労災(労働災害)によってケガを負い、治療やリハビリのために仕事を休む場合には、労災保険から休業補償給付を受給できます。
また、労災によるケガでリハビリを行ったものの、治癒後も障害が残ってしまったときには障害補償の給付金を受け取ることが可能です。他の労災保険給付と併せて、漏れなく請求を行うようにしましょう。
ただし、労災保険給付だけではカバーされない損害もあります。労災の内容次第では、会社への損害賠償請求が可能です。
今回は、労災によるケガの治療やリハビリに関して受給できる休業補償給付や、会社に対する損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労災のリハビリで会社を休んだときの休業補償給付
休業補償給付とは、業務遂行中の労災によるケガが原因で仕事を休んだときに、労災保険から受給できる給付金です。治療のために仕事を完全に休職している場合のほか、仕事復帰後にリハビリへ通うために休む場合にも、休業補償給付を受け取れます。
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(1)休業補償給付|支給要件
休業補償給付は、労災でケガを負った方全員が受給できるものではありません。給付を受けるには、労働者は以下の3要件をすべて満たす必要があります。
① ケガや病気での療養が業務災害に該当すること
被災労働者のケガや病気による療養に対して、「業務遂行性※」と「業務起因性※」が認められなければなりません。
※業務遂行性:労働者が使用者(経営者や事業主など)の支配下にある状態において発生したこと
※業務起因性:使用者の業務とケガとの間に因果関係があること
なお、通勤中に生じたケガや病気については、休業補償給付とほぼ同等の条件で休業給付が支給されます。ただし初回の休業給付から、一部負担金として200円(日雇特例被保険者については100円)が減額される点は留意しておきましょう。
② ケガや病気のために労働できないこと
症状の程度により労働不可能な期間のほか、治療やリハビリの目的で通院するため、欠勤を余儀なくされる日なども含まれます。
③ 使用者から賃金を受けていないこと
休業期間につき、使用者から賃金(休業手当を含む)が支給された場合には、その支給額が休業補償給付から控除される点に注意が必要です。 -
(2)休業補償給付|計算方法
休業補償給付は、休業4日目以降の休業日数に応じて給付金が支給されます。
支給される給付金の計算方法は、以下のとおりです。- 休業補償給付=給付基礎日額×60%(0.6)×休業日数
- 休業特別支給金=給付基礎日額×20%(0.2)×休業日数
※平均賃金は事故が発生した日の直前3か月で算出する -
(3)休業補償給付|支給期間
休業補償給付が支給される期間は、休業4日目以降、傷病が治癒するまでです。
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(4)休業補償給付|請求手続き
休業補償給付を請求するには、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して、所定の様式による請求書の提出が必要です。
請求書については厚生労働省のホームページ上で公開されているため、会社と主治医の協力を得て作成しましょう。
仮に会社の協力が得られなかったとしても、労働基準監督署に相談すれば、一部の事項は空欄でも請求書を受理してもらうことができます。
なお、休業補償給付の請求権は、休業日の翌日から起算して2年を経過すると時効消滅してしまうため、早めに請求を行うようにしてください。
2、休業補償給付以外に受け取れる労災保険給付の種類と時効
仕事中にケガをしたり、病気にかかったりした場合は、休業補償給付とは別の労災保険給付を受給することも可能です。ここからは、休業補償給付以外に受け取れる労災保険給付を紹介します。
それぞれ消滅時効が設定されているので、時効を迎えてしまう前に手続きを行う必要がある点に注意しましょう。
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(1)療養補償給付
労災によるケガや病気の治療に関しては、療養補償給付を受けることができます。
労災病院または労災保険指定医療機関での治療は、「療養の給付」によって無償で受けることが可能です。それ以外の医療機関における治療は、被災労働者が費用を立て替えたあとに療養の費用の支給を請求することで、療養上必要と認められるものであれば全額の還付を受けられます。
療養の費用の支給請求権の時効期間は、費用を支出が確定した日の翌日から起算して2年です。 -
(2)傷病補償給付
ケガや病気が1年6か月以上治らない場合は、傷病補償給付を受給できますが、傷病補償給付の支給が始まると、休業補償給付の支給は打ち切られることになります。
傷病補償給付への移行は、労働基準監督署長の職権によって行われるため、請求の時効はありません。もっとも、療養開始後1年6カ月が経過しても傷病が治っていないときは、1か月以内に必要書類を労働基準監督署長に提出する必要があります。 -
(3)障害補償給付
ケガや病気が完治することなく障害が残った場合は、障害補償給付を受給できます。
次章で後述しますが、障害補償給付の金額は、認定される障害等級に応じて異なる点に注意してください。
障害補償給付請求権の時効期間は、医師から治癒の診断を受けた日の翌日から起算して5年です。
3、労災によるケガの治癒後に障害が残ってしまった場合の注意点
労災により負ったケガが完治せずに障害が残った場合、受給できる障害補償給付の金額は、障害等級に応じて決まります。注意しなければならないことは、障害補償給付は損害全額を補填するものではないという点です。
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(1)障害補償給付の額は、障害等級に応じて決まる
障害補償給付の金額は、労働基準監督署によって認定される障害等級に応じて、以下のとおり定められています。
障害等級 障害補償給付
(1級から7級は年金、8級から14級は一時金)
※給付基礎日額に基づく障害特別支給金 障害特別年金
※算定基礎日額に基づく障害特別一時金
※算定基礎日額に基づく第1級 313日分 342万円 313日分 - 第2級 277日分 320万円 277日分 - 第3級 245日分 300万円 245日分 - 第4級 213日分 264万円 213日分 - 第5級 184日分 225万円 184日分 - 第6級 156日分 192万円 156日分 - 第7級 131日分 159万円 131日分 - 第8級 503日分 65万円 - 503日分 第9級 391日分 50万円 - 391日分 第10級 302日分 39万円 - 302日分 第11級 223日分 29万円 - 223日分 第12級 156日分 20万円 - 156日分 第13級 101日分 14万円 - 101日分 第14級 56日分 8万円 - 56日分
- ※給付基礎日額=労働基準法上の平均賃金
- ※算定基礎日額=被災前1年間に支払われた3か月を超える期間ごとに支払われる賃金の総額÷当該期間の暦日数
障害等級の認定に当たっては、医師の診断書が重要な役割を果たしますので、主治医と相談しながら申請を行いましょう。
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(2)労災保険ではカバーされない損害がある
労災保険給付は、被災労働者の個別具体的な状況にかかわらず、画一的に金額が定まるものです。
したがって、ケガや病気による逸失利益(本来得られるはずだった利益)や休業損害などについて、その全額が補填されるとは限りません。また、労災保険給付によっては、被災労働者が受けた精神的損害(慰謝料)も補償の対象外です。
このように、労災保険給付ではカバーされない損害があるということは理解しておきましょう。そして、これらの損害について、被災労働者が補償を受けるためには、使用者(会社)に対して損害賠償請求を行う必要がありますが、次章で説明するように一定の要件を満たさなければなりません。
4、会社への損害賠償請求が可能なものや請求手順とは
被災労働者は、発生した労災の内容次第で、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
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(1)会社に対する損害賠償請求の要件
会社に対する損害賠償請求は、使用者責任または安全配慮義務違反の要件を満たさなければなりません。
① 使用者責任(民法第715条第1項)
会社の従業員の故意または過失による行為が原因で、被災労働者が業務中にケガを負った場合には、原則として会社の使用者責任が発生します。
ただし、会社が従業員の選任及び事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、例外的に使用者責任が発生しません。
② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社が、生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるような配慮を怠った結果、被災労働者が業務中にケガを負った場合には、会社の安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任が発生します。
たとえば、業務用機械の整備不良や、安全対策の不徹底が原因で被災した場合などは、安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
会社を相手に損害賠償を請求できるかどうか、法的な観点から適切に判断するためにも、弁護士へのご相談をおすすめいたします。 -
(2)会社に対して賠償を請求できる損害の種類
被災労働者が会社に対して損害賠償を請求できるのは、労災によって被ったすべての損害のうち、労災保険給付によって補填されていない部分です。
たとえば、以下のようなものが該当します。- 治療費
- 通院交通費
- 付添費
- 介護費
- 休業損害
- 慰謝料
- 逸失利益
会社に対して損害賠償請求を行う際には、すべての損害を調査・検討・把握したうえで進めていくようにしましょう。 -
(3)会社に対する損害賠償請求の手続き
会社に対する損害賠償請求は、以下の各手続きを通じて行います。
① 協議
会社と話し合って、損害賠償の金額などを決定します。
② 労働審判
裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、労働審判によって解決を図ります。
審理が原則として3回以内で終結するため、迅速な解決が期待できるでしょう。
もっとも、一方当事者が労働審判の内容に納得ができない場合は、訴訟に移行することもあります。
③ 訴訟
裁判所の公開の法廷にて、損害賠償請求権の存否について主張・立証を行います。
訴訟の中であっても和解が可能ですが、和解できなかった場合は、判決によって結論が決まります。
弁護士は、協議・労働審判・訴訟などの手続きについて、代理人として被災労働者をサポートいたします。労災の被害に遭い、会社に対する損害賠償請求を検討している方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
労災によってケガをし、または病気にかかって仕事を休んだ場合には、治療だけでなくリハビリによる休業の際にも、労災保険から休業補償給付を受け取れます。
それ以外にも、療養補償給付・傷病補償給付・障害補償給付などを受給できますが、すべての損害が補填されるわけではありません。
場合によっては、会社に対する損害賠償請求が可能なケースもあるため、労災による損害につき、十分な賠償・補償を受けたいとお考えの方や、障害等級に関するサポートをしてほしいという方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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