
労働災害によって大切なご家族が亡くなってしまった場合、ご遺族の方は、労災保険から一定の補償を受けることができます。労災保険は、残された家族に対する生活保障という意味でも重要な補償となりますので、しっかりと請求することが大切です。
しかし、労災保険はあくまで最低限の補償でもあるため、それだけでは不充分である場合も多々あります。そのような際には、会社に対して損害賠償を請求することを検討しましょう。
本コラムでは、労働災害による死亡事故が発生した場合に遺族が受け取ることができる給付金とその申請方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労災が認められた死亡事故のケース
職場などで発生した事故によって大切なご家族が亡くなってしまった場合には、労働災害(労災)が認定される可能性があります。
以下では、労働災害による死亡事故について、具体的な事例を紹介いたします。
この事例では、労働者はフォークリフトを使用して貨物自動車の荷台から荷を下ろすために、貨物自動車の荷台に乗り、フォークリフトのフォークにロープを結びつける作業をしていたところ、バランスを崩して2メートルの高さから転落し亡くなりました。
本件では、作業中に保護帽の着用や墜落防止措置を講じていなかったことが死亡事故の原因であるとされて、労働災害が認定されています。
② 高所作業車から墜落した
設備改修工事において、高所作業車を使用して作業を行っている最中に、約5メートル下の床に墜落し、亡くなった事例です。
本件では、作業中に墜落制止用器具を使用していなかったことが死亡事故の原因であるとされて、労働災害が認定されました。
③ 稼働中のコンペアに巻き込まれた
この事例では、労働者はリサイクル工場内において清掃作業に従事していました。そして、労働者が稼働中のコンベヤーの異物を取り除こうとしたところ、コンベヤーに巻き込まれて亡くなりました。
本件では、コンベヤーを運転させたまま清掃作業を行ったことやコンベヤー回転体の覆いの取り外しを禁止する措置が講じられていなかったことが死亡事故の原因であるとされて、労働災害が認定されました。
④ 原動機付自転車で走行中に接触事故が起きた
労働者が、介護利用者宅から原動機付自転車を運転して事務所に戻る途中に、後方を走行中のダンプトラックの後輪と接触する事故に遭い、亡くなりました。
本件も、労働災害と認定されています。
このように、交通事故であっても、業務中に発生したものであれば、労働災害として認定される可能性があるのです。
2、死亡事故で遺族に支払われる主な給付金
死亡事故が労働災害と認められた場合には、労災保険から給付金を受け取ることができます。
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(1)労災保険から支払われる給付金
死亡事故が発生した場合に、労災保険から支払われる給付金には、以下のようなものがあります。
- 遺族補償給付 遺族補償給付とは、労働者が業務上の負傷などによって死亡した場合に、被災労働者の遺族に対して支払われる補償です。
- 葬祭料 葬祭料とは、労働者が業務上の負傷などによって死亡した場合に、被災労働者の葬儀に要した費用が補償される制度です。
遺族補償給付には、「遺族補償年金」と「遺族補償一時金」の2種類が含まれます。
遺族補償年金は、被災労働者の収入によって生計を維持していた家族の生活保障を目的とした給付です。したがって、遺族補償年金を受給することができる遺族は、被災労働者の収入によって生計を維持していた配偶者・子ども・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹に限られます。
遺族補償一時金は、遺族補償年金を受給することができる遺族がいないときなどに支払われる補償となります。
葬祭料は遺族補償給付とは異なり、遺族の生活を保障するためではなく葬儀代を補塡(ほてん)するために支払われます。そのため、受給対象者は遺族に限られず、実際に葬祭費を支出した方が対象になります。
なお、葬儀に要した費用のすべてが給付されるというわけではありませんので注意が必要です。 -
(2)労災保険から支払われないお金
死亡事故が発生した場合には、労災保険から遺族補償給付や葬祭給付などが支給されます。そのため、残された家族も、一定の生活保障を受けることができます。
しかし、被災労働者の収入によって生計を維持していた家族としては、一家の大黒柱を失うことによる損害が、労災保険からの給付だけでは十分に補償されることはありません。
たとえば、大切な家族を失った遺族は多大な精神的苦痛を被ることになりますが、労災保険からは、被災労働者本人および遺族が被った精神的苦痛に対する損害賠償金である「慰謝料」は一切支払われないのです。
慰謝料やその他の損害の賠償は、労災保険ではなく、労災を起こした会社に対して請求する必要があります。
ただし、労働基準監督署から労働災害が認定されたとしても、会社に対する損害賠償請求が常に認められるというわけではありません。会社に対して損害賠償を請求するためには、労働災害に関する会社の責任を、法律的に立証する必要があるのです。
そのため、損害賠償を請求する際には、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
3、給付金別|受け取ることができる金額
では、死亡事故が発生した場合に、労災保険からはいくら程度の給付金が支払われるのでしょうか。
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(1)遺族補償給付の金額
遺族補償給付には遺族補償年金と遺族補償一時金がありますが、それぞれの金額の計算方法は大きく異なります。
【遺族補償年金】
遺族補償年金が給付される対象となる方には、「遺族特別支給金」と「遺族特別年金」も給付されます。
遺族補償年金は、遺族の人数が1人の場合には、給付基礎日額の153日分(妻が55歳以上または一定の障害状態にある場合は175日分)の金額が、年金として毎年支給されます。
「給付基礎日額」とは、労働基準法の平均賃金に相当する額のことです。
具体的には、事故直前の3か月間に支払われた賃金総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を暦日数で割った1日あたりの賃金額となります。
- 遺族特別支給金
遺族補償年金の受給者には、遺族特別支給金として300万円の一時金も支給されます。
年金とは異なる一時金であるため、支給を受けることができるのは1回限りです。 - 遺族特別年金
遺族の人数が1人の場合には、算定基礎日額の153日分(妻が55歳以上または一定の障害状態にある場合は175日分)の金額が、年金として毎年支給されます。
「算定基礎日額」とは、事故直前の1年間に支払われた賃金のうち、給付基礎日額の算定から除外されていたボーナスを含んだ賃金総額を365日で割った1日あたりの賃金額です。
【遺族補償一時金】
遺族補償一時金が給付される対象となる方には、「遺族特別一時金」と「遺族特別支給金」、も支給されます。
遺族補償一時金は、被災労働者の死亡当時、遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合には、受給権者に対して、「給付基礎日額」の1000日分の金額が一時金として支給されます。
また、遺族補償年金の受給権者がすべて失権したときなどには、給付基礎日額の1000日分から既に支給された遺族補償年金などの合計額を差し引いた金額が、一時金として支給されるのです。
- 遺族特別一時金
被災労働者の死亡当時、遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合には、受給権者に対して、「算定基礎日額」の1000日分の金額が一時金として支給されます。
また、遺族補償年金の受給権者がすべて失権したときなどには、算定基礎日額の1000日分から既に支給された遺族特別年金の合計額を差し引いた金額が、一時金として支給されるのです。 - 遺族特別支給金
被災労働者の死亡当時、遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合には、受給権者に対して、300万円の一時金が支給されます。
なお、遺族特別支給金は、遺族補償年金の受給権者がすべて失権したときなどには支給されないことに注意してください。
- 遺族特別支給金
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(2)葬祭給付の金額
葬祭給付の金額は、以下のいずれかのうち、多い方の金額となります。
- 31万5000円に給付基礎日額30日分を加えた金額
- 給付基礎日額の60日分
4、請求手続きの流れ
前述したように、労働災害による死亡事故が発生した場合には、「遺族補償給付」および「葬祭給付」を請求することができます。では、具体的な請求手続きの流れについて、確認していきましょう。
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(1)遺族補償給付の請求手続き
遺族補償給付の請求をする場合には、所轄の労働基準監督署に対して、書類を提出する必要があります。これらの書類は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができますが、労働基準監督署の窓口で入手することも可能です。
① 族補償年金を請求する場合に必要な書類- 「遺族補償年金・複数事業労働者遺族年金支給請求書(様式第12号)」(業務災害の場合)
- 「遺族年金支給請求書(様式第16号の8)」(通勤災害の場合)
また、上記の書類を提出する際には、添付書類として、以下の書類も一緒に提出する必要があります。
- 被災労働者の死亡を証明する書類(死亡診断書、死体検案書、検視調書など)
- 被災労働者と受給資格者の身分関係を証明する書類(戸籍謄本など)
- 被災労働者の収入で生計を維持していたことを証明する書類
② 族補償一時金を請求する場合に必要な書類- 「遺族補償一時金・複数事業労働者遺族一時金支給請求書(様式第15号)」(業務災害の場合)
- 「遺族一時金支給請求書(様式第16号の9)」(通勤災害の場合)
また、上記の書類を提出する際には、添付書類として、以下の書類も一緒に提出する必要があります。- 被災労働者の死亡を証明する書類(死亡診断書、死体検案書、検視調書など)
- 被災労働者と受給資格者の身分関係を証明する書類(戸籍謄本など)
- 被災労働者の収入で生計を維持していたことを証明する書類
なお、遺族補償給付の申請は、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年経過すると時効によって請求権が消滅してしまいます。
したがって、請求権を消滅させないために、早めに手続きを行うようにしましょう。 -
(2)葬祭料の請求手続き
葬祭料の請求をする場合には、所轄の労働基準監督署に対して、以下のような書類を提出する必要があります。遺族補償給付の場合と同じく、これらの書類は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。また、労働基準監督署の窓口で入手することも可能です。
- 「葬祭料又は複数事業労働者葬祭給付請求書(様式第16号)」(業務災害の場合)
- 「葬祭給付請求書(様式第16号の10)」(通勤災害の場合)
葬祭料の場合にも、遺族補償給付と同様に死亡診断書、戸籍謄本などの添付書類が必要になります。ただし、遺族補償給付を請求した際にすでに提出している場合には、再度提出する必要はありません。
なお、葬祭料は、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年経過すると時効によって請求権が消滅してしまいます。遺族補償給付の時効よりも期限が短い点に注意してください。
5、まとめ
労働災害が原因で労働者が死亡されると、被災労働者の収入で生計を維持していた遺族は、大切な家族が亡くなられたことによる精神的苦痛に苦しむだけでなく、将来の生活に関しても金銭的に多大な不安が生じることになるでしょう。
労災保険では、被災労働者の遺族の方の生活を保障するために、遺族補償給付などの各種補償制度が設けられています。遺族の方は、まずは労災保険からしっかりと補償をもらうようにしましょう。
しかし、労災保険から給付される補償だけでは精神的苦痛に対する損害賠償である慰謝料が請求されず、その他の面でも十分な補償は得られません。したがって、死亡事故によって受けた損害の賠償を適切に請求するためには、労働災害を起こした会社の責任を追及する必要もあるのです。
会社に対する損害賠償を請求する際には、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠になります。ベリーベスト法律事務所では、会社に対して損害賠償を検討されているご遺族の方をサポートしております。まずは、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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