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労働災害(労災)コラム

労災(ろうさい)とは? 具体的な事例とともに弁護士が解説します

更新:2024年03月06日
公開:2021年09月13日
  • 労災
労災(ろうさい)とは? 具体的な事例とともに弁護士が解説します

仕事中や通勤中に病気やケガをすることを「労働災害」や「労災」と呼び、労災保険からさまざまな補償を受けられます。労災保険から補償を受けることは、労働者の権利ですので、労災に該当するような病気やケガになったときには、きちんと請求をするべきです。

ただ、請求をすることでどのような補償を受けられるのか、また保険給付を受けるまでの流れなどがよくわからない方がほとんどでしょう。

今回は、労災についての具体的な事例や労災に認定されない事例を挙げつつ、労災とは何か、具体的な補償内容や保険給付の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。

1、労災(ろうさい)とは?

労災(ろうさい)という言葉を聞きなれない方もいると思いますので、まずは、労災についての基礎知識をわかりやすく説明します。

  1. (1)労災(ろうさい)とは何か

    労災(ろうさい)は、労働災害の略称です。仕事をしたことによって生じた病気やケガ、通勤中に発生した病気やケガのことなどをいいます。
    労災の認定を受けることによって、労災保険から様々な補償を受けることができます。

    「労災」と聞くと、仕事中にケガをした場面など(業務災害)を想像しますが、通勤中の事故(通勤災害)であっても、労災保険から補償を受けることができます

    なお、労災保険は、労働者を雇っている会社側(使用者側)が加入義務を負っている保険のことで、ご自身で加入する保険ではありません。

  2. (2)労災の認定は誰が行うのか

    仕事中や通勤中の病気やケガであれば、どのような場合であっても補償を受けられるというわけではなく、その病気やケガが労災であることの認定を受ける必要があります。

    労災にあたるかどうかについては、労働者からの申請によって労働基準監督署長が判断することになります。

    事業主から「労災にあたらない」と言われて労災の申請を諦めてしまう労働者もいるようですが、労災の認定は、事業主ではなく、あくまで労働基準監督署長が行うものです。
    事業主の言い分がおかしいと思ったときには、直接、労働基準監督署に相談をするとよいでしょう

2、どのような場合に労災と認められるの?

おおまかにいうと、① 仕事中に起きた災害であり(業務遂行性)、かつ、② この仕事をしていなければこの災害は起きなかったというような関係(業務起因性)にあれば、労災の認定を受けることができる可能性が高いです。
具体的に労災が認められたケースとしては、以下のようなものがあります。

  1. (1)熱中症により死亡した事例

    被災者は、物流倉庫内の作業場で、輸送用トラックからコンベアに荷物を下ろす作業を行っていました。午前中の作業を終え休憩後、休憩室から出ようとしたところで被災者は歩行不能となり、救急搬送されましたが、熱中症による多臓器不全により死亡しました。熱中症予防のための職場環境の整備が不十分であったこと等が原因であったとされています。

  2. (2)プレス機で手首を切断した事例

    被災者は、プレス機内部に手を差し込んだ状態で起動ペダルを踏んだため、作動したプレスで右手首を切断してしまいました。プレス機を扱う経験に乏しく、安全な作業手順を習熟していなかったことが原因であったとされています。

  3. (3)フォークリフトで走行中、同僚に接触し負傷させた事例

    フォークリフトでパレットの移動作業をしていた作業者が、前方が見えなくなるほどパレットを高く積み、前進走行していたため、歩行中の被災者に気づかず後方から接触してしまいました。その結果、被災者の両足首がパレットにあたり負傷してしまいました。
    フォークリフトに荷物を積みすぎたことが事故の原因であったとされています。

  4. (4)店内の調理場で足を滑らせ転倒した事例

    被災者が、店内の調理場にて、冷蔵庫に食材を取りに行ったところ、ぬれた床で足を滑らせ、転倒し、負傷してしまいました。調理場の床がぬれたままの状態で放置され、滑りやすくなっていたことが原因とされています。

3、労災と認められないケースとは?

仕事中の病気やケガであったとしても、労災の認定を受けることができないケースもあります。労災認定を受けることができないケースとしては、たとえば以下のようなものがあります。

  • 業務中にいたずらをしていて、その行為が原因となってケガをした場合
  • 労働者が故意にケガをした場合
  • 労働者が個人的な恨みなどによって、業務中に第三者と喧嘩をしてケガをした場合
  • 休憩時間中にしていたキャッチボールでケガをした場合
  • 仕事中に、業務とは関係ない私的行為をしていて、それが原因でケガをしてしまった場合
  • 仕事帰りに、同僚と居酒屋に寄って飲酒後、階段から転落してケガをした場合

4、労災で補償されるものとは?

労災の認定を受けることによって、以下のような補償を受けることができます。

  1. (1)療養(補償)給付

    療養(補償)給付とは、労働者が労災によって病気やケガをしたときに、病院等において原則無料で必要な治療が受けられるというものです。給付の内容としては、診察、薬剤、看護料、入院費等、病気やケガの治療のために必要なものはすべて含まれます。

  2. (2)休業(補償)給付

    休業(補償)給付とは、労災によって労働することができず、賃金を受けられない場合に、その期間の収入を補償する制度のことをいいます。休業(補償)給付と特別支給金によって、休業期間中は、80%の収入が補償されることになり、賃金を受けない日の第4日目から支給されることとなります。

  3. (3)障害(補償)給付

    障害(補償)給付とは、労災によって障害が残ってしまったときに受けられる補償のことをいいます。障害(補償)給付は、労災による障害の程度や内容に応じて、第1級から第14級までの等級認定を受けることによって、等級に応じた補償が受けられることになります。

  4. (4)遺族(補償)給付

    遺族(補償)給付とは、労災によって労働者が亡くなったときに、その遺族に対して支払われる補償のことをいいます。また、葬祭を行った遺族に対しては、葬祭料が支給されます。

  5. (5)傷病(補償)年金

    傷病(補償)年金とは、労災によって病気やケガを負い、治療開始後1年6か月を経過しても完治せず、かつ、そのケガや病気が一定程度である場合に支払われる補償のことをいいます。療養開始後1年6か月を経過した時点で、休業(補償)給付を受けており、傷病等級第1級から3級に該当するときは、休業(補償)給付から傷病(補償)年金に支給が切り替わります。

  6. (6)介護(補償)給付

    介護(補償)給付とは、労災によって一定の障害が残り、介護を受けることになったときに支払われる補償のことをいいます。介護(補償)給付は、障害の状態として、常時介護または随時介護の状態にあることが要件とされています。

5、労災保険の給付を受けるまでの流れ

労災保険の給付を受けるまでのおおまかな流れは以下のとおりです。

  1. (1)会社に労働災害が発生したことを報告

    労災の認定は労働基準監督署長が行うことになりますが、災害の原因、発生状況等一定の事項については、会社の証明を受ける必要があります。
    そのため、労災が発生したときには、会社に対して報告します。必要書面に災害等についての会社の証明をもらいましょう。なお、会社が証明を拒むときでも、請求は可能である場合もあるので、労働基準監督署の窓口に相談してみてください。

  2. (2)労働基準監督署に必要書類を提出

    労災保険給付を受けるためには、労働基準監督署に必要書類を提出しなければなりません。
    給付内容によって書類が異なりますので、注意しましょう。必要書類等については、厚生労働省のホームページの中にあるパンフレットや労働基準監督署への確認をしつつ進めることをおすすめします。

  3. (3)労働基準監督署の調査

    労災(補償)給付を受けるためには、労働基準監督署の調査を受けて、労働基準監督署長から労災認定を受けなければなりません。労働基準監督署では、被災した従業員や会社への聞き取り調査、治療した医療機関に対する医療照会などを行います。

  4. (4)保険金の給付

    提出された書類や調査の結果、労働基準監督署長によって労災である旨の認定を受けることができれば、保険金が給付されます。

6、労災の問題について弁護士ができること

労災に遭ったときには、労災保険から補償を受けるだけでは十分とはいえません。十分な補償を受けるためには、弁護士に相談することをおすすめします

  1. (1)会社との交渉による解決

    労災保険からの補償は、労働者が被ったすべての損害をカバーするものではありません。
    労災保険からの補償で不足する部分については、会社に対して損害賠償請求をすることが可能な場合もあります
    労災に遭って肉体的にも精神的にも疲弊している状態では、会社と損害賠償をめぐる交渉を行うことは困難かと思いますので、弁護士に交渉を一任することをおすすめします。

    また、労災によって会社を長期間休業している場合には、会社から「働けないなら辞めてほしい」と言われることがあります。しかし、労働基準法では、労働者が業務上負傷した場合等において、その療養のため休業している期間は、会社は労働者を解雇してはならない旨が定められています(労働基準法第19条)。
    上記のような休業期間内に、会社から退職を求められたときには、弁護士が会社と交渉をすることによって、労働者としての権利を守ることができます。

  2. (2)裁判手続による解決

    損害賠償について、会社が話合いに応じない場合や、話合いがまとまらない場合には、裁判手続によって解決を図ることも考えられます。

    裁判手続になると、労災の発生について会社に落ち度があったことを労働者の側で証明しなければなりません。しかし、労働者自身でその立証をすることは困難なことが多いため、専門家である弁護士のサポートが必要不可欠となります。

    会社に適切な賠償をしてもらうためにも弁護士に相談をしながら進めていくのがよいでしょう。

7、まとめ

仕事中の病気やケガについては、労災保険から一定の補償を受けることができます。労災に遭った労働者の方は、まずは労災の認定を受け、労災保険からの補償を受け取るようにしましょう。

そして、労災の発生について会社の落ち度があるときには、会社に対して損害賠償請求をすることも可能な場合もあります。会社に対する損害賠償請求については、労働者個人で行うことは非常に難しいため、弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、労災に関する経験豊富な弁護士が労災に遭った方からのご相談をお受けしています。どうぞお気軽にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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