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労働災害(労災)コラム

労災事故で怪我をしたら治療費はどうなる? 労災保険の補償範囲

更新:2024年03月27日
公開:2022年03月14日
  • 労災
  • 治療費
労災事故で怪我をしたら治療費はどうなる? 労災保険の補償範囲

業務中に怪我を負ったり通勤中に事故に遭うといった労働災害(労災)によって怪我をした場合、その治療費(医療費)はどのように支払えばいいのでしょうか。怪我の治療と考えると健康保険が思い浮かびますが、労災の場合は健康保険を使用することはできません。労災保険を使って治療を受ける必要があります。

本記事では、労働災害でポイントとなる労災保険と健康保険の違いや切り替えの方法などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、業務中の怪我は労災保険を使用する

「怪我の治療」と聞くと、健康保険を思い浮かべる方も多いと思いますが、健康保険は、労働災害とは関係のない怪我や病気の治療に限って使えるものです。仕事中や通勤途中に起きた事故によって怪我をし、それが業務災害または通勤災害に該当する場合、労災保険を使って治療を受ける必要があります

労働災害によって負傷、病気になったにもかかわらず、健康保険を使って医療機関で治療を受けてしまった場合、受診した病院で健康保険から労災保険への切り替えができるか確認する必要があります。切り替えができれば、病院で支払った治療費が返還されますが、切り替えができないと、治療費の全額を一時的に自己負担した上で、労災保険の手続きをして請求する必要があるので注意しましょう。

なお、治療を受ける医療機関にも注意が必要です。

自分が通っている医療機関が労働災害保険指定医療機関(労災指定医療機関)であれば、「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)を労働基準監督署に提出すれば、労働者は医療機関の窓口で医療費を支払う必要がありません。医療機関から労災保険に対して、直接医療費の請求を行ってくれるからです。

他方、労災指定医療機関以外の医療機関で治療を受けた場合は、いったん医療費の全額を自分で払う必要があります。医療機関から領収書をもらったら、労災保険にその費用を請求するという手順をとりましょう。

2、健康保険を使った場合の対処法

労災事故であるにもかかわらず、医療機関でうっかり健康保険を使って支払いをしてしまった場合、どうしたらよいのかわからず困惑してしまう方がほとんどでしょう。実は、あとから労災保険に切り替えができる場合と、できない場合があります。

原則として、受診した医療機関が労災指定医療機関であり、かつ、健康保険に対してまだ医療費請求をしていない場合であれば、切り替えが可能とされています。まずは受診した病院に直接連絡をして、確認してみましょう。

  1. (1)健康保険から労災保険への切り替えができる場合

    労災保険を使う場合は、本来、患者側が窓口で医療費を支払う必要はありません。したがって、病院の窓口で払った金額(一部負担金)が、病院から患者側に全額返還されます。手続きとしては、労災保険の様式第5号または様式第16号の3の請求書を受診した病院に提出しましょう。

  2. (2)健康保険から労災保険への切り替えができない場合

    この場合、自分が加入している健康保険の保険者(全国健康保険協会等)へ、労働災害による怪我または病気で健康保険を使用したことを申し出ます。後日、健康保険の保険者から医療費の返還通知書等が送られてきます。その通知書にしたがって指定された金額を保険者に支払いましょう。いったん、医療費の全額を立て替える必要がある、というのはこのことです。

    支払いが完了したら、立て替えた医療費を返還してもらうため、労災保険の様式第7号または第16号の5を記入して労働基準監督署へ提出しましょう。このときに、保険者に支払った際の領収書と、最初に病院の窓口で支払った際の領収書も合わせて提出してください。この手続きが完了すると、労災保険から医療費を受け取ることができます。

3、労災保険の申請方法

では、実際に労災保険を申請するためにはどのような手続きが必要なのでしょうか。申請から給付までの流れをみていきましょう。

なお、ここでは怪我をした労働者が自ら手続きを行う場合の方法をお伝えしますが、会社が代わりに手続きをしてくれる場合もあります。

  1. (1)補償の種類に応じた請求書を入手する

    まず、補償の種類に応じた所定の請求書を入手します。請求書は、所轄の労働基準監督署あるいは厚生労働省のホームページから入手することが可能です。

    どの請求書が自分にとって必要なのか不明な場合や、記載方法がわからない場合には、労働基準監督署で説明を受けることもできます。労災の手続きは書類が多く、専門用語が使われていることも多いので、わからないことがあれば早めに労働基準監督署で説明を求めるとよいでしょう

  2. (2)請求書に必要事項を記入する

    請求書の記載例に従って、記入項目を埋めていきましょう。なお、請求書の中には事業主が災害の発生状況等を証明する欄もあります。この欄は、本来事業者に書いてもらうべき箇所ですが、労災の手続きに協力的でない事業者も少なくありません。

    事業主の署名がなければ労災申請ができないわけではありません。労働基準監督署に相談するなどして、あきらめずに申請しましょう。

  3. (3)請求書と添付資料を労働基準監督署に提出する

    請求書ができたら、必要な添付書類とともに労働基準監督署に提出します。労働基準監督署は、提出された請求書の内容に基づいて調査を行い、労働災害や通勤災害に該当するか一件ごとに判断します。その判断の結果により、労災補償を給付するかどうか、給付する場合は、実際にいくら支給するかが決定されます。

    給付が決定すると、労働者が指定した金融機関口座に保険金が給付されます。なお、医療費については、労災指定医療機関に直接支払われます。医療費以外で受け取ることができる給付金については、次章でご説明します。

4、労災保険で補償されない損害は弁護士へ相談

労災保険ではさまざまな補償がありますので、まずは補償内容を整理しておきましょう。

  1. (1)労災の主な補償内容

    ① 療養(補償)給付
    怪我や病気が治癒するまでの療養の費用
    が給付されます。診察や検査、薬剤・治療材料の支給、処置・手術、居宅における看護、病院への入院・看護などが具体的な給付の対象です。治療を受けた病院が労災指定医療機関の場合には、「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を提出しましょう。

    ② 障害(補償)給付
    労働災害により後遺症が残ってしまった場合に支給される給付金です。

    • 障害補償年金
      怪我や病気が治癒(症状固定)した後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残った際に支給されます。
    • 障害補償一時金
      怪我や病気が治癒(症状固定)した後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残った際に給付されます。


    ③ 休業(補償)給付
    労働災害による怪我や病気の療養中の休業期間の収入を補填するための給付です。休業4日目から休業1日につき給付基礎日額(労働基準法の平均賃金に相当する額)の60%相当が支給され、さらに休業特別支給金20%が加算して支給されます。休業の開始3日分は労災保険からは支給されませんが、業務災害の場合は、その期間について事業主が休業補償を行うように義務付けられています。

    ④ 遺族(補償)給付
    労災によって被災労働者が死亡したときは、遺族(補償)年金遺族特別年金遺族特別支給金が給付されます。また、遺族(補償)年金を受け得る遺族がいないときは、遺族(補償)一時金が給付されます。

    ⑤ 葬祭料・葬祭給付
    労災によって被災労働者が死亡した際に、葬祭の費用を支出した人に給付されます。

    ⑥ 傷病(補償)年金
    労働災害による怪我や病気が療養開始後1年6か月を経過しても治癒(症状固定)していない場合かつ傷病による障害の程度が傷病等級に該当する場合に、障害の程度に応じて給付されます。

  2. (2)労災補償の対象外の損害がある

    労災保険は、労働者の生活を守るための国の補償制度です。労働者にとって役立つ制度ではありますが、労災の補償だけでは今後の生活のために不十分なことがあります。

    たとえば、労災による休業補償では、給付基礎日額の80%相当額までしか給付されません。また、労災保険では慰謝料に関する請求が一切認められていません。

    どんなに大けがをして、長期間の入通院を余儀なくされて大変な目に遭っても、その精神的損害に対する慰謝料は労災保険の補償対象ではないのです。このように、労災保険の補償給付から外れる損害については、会社に対して損害賠償請求を行う必要があります。

  3. (3)会社に対する請求の内容

    会社に対する請求としては、

    • ① 労災では支給されなかった休業損害
    • ② 入通院を余儀なくされたことに対する入通院慰謝料
    • ③ 後遺障害の等級に応じた障害慰謝料(死亡した場合は死亡慰謝料)
    • ④ 後遺障害(または死亡)による逸失利益
    • ⑤ 弁護士費用
    • ⑥ 遅延損害金


    などが考えられます。

  4. (4)会社に対する請求は弁護士に相談

    ただし、会社に対して損害賠償請求をするには、会社において安全配慮義務違反使用者責任があったという主張を行う必要があります。

    安全配慮義務とは、労働者が安全かつ健康に働けるために、会社側が必要な配慮をする義務をいいます。

    また使用者責任とは、他の労働者の行為によって被災労働者が損害を被った場合に、その損害を会社が賠償する責任をいいます。

    会社に対して安全配慮義務違反や使用者責任を主張する場合は、労働者の損害と会社の安全配慮義務違反または使用者責任との間に因果関係があることを、被災労働者が立証(証明)しなければなりません。

    この手続きは高度かつ専門的な法的知識を必要とする上、立証に必要な証拠は、会社側が握っていることがほとんどです。したがって、会社に対する損害賠償請求を被災労働者が自分で行うのはかなり難しいでしょう。

    そのため、労災事故に豊富な実績を持つ弁護士に相談し、賠償請求の方法について検討しながら進めていくことをおすすめします。

5、まとめ

本記事では労災保険について、補償の内容や申請の流れについて詳しく解説しました。労災保険は労働者やその家族を支える大切な制度ですので、ぜひ積極的に活用しましょう。

ただし、労災保険だけでは不十分な場合もあります。弁護士に相談することで、より適切に会社と交渉を進められる上に、高額な損害賠償金を得られる可能性も高くなります。ベリーベスト法律事務所では、労災事件に関する会社に対する請求について豊富な経験を持つ弁護士が親身にご相談に応じています。ぜひお早めに弁護士への依頼をご検討ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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