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労働災害(労災)コラム

労災保険をあとから申請できる? 健康保険や任意保険、退職後のケース

更新:2023年04月11日
公開:2023年04月11日
  • 労災
  • あとから申請
労災保険をあとから申請できる? 健康保険や任意保険、退職後のケース

仕事中の怪我や通勤中の事故については、労災保険を利用することができる場合が多々あります。しかし、労災保険を利用することができることに気付かずに健康保険や任意保険を利用して治療をしてしまうケースもあるかもしれません。また、すでに会社を退職してしまったという方もいるかもしれません。

このような場合でも労災保険を利用することができるのでしょうか。また、利用することができる場合にはどのような点に注意が必要なのでしょうか。

今回は、労災保険をあとから申請する場合の手続きなどについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労災保険をあとから申請する際は時効に注意

労災保険をあとから申請する場合には、労災保険の申請期限に注意する必要があります。

  1. (1)労災保険には申請期限がある

    業務中や通勤中の出来事が原因となって、負傷したり、病気になったり、死亡した場合には、労働基準監督署による労災認定を受けることによって、労災保険から各種給付を受けることができます。

    しかし、労災保険から各種給付を受けるためには、給付の種類ごとに定められている申請期限内(時効期限内)に労災申請をしなくてはなりません。労災保険をあとから申請することもできますが、申請期限(時効)を過ぎてしまうと、労災保険を利用することができなくなってしまいますので注意が必要です

  2. (2)給付の種類ごとの申請期限

    労災保険では、給付の種類に応じて、以下のような申請期限が定められています。

    ① 療養(補償)給付
    療養(補償)給付は、療養の費用を支出した日の翌日から2年で時効になります。

    ② 休業(補償)給付
    休業(補償)給付は、賃金を受けない日の翌日から2年で時効になります。

    ③ 葬祭料(葬祭給付)
    葬祭料(葬祭給付)は、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年で時効になります。

    ④ 介護(補償)給付
    介護(補償)給付は、介護を受けた月の翌月1日から2年で時効になります。

    ⑤ 遺族(補償)年金・一時金
    遺族(補償)年金・一時金は、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年で時効になります

    ⑥ 障害(補償)給付
    障害(補償)給付は、傷病が治癒した日の翌日から5年で時効になります。

    ⑦ 傷病(補償)年金
    傷病(補償)年金については、申請期限は設けられていません。

2、健康保険使用後に労災保険の申請は可能?

健康保険を使用した後に労災保険を申請することは可能なのでしょうか。

  1. (1)健康保険使用後でも労災保険のあとから申請は可能

    業務中や通勤中の出来事が原因となって、負傷したり、病気になったり、死亡した場合には、法律上、労災保険を利用して治療を受ける必要があります。

    しかし、労災保険を使うべきであるということを知らずに、普段の受診と同様に健康保険を利用して治療を受けてしまう方もいます。健康保険は、労働災害とは関係のない傷病について利用することができる公的保険ですので、労災の治療で健康保険を利用することができません

    労災であるにもかかわらず、健康保険を利用してしまった場合には、治療費の全額を一時的に自己負担しなければならないことがありますので注意が必要です。

    もっとも、労災で健康保険を利用してしまった場合でも、労災保険をあとから申請することによって、健康保険から労災保険に切り替えることができます

  2. (2)健康保険から労災保険への切り替え方法

    健康保険から労災保険に切り替える場合には、以下のような手続きをとる必要があります。

    ① 健康保険から労災保険への切り替えが可能な場合
    健康保険を利用した病院に確認をした結果、健康保険から労災保険への切り替えが可能であるという場合には、以下の書面を医療機関の窓口に提出します。

    • 療養(補償)給付たる療養の給付請求書(様式第5号、16号の3)
    • 治療費の領収書

    これらの書類を提出すれば、すでに支払っている自己負担分の治療費を返してもらうことが可能です。病院を受診した日と同じ月内であれば、健康保険から労災保険への切り替えをしてもらえる可能性があります。


    ② 健康保険から労災保険への切り替えができない場合
    健康保険を利用した日から一定の時間が経過してしまうと、診療報酬明細書の締め日の関係上、病院では健康保険から労災保険への切り替えができない場合もあります。

    このような場合には、健康保険の保険者(全国健康保険協会など)に連絡をして、間違って健康保険を利用してしまった旨を伝えます。そうすると保険者から本人の自己負担分以外の治療費の請求書が届きますので、その支払いを行いましょう。この時点で、被災労働者が治療費の全額を自己負担することになります。

    その後、労働基準監督署に以下の書類を提出します。

    • 療養(補償)給付たる療養の費用請求書(様式第7号、第16号の5)
    • 病院で支払った治療費の領収書
    • 保険者に支払った返還額の領収書

    これらの書類を提出すれば、後日、労災保険から被災労働者が負担した治療費の全額の支払いを受けることができます。

    なお、治療費の一括での自己負担ができない場合でも、労基署や健康保険協会などに相談のうえで調整を図る余地もありますので、諦める必要はありません。

3、通勤災害で任意保険を使ったあとは?

通勤中に事故に遭った場合、相手方保険会社の任意保険を使用することもあるでしょう。任意保険も健康保険と同様に、労災保険へ切り替える必要があるのでしょうか。

まずは、通勤災害の概要を把握したうえで、確認していきましょう。

  1. (1)通勤災害とは

    通勤災害とは、労働者が通勤中に事故に遭い、負傷・死亡することをいいます。労働災害というと、業務中の出来事が原因となって傷病を負ったり、死亡したりすること(業務災害)を想像する方が多いかもしれませんが、このような通勤時の交通事故についても労災保険の適用対象です。

    ただし、通勤災害と認められるためには、就業に関して合理的な経路および方法によって移動をする際に事故が生じたことが必要となります。通勤途中でタバコやジュースなどを購入する程度であれば問題ありませんが、仕事帰りに同僚と居酒屋に寄った場合には、それ以後の移動に関して事故が生じたとしても通勤災害にはあたりません。

  2. (2)通勤災害では任意保険と労災保険のどちらでも利用が可能

    通勤中に交通事故にあった場合には、労災認定を受けることによって労災保険から給付を受けることができますが、相手方が任意保険に加入している場合には、任意保険を利用することもできます。怪我の治療を目的に健康保険を利用した場合は労災保険への切り替えが必要ですが、任意保険の場合は、労災保険への切り替えが必須ではありません。どちらの保険を利用するか、被災労働者が自由に決めることが可能です。

    また、任意保険と労災保険から同じ損害項目を二重取りすることはできませんが、損害項目が共通しない部分については、任意保険と労災保険の双方を利用することもできます。

    たとえば、労災保険では、慰謝料の支払いはありませんが、任意保険からは慰謝料の支払いが行われます。その逆で、労災保険では特別支給金が支払われますが、任意保険では支払われません。

    そのため、任意保険をすでに利用していた場合は、基本的に任意保険で清算される分は受け取り、任意保険では支払われない、「特別支給金」などは労災保険から支給してもらうよう、両方を申請するようにしましょう

4、退職後にも申請できる? 労災申請のポイント

会社を退職した後でも労災申請をすることができるのでしょうか。以下では、退職後の労災申請のポイントについて説明します。

  1. (1)退職後でも労災申請は可能

    会社を退職してしまうと、労災保険を利用することができなくなってしまうのではないかという不安を抱いている方もいるかもしれません。

    しかし、労働者災害補償保険法では、労働者が退職したとしても労災保険を受ける権利に変更はない旨明確に規定されてしますので、退職後でも労災申請をすることは可能です。また、すでに労災保険を利用して治療をしている状況で退職した場合でも、退職により労災保険の給付内容に影響が及ぶことはありませんのでご安心ください。

  2. (2)労災保険の申請は被災労働者自身で手続き可能

    労災保険の申請は、被災労働者が勤めている会社が行ってくれるのが一般的です。しかし、これは被災労働者の負担を軽減するために、会社が手続きの代行をしているに過ぎず、労災保険の申請自体は被災労働者自身でも行うことができます

    したがって、会社を退職した後であっても、労災保険の申請を行うことは可能です。労災保険の申請の際には、事業主の記載や証明が必要な項目もありますが、退職後であり事業主の協力が得られないという場合には、空欄にしたままでも労災保険の申請をすることは可能です。

    また、怪我が治った後であっても労災保険の申請をすることはできますが、上述した労災保険の各種給付の申請期限内に行う必要がありますので注意が必要です。

  3. (3)後遺症がある場合には年金や一時金を受け取ることも可能

    労災による怪我や病気の程度によっては、治療を継続したとしても、一定の障害が残ってしまう場合もあります。そのような場合には、障害等級認定を受けることによって、労災保険から等級に応じた年金や一時金を受け取ることも可能です。

    ただし、労災保険からの給付金には、慰謝料は含まれていませんので、労災の発生について会社に責任がある場合には、会社に対して、別途損害賠償請求をすることができます。

  4. (4)会社に対する損害賠償請求は弁護士に依頼するべき

    会社に対して損害賠償請求をするためには、被災労働者の側で会社に安全配慮義務違反や使用者責任があったということや具体的な損害の金額について、的確に主張立証していく必要があります。

    しかし、これらの手続きは非常に高度かつ専門的な知識を要するものですので、被災労働者個人がすべて行っていくというのは難しいといえるでしょう。そのため、会社に対する損害賠償請求をお考えの方は、自分一人で進めるのではなく、弁護士に依頼をして、弁護士のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。

5、まとめ

労災保険を利用することができるにもかかわらず、そのことを知らずに健康保険を利用して治療などを行ってしまう方がいます。しかし、健康保険は、労災事故では使用することはできませんので、気付いた場合には早めに労災保険への切り替えの手続きをするようにしましょう

また、会社に労災発生の責任が認められる場合、労災保険からの補償だけでは、十分な補償とはいえないケースが多く、十分な補償を受けるためには、会社への損害賠償も検討していく必要があります。その際には専門家である弁護士の協力があるとスムーズですので、お早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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