ヒューマンエラーで起きた労働災害は、会社に損害賠償請求できますか?
この質問に対する回答
ヒューマンエラーで起きた労働災害であったとしても、労働災害の発生について会社側に落ち度があった場合には、会社に対して損害賠償請求をすることができます。
1、ヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーとは、人間の行為によって意図しない結果が生じることをいいます。言い換えると、「やるべきことをやらない」、「やってはいけないことをやる」などによって意図しない結果が起こることです。故意にこれらのことをすることは違反と呼ばれ、ヒューマンエラーとは区別されます。
労働災害の発生原因の多くには、このヒューマンエラーが含まれているといわれています。
2、不安全行動・不安全状態とは
労働災害が発生する原因として、上記のヒューマンエラーの他に、不安全行動、不安全状態があると考えられています。以下では、不安全行動および不安全状態について説明します。
(1)不安全行動
不安全行動とは、労働者本人または関係者の安全を害する可能性がある行動を意図的に行うことをいいます。労力、時間、コストなどを省くことを優先した結果、本来あるべき姿から逸脱した行動がとられることによって労働災害に発展してしまいます。
厚生労働省では、不安全行動の類型として、以下の12項目を挙げています。
- 防護・安全装置を無効にする
- 安全措置の不履行
- 不安全な状態を放置
- 危険な状態を作る
- 機械・装置等の指定外の使用
- 運転中の機械・装置等の掃除、注油、修理、点検等
- 保護具、服装の欠陥
- 危険場所への接近
- その他の不安全な行為
- 運転の失敗(乗物)
- 誤った動作
- その他
(2)不安全状態
不安全状態とは、仕事中に使用する設備、機械、器具や作業環境などの面で安全が確保されていない状態のことをいいます。不安全行動が人的側面であるのに対して、不安全状態は物的側面を指します。
厚生労働省では、不安全状態の類型として、以下の8項目を挙げています。
- 物自体の欠陥
- 防護措置・安全装置の欠陥
- 物の置き方、作業場所の欠陥
- 保護具・服装等の欠陥
- 作業環境の欠陥
- 部外的・自然的不安全な状態
- 作業方法の欠陥
- その他
3、労災が発生する原因と損害賠償(使用者責任、安全配慮義務違反)の関係性について
では、どのような場合に会社に対して損害賠償請求をすることができるのでしょうか。以下では、労災発生原因と損害賠償の関係性について説明します。
(1)使用者責任
他の従業員の不注意によって怪我をした場合、怪我をさせた従業員に責任があるのは当然ですが、当該従業員を雇用する会社にも一定の責任が生じます(民法715条)。
直接の行為者ではない会社が責任を負う理由としては、「報償責任の法理」や「危険責任の法理」によるものと説明されています。「報償責任の法理」とは、会社は、従業員を使用することで利益を得ていることから、その利益から損害を補填すべきという考え方であり、「危険責任の法理」とは、会社は、危険な行為によって利益を得ているのであるから、その危険を支配する者がその責任を負うべきであるという考え方です。
このような考え方に基づき、会社は、労働災害に関しても使用者責任を負い、被災労働者は会社に対して損害賠償請求をすることができます。
(2)安全配慮義務違反
自分1人で作業中に怪我をしたというような場合には、会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をすることになります。
会社には、従業員が怪我をしたり病気になったりしないように職場環境の安全や衛生などに配慮しなければならない義務があり、これを「安全配慮義務」といいます。
会社から提供された機械や器具の不備が原因になって現場作業員に事故が発生したというケースや、教育体制・安全管理の不備が原因で労働災害が発生したというケースでは、会社側に安全配慮義務違反が認められ、被災労働者からの損害賠償請求が認められる可能性があります。