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労働災害(労災)コラム

労災保険でギプスなどの治療用装具費を請求したい|様式第7号の申請

更新:2023年07月27日
公開:2023年07月27日
  • 労災
  • 装具
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労災保険でギプスなどの治療用装具費を請求したい|様式第7号の申請

労災で骨折してギプスを装着することになれば、患者が自費で購入しなければならない場合がありますが、労災保険から療養(補償)給付として補償され、事後に払い戻しを受けることができます。

このほかにも、労災でケガをした場合、症状によっては、コルセットや松葉杖などのさまざまな治療用装具(治療用材料を含む)が必要となる可能性がありますが、治療に必要な治療用装具費は、労災保険の補償対象となります。

本コラムでは、治療用装具費の請求方法や必要な書類などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労災保険でギプスや義足などの治療用装具費は請求できる

  1. (1)治療用装具費は療養(補償)給付で補償される

    ギブス・コルセット・松葉杖などの治療用装具費は、労災保険の療養(補償)給付として補償を受けることができます。療養(補償)給付とは、労災保険の給付の1つで、治療費・入院の費用・看護料・移送費など、療養のために通常必要な費用を補償するものです。

    療養に該当する行為は、労働者災害補償保険法13条2項で、次のとおり定められています(さらに具体的な内容は、政府が定めるとされています)。

    • ① 診察
    • ② 薬剤または治療材料の支給
    • ③ 処置、手術その他の治療
    • ④ 居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護
    • ⑤ 病院または診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護
    • ⑥ 移送
  2. (2)治療用装具の具体例

    治療用装具の補償を受けるための条件は、各治療用装具によって異なります。また、現物支給されるものもあれば、いったんは患者が立て替えて事後に払い戻しを受けるものもあり、補償を受けるまでの流れもさまざまです。

    なお、実際に補償対象に該当することの多いコルセット・固定装具・松葉杖などは、立て替えたうえで事後に払い戻しを受けることが原則とされています。

    労災保険で補償の対象となる治療用装具の条件や補償の方法などは、次のとおりです。

    • 人工膀胱:尿路障害者に支給
    • 人工肛門受便器:人工肛門造設者に支給
    • 浣腸剤:せき髄損傷等神経系の障害による便秘症のある患者で、自力による排便管理の訓練を行っている者に支給
    • ソフトコンタクトレンズ:視力の屈折矯正のために使用するソフトコンタクトレンズは対象外
    • 義眼:眼球摘出後眼窩保護用として支給
    • 義歯:義歯を業務災害により破損した場合は、これに要する修理は療養補償対象
    • コルセット:療養上必要あるコルセットは、療養の給付として支給すべき治療材料に属するものとして、療養費の範囲として支給
    • 固定装具
    • 歩行補助器・松葉杖:医療機関がこれを本人に貸与すべきであるが、療養目的をもって自己が購入した場合は、療養費として支給
    • 義肢装着前の訓練用装具(練習用仮義足):診療担当医の指示・指導のもとに使用する場合、1回に限り、治療用装具として実費相当額を支給
    • 固定用伸縮性ホウタイ(ポリネック)
    • 保護帽子
    • 滅菌ガーゼ
    • フローテーションパッド

    このように、治療に必要な治療用装具は、その多くが労災保険で補償の対象となります。

    また、労災保険で補償される治療用装具は、健康保険で支給の対象となっているものに加えて、労災保険独自で支給の対象とされているものもあります。したがって、健康保険よりも補償の範囲が広いといえるでしょう。

2、労災保険で治療用装具費を請求する方法・期限は?

労災保険から治療用装具費の補償を受けるためには、いったんは患者で必要な費用を立て替えた後で、労災保険の給付の申請を行い、払い戻しを受けることとなります。

ここでは、義肢を例に、労災保険の給付申請の流れをご紹介します。
治療用装具によっては手続きに異なる点がありますので、事前の確認をお願いします。

  • ① 労災病院を受診する
  • ② 医師から処方を発行してもらう
  • ③ 医師から、労災の請求書(後でお伝えする様式第7号または16号の5)に証明を記入してもらう
  • ④ 患者が業者に義肢の費用を立て替え払いする
  • ⑤ 業者から領収書・内訳書(費用内訳に関する明細書)を受け取る
  • ⑥ 労働基準監督署に治療用装具費の給付を申請する
  • ⑦ 労働局から払い戻しを受ける

治療用装具費の給付を申請するためには、「療養(補償)給付たる療養の費用請求書(様式第7号または第16号の5)」を労働基準監督署に提出する必要があります。これらの書類は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることが可能です。

なお、様式第7号は業務災害のときに使用し、第16号の5は通勤災害のときに使用するものです。迷ったときは申請先の労働基準監督署に確認してください。

また、請求書を提出する際には、かかった費用の明細書と領収書を添付する必要があり、このほかにも、労働基準監督署から、必要な処理の提出を求められることがあります。

治療用装具費の補償は、2年で時効にかかり消滅します。必ず期限内に手続きを行うようにしましょう。

3、治療用装具費以外にも、通院費(移送費)を請求することも可能

  1. (1)通院費の支給条件

    治療用装具費以外にも、労災保険では、「移送費」として、通院のためにかかった通院費(交通費)・病院までの搬送費・転院や退院のための交通費などについても、補償を受けることができます。

    まずは、最も利用することが多いと思われる通院費についてお伝えします。

    通院費の補償を受けるための前提条件は、原則として、ご自宅または会社から病院まで片道2km以上離れている場合の通院です。なお、仕事を中抜けして会社から通院するような場合の通院費も、補償の対象となります。

    そのほかにも、以下の条件のいずれかに該当する必要があります。

    • 同一市町村内にある適切な医療機関へ通院・受診した場合
    • 同一市町村内に適切な医療機関がないため、隣接の市町村内にある労災病院を受診した場合(隣接市町村の医療機関のほうが通院しやすいときも含む)
    • 同一市町村内にも隣接する市町村内にも適切な医療機関がないため、それ以外の市町村を超えた最寄りの医療機関を受診した場合

    具体的には、通院にかかった実費相当額が給付されます。ただし、労災病院や労災保険指定医療機関に通院した場合は、通院費が支給されない可能性がありますので、注意が必要です。

    労災病院の一覧は、厚生労働省の「労災保険指定医療機関検索」のウェブサイトで検索することができます。

  2. (2)通院費の申請方法

    通院費(移送費)の給付を申請するためには、治療用装具費のときと同じく、「療養(補償)給付たる療養の費用請求書(様式第7号または第16号の5)」を労働基準監督署に提出する必要があります。

    業務災害のときは様式第7号を使用し、通勤災害のときは第16号の5は使用することも、治療用装具費のときと同じです。

    かかった費用の明細書と領収書を添付する必要があること、2年で時効にかかって消滅することも同じです。

  3. (3)その他の移送費

    その他の移送についても、補償を受けるための条件を知っておきましょう。なお、申請の方法などは、通院費と同じです。

    ① 災害現場等から医療機関への搬送費
    • 災害現場から医療機関へ傷病労働者を緊急に移送する場合
    • 療養中の傷病労働者の状態が悪化し、入院の必要が生じたために、自宅等から医療機関に収容する場合

    ② 転医等に伴う移送
    • 労働基準監督署長の勧告による転医のための移送
      ・ 労働基準監督署長が転医を必要と認めて傷病労働者に転医を勧め、患者がその勧められた医療機関に転医する場合
    • 医師の指示による転医のための移送
      ・ 療養を行っている医療機関が、その傷病の診療に関して専門外である場合や、患者の傷病からみて、その医療機関の諸設備では十分な診療ができない場合
      ・ 病状の経過がおもわしくない場合に、主治医の指示によって、他の専門医の対診を受け、あるいは転医が必要な場合
      ・ 主治医が傷病の状態からみて、転地療養あるいは帰郷療養が必要であると認め、その指示により転地または帰郷する場合
      (※主治医の指示とは、当該医療機関への転医等が療養上の必要性に基づく適切な指示であると認められる必要があり、転医先医師との個人的なつながりや患者の希望を単に是認する等の理由で行われる場合は、移送費の支給対象とはなりません)
    • 医師の指示による退院に伴う移送
      ・ 入院して診療を受けていた傷病労働者が、その病状が良好な経過をたどり入院治療を必要としなくなったため、医師の指示により退院して帰宅する場合

4、労災保険の給付申請に関する主な相談先

実際に申請するとなると、どのように記入すればよいのか、必要な添付書類は何かなど、不明な点や疑問が生じることが少なくないと考えられます。このようなときには、自分で判断したり、放置したりするのではなく、関係機関や専門家に相談したうえで対応すべきです。特に、時効によって請求できる権利が消滅するおそれがありますので、後回しにしないよう注意しましょう。

労災に関する相談先としては、厚生労働省・労働局・労働基準監督署、各都道府県の労働相談(東京都であれば労働相談情報センター)、社会保険労務士会総合労働相談所、(東京都であれば)東京都行政書士会市民相談センターなどが考えられます。

なお、労災の発生に関して会社に責任(安全配慮義務違反や使用者責任)がある場合には、労災保険から受けられる補償とは別に、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償を請求することが可能です。会社への損害賠償請求では、労災では補償されない精神的苦痛に対する慰謝料も請求することができます。

会社への損害賠償請求を行う場合には、その前提として労災申請手続きへのサポートを行うことができる場合がありますので、弁護士にご相談ください。弁護士であれば、損害賠償請求について会社と交渉を始める段階から、代理人として対応可能です。

5、まとめ

労災保険は、給付の種類が多く、給付ごとに請求書の様式も異なります。具体的に、どのように手続きを行えばよいか、不安や分からない点も少なくないでしょう。そのまま放置していれば、時効にかかって請求できなくなるおそれがありますので、不明な点などがあれば、まずは厚生労働省(労働局・労働基準監督署)に相談してください。

また、会社に対して責任を問える事項があり、損害賠償を考えている場合には、弁護士への相談をおすすめします。ベリーベスト法律事務所では、労働災害問題についての知見が豊富な弁護士が専門チームを結成し、対応しています。交渉から労働審判・訴訟に至るまで代理人としてサポートし、適正な解決に導けるよう、力を尽くします。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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