険とは、その目的や支給内容が異なる制度です。労災保険は、主に労働災害によって傷病を負った労働者の保護を目的とし、雇用保険は、主に失業した労働者の生活を保護することと再雇用の促進を目的としています。いずれも労働者保護という大きな目的は共通ですが、保護する場面が異なっています。
もうひとつ、労災保険と雇用保険の違いは、誰が保険料を負担するかです。労災保険の保険料は、全額が事業主負担となっているのに対し、雇用保険の保険料は、事業主と労働者がそれぞれ負担して支払っています。 -
(3)労働保険以外の社会保険は何があるか
労働保険は、労働者の保護を目的とした社会保険の一種です。社会保険には、国民の生活を保障することを目的として、さまざまな種類のものがあり、各保険内容に応じて国民が保険料を負担しています。労働保険以外の代表的な社会保険としては、以下のものがあります。
- 健康保険
- 年金保険
- 介護保険
これらは傷病や老齢など生活の困難を支えるための、強制加入制度です。
2、労災保険と雇用保険の対象範囲
労災保険制度は、1人でも労働者を雇用する会社は適用事業所とされ、パートやアルバイトを含むすべての労働者が対象となります。他方、雇用保険については、以下のとおり、所定労働時間と雇用見込みによって適用対象が異なってきます。
以下では、雇用保険の適用対象の範囲について説明します。
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(1)雇用保険の適用対象となる労働者とは
雇用保険は、会社の事業規模にかかわらず、
- ① 1週間の所定労働時間が20時間以上
- ② 31日以上の雇用見込みがある労働者
が適用対象となります。
正社員であれば、基本的に上記条件を満たすことになりますが、パート・アルバイト社員での働き方だと、微妙なケースが出てきますが、たとえば、週5日で1日あたり4時間働くパート・アルバイトで、かつ、31日以上の契約期間であれば、雇用保険の適用対象となります。
このように、上記条件を満たす場合には、正社員だけでなく、パート・アルバイト社員や派遣社員であっても雇用保険の適用対象となります。 -
(2)業務委託は労働保険の適用対象外
業務委託で働く方は、会社との雇用を前提とした労働者には該当しません。労働保険は、労働者を保護するための制度ですので、「労働者」に該当しない業務委託のケースでは、労災保険や雇用保険の適用はありません。
もっとも、使用者の指揮命令を受けて仕事をしており、労働の実態が、労働者と変わらないものであるなどの状況があるときには、労働保険の適用対象となることもあります。
3、会社が労働保険に加入しているか確かめるには
労働保険の適用を受けるためには、原則として会社が労働保険に加入をしていなければなりません。会社が労働保険に加入しなければならない理由と、会社が労働保険に加入しているかどうかを確かめる方法、加入していなかった場合の対応方法について説明します。
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(1)会社には労働保険に加入する義務がある
会社には、1人でも労働者を雇用したときには、労災保険の加入義務が生じます(労働者災害補償保険法3条)。また、一定の要件を満たす労働者を雇用したときには、雇用保険の加入義務もあります(雇用保険法5条)。
労働保険の加入は、強制加入であるため、加入対象であるにもかかわらず加入手続きを怠ったときには、罰則を受けることがあります。労働保険の未加入が悪質なケースだった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働者災害補償保険法51条、雇用保険法84条)。また、労災保険未加入中に労災事故が起きたときには、労災給付金の全額または40%の額を会社が負担しなければならないことがあります。
このように、労働保険未加入のペナルティーは非常に重いものですので、適用対象となる会社は、必ず労働保険に加入するようにしましょう。 -
(2)労災保険の加入を確認する方法
労災保険の保険料は、事業主が全額負担していますので、給与明細を見ても労災保険加入の有無はわかりません。
しかし、働いている会社が労災保険に加入しているかどうかについては、以下の厚生労働省のサイトから確認することができます。
[労働保険適用事業場検索] -
(3)雇用保険の加入を確認する方法
会社が雇用保険に加入している場合、「雇用保険被保険者証」または「雇用保険資格取得等確認通知書」が会社から交付されます。それによって加入の有無は明らかになるでしょう。もし、これらの書類が交付されないときは、事業所の所在地を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」を提出し、照会することができます。
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(4)会社が労働保険に未加入だったら
会社が労働保険に加入していないことが判明したときには、以下の窓口に相談をするとよいでしょう。
① 雇用保険について
雇用保険については、事業所を管轄しているハローワーク(公共職業安定所)が相談窓口となります。
② 労災保険について
労災保険については、事業所を管轄する労働基準監督署が相談窓口となります。
③ 労働相談全般について
全国の地方自治体において総合労働相談コーナーを設置し、労働に関する相談を受け付けています。相談内容によって適切な相談機関を案内してもらうこともできますので、どこに相談したらよいかわからないときには、総合労働相談コーナーを利用してみるとよいでしょう。
4、労災保険と雇用保険を請求する方法
労災保険と雇用保険を請求する方法については、以下のとおりです。
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(1)労災保険の請求の流れ
労働災害が起きたときに労災保険を請求する流れは、次のとおりです。
① 会社に労働災害が発生したことを報告
まずは、会社に対して労働災害が発生したことを報告します。そして、労働災害保険指定医療機関で治療を受けるようにしましょう。
② 労働基準監督署に必要書類を提出
労災保険給付を受けるためには、労働基準監督署に必要書類を提出しなければなりません。ただし、従業員の負担を避けるため、使用者側が代行して申請手続きを行うところも多いです。
③ 労働基準監督署の調査
労災給付を受けるためには、労働基準監督署の調査を受け、労働基準監督署長による労災認定を受けなければなりません。労働基準監督署では、被災した従業員や会社への聞き取り調査、治療した医療機関に対する照会などを行います。
④ 保険金の給付
提出された書類や調査の結果、労働基準監督署長によって労働災害である旨の認定を受けることができれば、保険金が給付されます。 -
(2)雇用保険の請求の流れ
会社を離職したときの雇用保険請求のうち、基本手当(失業手当)請求の流れは以下のとおりです。
① 離職票の交付
会社を離職することになった場合、会社から離職票が交付されます。会社から離職票が交付された後、住所地を管轄するハローワークに行き、「求職の申込み」と離職票を提出します。
② 受給資格の決定
ハローワークでは、離職者から提出された上記書類を踏まえて、受給資格の決定を行います。受給資格の決定を受けたとしてもすぐに基本手当が支給されるわけではありません。受給資格決定日から7日間の待期期間があり、その期間が満了するまで基本手当は支給されません。
また、離職理由が自己都合や懲戒解雇によるものであったときには、待期期間満了から3か月間は給付制限となるため、給付制限期間中は基本手当を受給することはできません。
③ 失業の認定
雇用保険受給者説明会に出席し、失業認定日にハローワークで求職活動の状況を申告し、失業状態にあることの認定を受けます。
④ 受給
失業の認定を受けた日から1週間程度で、指定した金融機関の口座に基本手当が振り込まれます。失業の認定は4週間に1度ありますので、その後も失業の認定を受けることで基本手当の受給を受けることができます。 -
(3)損害賠償の請求については弁護士に相談を
労働災害に遭ったとしても、労災保険から一定の給付を受けることができます。しかし、労災保険では、慰謝料の支払いはありませんし、傷病の状態によっては労災保険からの給付だけでは十分でない場合もあります。そのようなときには、労災保険の不足分について、会社に対して損害賠償請求をすることのできる可能性があります。
また、会社を離職して基本手当を受給していたとしても、解雇を争いたいケースや未払いの残業代を請求したいというケースもあるでしょう。そのようなケースでも会社に対して請求できる可能性があります。労災保険からの補償内容や離職の理由に不満があるときには、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
雇用保険や労災保険は、労働者を保護するための保険です。労働者としてできることは、会社がきちんと労働保険の手続きを行っているかどうかを確かめることです。
また、労働災害の内容や離職の経緯によっては、保険からの給付とは別に、会社に対して損害賠償請求をすることのできる可能性があります。
たとえば、「会社の指示通り作業したのに負傷してしまった」「他の従業員のミスで負傷し、障害が残ってしまった」「作業で使用する道具について十分な説明を受けていなかったがために怪我をしてしまった」など、このようなケースに会社から適切な賠償をしてもらうには、労働問題の解決実績がある弁護士のサポートが重要です。まずは、実績豊富なベリーベスト法律事務所までご相談ください。

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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