民間企業に勤める方が業務中に負傷したり、病気になったりした場合には労災保険の適用があります。他方、公務員が同様の事態に陥ってしまった場合には、労働災害ではなく「公務災害」の認定申請を行う必要があります。
公務災害に遭った公務員やその家族としては、公務災害と労災ではどのような違いがあるのか、公務災害による補償内容などが気になるところでしょう。
本コラムでは、公務災害と労災の違い、認定申請の方法、損害賠償請求の可否などについて、公務災害の基礎知識を中心にベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、公務員にも労災保険制度はある?
公務員が公務中に怪我や病気になった場合には、一定の要件のもと、「公務災害」として扱われ、公務員災害補償制度による補償を受けることができます。以下では、公務員の公務災害について説明します。
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(1)公務員の公務災害とは?
公務災害とは、公務員が公務中や通勤中に発生した怪我や病気のうち一定の要件を満たすものをいいます。
公務員が公務災害によって被災した場合には、基本的には、労働者災害補償保険法ではなく、公務員災害補償制度によって、その災害により生じた損害が補償されることになります。公務員災害補償制度については、対象が国家公務員の場合には「国家公務員災害補償法」、対象が地方公務員の場合には、「地方公務員災害補償法」が適用されます。 -
(2)公務員災害補償制度の適用のある公務員とは?
上記のとおり、公務員については、国家公務員か地方公務員かによって根拠となる法律が異なってきます。また、地方公務員でも常勤か非常勤かによって根拠となる法律が異なることがあります。
たとえば、地方公務員の公務中の災害については、以下のとおり立場や業務内容によって適用される法律が異なります。現業の常勤職員 地方公務員災害補償法 現業の非常勤職員 労働者災害補償保険法 非現業の常勤職員 地方公務員災害補償法 非現業の非常勤職員 地方公共団体の補償条例
このように、公務員であっても民間企業の労働者と同様に労災保険の適用があることもあります。公務員の公務災害については、適用される法律が複雑です。判断に迷った場合は、国家公務員や地方公務員の一般職に従事されている方であれば人事院へ、地方公務員のうち特別職などであれば労働基準監督署へ相談するとよいでしょう。
2、公務災害の適用範囲は?
公務員災害補償制度による補償を受けるためには、公務災害の認定を受ける必要があります。そして、公務災害の認定を受けるためには、以下の基準を満たしている必要があります。
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(1)公務災害の認定基準
公務災害とは、公務に起因し又は公務と相当因果関係をもって生じた災害のことをいいます。公務災害が認定されるためには、以下の「公務遂行性」および「公務起因性」の要件を満たす必要があります。
① 公務遂行性
公務遂行性とは、公務員が公務に従事していることをいい、任命権者の支配下にあるということが必要になります。
② 公務起因性
公務起因性とは災害と公務の間に相当因果関係があることをいい、その業務に従事していたならば、この災害が発生する危険があったと経験則上認められることが必要になります。
公務災害の認定は、上記の2つの基準から判断していくことになります。公務上の負傷の場合には、公務遂行性の要件を満たすときには、公務起因性の要件が否定されることは少ないですが、公務上の疾病の場合には、発症前における公務の過重性などに起因していたかどうかなど公務起因性の要件が慎重に判断されることになります。
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(2)公務上の負傷、疾病、通勤災害の具体的な基準
公務災害の認定基準は、上記のとおりですが、災害ごとの具体的な基準は以下のとおりです。
① 公務上の負傷
以下のケースで生じた負傷は、原則として公務上の災害となります。- 職務行為などに起因する負傷
- 出張または赴任期間中の負傷
- 特別の事情下の出退勤途上の負傷
- レクリエーションに参加中の負傷
- 勤務場所またはその附属施設の設備の不完全または管理上の不注意による負傷
- 入居が義務付けられている宿舎などの不完全または管理上の不注意による負傷
- 職務遂行に伴う怨恨による負傷
- 公務上の負傷または疾病と相当因果関係をもって発生した負傷
② 公務上の疾病
以下のケースで生じた疾病は、原則として公務上の疾病になります。- 公務上の負傷に起因する疾病
- 職業病
- その他公務に起因することが明らかな疾病
③ 通勤災害
通勤災害とは、公務員が勤務のため、以下の往復や移動を合理的な経路および方法により行うことに起因する災害のことをいいます。- 住居と勤務場所との間の往復
- 勤務場所から複数就業者の就業の場所への移動
- 住居と勤務場所の往復に先行または後続する住居間の移動
合理的な経路を逸脱または中断したとしても、日用品の購入、教育機関への通学、病院での治療など日常生活上必要な行為であって総務省令で定めるものに該当する行為をやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合には、その逸脱または中断の間に生じた災害を除き、合理的経路に戻ってからは通勤災害とされます。
3、公務災害の申請方法
公務員が公務災害に遭ったときには、公務災害の認定を受ける必要があります。公務災害の認定を受けるための具体的な申請方法は、以下のとおりです。
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(1)被災職員から所属長、事務担当者などへ連絡
公務災害が発生したときには、まず被災職員から所属長や事務担当者にその旨連絡をします。連絡が遅れると事実関係の確認が困難になり、今後の公務災害の認定に支障が生じることがありますので注意してください。
また、被災職員は、できる限り早期に最寄りの医療機関を受診して治療を受けるようにしましょう。病院の窓口では、公務災害の手続きをとる予定である旨告げて、認定を受けるまで治療費の請求を待ってもらうようにしてください。 -
(2)公務災害認定請求書の作成、提出
公務災害の認定は、被災職員やその遺族からの請求によって行われます。被災職員やその遺族は、病院を受診後すみやかに所属の担当者に説明し、公務災害認定請求書を作成し、提出するようにしましょう。
公務災害発生日から1か月以上経過して請求する場合には、公務災害認定請求書の他に「遅延理由書」も提出する必要がありますので、遅れる場合には注意が必要です。 -
(3)基金による審査・認定
被災職員やその遺族から公務災害認定請求があったときには、地方公務員災害補償基金の支部において、その災害が公務災害かどうかの審査を行います。
医学的見地から調査を要する事案(腰痛事案など)や基金本部との協議を要する事案(心臓・脳血管疾患、精神疾患など)については、認定までに時間を要することがあります。 -
(4)認定の通知
公務災害が認定されたときには、任命権者および被災職員宛てに認定通知書が送付されます。認定の結果に不服があるときには、認定通知書を受け取った日の翌日から3か月以内に審査請求をすることができます。
4、損害賠償請求ができるケース
公務災害の認定を受けて、公務員災害補償法による補償を受けたとしても、別途加害者や国に対して損害賠償請求をすることが可能なケースがあります。
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(1)国に対する損害賠償請求
公務災害について、使用者(国または地方公共団体)に安全配慮義務違反など落ち度があるときには、公務員は、国または地方公共団体に対して損害賠償請求(国家賠償請求)をすることができます。
公務災害の認定を受けることができれば、公務員災害補償制度によって一定の補償が受けられます。しかし、公務員災害補償法による補償では精神的苦痛に対する慰謝料の支払いはなく、休業補償は、平均給与額の80%までしか補償されません。また、公務災害によって障害が残ったときには、障害補償を受けることができますが、将来の収入(逸失利益)を補償するものとしては十分な金額とはいえないという実態があります。
そのため、不足する部分については、国または地方公共団体に対して民事上の損害賠償請求を行うことになります。 -
(2)第三者に対する損害賠償請求
公務災害のうち、交通事故のように第三者の加害行為によって発生した災害のことを第三者行為災害といいます。
第三者行為災害では、被災職員には、加害者に対する損害賠償請求権と、公務員災害補償制度の災害補償請求権の両方の権利が存在しています。これらの請求権がカバーする範囲については、共通する部分もあります。
しかし、災害補償請求権では、すべての損害をカバーしているわけではありません。最終的には、加害者である第三者に対して、民事上の損害賠償請求をすることになります。 -
(3)損益相殺による調整
公務員災害補償法による補償を受けたうえで、さらに損害賠償請求をするとなると、被災職員は、二重の経済的利益を得ることになってしまいます。このような場合には、損益相殺によって、一定の経済的利益を損害賠償額から控除するといった扱いがなされています。
もっとも、公務員災害補償法による補償のすべてが損益相殺の対象となるわけではなく、休業補償特別給付金や障害補償特別給付金については、損益相殺の対象とはなりません。また、障害補償年金や遺族補償年金についても既払い部分と受給が確定している未給付の部分以外は損益相殺の対象とはなりません。
5、まとめ
公務員が公務災害に遭ったときには、公務員災害補償法による補償を受けることができます。しかし、公務員災害補償法による補償は、損害のすべてを回復するものではありませんので、不足する部分については、別途損害賠償請求をすることが可能です。
公務災害について損害賠償請求をするためには、弁護士によるサポートが必要となりますので、その際にはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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