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労働災害(労災)コラム

フードデリバリー( Uber Eats・出前館)でも労災保険は使える?

更新:2024年04月17日
公開:2021年11月01日
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フードデリバリー( Uber Eats・出前館)でも労災保険は使える?

新型コロナウイルス感染症の影響もあって、Uber Eats(ウーバーイーツ)や出前館など、フードデリバリーサービスの事業者から業務委託を受けて働く方が増えてきました。

フードデリバリー(宅配デリバリー)の配達員は、業務中に交通事故(自転車事故)に遭遇するリスクを負っています。配達員が交通事故に巻き込まれてしまった場合、労災保険による補償は受けられるのでしょうか。

本コラムでは、フードデリバリーの配達中に交通事故に遭ってしまった場合、労災の適用を受けられるのかどうかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、フードデリバリー業務中の事故は労災の対象になる?

フードデリバリーの配達員が、業務中に交通事故に巻き込まれた場合、労災の対象になるかどうかは、会社と締結している契約の内容によって異なります

  1. (1)業務を受けたときにサインした契約書がカギを握る!

    採用されたとき、何らかの書類にサインした記憶がある方も多いはずです。その書類は契約書である可能性が高いため、まずはその書類の写しが手元にないか、よく探してください。

    フードデリバリーの配達員は、会社との間で、基本的に以下のいずれかの契約を締結しているためです。

    • ① 雇用契約
      会社の指揮命令下で、労働者として労務を提供する契約です。就業規則など、会社が定める社内規則全般の適用を受けます。
    • ② 業務委託契約
      会社の指揮命令を受けず、独立した個人事業主として、会社から業務を受託する契約です。


    配達員が労災の適用対象となるかどうかを調べるには、まず会社の契約が上記のどちらに該当するかを確認する必要があります。業務を始める前に会社でサインを求められた書類を見つけたら、少なくとも働いている間は保管しておくことをおすすめします。

    なお、裁判などになる場合は、契約名称だけではなく、従事する業務の実態も勘案して、雇用か業務委託かが実質的に判断されることになるでしょう。

  2. (2)業務委託の場合、原則として労災の対象にならない

    労災保険は、労働者に発生した業務上または通勤中の事故による負傷・疾病等について補償する保険です。

    労災保険による補償の対象となるのは、原則として「労働者」、つまり会社と雇用契約を締結している人に限られます。特定のピザショップや宅配専門すし店などの配達員などはアルバイトなどとして採用されていることが多いため、労災保険を適用できる可能性があります。

    他方、最近増えてきたUber Eatsや出前館をはじめとしたフードデリバリーの配達員の多くは、会社から業務委託を受ける個人事業主という整理になっているので、労災保険による補償を受けられないケースが多いと考えられます。
    (※出前館の配達員の場合、時給で働くアルバイト雇用も設けられているようです)

2、労災保険の特別加入制度とは?

ただし、会社から業務を受託する個人事業主であっても、一定の要件を満たす場合、労働者に準じた働き方をしているものとして、労災保険への「特別加入」が認められます。

フードデリバリーの配達員も、令和3年9月1日から特別加入が認められるようになりましたので、加入要件や手続きなどの情報を確認しておきましょう。

  1. (1)特別加入の要件|フードデリバリーも令和3年9月1日から適用

    労働者災害補償保険法第33条では、特別加入の対象者の要件を定めています。加入要件の大部分は省令に委任されており、同法施行規則第46条の16以下でその詳細が定められています。

    Uber Eatsや出前館などのフードデリバリー業者は、基本的に労働者を使用せず、業務委託によって配達員を確保していると考えられます。そのため、同法施行規則第46条の17または第46条の18において特に対象事業として挙げられていない限り、労災保険への特別加入は認められません。

    以前から、フードデリバリーについては上記規定の対象事業に挙げられておらず、配達員が労災保険に特別加入することはできませんでした。

    しかし、フードデリバリーの配達員が増えるに連れて、業務中の交通事故などが社会問題化しました。そこで、労働政策審議会の部会が検討を行った結果、令和3年6月18日の部会において、フードデリバリーの配達員を労災保険の特別加入の対象とすることが了承されました。

    そして、同年9月1日に同法施行規則が改正され、フードデリバリーの配達員の労災保険への特別加入が認められるようになりました。

  2. (2)特別加入の保険料は自己負担

    ただし、フードデリバリーの配達員が労災保険に特別加入する場合、保険料はすべて自己負担となります。会社と雇用契約を締結している労働者の場合、労災保険料は全額会社負担ですが、特別加入の場合は、全額個人事業主の負担になるのです。

    保険料額は、以下の計算式によって求められます。

    年間保険料 = 保険料算定基礎額 × 保険料率
    ※保険料算定基礎額 = 給付基礎日額(1日当たりの賃金)× 365
    ※フードデリバリーなどの宅配代行業の場合、保険料率は1.2%
  3. (3)特別加入の手続き

    フードデリバリーの配達員が労災保険に特別加入する場合、「特別加入申請書(一人親方等)」を所轄の労働基準監督署長に提出します。

    特別加入申請書の様式は、以下の厚生労働省ホームページからダウンロードできます。
    記載例も併せて掲載されているので、ご参照ください。

    (参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省)

3、労災保険加入者が受給できる給付の種類・申請手続き

労災保険の加入者は、業務中または通勤中に発生した負傷・疾病等の内容に応じて、さまざまな給付を受けることができます。

  1. (1)労災保険給付の種類

    労災保険給付の種類は、以下のとおりです。

    ① 療養(補償)給付
    治療費・入院費など、負傷や疾病の治療に要した実費が補償されます。

    ② 休業(補償)給付
    負傷や疾病の治療等により仕事を休んだ場合に、休業4日目以降、平均賃金の80%が補償されます。

    ③ 障害(補償)給付
    負傷や疾病の治療をしても後遺症が残った場合、認定される障害等級に応じて給付されます。

    ④ 遺族(補償)給付
    労災によって被保険者が死亡した場合、遺族に対する生活保障として、一定の金銭が給付されます。

    ⑤ 葬祭料・葬祭給付
    労災によって被保険者が死亡した場合、葬儀を実施するための費用として、一定の金銭が給付されます。

    ⑥ 傷病(補償)給付
    障害等級第3級以上の負傷や疾病が、1年6か月以上治らない場合に給付されます。

    ⑦ 介護(補償)給付
    被保険者が、障害等級第1級または第2級に該当する精神・神経障害または腹膜部臓器の障害を生じ、要介護の状態にある場合に、介護費用が給付されます。

  2. (2)労災保険給付を申請する手続き

    労災保険給付を申請する手続きは、大きく以下の2つに分かれます。

    ① 療養(補償)給付の場合(労災保険指定医療機関に限る)
    労災保険指定医療機関において負傷や疾病の治療を受けた場合、医療費は労災保険から医療機関へ直接支払われます。

    この場合、労災保険給付の手続きは、医療機関の窓口で済ませることができるので便利です。なお、労災保険指定医療機関以外の医療機関で治療を受けた場合には、②の手続きにより給付を申請する必要があるので注意しましょう。

    労災保険指定医療機関は、以下のページから検索できるので、参考にしてください。
    (参考:「労災保険指定医療機関検索」(厚生労働省)

    ② それ以外の給付の場合
    上記以外の労災保険給付全般については、労働基準監督署に請求書を提出して申請を行います。

    請求書の提出先は、被災労働者が所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。

    <請求書の様式・記載例>
    (参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省)

    <労働基準監督署の所在地・管轄>
    (参考:「都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧」(厚生労働省)
    (参考:「労働基準監督署の管轄地域と所在地一覧」(東京労働局)

    なお、労災保険給付の申請は、会社の協力を得なくても個人で行うことができます。業務委託でフードデリバリーを行う配達員の場合、フードデリバリー業者側の積極的なサポートは、少なくともしばらくの間、期待できないでしょうから、申請方法について不明な点がある場合は、所轄の労働基準監督署の窓口で相談してください

4、フードデリバリー中の事故について弁護士に相談すべきケース

フードデリバリーの配達員は、業務中に交通事故に巻き込まれたり運搬中の料理によりやけどを負ったりするなど、業務中の事故により被害を負ってしまう可能性があります。場合によっては、歩行者や運転者をケガさせてしまったりするケースも考え得ます。あなたが加害者になったときは、相手方に対して損害賠償責任を負うことにもなります。

このような事態に備え、たとえばUber Eatsであれば、配達パートナー向けサポートプログラムが用意されています。また、正社員やアルバイトとして雇用されている場合は労災保険に加入しているはずです。したがって、業務中に負傷した場合、まずは会社の所定の部署に連絡すべきでしょう。さらに、労災保険に加入しているにもかかわらず会社側が対応してくれないときは、労働基準監督署の窓口で相談してください。

そのうえで弁護士に相談したほうがよいケースがあります。具体的には以下のケースです。

● 正社員やアルバイトなど雇用されたうえでデリバリー業務に従事している方が、事故などで負傷したケース
① 会社側に安全配慮義務違反を問えると考えられる場合
(貸与された車両や備品にメンテナンス不備があったケースなど)
② 業務中に歩行者・車などの第三者との交通事故によりケガを負った場合

特に②に関しては、まずはいちど弁護士に相談してみるとよいでしょう。なぜなら、仮に特別加入の制度を利用するなどして労災保険が使えるとしても、労災保険から支払われる補償は発生した損害の一部分に過ぎず、慰謝料などの損害に関しては、加害者である相手方(第三者)に請求しなければ支払われることはないからです。不幸なことに重度の後遺障害が残るような交通事故となってしまった場合には、相手方に請求することでしか払われない損害が数千万円に及ぶこともありえます。

なお、業務中に起きた事故が原因で損害賠償請求など何らかの責任をあなた個人が負うことになってしまった場合、現状として、フードデリバリー事業者が、業務委託(フリーランス)をしているだけのあなたの責任を肩代わりしてくれる可能性は低いといわざるをえません(事業者によっては、配達中の賠償責任をカバーする保険を用意しているところもあるようです)。

自転車とはいえ、早く配達しようとしてスピードを出していれば凶器になります。不注意にも歩行者に衝突して、その歩行者が重度の後遺障害を負うような事態となった場合、あなたが負うことになる損害賠償責任は数千万円から場合によっては1億円を超えるものになってしまうかもしれません。自分の身を守るためにも、「個人賠償責任保険」等に加入し、また、その内容十分に確認して、万が一の場合に備えましょう。

5、まとめ

ウーバーイーツなどの発展により、フードデリバリーの配達員で会社から業務委託を受けているケースは少なくありません。その場合、労働者ではないため、原則として労災保険の対象に含まれないのです。しかし、2021年9月より、フードデリバリーの配達員も労災保険への特別加入が認められるようになりました。保険料は配達員の自己負担となりますが、配達中の交通事故などのリスクを考えると、特別加入を検討することをおすすめします。

また、社員やアルバイトとしてデリバリー業務に携わっている場合は、労災を適用できるケースが多々あります。もしフードデリバリーの配達中に交通事故に遭ってしまった場合、法的な対応を適切に行うためにも、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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