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労働災害(労災)コラム

労災で脊髄損傷の後遺症(後遺障害)が生じたら|家族がするべきこと

更新:2024年04月24日
公開:2022年09月15日
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労災で脊髄損傷の後遺症(後遺障害)が生じたら|家族がするべきこと

業務中の事故によって、身体の中枢神経に当たる「脊髄」を損傷してしまった場合、全身麻痺などの後遺症が生じる可能性があります。

脊髄損傷の後遺症は極めて重く、ご家族には大きな負担がかかってしまうことでしょう。
被災後の家族の生活を支えるためにも、労災保険や会社から適切な補償を受けることが大切です。

この記事では、労災保険給付の請求・会社に対する損害賠償請求・成年後見開始の申し立てなど、脊髄損傷を負ってしまった被災労働者の家族がすべきことについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、脊髄損傷とは?

脊髄損傷は、労災によって生じる負傷の中でもかなりの重症に分類されます。

  • 脊髄=背骨に存在する中枢神経
脊髄とは、背骨の中の空間に存在する中枢神経です。
脊髄は脳神経と直接つながっており、脳の命令を身体全体に伝える重要な役割を担っています。

  • 脊髄を損傷して麻痺が発生すると、介護やリハビリが必要になる
脊髄は全身に対する脳の命令を伝達する神経なので、脊髄が損傷した場合、身体の一部または全体が思うように動かせなくなる「麻痺」が生じます。

脊髄の損傷部位や程度によっては全身麻痺が生じ、生涯にわたって介護が必要となる可能性もあります。
また、全身麻痺にまでは至らなくとも、運動機能の喪失や感覚障害によって日常生活に支障が生じたり、リハビリが必要になったりするケースが極めて多いです。

  • 脊髄損傷は現代医学では根治不可能
一度損傷した脊髄を復元することは、現代医学では不可能とされています。
脊髄は脳神経や全身の部位と複雑につながっているため、元通りに復元することはできないのです。

したがって、労災によって脊髄損傷を生じた方は、後遺症が残る可能性が極めて高いと考えられます。

2、労災による損害の補償を受ける流れ

労災により脊髄損傷などの負傷が生じた場合、労災保険給付を請求することができます。
また、労災発生の原因が会社に認められる場合には、会社に対して損害賠償を請求することも可能です。

もし労災によって脊髄損傷などを負ってしまった場合、以下の流れで請求していきましょう。

  1. (1)治療・症状固定の診断を受ける

    まずは、負傷内容の診断を受けることが重要です。

    労災保険指定医療機関で治療を受ければ、医療費の精算が医療機関の窓口で完結するので便利です
    労災保険指定医療機関は、厚生労働省のホームページから検索できます。

    労災による負傷は、治療によって完治する場合もあれば、後遺症が残る場合もあります。
    特に脊髄損傷の場合は、後遺症が残る可能性が高いでしょう。

    労災による負傷で後遺症が残った場合、「これ以上の治療は効果がない」と判断された時点で、医師により「症状固定」の診断が行われます。

  2. (2)労働基準監督署に労災保険給付を請求する

    症状固定の診断を受けた後、労働基準監督署に対して各種の労災保険給付を請求します。
    請求先は、被災労働者が所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。

    請求書の各様式は、厚生労働省のページからダウンロードできます。

    請求できる労災保険給付の種類は、以下のとおりです。

    ① 療養(補償)給付
    治療費・入院費などの実費の補償

    ② 休業(補償)給付
    負傷や疾病の治療等により仕事を休んだ場合の賃金補償(休業4日目以降、平均賃金の80%)

    ③ 障害(補償)給付
    症状固定後の後遺症に対する補償

    ④ 遺族(補償)給付
    死亡した被災労働者の、遺族に対する補償

    ⑤ 葬祭料・葬祭給付
    死亡した被災労働者の、葬儀費用の補償

    ⑥ 傷病(補償)給付
    重度(障害等級第3級以上)の負傷や疾病が1年6か月以上治らない場合の補償

    ⑦ 介護(補償)給付
    重度(障害等級第1級または第2級)の精神・神経障害または腹膜部臓器により要介護となった場合の介護費用の補償


    脊髄損傷で後遺症がある場合、障害(補償)給付や介護(補償)給付を請求できます。
    その際、労働基準監督署によって「障害等級」の審査が行われ、認定された等級に応じて給付額が変わることになります。

  3. (3)会社に対して損害賠償を請求する

    労災保険給付の金額は、各給付要件に応じて画一的に決められており、必ずしも実損害の全額が補塡(ほてん)されるとは限りません。

    もし労災保険給付の金額が実損害に不足する場合には、以下のいずれかの法的根拠により、不足額について会社に損害賠償を請求できる可能性があります。

    ① 使用者責任(民法第715条)
    使用する従業員等の故意または過失により、被災労働者を負傷させたことについて生じる損害賠償責任です。
    (例)同僚が機械の操作をミスしたことにより、機械に巻き込まれて脊髄損傷を負った場合

    ② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条、民法第415条第1項)
    労働者が身体の安全を確保しながら労働できるように配慮する義務を怠った結果、被災労働者が負傷したことについて生じる損害賠償責任です。
    (例)機械の整備不良によって誤作動が生じた結果、機械に巻き込まれて脊髄損傷を負った場合


    会社に対する損害賠償請求は、交渉または労働審判や訴訟を通じて行うことになります。

3、脊髄損傷の後遺症に備えて、被災労働者の家族がすべきこと

被災労働者が脊髄損傷を負ってしまった場合、本人は身体に麻痺が残り動けないケースが多いです。
そのため、家族の方のサポートが極めて重要となります。

被災労働者の家族の方は、その後の生活に備えて、以下の準備を進めることをおすすめします。

  1. (1)障害認定の準備を進める

    労災保険給付の中でも、後遺症に関連する障害(補償)給付や、介護費用に関連する介護(補償)給付の金額はかなり大きくなります。

    いずれの給付についても、障害等級が適切に認定されるかどうかがポイントになりますので、認定に必要な資料を確実にそろえましょう。

    障害等級の認定に必要な書類は、以下のとおりです。



    また、労働基準監督署の指示に従い、レントゲン写真等の資料の提出を求められることもあります。

  2. (2)損害額を正確に計算し、必要に応じて会社への請求を行う

    労災保険給付の金額は、実損害を補填するのに十分であるとは限りません。
    そのため、実損害の金額を正確に計算したうえで、労災保険給付との間に差額が生じていないかを確認することが大切です。

    もし差額がある場合には、会社に対する損害賠償請求を検討しましょう
    金額計算や損害賠償請求の方法については、弁護士への相談をおすすめいたします。
    また、そもそも労災保険給付から慰謝料の支給がないため、慰謝料を求める場合には会社に請求するほかありません。

  3. (3)本人の判断能力が欠落してしまった場合、成年後見の開始を申し立てる

    脊髄損傷によって判断能力が極端に低下した場合、自分自身では適切に法律行為をすることができなくなってしまいます。
    その場合は、家庭裁判所に成年後見の開始を申し立てましょう(民法第7条)。

    成年後見人は、本人(成年被後見人)を代理して法律行為ができるなど、本人をサポートすることができます。

    成年後見は、本人の権利を守ることにもつながりますので、早めにその必要性の有無を検討するべきです。

4、脊髄損傷の後遺症について弁護士に依頼するメリットは?

脊髄損傷の後遺症は重篤になることが多いため、被災労働者の家族はさまざまな対応を迫られることになり、精神的・肉体的に負担がかかってしまうかと思います。
過酷な状況において、少しでも負担を減らすためには、早めに弁護士までご相談ください。

特に、会社に対して損害賠償を請求する場合や、成年後見開始の申し立てを行う場合には、弁護士に相談することにより、スムーズに手続きを進められます。

また、事務作業や各関係機関とのやり取りの手間が大きく削減されるほか、正当な補償を受けられる可能性が高まり、その後の生活再建の助けになるかと思います。

5、まとめ

労災によって脊髄損傷を負った場合、その後に身体の麻痺などの後遺症が生じることが多く、生活に多大な影響が生じてしまいます。

脊髄損傷による後遺症その他の損害を補填するためには、労災保険給付を申請するほか、必要に応じて会社に対する損害賠償請求を行いましょう。

ベリーベスト法律事務所では、過酷な状況に置かれた被災労働者やご家族の方のご負担を少しでも軽くするため、弁護士が法的な観点から全力でサポートいたします

労災による負傷や疾病などにお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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