仕事で不特定多数と接する労働者の方は、新型コロナウイルスへの感染リスクが高いといえます。
新型コロナウイルス感染症に業務上感染したことが認められる場合、労災保険給付の対象になります。もし仕事が直接の原因で新型コロナウイルスに感染してしまった場合、労働基準監督署などに相談しながら、適切な補償を受けるための請求を行いましょう。
今回は、仕事が原因で新型コロナウイルス感染症にかかった場合の労災保険給付について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、コロナの労災認定基準は職種や感染経路によって変わる
医療従事者(医療者)を中心として、新型コロナウイルスへの感染に関する労災事例が急増しています。
このような状況に鑑み、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の労災補償に関して、各部局への通達を発しました。
参考:「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取り扱いについて」(厚生労働省)
同通達では、新型コロナウイルス感染症に関する労災認定の基準が、感染者の職種や感染経路に応じて、以下のとおり示されています。
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(1)医療従事者等の労災認定基準
医療従事者等(病院などで患者の診療・看護・介護などの業務に当たる医療従事者等)は、業務上の原因により新型コロナウイルスに感染する可能性が類型的に高いといえます。
そのため、医療従事者等が新型コロナウイルスに感染したケースでは、業務外で感染したことが明らかな場合を除いて、原則、労災保険給付の対象であると取り扱われます。したがって、医療従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合、労災認定される可能性は高いといえるでしょう。 -
(2)医療従事者等以外で感染経路が特定されている場合の労災認定基準
医療従事者等以外が新型コロナウイルスに感染した場合、感染経路が特定できるかどうかが重要なポイントです。
医療従事者等以外の方であっても、感染経路が判明し、感染が業務に起因するものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
たとえば飲食店店員の方が、接客対応した客から新型コロナウイルスに感染したことが確認された場合や、同時期に複数の同僚の感染が認められた場合など、感染源が業務に内在していたということが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象になるとされています。 -
(3)医療従事者等以外で感染経路が特定されていない場合の労災認定基準
これに対して、医療従事者等以外の方の感染経路が特定できない場合、労災保険給付の対象になるかどうかは、ケース・バイ・ケースの判断となります。
その際、業務中の感染可能性がどの程度あったかに加えて、感染者の潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況の調査を行ったうえで、業務外での感染可能性の程度についても考慮されます。
特に、以下のような労働環境下で業務に従事していた労働者が感染した場合、業務により感染した可能性が比較的高く、労災保険給付の対象になりやすいものと考えられます。- 複数のコロナ感染者が確認された労働環境下における業務
- 顧客などとの近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
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(4)国外感染の場合の労災認定基準
国外感染のケースのうち、国外に常駐している労働者(海外派遣特別加入者)の感染については、上記の国内労働者に関する基準に準じて、労働災害該当性が判断されます。
これに対して、一時的に海外へ出張していた労働者(海外出張労働者)が新型コロナウイルスに感染した場合、出張先国の感染状況が重要な考慮要素となります。
つまり、出張先国で多数の新型コロナウイルス感染者が出ており、滞在によって明らかに高い感染リスクに晒されたものと客観的に認められる場合は、労災保険給付の対象になる可能性があるといえるでしょう。
2、コロナで労災認定される具体的なケースは?
すでに解説したように、業務上の原因によるコロナ感染について、労災保険給付が認められるかどうかはケース・バイ・ケースの判断となります。
厚生労働省は、新型コロナウイルス感染に関する労災認定事例をいくつか公表しています。
(参考:「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」(厚生労働省))
同資料を基にして、どのようなケースで新型コロナウイルス感染が労災認定されやすいのかをみていきましょう。
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(1)職場が労災保険に加入していることが必須
まず前提として、労働災害の認定には、職場に労働者として雇用されており、かつ職場が労災保険に加入していることが必須となります。
たとえば業務委託で仕事を受注している場合や、職場の労務管理が杜撰(ずさん)で労災保険に加入していない場合などには、労災保険給付の対象にならないので注意が必要です。
特に、接待を伴う飲食業を営む店舗(キャバクラ、スナック、ホストクラブなど)では、労災保険への加入義務を怠っている例がしばしば見受けられるので、特に確認すべきでしょう。 -
(2)コロナで労災認定された事例を紹介
厚生労働省の資料で紹介されている、コロナ感染で労災認定がされた事例をいくつか紹介します。
① 医師の事例
医師Aが診察した患者が新型コロナウイルスに感染していたケースで、後日医師Aにも発熱などの症状が出現し、PCR検査を行ったところコロナ陽性と判定されました。
このケースでは、医療従事者等に対応する基準が用いられました。
そのうえで「業務外で感染したことが明らかではなかった」という判断が行われ、労災保険給付が認められました。
② 建設作業員の事例
建設作業員Bが、勤務中に同僚と作業車に同乗していたところ、同僚が後日新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。その後建設作業員Bも体調不良を訴え、PCR検査を行ったところコロナ陽性と判定されました。感染経路を調査した結果、建設作業員Bが同僚以外の感染者と接触した履歴は確認されませんでした。
このケースでは、医療従事者等以外に対応する基準が用いられました。
そのうえで、感染経路が特定でき、かつ「感染源が業務に内在していたことが明らかである」と判断されたため、労災保険給付が認められました。
③ タクシー乗務員の事例
タクシー乗務員Cが、PCR検査によりコロナ陽性と判定されました。感染経路は特定されなかったものの、Cは日々数十人の乗客を輸送するという、感染リスクが相対的に高い業務に従事していました。その一方で、発症前の私生活での外出において感染した可能性は低いものと認められました。さらに、医学専門家の意見も聴取したところ、密閉された空間での飛沫感染など、業務による感染の蓋然性が高いとの意見が示されました。
このケースでは、医療従事者等以外に対応する基準が用いられました。
そのうえで、感染経路は特定されなかったものの、業務上の感染リスクと日常生活における感染リスクを比較し、医学専門家の意見も踏まえて検討した結果、業務上の感染の可能性が高いとして、労災保険給付が認められました。
3、コロナで労災認定された場合に受けられる補償は?
コロナ感染によって労災が認められた場合、労災被害者が受け取れる主な労災保険給付は、以下のとおりです。
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(1)療養補償給付
療養補償給付は、治療費などの実費を補填する性質を有する給付です。
治療費・入院料・移送費などが含まれ、症状固定まで支給されます。 -
(2)休業補償給付
休業補償給付は、労災による負傷・疾病の治療のため就労できず、受け取れなくなった賃金を補填する性質を有する給付です。
休業第4日目以降、平均賃金(給付基礎日額)の6割に相当する休業補償給付と、2割に相当する休業特別支援金が支給されます。 -
(3)その他
新型コロナウイルス罹患を内容とする労災のケースではあまり例が多くありませんが、具体的な状況によっては、以下の給付を受けられる場合があります。
- 傷病補償年金
重篤な傷病が1年6か月以上続いている場合に支給されます。 - 障害補償給付
労災によって生じた負傷・疾病の治療終了後、完治せず、障害が残ってしまった場合に支給されます。 - 遺族補償給付
労災によって労働者が死亡した場合、その遺族に対して支給されます。 - 介護補償給付
労災被害者が要介護の状態になった場合に支給されます。
- 傷病補償年金
4、まとめ
業務上の原因により新型コロナウイルスに感染した場合、労災認定されるケースは決して少なくありません。
労災保険給付についてわからないことがある場合は、労働基準監督署に相談しながら、適切な保険給付の請求を行いましょう。
労災保険給付の申請と併せて、勤務先の会社に対する損害賠償を求めることを検討している場合には、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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