仕事中に指を骨ごと切断するという痛ましい事故が発生してしまった場合、「労働災害」と認定されれば、まずは労災保険からの給付を受けることができます。労災が認定された場合、指定の病院であれば、医療費や手術代を窓口で支払うことなく治療や手術を無償で受けられます(指定外の病院で治療を受けた場合は後日請求する必要があります)。
指を切断したケースでは、指の一部が失われたままになってしまったり、仮に外科手術によって腱・神経などの組織の接合に成功したとしても指としての機能が喪失したままになってしまったりすることが多いです。そのため、ほかの種類のケガに比べても、特に障害が生じやすいケガだといえます。
後遺障害の残存が認められた場合には、通常の治療費などに加えて、後遺障害に対する給付も認められます。労働基準監督署や弁護士に相談をしながら、適切な補償を受けられるように準備しましょう。
本コラムでは、業務中に指切断の事故が発生した場合の労災認定や損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、仕事中に起こる指切断事故の事例
指の切断は、現場作業をされる職種で働く方に特に起こりがちな事故です。
まず、仕事中に発生する指切断事故のなかでも、比較的よくある事例を紹介します。
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(1)工事現場や山林作業におけるチェーンソー使用時の事故
工事現場や山林作業においてチェーンソーなどの切断用機械を使用する際に、操作を誤って自分の指を巻き込んでしまう事例があります。
チェーンソーの場合、刃が鋭利であり、かつ機械の勢いも激しいため、指が完全に切り落とされてしまうケースも多くあります。 -
(2)工場における機械の誤作動
鉄などの金属を切断するための機械が稼働している工場では、機械を操作している間に誤って指を巻き込んでしまう事例があります。
大掛かりな機械を停止させることには時間がかかるため、指が完全に切断されてしまうだけでなく、切断後の指が機械に巻き込まれたままになってしまい再接着も不可能な状態になる場合があります。 -
(3)重量物の落下
非常に重い物を指の上に落としてしまうと、受傷部位が壊死してしまい、手術による指切断を強いられる場合があります。
切断された指が壊死してしまうと、再接着はほぼ不可能になるでしょう。
2、指切断の事故が労災認定されるまでの流れ
仕事中に指切断の事故が発生した場合には、会社が加入している労災保険から、労災保険給付を受け取ることができます。
以下では、労災保険の概要や、労災認定の要件、認定までの手続きについて解説します。
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(1)労災保険により業務上発生した負傷・疾病などが補償される
労災保険とは、労働者が会社で働いている最中や通勤中などに負傷したり疾病にかかったりした場合に備えて、会社に対して加入が義務付けられている保険です。
労働者に業務上の負傷・疾病が発生した場合、労災保険給付の申請をすることによって、労働者が被った損害について一定の補償が受けられます。 -
(2)労災認定の要件|業務遂行性と業務起因性
労災が認定されるためには、労働者の負傷・疾病などが「業務上の事由」により発生したと見なされることが必要です(労働者災害補償保険法第1条)。
業務上の事由による負傷・疾病であると見なされるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たす必要があります。
・業務遂行性
業務遂行性とは、「労働者が労働関係の下にあった場合に起きた災害である」と認められることをいいます。
工場などの事業場で働いている間に起こった事故であれば、業務遂行性は容易に認められることが多いでしょう。
一方で、事業場外で働いている間に起こった事故については、プライベートな時間との切り分けが問題となって、業務遂行性の認定が難しくなる場合があります。
・業務起因性
業務起因性とは、業務遂行性が認められることを前提としたうえで、業務と負傷・疾病の間に因果関係があると認められることをいいます。
業務に関係がある作業をしているなかで負傷などが生じた場合には、基本的には、問題なく業務起因性が認められるでしょう。
これに対して、就業中に行っていた私的な行為に起因して負傷などが生じた場合には、業務起因性が否定される可能性が高いといえます。 -
(3)労災認定の手続き|労働基準監督署へ申請
労災保険給付の申請は、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に対して行います。
必要書類は給付の種類ごとに異なるため、労働基準監督署の窓口に相談しながら準備を進めた方がよいでしょう。
手続きの詳細については、以下の厚生労働省のホームページを参考にしてください。
参考:「労災保険制度の概要、給付の請求手続等」(厚生労働省HP)
3、労災で指切断の後遺障害が生じたときに受けられる労災保険給付は?
労働災害が原因で指を切断して、完全に元通りにも治らず後遺障害が残った場合について、受けられる労災保険給付の具体的な内容を解説します。
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(1)障害(補償)給付により後遺障害が補償される
後遺障害による損害は、「障害(補償)給付」と呼ばれる労災保険給付によって補償されます。
障害(補償)給付では、認定される障害等級に応じて、以下の内容の給付が行われます。障害等級 障害(補償)給付
(第1級から第7級までは年金、
第8級から第14級までは一時金)障害特別支給金
(一時金)障害特別年金
(年金)障害特別一時金
(一時金)第1級 給付基礎日額の313日分 342万円 算定基礎日額の313日分 - 第2級 277日分 320万円 277日分 - 第3級 245日分 300万円 245日分 - 第4級 213日分 264万円 213日分 - 第5級 184日分 225万円 184日分 - 第6級 156日分 192万円 156日分 - 第7級 131日分 159万円 131日分 - 第8級 503日分 65万円 - 算定基礎日額の503日分 第9級 391日分 50万円 - 391日分 第10級 302日分 39万円 - 302日分 第11級 223日分 29万円 - 223日分 第12級 156日分 20万円 - 156日分 第13級 101日分 14万円 - 101日分 第14級 56日分 8万円 - 56日分
※「給付基礎日額」とは、労働基準法上の平均賃金に相当する金額を指します。
※「算定基礎日額」とは、労働災害発生時または診断によって負傷・疾病が確定した日以前1年間に支払われた特別給与(3か月を超える期間ごとに支払われる賃金。ボーナスなど)を365で割った金額を指します。
指の切断や損傷のケースで認定される障害等級は、後遺障害の内容によって、以下のように分類されます。障害等級 後遺障害の内容 第3級 両手の指全部の喪失 第4級 両手の指全部の用廃 第6級 片手の指全部、または親指を含む指4本の喪失 第7級 片手の親指を含む指3本、または親指を除く指4本の喪失
片手の指全部、または親指を含む指4本の用廃第8級 片手の親指を含む指2本、または親指を除く指3本の喪失
片手の親指を含む指3本、または親指を除く指4本の用廃第9級 片手の親指、または親指を除く指2本の喪失
片手の親指を含む指2本、または親指を除く指3本の用廃第10級 片手の親指、または親指を除く指2本の用廃 第11級 片手の人差し指、中指またはくすり指の喪失 第12級 片手の小指の喪失
片手の人差し指、中指またはくすり指の用廃第13級 片手の小指の用廃
片手の親指の指骨の一部喪失第14級 片手の親指以外の指の指骨の一部喪失
片手の親指以外の指の遠位指節間関節の屈伸不能 -
(2)その他の給付内容について
労働災害により指を切断した労働者は、障害(補償)給付のほかにも、以下の給付を労災保険に請求することができます。
①療養補償給付
病院の治療費・入院費・手術費・薬剤費などに対する補償です。
②休業補償給付
労災事故に起因する負傷・疾病によって休業を強いられた場合における、休業期間の賃金等に対する補償です。
③傷病補償年金
傷病等級第3級以上の傷病が、療養開始後1年6か月を経過しても治らない場合に給付される、年金および一時金です。指の切断の場合、「両手の指全部の喪失」のときのみ、傷病補償年金が支給されることになります。
4、労災保険給付と同時に会社にも損害賠償を請求可能|請求方法について
労働災害により指を切断した場合には、労災保険給付と同時に、会社に対する損害賠償請求が認められることもあります。
労災保険給付は必ずしも損害の全額をカバーしないのに対して、会社に対する損害賠償が認められれば、基本的には労働災害に起因する損害の全額が賠償の対象となります。
損害賠償が認められるためには、労働災害の発生に関して会社の故意または過失が認定される必要があります(会社に故意があるケースはおよそ想定しがたいため、基本的には会社の過失を問うていくことになります)。すなわち、会社について「使用者責任」か「労働契約上の安全配慮義務違反」のいずれかが認められることが必要です。
会社に対して実際に損害賠償を請求する方法には、大きく分けて交渉・労働審判・訴訟の3つがあります。
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(1)交渉により会社に対して任意の支払いを求める
まず、「労働災害により指切断が発生した」という事実を会社に対して申告して、損害賠償についての交渉を行います。たとえば、工作用機械での切断の場合、その原因が会社による安全装置設置の不備であるようなときには、会社の責任は明らかであるといえます。
このとき、会社が任意に賠償金を支払ってくれた場合には、審判や訴訟の必要もなくなり、迅速な問題解決が実現します。 -
(2)労働審判を申し立てる
会社が任意の賠償金支払いに応じてくれない場合には、法律的な手続きを進める必要があります。
法的手続きのなかでも、迅速な問題解決を期待できる手段が「労働審判」です。
労働審判は、原則として最大3回の審判期日を経て完結します。
そのため、訴訟よりも速やかに解決案を得ることが可能です。 -
(3)訴訟を提起する
会社と労働者の間の対立が根深い場合には、訴訟をして徹底的に争うことが必要となる場合もあるでしょう。
訴訟を行う場合には、法廷にて主張を立証する活動を行い、「労働者側の主張が正当である」ことを裁判官に説得する必要があります。
訴訟は、当事者間の対立が根深いほど、長期化する傾向にあります。
請求する損害賠償が高額であったり、事故の事実関係についての言い分が食い違っていたりする場合には、何年にも渡って訴訟が続くことも想定する必要があるでしょう。
5、会社に対して損害賠償を請求するときは弁護士に相談を
労働災害に起因する指切断の事故について、会社に対して損害賠償を請求する場合には、弁護士に相談することをおすすめいたします。
会社と労働者の間には、経済力やマンパワー・証拠の有無などの面で大きな力の差があります。しかし、弁護士に依頼することによって、主張の法的構成を工夫したり、証拠収集においてハンディキャップを埋めるべく活動していくことができ、労働者側の主張の法的な裏付けとなるような証拠を得ることができる可能性も高まります。そのため、法廷において会社と対等な立場で主張していくことが期待できるのです。
また、そもそも労働審判や訴訟などの法的手続きは専門的かつ複雑ですので、現実的には、専門家である弁護士に任せないと手続きが成り立たない可能性が高いといえます。
労災時の会社に対する損害賠償請求でお悩みの方は、ぜひベリーベスト法律事務所にまでご相談ください。
6、まとめ
労働災害によって指が切断されてしまった場合、障害(補償)給付をはじめとする各種労災保険給付を受けることが可能です。
そして、会社に責任を問うことができるケースであれば、会社への損害賠償請求も並行して行うことで、トータルで得られる賠償金を増やすことが期待できます。
会社に対する損害賠償請求を行う際には、労働紛争に関する豊富な経験を有するベリーベスト法律事務所の弁護士にまでご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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