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労働災害(労災)コラム

労災手続きはどのように申請する? 労災保険給付を受け取るまでの流れ・注意点

更新:2023年08月31日
公開:2022年08月15日
  • 労災手続き
労災手続きはどのように申請する? 労災保険給付を受け取るまでの流れ・注意点

仕事中や通勤中に病気になったり、ケガをしたりした場合には、労災保険給付を受け取ることができます。

適正な手続きをして、正当な金額の労災保険給付を受給してください。

この記事では、労災保険給付を受け取るまでの手続きや注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労災が発生したら、どのように対応すればよい?

労働災害によって病気になったりケガをしたりした場合、労災保険給付を受給できます。
労災保険給付を受給するには、労災発生後から以下の対応を順次行いましょう。

  1. (1)労働災害が発生したことを会社に連絡する

    労災保険給付を申請するには、会社の協力を得るのがスムーズです。
    まずは会社に対して、労働災害が発生したことを連絡しましょう。

    なお、労働災害には、業務中に発生する「業務災害」と、通勤中に発生する「通勤災害」の2種類があります。
    どのような状況で労働災害が発生したのかについても、会社に対して具体的かつ詳細に伝えておきましょう。

  2. (2)病院に行って医師の診察を受ける

    労災保険給付の申請を行う前に、病院に行って医師の診察を受けましょう。
    病院を受診して正しい診断を受けることは、病気やケガの症状を改善することに加えて、適切に労災保険給付を申請・受給するためにも大切になります。

    なお、後述するように、病院での診察料や治療費などは、労災保険給付によって補塡(ほてん)を受けることができます。

    労災保険指定医療機関を受診すれば、医療費が労災保険から直接支払われるので便利です。
    労災保険指定医療機関は、以下のページで検索することができます。

    (参考:「労災保険指定医療機関検索」(厚生労働省)

    なお、労災保険指定医療機関以外にも、労災に関する診療を取り扱っている医療機関は存在します。
    労災の取り扱いがあるかどうかは、医療機関に直接確認しましょう。

  3. (3)労働基準監督署へ労災保険給付の申請を行う

    病院での診察・治療が一段落し、後述する申請書類を作成した後は、労働基準監督署に対して労災保険給付の申請を行いましょう。

    申請先は、被災労働者が所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。
    労働基準監督署の所在地は、厚生労働省や各都道府県の労働局のホームページで確認できます。

    (参考:「都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧」(厚生労働省)
    (参考:「労働基準監督署の管轄地域と所在地一覧」(東京労働局)

2、労災保険給付の種類

労災保険給付には複数の種類があり、それぞれ支給要件が異なります。
ご自身の状況に合わせて、受給可能な労災保険給付を全て把握したうえで申請を行いましょう。

労災保険給付の種類および内容は、以下のとおりです。

  1. (1)療養(補償)給付

    治療費や入院費など、医療費の実費が補償されます。
    労災保険指定医療機関を受診すれば、窓口での支払いも不要になります。

  2. (2)休業(補償)給付

    労災によって生じた病気やケガの療養のため仕事ができず賃金を受けられないとき、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額の給付が行われます。また、休業特別支給金として、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額の給付が行われます。

  3. (3)障害(補償)給付

    労災によって生じた病気やケガを治療した結果、一定の後遺症が残った場合に給付が行われます。
    障害(補償)給付の金額は、後遺症の症状ごとに認定される「障害等級」によって決定されます。
    (参考:「障害等級表」(厚生労働省)

  4. (4)遺族(補償)給付

    労災による病気やケガによって、労働者が死亡してしまった場合、遺族に対して一定の給付が行われます。
    遺族(補償)給付は、遺族に対する生活保障の意味合いがあります。

  5. (5)葬祭料・葬祭給付

    被災労働者が死亡した場合、葬儀費用を補塡(ほてん)するために、遺族に対して一定の給付が行われます。

    実費が支給されるわけではなく、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)が給付されます。

  6. (6)傷病(補償)年金

    第3級以上の障害等級に該当する重い病気やケガが、療養開始後1年6か月を経過した日おいても治ゆ(症状固定)していない場合に支給されます。

    「障害(補償)給付」が症状固定後に支給されるのに対して、傷病(補償)給付は症状固定前の期間について支給されるのが特徴です。

  7. (7)介護(補償)給付

    障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち第1級の人または第2級の障害等級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害の人が、現に介護を受けている場合に毎月支給されます。

3、労災保険の申請書類の作成方法について

労災保険給付を申請する際には、所定の様式を用いて申請書を作成し、労働基準監督署に提出する必要があります。

  1. (1)申請書の入手方法・書き方・記入例

    労災保険給付の申請書類は、以下の厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
    (参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省)

    記載例についても、労災保険給付の種類ごとに、同じページに掲載されています。

    なお、申請書類には光学式文字読み取り装置(OCR)様式が採用されており、印刷時の注意事項が存在することに注意しましょう。
    (参考:「注意事項」(厚生労働省)

    記載方法などに不安がある場合は、労働基準監督署の窓口に足を運んでアドバイスを求めるとよいでしょう。

  2. (2)労働保険番号を調べるには?

    労災保険給付の申請書には、「労働保険番号」を記載することになっています。

    労働保険番号は、労災保険に加入している会社ごとに個別に振り出された登録番号です。
    基本的に会社の人事部等で保管されていると考えられるので、人事担当者等に確認してみましょう

  3. (3)「事業主の証明」をもらうには?

    また、労災保険給付の申請書の中には、以下の事項について、事業主が証明を行う欄があります。

    • 負傷または発病年月日
    • 負傷または発病の時刻
    • 労災発生の事実を確認した者の職名、氏名


    上記の「事業主の証明」についても、人事部等が行っているケースが多いので、人事担当者等に記載を依頼してください。

    なお、労働保険番号と「事業主の証明」の記載について、会社が協力的でない場合の対処法については、後述します。

4、労災申請時に発生しがちなトラブルとは?

労災保険給付の申請は決して難しい作業ではありませんが、中には以下のようなトラブルにより申請がスムーズにいかないケースもあります。

それぞれのトラブルの概要と、その解決策を把握しておきましょう。

  1. (1)会社が労災保険に加入していない

    従業員を雇用する会社は、労災保険への加入義務を負いますが、中には義務を果たさずに、労災保険に加入していない会社も存在します。

    しかし、この場合でも、労働者は労働基準監督署に対して手続きを行い、労災保険給付を通常どおり受けることが可能です。保険者は後から会社に対して保険料の支払いを請求することになります。
    労災事故に遭う前に会社が労災保険に加入していないと気付いた場合、労働基準監督署に相談すれば、会社に対して保険加入を促すことが可能です。

  2. (2)会社が労災申請を拒否している

    会社が労災の事実を隠蔽(いんぺい)したいなどの理由で、労災保険給付の申請に非協力的なケースがあります。

    この場合、主に申請書に記載する「労働保険番号」と「事業主の証明」が記載できないという問題が生じてしまいます。

    しかし「労働保険番号」と「事業主の証明」の記載については、以下の方法によって代用可能です。

    • 労働保険番号:公共職業安定所(ハローワーク)に調べてもらう
    • 事業主の証明:「会社の協力が得られなかった」旨の書面および医師の診断書を添付する


    仮に会社の協力が得られない場合には、上記の代替手段を用いて申請書を完成させましょう。

  3. (3)労災保険給付の時効が経過してしまった

    各種の労災保険給付には、以下のとおり時効が設定されています。

    保険給付 期間 起算点
    療養(補償)給付 2年 療養の費用を支払った日ごとにその翌日
    休業(補償)給付 2年 休業の日ごとにその翌日
    遺族(補償)給付 5年 労働者が死亡した日の翌日
    葬祭料(葬祭給付) 2年 労働者が死亡した日の翌日
    障害(補償)給付 5年 傷病が治癒した日の翌日
    介護(補償)給付 2年 介護を受けた月の翌月の初日

    時効期間を経過した場合、該当する労災保険給付を受給できなくなってしまうので、申請は早めに行いましょう

  4. (4)労災保険給付の金額が十分でない

    労災保険給付は、個々の状況にかかわらずある程度画一的に支給されるため、実際の損害額を補塡(ほてん)するのに十分でない場合もあります。

    その場合には、会社の使用者責任(民法第715条第1項)または安全配慮義務違反(労働契約法第5条、民法第415条第1項)を追及することにより、不足分を会社に対して請求できる可能性があります。

    会社の使用者責任や安全配慮義務を追及する場合には、その根拠となる証拠資料の収集と、会社に対する責任追及のための説得的な論証が不可欠です。
    弁護士に相談すれば、会社に対する責任追及の手続きをサポートしてくれます。

5、まとめ

労働災害によって病気にかかったり、ケガを負ったりした場合には、労災保険給付を申請する準備を進めましょう。

申請に当たっては、できる限り会社の協力を得たほうがよいですが、会社が非協力的な場合でも、代替手段によってカバーできます
労災保険給付の申請に当たってわからないことがあれば、労働基準監督署の窓口に相談すればアドバイスをもらえるでしょう。

また、労災保険給付の申請に加えて、会社に対する損害賠償責任も追及したい場合には、弁護士への相談をお勧めいたします

ベリーベスト法律事務所では、被災労働者の方が会社の責任を追及するための必要な対応について全面的にバックアップいたします。
労働災害によって被災された労働者の方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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