
業務が原因のケガや病気によって休業を余儀なくされた従業員は、会社に対して「休業補償」を請求することが可能です。
休業補償の金額は、平均賃金の6割とされています。また、平均賃金の6割以上が支給される「休業手当」という補償もありますが、休業補償とは支給理由や課税されるかどうかが異なる別物です。
本記事では、休業補償と休業手当の違いや計算方法、被災労働者が会社に請求できる休業補償以外のお金について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、休業補償とは? 休業手当との違いや注意点
労働基準法では、労災(労働災害)によって休業した労働者に対して、休業補償を行うことを使用者(経営者や事業主など)に義務付けています。
労働基準法では休業手当についても定められていますが、休業補償と休業手当は異なるものです。詳しく見ていきましょう。
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(1)休業補償とは
休業補償とは、業務が原因で負傷し、または疾病にかかった労働者が休業した場合に、使用者が支払う補償です。使用者は、労働者が療養を受けている間、平均賃金の6割に相当する休業補償を行うことが義務付けられています(労働基準法第76条第1項)。
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(2)休業補償と休業手当の主な違い
労働基準法では、休業補償のほかに「休業手当」についても定められています。
休業手当とは、使用者の責任によって休業した労働者に対し、使用者が行う補償です。使用者は、労働者が休業している間、平均賃金の6割以上の休業手当の支払いが義務付けられています(労働基準法第26条)。
休業補償と休業手当の支給率はいずれも「平均賃金の6割」が関連しますが、主に以下の3つの違いがあります。① 休業の原因
休業補償が支払われる理由は、業務が原因のケガ、または病気です。これらは「業務災害」とも呼ばれます。
これに対して休業手当は、使用者の責任によって休業した労働者に対して支払われます。たとえば、コストカットのために閉店して、その間に労働者を休ませるようなケースが挙げられます。
② 対象日数に休日が含まれるか
休業補償は、負傷・疾病が治癒する日までの暦日数(カレンダーに基づいた日数)に応じた金額が支払われます。下記休業補償給付の対象期間は、休業した期間の4日目以降です。休業初日から3日目までは待機期間とされており、待機期間については使用者が休業補償を支払う義務を負います。休日も休業補償の対象です。
これに対して休業手当は、実際に休業した日のみが支給対象となります。労働義務がない休日については、休業手当は支給されません。
③ 課税の有無
休業補償は非課税所得ですが、休業手当は給与所得として課税されます。参考:「No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係」(国税庁)
なお、休業手当を受給する場合は、その受給額が休業補償の額から控除されます。したがって、休業補償と休業手当を二重取りすることはできません。 -
(3)労災保険の休業補償等給付とは
休業補償については、被災労働者が確実に補償を受けられるよう、労災保険の「休業補償等給付」が義務付けられています。休業補償等給付とは、業務災害で休業した労働者が、本来だったら得られるはずだった収入を補償する給付金です。
① 業務災害または通勤災害による負傷や疾病であること
以下3つの要件をいずれも満たした状態で労働基準監督署へ請求すると、労災保険から休業補償等給付を受給できます。業務災害の要件 - ア.業務遂行性:使用者の支配下にある状態で、労働者にケガや病気が発生したこと
- イ.業務起因性:会社の業務と労働者のケガや病気の間に、社会通念上相当な因果関係があること
② 療養のため、労働することができないこと
入院や通院の必要性がある、負傷や疾病の症状によって身体が労働に耐えられないなど、労働することができない状態にあることが必要です。
③ 賃金を受けていないこと
会社から平均賃金の60%以上の賃金が支払われている場合は、休業(補償)給付の対象外となります(支給された賃金が平均賃金の60%に満たない場合は、休業(補償)給付を受給できます)。
休業補償等給付は、「休業補償給付」と「休業特別支給金」の2種類があります。それぞれの給付額は以下のとおりです。- 休業補償給付=給付基礎日額の60%
- 休業特別支給金=給付基礎日額の20%
休業補償給付は、使用者が行うべき休業補償をカバーするものです。したがって、使用者から損害賠償や休業補償を受けた場合は、その額が休業補償給付から控除されます。
これに対して休業特別支給金は、使用者が行うべき休業補償に上乗せして支払われるものです。そのため、仮に使用者から損害賠償や休業補償を受けていても、休業特別支給金は満額受給できます。
参考:「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」(厚生労働省)
2、「6割」がポイント! 休業補償と休業手当の計算方法
休業補償と休業手当の金額は、いずれも平均賃金などをもとに計算します。具体例を示しながら、それぞれの計算方法を紹介しましょう。
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(1)平均賃金の計算方法
まず、平均賃金はどのように算出するのか紹介します。
平均賃金=(対象期間中の賃金総額-控除すべき賃金)÷対象期間の総日数
※対象期間は、休業直前の賃金締切日以前3か月間です。ただし、以下の期間を除きます。
- 業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間
- 産前産後休業期間
- 使用者の責に帰すべき事由によって休業した期間
- 育児休業期間、介護休業期間
- 試用期間
なお、賃金総額は、以下のような賃金を含まないものとします。
- 臨時に支払われた賃金
- 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 通貨以外のもので支払われた賃金で、一定の範囲に属しないもの
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(2)休業補償の計算方法
平均賃金の計算方法をもとに、休業補償の金額はどう計算するか見ていきましょう。
【設例1】
労働者Aは、令和6年11月25日、仕事中に事故に遭ってケガをし、翌日から同年12月25日まで仕事を休んだ。そのうち、実際の休業日数は22日間だった。
賃金締切日は毎月末日で、同年8月1日から10月31日までの賃金総額は92万円だった。
設例1では、労働者Aは労災によって休業しているので、使用者に対して休業補償を請求できます。
休業に入った日の直前の賃金締切日が令和6年10月31日なので、それ以前の3か月間(=同年8月1日から10月31日まで)を対象期間として、平均賃金を計算します。
対象期間の賃金総額は92万円、総日数は92日なので、平均賃金は1万円(=92万円÷92日)です。
休業補償は平均賃金の6割なので、休業1日当たり6000円(=1万円×60%)の休業補償を請求できます。
休業補償の支給対象となるのは、休日も含めた休業期間の歴日数です。
設例1では、11月26日から12月25日までの30日間にわたって休業しているので、休業補償の総額は18万円(=6000円×30日)となります。 -
(3)休業手当の計算方法
続いて、休業手当を受ける場合の計算方法の例です。
【設例2】
労働者Bは、勤務先の店舗が閉店したことに伴って休業を指示されたため、令和6年11月26日から同年12月25日まで仕事を休んだ。そのうち、実際の休業日数は22日間だった。
賃金締め切り日は毎月末日で、同年8月1日から10月31日までの賃金総額は92万円だった。
設例2は、休業の原因が「仕事中の事故」から「店舗の閉店」に変わっていますが、それ以外の条件は設例1と同じです。
店舗の閉店が休業の原因なので、設例2では休業手当を請求できます。
休業手当についても、平均賃金の計算方法は休業補償と同じです。
設例2における平均賃金は1万円(=92万円÷92日)となります。
休業手当は休業補償と同じく、平均賃金の6割です。したがって、休業1日当たり6000円(=1万円×60%)の休業手当を請求できます。
休業補償と休業手当で異なるのは、対象日数の計算方法です。休業手当は、休日を含めず、実際の休業日数だけが支給対象となるので、設例2における対象日数は22日となります。
したがって、休業手当の総額は13万2000円(=6000円×22日)です。 -
(4)休業補償と休業手当の計算を混同しないように注意
設例1と2のように、休業補償として受け取るか、休業手当として受け取るかによって、ほかの条件が同じでも支給金額が変わります。設例1のとおり休業補償として受け取ると18万円、設例2のとおり休業手当として受け取ると13万2000円です。
休業手当として計算すべきところを、誤って休業補償の計算方法で算出すると、実際に受け取った金額が想定より少ないことになります。
休業手当については、休日を含めた歴日数ではなく、休日を含めない実際の休業日数で計算することにご注意ください。
- 労災保険への不服申立てを行う場合、訴訟等に移行した場合は別途着手金をいただくことがあります。
- 事案の内容によっては上記以外の弁護士費用をご案内することもございます。
- 労災保険への不服申立てを行う場合、訴訟等に移行した場合は別途着手金をいただくことがあります。
- 事案の内容によっては上記以外の弁護士費用をご案内することもございます。
3、休業補償以外に会社へ請求できる損害賠償・請求方法
休業補償の額は平均賃金の6割に過ぎず、労災によって労働者が受けた損害を補塡(ほてん)するのに、十分ではありません。
療養給付など、休業補償以外の労災保険給付を受給したとしても、損害全額の補塡はできないでしょう。
労災による損害については、使用者責任(民法第715条第1項)や安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づき、会社に対して損害賠償を請求できる可能性が高くなります。
適正額の損害賠償を請求するためには、弁護士のサポートを受けるのがおすすめです。
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(1)休業補償以外に請求できる損害賠償の項目
被災労働者は会社に対し、以下に挙げる項目などの損害賠償を請求できる可能性があります。
① 慰謝料
ケガや後遺障害による精神的損害の賠償金です。労災保険給付では一切補償されませんが、会社に対しては、損害賠償のひとつとして請求できる可能性があります。
② 逸失利益
後遺障害によって労働能力が失われた場合に、将来得られなくなった収入に相当する額の賠償金です。一部は労災保険給付によって補償されますが、残額を会社に対して請求可能な場合があります。
③ 休業損害
労災が原因で仕事を休んだことにより、得られなかった収入の賠償金です。休業補償は平均賃金の6割ですが、会社が損害賠償責任を負う場合は、残りの4割についても休業損害として請求できます。
④ 入院雑費
ケガや病気の治療のために入院した場合は、入院1日当たり1500円程度の入院雑費を請求可能です。 -
(2)労災についての損害賠償の請求方法
労災について会社に損害賠償を請求する場合は、「交渉→労働審判→訴訟」の順に手続きを行うのが一般的です。
① 交渉
会社と直接交渉して、損害賠償の支払いを求めます。
② 労働審判
地方裁判所で行われる非公開の手続きです。裁判官1名と労働審判員2名が、労使双方の主張を聞いて、原則として3回以内の期日で審理し、紛争解決を図ります。
③ 訴訟
裁判所で行われる公開の紛争解決手続きです。裁判所が労使双方の主張を聞いて、和解ないし判決によって紛争解決の結論を示します。
弁護士に依頼することで、会社との交渉から訴訟までのサポートを受けることが可能です。
4、休業補償・損害賠償について弁護士に相談するメリット
労災の休業補償や損害賠償を請求する際には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することの主なメリットは、以下のとおりです。
- 休業補償の金額を正確に計算できる
- 休業補償以外に損害賠償を請求できるのかどうか、およびその内訳を把握できる
- 会社との交渉や裁判手続きを弁護士が代行するため、労力やストレスが大幅に軽減される
- 法的根拠に基づく主張ができるため、適正な損害賠償を受けられる可能性が高まる
労働審判や訴訟では、法的な手続きを踏む必要があります。ひとりで対応すると時間も労力もかかるため、弁護士と二人三脚で手続きを進めましょう。
また交渉段階でも、会社と直接のやりとりは負担が大きいものです。弁護士であれば、交渉を代行可能ですので、お早めにご相談ください。
5、まとめ
労災の休業補償は、平均賃金の6割とされています。
しかし、会社が損害賠償責任を負う場合には、残りの4割についても会社に対して請求可能です。また、休業損害以外にも、会社に対してさまざまな項目の損害賠償を請求できる可能性があります。
弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償の獲得を目指しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、労災の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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