ベリーベスト法律事務所
労働災害(労災)コラム

在宅勤務での怪我は労災? 認められるケースと労災保険の利用方法

更新:2022年02月03日
公開:2022年02月03日
  • 労災
  • 在宅勤務
在宅勤務での怪我は労災? 認められるケースと労災保険の利用方法

コロナ禍の働き方のひとつとして、在宅勤務(テレワーク)を導入する企業が増えてきています。在宅勤務は、仕事と家庭の両立が可能になるなど、労働者および使用者にとってメリットがあるものといえます。

しかし、在宅勤務は、自宅で業務に従事する勤務形態です。勤務中に負傷などの災害が発生した場合に、そもそも労働者災害補償保険法の適用があるのでしょうか。在宅勤務であっても、業務の内容によっては負傷などが生じる可能性があるため、在宅勤務に従事する労働者としては気になるところです。

今回は、在宅勤務で労働者災害補償保険法が適用される場合(労災となる場合)と労災保険の利用方法についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、在宅勤務で労働災害(労災)が認められる要件とは?

在宅勤務で労働災害(労災)が認められるのは、どのような場合でしょうか。以下では、労災認定の基本的な要件について説明します。

  1. (1)労災とは?

    労災とは、会社に雇用されている労働者が、仕事中や通勤途中の出来事によって負傷、疾病、障害、死亡した場合をいいます。労災には、仕事中の負傷などの「業務災害」と、通勤途中の負傷などの「通勤災害」があります。

    労災が発生した場合には、労働基準監督署による労災認定を受けることによって、労災保険から各種補償の支払いを受けることができます。

  2. (2)労災が認められる要件

    労災が認められるためには、①業務遂行性、②業務起因性という2つの要件を満たす必要があります。そのため、たとえ在宅勤務であっても、業務遂行性および業務起因性の要件を満たす場合には、労災保険が適用されます。

    ① 業務遂行性
    業務遂行性とは、事業主と労働者の間の労働契約に基づき、労働者が事業主の指揮命令下にある状態のことをいいます。労災発生時に労働者が使用者の管理下で業務に従事していたかどうかがポイントになります。

    ② 業務起因性
    業務起因性とは、業務遂行と負傷などの間に相当因果関係があることをいいます。使用者の支配下で業務に従事している場合には、特段の事情のない限り業務起因性の要件は満たしますが、業務とは無関係に第三者から暴行を受けて怪我をした場合や労働者の私的な行為によって発生した災害については業務起因性が否定されます。

2、これは労災? 在宅勤務で起こりがちな怪我のケース

在宅勤務であっても業務遂行性および業務起因性の要件を満たす場合には、労災にあたりますが、具体的にはどのような場合にこれらの要件を満たすのでしょうか。

以下では、在宅勤務でありがちな負傷のケースを例に挙げ、労災にあたるかどうかを紹介します。

  1. (1)就業時間中にトイレに行く際に転倒して負傷したケース

    就業時間中であれば使用者の支配下にある状態といえますので、業務遂行性の要件は満たします。トイレなどの生理行為については、通常、業務に付随する行為として扱われていますので、業務起因性の要件も満たします。

    したがって、このケースでの負傷は労災にあたると考えられます

  2. (2)子どもの投げたおもちゃが当たって負傷したケース

    就業時間中であれば使用者の支配下にいる状態といえますので、基本的には業務遂行性の要件は満たします。在宅勤務であれば、家族が自宅にいるという状況も想定でき、子どもの様子を見ながら業務をすることになれば、子どもの行為によって負傷するということも在宅勤務に内在する危険であるといえます。したがって、このケースでも業務起因性は認められますので、労災にあたると考えられます
    ただし、休憩時間中に子どもと遊んでいる際に負傷をしたケース、就業時間中であっても業務を中断して家事や育児をしている際に負傷をしたケースでは、業務遂行性の要件を満たさないため、労災にはあたりません。

  3. (3)在宅勤務で腰痛が発生したケース

    在宅勤務では、自宅に仕事に適した椅子や机があるとは限らないため、無理な姿勢で作業をした結果、腰痛が発生することがあります。

    このような腰痛については、厚生労働省が「業務上腰痛の認定基準」という労災認定基準を定めていますので、在宅勤務での腰痛がこの要件を満たすかどうかがポイントになります。

    「業務上腰痛の認定基準」では、腰痛の原因を2つに区分して、それぞれ別々の要件を定めています。
    (参考元:厚生労働省「腰痛の労災認定」

    ① 災害性の原因による腰痛
    災害性の原因による腰痛は、以下のいずれの要件も満たす場合に労災と認定されます。

    • 腰の負傷、またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
    • 腰に作用した力が腰痛を発症させた、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたことが医学的に認められること


    もっとも、在宅勤務では、パソコン作業が中心となりますので、重量物の持ち上げによる災害性の原因による腰痛が発生することは、あまり考えられません。

    ② 災害性の原因によらない腰痛
    災害性の原因によらない腰痛とは、日々の業務による腰部への負荷が徐々に作用して発症した腰痛をいいます。ただし、その例として挙げられているのは、以下のものであることからすると、在宅勤務で腰痛が発生したとしても、労災と認定される可能性は低いといえます。

    • 約20kg以上の重量物、または重量の異なる物品を、繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務
    • 毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務
    • 長時間立ちあがることができず、同一の姿勢を持続して行う業務
    • 腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務


    そのため、結論としては、在宅勤務で腰痛が発生した場合、労災として認められる可能性は低いものと考えられます。

3、在宅勤務者が外で怪我をした場合は?

在宅勤務であっても出張や業務遂行のためにオフィスに行くことがあります。このような場合に生じた災害については、労災と認定されるのでしょうか。

  1. (1)出張中に負傷をした場合

    出張については、一般的には、使用者からの命令を受けて、特定の業務を果たすために通常の勤務場所を離れているに過ぎませんので、使用者の支配下にあると認められます。また、出張期間中は、食事や宿泊といった私的な行為を伴いますが、積極的な私的行為などを除いて、出張に伴う行為として業務遂行性が認められます

    そのため、出張中にホテル内の浴室で転倒し負傷した場合などであっても労災にあたると考えられます。

  2. (2)オフィスへの移動中の事故

    オフィスへの移動中の事故については、通勤災害に該当するかどうかがポイントとなります。通勤災害とは、労働者が勤務のため、

    • 住居と勤務場所との間の往復
    • 勤務場所から他の就業場所への移動
    • 住居と勤務場所との間に先行し、または後続する住居間の移動


    を、合理的な経路および方法によって行うことに起因する災害をいいます。

    通常の経路で移動している際に交通事故などにあった場合には、通勤災害として労災にあたります。また、日用品の買い物などのために途中寄り道をしたとしても、やむを得ないものと認められる場合には、通常の経路に戻ってからの災害については、労災にあたります。

    なお、労災にあたらない私的な行動が原因であっても、交通事故であれば自賠責保険や任意保険などを利用することによって、被害の回復を図ることができます。

4、労働災害の場合は「労災保険」を利用する

労働災害に被災した場合には、労災申請の手続きや治療費の支払いの場面で注意が必要です。

  1. (1)労災の治療は労災保険を利用する

    労災によって負傷または病気になった場合にご自身の健康保険を利用して病院での治療を行う方もいます。しかし、健康保険は、労災とは関係のない(私的な)負傷または病気に対して支給されるものですので、労災の場合には労災保険を利用しなければなりません。
    そのため、労災の場合に誤って健康保険を使用しないよう注意が必要です。

  2. (2)労災保険の申請方法

    労災保険を利用するためには、労働基準監督署に労災申請をして、労災認定を受ける必要があります。

    労災保険の手続きは、原則として、労災被害に遭った労働者本人またはそのご家族が行います。ただ、労災被害に遭った労働者の負担を軽減するために、会社が労災申請手続きを代行してくれることもありますので、労災被害に遭った場合には、会社に相談をしてみるとよいでしょう。

5、まとめ

在宅勤務であっても、一般的な勤務と同様に労災と認められる場合には、労災保険から補償を受けることが可能です。もっとも、労災保険からの補償は、労働者が被った損害のすべてを回復するものではありません。労災保険からは慰謝料など支払われない費目があるため、これらは会社に請求していく必要があります。

この際、会社側の責任の立証や損害額の算定にあたっては、専門的知識や経験が必要になりますので、弁護士のサポートが不可欠となります。

ベリーベスト法律事務所では、労災の被害者が適切な賠償を得られるように全力でサポートをしています。労災によって負傷などした場合には、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

同じカテゴリのコラム

労働災害(労災)コラム一覧はこちら