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労働災害(労災)コラム

脳挫傷で意識不明に。ご家族が知っておきたい労災補償と損害賠償請求

更新:2024年08月21日
公開:2023年01月23日
  • 脳挫傷
  • 意識不明
脳挫傷で意識不明に。ご家族が知っておきたい労災補償と損害賠償請求

建設現場などで働いている労働者の方は、高所などで作業することも多いため、大きな怪我をするリスクがあります。高所からの転落や資材の落下によって頭部に強い衝撃を受けた場合には、脳挫傷によって意識不明の重体になることもあり得ます。

このような労災事故にあった場合、ご家族としてはどのように対応すれば良いのでしょうか。

今回は、労災による脳挫傷で意識不明になった場合、どのような労災補償を受けることができるのかと、会社への損害賠償請求の可否について、べリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労災保険給付申請手続きは家族でもできる?

労災保険給付申請手続きは、被災労働者本人だけではなく、ご家族でも行うことができます。まずは、労災保険給付申請手続きの方法について説明します。

  1. (1)労災とは

    労働者が業務中に病気や怪我をした場合や、通勤途中に事故などに巻き込まれ怪我をしたような場合を労災といい、この場合、労災認定を受けて保険給付の申請をすることによって、労災保険から補償を受けることができます。

  2. (2)労災保険給付申請手続きの方法

    労災保険の給付手続きは、労働者自身で労働基準監督署に対して行うことになりますが、労働者本人だけでなく、そのご家族が行うこともできます。

    もっとも、一般的には、労災によって負傷した労働者に負担をかけないようにするために、会社が労働者に代わって労災保険給付申請手続きを行ってくれることが多いでしょう。しかし、会社が事業主の証明を拒むなどして労災保険給付申請手続きに協力してくれないこともあります。
    そのような場合には、労働者またはその家族が、会社から労災の証明をもらえなかった旨の文書を添付し、労働基準監督署に申請することで受理してもらうことができます

    なお、事業主(会社側)は労働者が労災による怪我などのために、自ら労災保険給付の請求を行うことが困難であるときには、助力しなければなりません。また、労働者から保険給付に必要な証明を求められたときは、速やかに証明しなければならないとされています(労働者災害補償保険法施行規則23条1項、2項)。

    手続きがわからないときや不明な点がある場合は、管轄の労働基準監督署に相談をしてみましょう

2、状況に応じて労災保険の給付内容は変わる

労災によって脳挫傷を負った場合、労災保険からどのような補償を受けることができるのでしょうか。

  1. (1)脳挫傷の概要

    脳挫傷とは、直接的な強い外力によって脳に傷(挫傷)ができた状態のことを指します。安静や点滴治療などのほか、経過によっては外科的治療が必要になることもあります。
    損傷した脳の場所によっては、感覚障害、運動障害、失語症、高次脳機能障害などの脳障害が残ることがあるので、主治医にしっかりと症状を伝えたうえで、状態や今後の治療方針を把握することが大切です。

  2. (2)脳挫傷を負った場合に受けられる労災保険給付の種類

    治療やリハビリが必要になった場合は、怪我の状況に応じて次のような給付を受けることができます。

    ① 療養(補償)給付
    療養補償給付とは、労働者が労災によって傷病を負ったときに、自己負担なく病院で治療を受けることができる制度です。療養補償給付には、治療費、入院費用、看護料などの療養のために必要な費用はすべて含まれます。

    ② 休業(補償)給付
    療養のため休業したときは、休業補償として休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%に相当する額の支給が受けられます。このほかにも特別支給金として給付基礎日額の20%が支給されますので、休業期間中であっても収入の80%に相当する額が補償されます

    ③ 障害(補償)給付
    障害補償給付とは、障害補償年金と障害補償一時金からなる補償給付です。障害補償給付は、労災によって傷病が治癒した後に障害が残った場合に、認定された障害等級に応じて年金または一時金が支給される制度です。後遺障害等級が第1~7級の場合は年金が支給され、第8~14級の場合は一時金が支給されます。

    ④ 傷病(補償)年金
    労災によって傷病を患い、療養を開始後1年6か月が経過しても治癒しないときには、傷病等級に応じた傷病補償年金の支給を受けることができる場合もあります。
    傷病等級が第1級から3級に該当する場合には、1年6か月を経過した時点で休業補償給付から傷病補償年金に切り替わります。傷病等級の認定がない場合には、引き続き、休業補償給付が受けられます。

    ⑤ 介護(補償)給付
    傷病補償年金または障害補償年金を受給しており、障害等級・傷病等級が一定の障害の状態に該当する状態で現に介護を受けている場合には、介護補償給付が受けられます。

    介護補償給付を受けるためには、障害の状態として、常時介護または随時介護の状態にあることが必要です
  3. (3)意識が戻らなかった場合

    ご家族としては非常につらいことではありますが、脳の損傷の程度によっては、治療を継続したとしても意識が回復せず昏睡状態のままになることもあります。
    自力での移動や食事、排せつ、簡単な意思疎通などができない状態が3か月以上継続し、遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)と診断された場合は、生活面において全面的に介護が必要になると考えられます。

    このような場合も、基本的には上記で解説した補償と同様の給付になります。ただし、後遺障害等級はもっとも重い、第1級または2級に認定される可能性が高いと考えられます。

  4. (4)亡くなった場合

    脳の損傷の程度が大きい場合には、治療を継続したものの残念ながら命を落としてしまうこともあります。残されたご家族が、当面の生活に困らないよう、労災保険には次のような給付制度があります。

    ① 葬祭料
    葬祭料とは、労災によって労働者が亡くなった場合に、その葬祭を行った方に対して支給される費用です。葬祭料の受給者は、必ずしも遺族に限られず、会社や友人が葬儀を執り行った場合には、会社や友人に支給されます。

    ② 遺族補償給付
    遺族補償給付とは、労災によって労働者が亡くなったときに、遺族に対して年金または一時金が支給される制度です。対象となる遺族は、労働者が死亡した当時に労働者の収入によって生計を維持していたご家族(配偶者、子ども、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)のうち、一定の要件を満たす方です。
  5. (5)意識が戻り全快した場合は申請不要?

    労災によって怪我などを負ったものの全快した場合、労災保険の給付は受けられないと思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、全快したとしても、治療や入院の費用が発生していることに変わりはありません。労災保険給付申請をすることによって、療養補償給付や休業補償給付を受けることができますので、後遺症などもなく全快した場合であっても、労災保険給付申請は行うと良いでしょう

3、高次脳機能障害とは

脳挫傷を負った場合に知っておきたいことのひとつとして、高次脳機能障害という障害があります。

  1. (1)高次脳機能障害の概要

    高次脳機能障害とは、脳が損傷を受けることによって、認知、記憶、思考、言語、行為、判断、注意の持続力などの脳機能に残る障害のことをいいます。脳挫傷は、頭部に強い力が加わって脳が損傷した状態ですので、損傷の部位および程度によっては高次脳機能障害が残ることがあります。
    労災で高次脳機能障害が残ってしまった場合には、障害等級認定を受けることによって、障害補償給付や介護補償給付を受けることができます

  2. (2)障害等級の認定基準

    高次脳機能障害が残った場合の障害等級認定は、まずは介護の要否によって大きく分かれます。

    神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常時介護が必要な場合には第1級、随時介護が必要な状態であれば第2級の障害等級となります。
    介護が不要な場合は、意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力など)、問題解決能力(理解力、判断力など)、作業負荷に対する持続力・持久力のほか、社会行動能力(協調性など)といった4能力の支障の程度によって具体的な等級が認定されます。

4、会社への損害賠償請求は可能か

脳挫傷という結果が生じたことに対して、労災保険から補償を受けていたとしても、会社に対して別途、損害賠償請求をすることは可能なのでしょうか。

  1. (1)労災保険からの不足分は会社に請求できる可能性がある

    労災認定を受けることによって労災保険から一定の給付を受けることができます。しかし、労災保険は、被災労働者保護のために制度として国からの補償をするという制度ですので、厳密にいえば、被災労働者が被った損害のすべてを補償するものではありません。また、労災保険からは、慰謝料の支払いはなく、障害が残ってしまった場合の逸失利益についても十分な補償はありません。
    このように労災保険からの補償だけでは不足する部分については、労災について会社に責任が認められるような場合には、会社に対して損害賠償請求をすることが可能です。

  2. (2)会社に損害賠償を請求する場合は弁護士に相談を

    注意しなければいけないのは、すべてのケースにおいて、会社に損害賠償を請求できるわけではないという点です。
    会社に対して損害賠償請求ができるのは、使用者責任を問える場合か、安全配慮義務違反があった場合です。たとえば、他の従業員の故意や過失によって脳挫傷を負った場合や、会社側が現場の危険性を認知していたにもかかわらず対策を講じることなく、結果として労災が発生したようなケースでは、会社側に責任を問える可能性があります。
    労災の認定を受けたとしても、会社にこれらの落ち度があったと認定されたわけではないため、これらの会社の責任については労働者側が立証する必要があります。

    会社に対して責任を問えるかは法的専門的判断が必要となり、その立証も簡単ではありません。そのため、会社に対して損害賠償を請求したいとお考えの場合は、まずは弁護士に相談しサポートを得ることをおすすめします

5、まとめ

労災によってご家族が脳挫傷を負ってしまった場合には、まずは治療に専念できる環境を整え、一日でも早く回復できるようにサポートすることが第一優先といえます。労災保険の申請を行い、給付が受けられるように手続きを進めましょう。

また、会社への責任を問いたいと考えている場合には、証拠収集などの観点からも早めの対応が大切になるため、弁護士のサポートを得たうえで対策を講じると良いでしょう。

べリーベスト法律事務所の労働災害専門のチームでは、これまで数多くの労災に関するご相談を対応してきた知見や経験を基に、迅速かつ適切なリーガルサポートを提供しております。労災にまつわる会社とのトラブルにお悩みの方や損害賠償請求をご検討の方は、べリーベスト法律事務所までご相談ください。

この記事の監修者
外口 孝久
外口 孝久
プロフィール
外口 孝久
プロフィール
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
所属 : 第一東京弁護士会
弁護士会登録番号 : 49321

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。

この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。

この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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