通勤途中や仕事中に交通事故に遭い、眼を負傷した場合には、怪我の程度によっては失明に至ることもあります。
このような、通勤途中や仕事中の交通事故に関しては、加害者が加入する保険会社(自賠責保険、任意保険)から賠償金を得られるだけでなく、労災認定を受けることによって、労災保険からも一定の給付を得ることができます。
眼を負傷した場合には、障害の程度によって得られる給付金額も変わってきますので、適切な後遺障害等級認定を受けるとともに、保険給付で不足する部分については、会社に対する損害賠償請求も検討する必要があります。
今回は、通勤途中または仕事中の交通事故で眼に障害が残った場合の補償内容についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、自賠責保険と労災保険
交通事故に遭った場合は、一般的には加害者の保険会社(自賠責保険、任意保険)に対して賠償金を請求していくことになりますが、通勤途中または仕事中の交通事故に関しては、労災保険からも給付を得られる可能性があります。
以下では、交通事故に遭った場合の自賠責保険と労災保険との関係について説明します。
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(1)労災保険と自賠責保険のどちらも利用可能
労災保険は、業務上または通勤中の負傷、疾病などに対して保険給付を行う制度です。そのため、通勤中や仕事中に交通事故に遭った場合には、「労災」にあたり、労災保険から保険給付を受けることが可能です。
また、一般的な交通事故と同様に、通勤中や仕事中の交通事故に対しても、加害者の保険会社(自賠責保険、任意保険)からも補償がなされます。そのため、通勤中や仕事中の交通事故に関しては、労災保険と自賠責保険のいずれも利用することができます。
もっとも、労災保険と自賠責保険の両方を利用することができるといっても、同一の損害項目について重複して補償がなされることはなく、両者の間で補償額の調整がなされます。これを「支給調整」といいます。 -
(2)障害が残れば障害(補償)給付を受けることができる
障害(補償)給付とは、労災によって障害が残ってしまったときに受けられる補償のことをいいます。
怪我の内容や症状によっては、治療を継続したとしても、それ以上症状の改善が見込めない状態になることがあります。このような状態を「症状固定」といい、その時点で残存している障害に対しては、その障害の程度や内容に応じて、第1級から第14級までの等級認定を受けることができます。そして、労災保険からは認定された等級に応じた保険給付を受けることが可能です。
2、「目」に関する障害について
交通事故によって、目に障害が残る場合としては、視力に関する障害、目の調節機能に関する障害、目の運動機能に関する障害、視野に関する障害、まぶたの欠損に関する障害、まぶたの運動に関する障害の6つがあります。
視力に関する障害とは、眼球に外傷を負い、または、視神経を損傷することによって視力が低下し、または、失明をすることをいいます。
② 目の調節機能に関する障害
眼球には、見たい物の距離に応じてピントを調節する機能が備わっています。このようなピント調節機能に障害が生じた状態を眼球の調節機能障害といいます。水晶体が損傷するなどして、このピント調節機能が低下すると眼球の調節機能障害が残ります。
③ 目の運動機能に関する障害
人の眼球は、水平、垂直、回旋という3つの運動を行うことができ、これにより正常な視野が確保されます。しかし、眼球運動を支配する神経を損傷したり、眼球の向きを変える筋肉である外眼筋が損傷されたりすることにより、眼球の運動が制限されて視野が狭くなるなどの障害が生じることがあります。
これを眼球の運動機能障害といいます。
④ 視野に関する障害
視野とは、眼前の一点を見つめて、同時に見える外界の広さのことをいいます。「半盲症」、「視野狭窄」、「視野変状」によって視野が制限されている状態のことを視野障害といいます。
⑤ まぶたの欠損に関する障害
まぶたに外傷を負い、まぶたが欠損した状態のことをまぶたの欠損障害といいます。
⑥ まぶたの運動に関する障害
まぶたには、まぶたを開ける、まぶたを閉じるという運動機能が備わっています。まぶたの外傷や神経麻痺によってまぶたの運動機能が制限された状態のことをまぶたの運動障害と言います。
3、目に関する障害等級
等級認定の対象となる目に関する障害については、上記6つの障害があります。労災保険では、障害等級が第1から7級のときは年金の支給、第8から14級のときは一時金が支給されます。
以下では、各障害について、どの程度の障害が残った場合にどの程度の等級が認定されるのかについて説明します。
① 視力に関する障害
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第1級1号 | 両眼が失明したもの |
第2級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの |
第2級2号 | 両眼の視力が0.02以下になったもの |
第3級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
第4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
第5級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
第6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの |
第7級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの |
第8級1号 | 1眼が失明し、または1眼の視力が0.02以下になったもの |
第9級1号 | 両眼の視力が0.6以下になったもの |
第9級2号 | 1眼の視力が0.06以下になったもの |
第10級1号 | 1眼の視力が0.1以下になったもの |
第13級1号 | 1眼の視力が0.6以下になったもの |
視力障害の有無の判断は、万国式試視力表によって行います。万国式試視力表とは、一般的な視力検査で用いられる表であり、ランドルト環(アルファベットのCの形をしたもの)の欠けている方向を答える方法で行われます。その際には、眼鏡、コンタクトレンズ、眼内レンズによる矯正後の視力によって判断されます。つまり、原則的に、矯正後でも視力の低下が認められる場合にはじめて後遺障害として認定されることになります。
② 目の調節機能に関する障害
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第11級1号 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
第12級1号 | 1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、調節力が通常の場合の2分の1以下に減少した状態をいいます。調節力の減少の程度については、被災した眼が1眼のみの場合には、被災していない眼との比較によって判断します。両眼が被災した場合や被災していない眼の調節力に異常が認められる場合は、年齢別の調節力を示す以下の表との比較によって判断します。
年齢 | 15 | 20 | 25 | 30 | 35 | 40 | 45 | 50 | 55 | 60 | 65 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
調節力(D) | 9.7 | 9.0 | 7.6 | 6.3 | 5.3 | 4.4 | 3.1 | 2.2 | 1.5 | 1.35 | 1.3 |
なお、被災していない眼の調整力が1.5D以下である場合には、実質的な調節機能は失われているといえますので、障害認定の対象とはなりません。
③ 目の運動機能に関する障害
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第10級2号 | 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
第11級1号 | 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
第12級1号 | 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
第13級2号 | 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野の広さが2分の1以下に減少した状態をいいます。注視野とは、頭部を固定し、眼球を運動させて直視することができる範囲のことをいい、単眼視では各方面約50度、両眼視では各方面約45度が一般的な数値です。
「複視の症状を残すもの」とは、以下の要件を満たした状態のことをいいます。
- 本人が複視のあることを自覚していること
- 眼筋の麻痺など複視を残す明らかな原因が認められること
- ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方法または垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること
④ 視野に関する障害
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第9級3号 | 両眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの |
第13級3号 | 1眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの |
「半盲症」とは、視神経繊維が、視神経交叉またなそれより後方において侵されるときに生じるものであって、注視点を境界として、両眼の視野の右半部または左半部が欠損するものをいいます。
「視野狭窄」とは、視野周辺の狭窄のことをいい、同心性狭窄と不規則狭窄があります。
「視野変状」には、半盲症、視野の欠損、視野狭窄および暗点が含まれます。半盲症および視野狭窄については、別途障害等級表に明示されていますので、ここにいう視野変状とは、暗点と視野欠損のことをいいます。
⑤ まぶたの欠損に関する障害
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第9級4号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
第11級3号 | 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
第13級4号 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残し、または、まつげはげを残すもの |
第14級1号 | 1眼のまぶたの一部に欠損を残し、または、まつげはげを残すもの |
「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、閉瞼時(普通にまぶたを閉じた場合)に角膜を完全に覆うことができない程度の状態をいいます。
「まぶたの一部に欠損を残す」ものとは、閉瞼時に角膜を完全に覆うことができるものの、球結膜(しろめ)が露出している程度の状態をいいます。
「まつげはげを残す」ものとは、まつげ縁(まつげのはえている周縁)の2分の1以上にわたって、まつげのはげを残すものをいいます。
⑥ まぶたの運動に関する障害
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第11級2号 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
第12級2号 | 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、開瞼時(普通に開瞼した場合)に瞳孔領を完全に覆うもの(まぶたの下垂れなど)または閉瞼時に角膜を完全に覆うことができないものをいいます。
4、仕事中の怪我は会社に損害賠償請求が可能
通勤中や仕事中の交通事故によって目に障害が残り、等級認定を受けた場合には、労災保険から障害(補償)給付などの補償を受けることができます。しかし、労災保険から給付される補償には、慰謝料などは含まれておらず、逸失利益についても一部しか補償されません。これは、労災保険制度が、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度だからです。
もっとも、労災保険からの補償で不足する部分については、交通事故に責任のある加害者や会社に対して損害賠償請求することによって補填可能な場合があります。その場合には、加害者や会社に責任があることを労働者の側で立証していかなければなりません。
労災についての知識や経験がない方ですとご自身で適切に進めていくことは非常に難しいため、弁護士のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。
弁護士に依頼をすることによって、慰謝料の請求にあたっても裁判所基準(弁護士基準)をベースとして請求することができますので、最終的な金額の面でもご自身で進めるよりも満足いく結果となる可能性が高いといえます。
5、まとめ
通勤中や仕事中の交通事故によって失明などの障害を負った場合には、将来の仕事や生活に多大な影響を及ぼすことになりますので、労災保険から適切な補償を受け、不足する部分は加害者や会社に対して請求していくことが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、労働問題に関する経験豊富な弁護士が被災労働者やそのご家族からの相談に対応しています。まずは、お気軽にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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