
労災に遭った方は、労災保険給付を受給できます。
労災保険給付のひとつである「休業補償給付」には、3日間の「待機期間」が設けられています。待機期間である3日間については、休業補償給付を受け取ることができません。待機期間に受け取れなかった賃金については、会社に対して損害賠償を請求できることがありますので、弁護士にご相談ください。
本記事では、労災保険による休業補償給付の待機期間のカウント方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労災保険給付は、どんなときに受け取れる?
労災保険給付は、業務上の原因により、または通勤中にけがや病気を発症した労働者が受け取れる保険です。
業務上の原因によるけがや病気が原因で仕事を休んだ場合には、労災保険給付のひとつである「休業補償給付」を受給できます。
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(1)労災保険給付の支給要件|業務災害・通勤災害
労災保険給付は、「業務災害」または「通勤災害」の要件を満たす場合に受給できます。
「業務災害」とは、業務上の原因によって労働者がけがや病気になることです。
「業務遂行性」と「業務起因性」の要件を両方満たす場合には、業務災害に該当します。業務災害の要件 - ① 業務遂行性:使用者の支配下にある状態で、けがや病気などが発生したこと
- ② 業務起因性:業務が原因でけがや病気になったと社会通念上いえること
「通勤災害」とは、通勤中に労働者がけがや病気になることです。
以下の要件をすべて満たす場合には、通勤災害に該当します。通勤災害の要件 - ① けがや病気が、以下どれかの移動中に発生したこと
(a)住居と就業場所の間の移動
(b)就業場所から他の就業場所への移動
(c)単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動 - ② けがや病気が、業務と密接な関連のある移動中に発生したこと
- ③ けがや病気が、合理的な経路および方法による移動中に発生したこと
- ④ 移動が業務の性質を有しないこと
業務災害と通勤災害のいずれも、すべての労働者が対象となります。正社員だけでなく、パートやアルバイトなどであっても、上記に書かれた条件を満たせば労災保険給付を受給できます。
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(2)仕事を休んだ場合に受給できる「休業補償給付」の計算方法
労災によって仕事を休んだ場合には、業務災害であれば「休業補償給付」が、通勤災害であれば「休業給付」が労災保険から支給されます(以下、休業補償給付と休業給付を「休業補償給付」と総称します)。
休業補償給付の目的は、労災によって働けなくなり、収入が減ってしまう労働者の生活保障をすることです。
金額としては、給付基礎日額※の60%に相当する休業補償給付と、給付基礎日額の20%に相当する休業特別支給金が支給されます。ただし通勤災害については、1回目の休業給付から一部負担金200円(日雇特例被保険者は100円)が差し引かれます。
※給付基礎日額=労災発生前の直前3か月の給与総額を、日数で割った額
休業補償給付の支給開始は、労災による休業の4日目からです。最初の3日間は「待機期間」とされており、休業補償給付が支給されません(後述)。この3日間の補償は会社が責任をもって行うものとされています。
ただし遅発性の疾病を発症し、診断確定時にすでに会社が倒産したり、会社の社長が行方不明になっており、待機期間の休業補償を受けられない場合は、「休業補償特別援護金」を受給できることがあります。 -
(3)休業補償給付と健康保険・雇用保険の傷病手当の違い
労働者がけがや病気などで働けなくなった場合の休業補償は、労災保険の休業補償給付のほか、健康保険の傷病手当金や、雇用保険の傷病手当も用意されています。
健康保険の傷病手当金は、被保険者が病気やけがのために働くことができず、連続して4日間以上休業した場合に受給できます。
労災保険の休業補償給付と同様に、健康保険の傷病手当金も当初3日間は支給されず、4日目以降に支給されます。ただし、健康保険の傷病手当金の1日当たりの支給上限は、原則として過去12か月間の標準報酬月額の日割額の3分の2です。
※標準報酬月額とは、社会保険料の計算などに用いる、50等級に分かれる給与の区分のこと。
雇用保険の傷病手当は、離職後にハローワークへ来所し、求職の申し込みをした後に、15日間以上引き続いてけがや病気のため就職できない場合に受給できます。
雇用保険の傷病手当の支給額は、雇用保険の基本手当と同額とされています。
健康保険の傷病手当金と雇用保険の傷病手当は、労災保険の休業補償給付と重複して受給することはできません。
在職中の休職期間については、業務災害・通勤災害の要件に該当する場合は労災保険の休業補償給付、該当しない場合は健康保険の傷病手当金の支給対象となります。
離職後の失職期間については、雇用保険の傷病手当を受給できることがあります。
2、休業補償給付の「待機期間」のカウント方法
労災保険の休業補償給付が支給されない待機期間は、休業1日目から起算して3日間です。したがって、休業補償期間は休業4日目以降となります。
休業1日目としてカウントするのは、所定労働時間に労働できなかった日です。
したがって、所定労働時間中に労災が生じて早退した場合は、その日を休業1日目として数え始めます。
これに対して、残業時間中に労災が発生した場合や、労災発生後も所定労働時間が終了するまで働いた場合には、労災発生日をカウントせず、その後に休業した日を1日目とします。
なお、休業日が連続している必要はありません。同じ労災が原因で断続的に休業した場合は、通算3日目までが待機期間に当たり、4日目以降は休業補償給付を受給できます。
- 労災保険への不服申立てを行う場合、訴訟等に移行した場合は別途着手金をいただくことがあります。
- 事案の内容によっては上記以外の弁護士費用をご案内することもございます。
- 労災保険への不服申立てを行う場合、訴訟等に移行した場合は別途着手金をいただくことがあります。
- 事案の内容によっては上記以外の弁護士費用をご案内することもございます。
3、労災保険給付を受け取るための手続き
労災保険給付には上記で説明した休業補償給付のほか、療養補償給付や介護補償給付、労働者が亡くなった場合の葬祭料や遺族補償給付、などいくつかの種類があります。
受給するには、給付の種類に対応する請求書を作成して、以下の窓口へ提出する必要があります。
※労災病院または労災保険指定医療機関にて無償で治療を受け、または労災保険指定薬局で無償で薬剤を受け取ることができる給付
② その他の給付:事業場の所在地を管轄する労働基準監督署の窓口
休業補償給付は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に請求書を提出すれば受給できます。業務災害の休業補償給付は「様式第8号」、通勤災害の休業給付は「様式第16号の6」を用いて請求書を作成しましょう。
請求書の用紙は、労働基準監督署の窓口でもらえるほか、厚生労働省のウェブサイト上でもダウンロード可能です。
4、労災保険給付でカバーされない損害は、会社に対して損害賠償請求を
労災保険給付では、働けなかったときの損害の全額を穴埋めできるわけではありません。不足分は、会社に対する損害賠償請求でカバーしていきましょう。
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(1)労災保険給付は不十分な場合が多い
労災保険の休業補償給付については、当初3日間の待機期間の賃金は補償されない上に、4日目以降も賃金の80%相当額しか補償されません。
また、休業補償給付以外の労災保険給付も、支給額が画一的に決まっているため、実際の損害額を全額カバーできていないのが実情です。
労災保険給付だけでは、労災による損害を十分に回復できない可能性が高いので、会社に対する損害賠償請求も併せてご検討ください。 -
(2)会社に対する損害賠償請求の法的根拠
労災のうち、業務災害の場合は、以下の法的根拠に基づいて会社に損害賠償を請求できる可能性があります。
① 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社は、労働者が生命や身体の安全を確保しつつ労働できるように配慮する義務を負っています。安全配慮義務違反の結果として労災が発生した場合には、会社に損害賠償を請求できます。
② 使用者責任(民法第715条第1項)
他の従業員の過失が原因で労災が発生した場合には、会社に対して使用者責任に基づく損害賠償を請求できることがあります。
通勤災害については、会社の過失があるとわかる特段の事情がない限り、会社に対して損害賠償を請求することはできません。
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(3)会社に対する損害賠償請求の手続き
労災について会社に損害賠償を請求する際の手続きは、会社との協議・労働審判・訴訟などがあります。
① 会社との協議
会社と直接話し合って、損害賠償の額などを合意します。
② 労働審判
地方裁判所にて、非公開で行われる話し合いの手続きです。裁判官と労働審判員を介しながら会社と話し合いをすることで、折り合いがつくところを探ります。このほか、行政が運営する労働委員会で調停やあっせんという話し合いの手続きをすることも可能です。
③ 訴訟
裁判所にて公開で行われる訴訟手続きにより、裁判所の判決や和解などを通じて紛争解決を図ります。
いずれの手続きによる場合でも、弁護士が代理人として対応を代行することにより、適正額の損害賠償を得られる可能性が高まります。労災の損害賠償請求は、弁護士にご相談ください。
5、まとめ
労災保険の休業補償給付には、当初3日間の待機期間が設けられています。休業4日目以降でなければ、休業補償給付の対象になりません。
休業補償給付を含む労災保険給付は、労災による損害の補償には不十分な場合が多いです。不足額については、弁護士のサポートを受けながら、会社に対して損害賠償請求を検討しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、労災で会社に損害賠償を請求したいというご相談を随時受け付けております。仕事中にけがをしてしまった方や、仕事が原因で病気にかかってしまった方は、当事務所へご相談ください。

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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