労働災害によって生じた傷害や疾病が完全に治癒せず、一定の症状が残ってしまうケースもあります。
このような場合に、適切な賠償を受け取るためにはどのように対応すべきか分からないという方も多いでしょう。
この記事では、労災認定後に医師から症状固定の診断を受けた場合の対処法を中心に、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、「症状固定」とは?
まずは、労災保険給付に関する基本事項と併せて、症状固定とは何かについて解説します。
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(1)労災認定されると、各種労災保険給付を請求できる
「労働災害」とは、簡単に言えば、仕事中や通勤中に発生した怪我や病気のことをいいます。
労働災害によって労働者に生じた損害は、本来雇用主である会社が補償すべき性質のものです。しかし、会社に資金がなく、労働者が十分な補償を受けられない事態が生じてはいけません。
そのため、雇用主である会社には、労働災害補償保険(労災保険)への加入が義務付けられています。
労災保険制度では、雇用主の無資力の危険をも克服するために政府が管掌する社会保険制度の形を取り、労働者を雇用する全雇用主から保険料を徴収して、労働災害の被害者に政府が直接保険給付を行う方法をとっています。
労働災害の被害者となった労働者は、労働基準監督署に対して申請をして、労働基準監督署長からの労災認定を受けることにより、各種の労災保険給付を受け取ることが可能となります。 -
(2)症状固定=治療してもこれ以上症状が良くならない状態
労災保険給付は、客観的に治療を継続すべき期間と、これ以上症状が見込めないため治療を完了させた後の期間で、受け取れる給付の種類が変わります。もちろん、治療によって完治すれば、その後は保険給付を受けることはできなくなります。
治療を継続すべき期間か否かの判断のうえで重要となる概念が「症状固定」です。
そして、「症状固定」とは、ケガや疾病の治療をこれ以上続けても、症状が良くならない状態をいいます。
2、労災被害者が症状固定の診断後にすべきことは?
労災被害者が医師から症状固定の診断を受けた場合、新たに「障害(補償)給付」の請求に向けた準備を進める必要があります。
障害(補償)給付とは、労働災害によって生じた負傷やケガが治りきらずに障害が残った場合に、その障害の程度に応じて支給される労災保険給付をいいます。
労災保険給付を受けるために必要な準備・手続きは以下のとおりです。
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(1)障害等級認定のための証拠を集める
障害(補償)給付の金額は、何級の障害等級が認定されるかによって大きく異なります。
そのため、障害の程度に応じた適切な障害等級の認定を受けるために、できるだけ充実した証拠を収集することが大切です。
障害等級認定の典型的な証拠は医師による診断書ですが、それ以外にも画像所見(MRI、レントゲン、コンピューター断層撮影(CT)など)や、自宅での生活の様子などを記した陳述書など、さまざまな証拠が利用可能です。 -
(2)障害(補償)給付を申請する
障害補償給付の申請は、労働基準監督署に対して行います。労働基準監督署は、給付申請を受理した場合、提出された証拠資料から障害等級を認定し、等級に基づいて障害(補償)給付を被災労働者に支給します。
3、障害等級が障害(補償)給付の金額を大きく左右する
障害(補償)給付については、どのような症状について何級の障害等級を認定するか、及び各障害等級に対してどのくらいの金額を支給するかに関して、明確にルールが決まっています。
また、障害等級は、最も重い第1級から、軽い第14級までの14段階に分かれています。
実際に認定される障害等級によって、支給される障害(補償)給付の金額に大きく差が出るので、請求の前にきちんと事前準備を行いましょう。
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(1)障害等級表と等級ごとの障害(補償)給付金額一覧
具体的にどのような後遺障害が各等級に該当するかについては、厚生労働省のホームページに掲載されている「障害等級表」を参照してください。
(参考:「障害等級表」(厚生労働省))
労災被害者には、認定された等級に応じて、以下の3種類の給付が支給されます。- 障害(補償)給付
- 障害特別支給金
- 障害特別年金または障害特別一時金
障害等級と給付金額の対応表は、以下のとおりです。
障害等級 障害(補償)給付※1 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 第1級 給付基礎日額
※2の313日分342万円 算定基礎日額
※3の313日分- 第2級 同277日分 320万円 同277日分 - 第3級 同245日分 300万円 同245日分 - 第4級 同213日分 264万円 同213日分 - 第5級 同184日分 225万円 同184日分 - 第6級 同156日分 192万円 同156日分 - 第7級 同131日分 159万円 同131日分 - 第8級 同503日分 65万円 - 算定基礎日額
※3の503日分第9級 同391日分 50万円 - 同391日分 第10級 同302日分 39万円 - 同302日分 第11級 同223日分 29万円 - 同223日分 第12級 同156日分 20万円 - 同156日分 第13級 同101日分 14万円 - 同101日分 第14級 同56日分 8万円 - 同56日分
- ※1:第1級から第7級までは年金、第8級から第14級までは一時金
- ※2:原則として労働基準法上の当該労働者の平均賃金に相当する額
- ※3:労災発生前1年間における、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金の総額
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(2)認定された等級に不服がある場合は審査請求
障害等級の認定など、労働基準監督署長が行う労災保険給付に関する決定に不服がある場合、決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内であれば、審査請求を行うことができます。
労災保険給付の審査請求は、「労働者災害補償保険審査官」に対して行います。
労働者災害補償保険審査官は、処分庁である労働基準監督署とは別の立場から、独立して労災保険給付の妥当性を審査します。
なお、審査請求の内容に再度不服がある場合には、労働保険審査会に対する再審査請求を行うことも可能です。 -
(3)再発時には再度労災認定を受けることが可能
障害給付申請は、症状がこれ以上変化しない「症状固定」の段階に至ったことを前提として認められます。
つまり、ケガや疾病の再発などにより、症状が悪化した場合には、改めて症状固定前の段階に応じた、各種の労災保険給付を受けることが可能です。
再発に関する労災給付の申請は、労働基準監督署に対して規定の書式による給付請求書を提出して行います。
4、労災保険給付申請と併せて会社にも損害賠償請求を
労働災害により負傷した場合や、疾病にかかった場合には、労災保険給付と併せて、会社に対する損害賠償請求を検討してみるべきです。
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(1)労災保険給付だけでは実損害の全額が補塡(ほてん)されない
会社に対する損害賠償請求と労災保険給付の請求が同時に行われた場合、労災保険給付により支払われた損害額については、会社に対して支払いを求めることはできません。
しかし、労災保険給付は定額払いのため、被災労働者に生じた損害を必ずしもすべて補填するものではありません。また、精神的損害に対する慰謝料などは、労災保険給付の対象外です。
労災保険給付の金額が実損害に対して不足する場合、会社に対する損害賠償請求を併せて行うことにより、不足分の補填も受けられるようになります。 -
(2)会社に対する損害賠償請求の法律構成は?
労働災害について、会社に損害賠償請求をする際の法律構成は、以下の2通りです。
被災労働者は、どちらか一方の法律構成を選択して請求することも、両方の法律構成による請求を同時に行うこともできます(ただし、二重取りは認められません。)。
① 使用者責任
同僚のミスによって労働災害に巻き込まれた場合などは、使用者である会社も使用者としての責任を負うこととなるため、被災労働者に対する損害賠償責任を負います。
これを「使用者責任」といいます(民法第715条第1項)。
② 安全配慮義務違反
使用者である会社は、労働者が生命・身体などの安全を確保しつつ労働できるよう、必要な安全配慮をする義務を負っています(労働契約法第5条)。
労働災害が発生した場合に会社が被災労働者に対する安全配慮義務を尽くしていなかった場合(会社の安全配慮義務違反が認められる場合)には、会社が損害賠償責任を負います。 -
(3)弁護士に依頼して請求を行うのがおすすめ
労災保険給付の申請と併せて、会社に対する損害賠償請求も行う場合は、弁護士に相談することをおすすめいたします。
交渉や訴訟などで適切な損害賠償を得るためには、会社の不法行為または債務不履行の事実や、実際に発生した損害の内容などを、証拠を用いて説得的に立証しなければなりません。
弁護士は、会社の損害賠償義務を立証するために、利用可能なあらゆる証拠を収集・検討したうえで、依頼者である被災労働者にとって有利な結果が得られるように尽力します。
労働災害に関して会社に損害賠償請求をする際には、ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
5、まとめ
労働災害による負傷・疾病について症状固定の診断がなされた場合、障害(補償)給付の受給申請の準備を進める必要があります。
また、労災保険給付だけでは損害の全部が補填されないケースも多いため、弁護士に相談して、会社に対する損害賠償請求の準備も並行して行うことも検討しましょう。
ベリーベスト法律事務所では、被災労働者の権利を守るため、労災問題に関する専門チームが会社に対する請求を全面的にバックアップいたします。
労働災害による負傷・疾病にお悩みの方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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