労働災害には、業務災害・通勤災害の2種類があります。これらの労働災害により怪我、病気、負傷、死亡の結果が生じてしまうと、治療費や働けない期間中の生活費などさまざまな損害が発生します。そのような損害は、8種類の労災保険給付により補塡(ほてん)することが可能です。
どのような補償を受けられるかは、労災による被災状況によって異なりますので、適切な補償を受けるためにもしっかりと理解しておくことが大切です。
今回は、2種類の労働災害と8種類の労災保険給付について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労働災害は2種類ある
労働災害には、業務災害・通勤災害という2つの種類があります。以下では、それぞれの労災の概要や具体例を説明します。
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(1)業務災害
業務災害とは、業務上の負傷、疾病、障害または死亡をいいます。業務上といえるかどうかについては、業務と傷病などとの間に一定の因果関係があることが必要です。労働者が労災保険の適用される事業所に雇われて働いていることが原因となり発生した災害に対して、労災保険給付が行われます。
業務災害にあたる代表的なケースとしては、以下のものが挙げられます。- 倉庫作業中に熱中症になり死亡したケース
- 工場内のプレス機の操作を誤り、手首を切断したケース
- フォークリフトで走行中の同僚と接触して怪我をしたケース
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(2)通勤災害
通勤災害とは、通勤より労働者が被った負傷、疾病、障害または死亡をいいます。通勤災害の対象となる通勤とは、以下のいずれかの移動を合理的な経路および方法で行うものをいいます。
- 住居と就業場所との間の往復
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
- 就業場所から他の就業場所への移動
通勤災害にあたる代表的なケースとしては、以下のものが挙げられます。- 会社から自転車で帰宅中に転倒して怪我をしたケース
- 車で通勤している途中に追突されたケース
- 通勤中に駅の階段で転倒して怪我をしたケース
2、労災保険から受けられる補償の種類
労災保険から受けられる補償の種類には、以下の8種類があります。
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(1)療養(補償)等給付
労働災害による傷病で治療を受ける場合には、療養(補償)等給付が支給されます。
傷病の治療を労災保険指定医療機関で受ける場合には、窓口での治療費の負担はありませんが、労災保険指定医療機関以外で治療した場合には、いったん窓口で治療費の支払いが必要になります。被災労働者が負担した治療費は、後日、労働基準監督署に申請することで還付を受けることができます。 -
(2)休業(補償)等給付
労災による傷病の療養のため働くことができない場合には、休業(補償)等給付が支給されます。
休業(補償)等給付は、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%相当の金額が支払われます。また特別支給金として、休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の20%相当の金額が支払われますので、合計で収入の80%相当の金額が補償されます。 -
(3)傷病(補償)等給付
労働災害による傷病が療養を開始してから1年6か月を経過しても治癒せず、その傷病の傷害の程度が傷病等級に該当する場合には、休業(補償)等給付に代わって傷病(補償)等給付が支給されます。
傷病(補償)等給付は、障害の程度に応じて以下のような一時金と年金が支給されます。傷病等級1級 - 給付基礎日額の313日分の傷病(補償)年金
- 算定基礎日額の313日分の傷病特別年金
- 114万円の傷病特別支給金(一時金)
傷病等級2級 - 給付基礎日額の277日分の傷病(補償)年金
- 算定基礎日額の277日分の傷病特別年金
- 107万円の傷病特別支給金(一時金)
傷病等級3級 - 給付基礎日額の245日分の傷病(補償)年金
- 算定基礎日額の245日分の傷病特別年金
- 100万円の傷病特別支給金(一時金)
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(4)障害(補償)等給付
労災による傷病が症状固定の状態に至り、一定の障害が残った場合には、障害の程度に応じて、障害(補償)等給付が支給されます。
障害等級1級から7級までに該当する障害が残ったときは、給付基礎日額の313日分から131日分の傷害(補償)年金と、算定基礎日額の313日分から131日分の障害特別年金が、障害等級8級から14級までに該当する障害が残ったときは、給付基礎日額の503日分から56日分の障害(補償)一時金と、算定基礎日額の503日分から56日分の障害特別一時金が支給されます。 -
(5)遺族(補償)等給付
被災労働者が労働災害により死亡してしまった場合には、被災労働者の遺族に対して、遺族(補償)等給付が支給されます。
遺族(補償)等年金の対象となる遺族がいる場合には、対象となる遺族の数に応じて以下の年金及び一時金が支給されます。遺族が1人 - 給付基礎日額の153日分の遺族(補償)年金
- 算定基礎日額の153日分の遺族特別年金
- 300万円の遺族特別支給金(一時金)
遺族が2人 - 給付基礎日額の201日分の遺族(補償)年金
- 算定基礎日額の201日分の遺族特別年金
- 300万円の遺族特別支給金(一時金)
遺族が3人 - 給付基礎日額の223日分の遺族(補償)年金
- 算定基礎日額の223日分の遺族特別年金
- 300万円の遺族特別支給金(一時金)
遺族が4人以上 - 給付基礎日額の245日分の遺族(補償)年金
- 算定基礎日額の245日分の遺族特別年金
- 300万円の遺族特別支給金(一時金)
遺族(補償)等年金の対象となる遺族がいない場合には、給付基礎日額の1000日分の遺族(補償)一時金、算定基礎日額の1000日分の遺族特別一時金、300万円の遺族特別支給金が支払われます。
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(6)葬祭料等(葬祭給付)
労働災害により死亡した被災労働者の葬祭を行った場合には、葬祭料等(葬祭給付)が支給されます。
葬祭料等(葬祭給付)の金額は、以下のいずれかのうち高い方の金額になります。- 31万5000円+給付基礎日額の30日分
- 給付基礎日額の60日分
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(7)介護(補償)等給付
障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金の受給者のうち、以下の条件に該当する被災労働者には、介護(補償)等給付が支給されます。
- 障害(傷病)等級1級または2級が認定されていること
- 現に介護を受けていること
介護(補償)等給付の金額は、常時介護であるか随時介護であるかによって、以下のように変わってきます(令和6年4月1日時点)。- 常時介護:月額8万1290円~17万7950円
- 随時介護:月額4万600円~8万8980円
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(8)二次健康診断等給付
職場の健康診断で異常所見が認められ、以下のいずれにも該当する場合には、二次健康診断等給付として、1年度内に1回、無料で特定保健指導を受けられます。
- 血圧検査、血中脂質検査、血糖検査、腹囲またはBMIの測定のすべての検査で異常所見があると診断されていること
- 脳疾患または心臓疾患の症状を有していないと認められること
3、労災保険の申請手続きの流れ
労災保険の申請をする場合には、以下のような流れになります。
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(1)会社に労働災害の発生を報告する
労働災害が発生した場合、まずは会社に報告を行います。
労災保険の申請の際には、事業主の証明を受ける必要がありますので、スムーズに事業主証明をもらうためにも速やかな報告が大切です。 -
(2)病院で治療を受ける
労働災害により傷病を負った場合には、病院での治療を行います。
労災保険指定医療機関を受診する場合には、窓口で労災の治療である旨を伝え、以下の書類を提出します。- 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号:業務災害の場合)
- 療養給付たる療養の給付請求書(様式16号の3:通勤災害の場合)
労災保険指定医療機関以外を受診した場合には、被災労働者は、いったん窓口で治療費を支払い、後日、労働基準監督署に申請するという流れになります。 -
(3)労働基準監督署で労災保険給付申請を行う
労災保険指定医療機関以外を受診した場合には、以下の書類に病院および事業主の証明を受けたうえで、労働基準監督署に提出します。
- 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号:業務災害の場合)
- 療養給付たる療養の給付請求書(様式16号の3:通勤災害の場合)
なお、労働基準監督署への申請の際には、病院の領収書やレシートなどが必要になりますので、それまで大切に保管しておきましょう。
また、労働災害により4日以上の休業が発生した場合には、以下の書類に事業主の証明を受けたうえで、労働基準監督署に提出します。- 休業補償給付支給請求書(様式8号:業務災害の場合)
- 休業給付支給請求書(様式16号の6:通勤災害の場合)
4、労働災害による会社への損害賠償請求は弁護士にご相談を
労働災害に遭った場合には、ここまで説明したような労災保険からの補償を受けることができますが、それだけでは十分な補償とはいえない場合があります。法的に労働災害の責任が会社にあると認められる場合には、労災保険からの補償だけでは不足する部分について、会社に対して請求することができますので、まずは弁護士にご相談ください。
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(1)労働災害による会社の法的責任の有無を判断できる
労働基準監督署による労災認定を受けたからといって、直ちに会社に対して損害賠償請求ができるわけではありません。会社に対して損害賠償請求をするためには、会社に債務不履行責任(安全配慮義務違反)や不法行為責任といった法的責任が生じていることが必要になります。
このような法的責任の有無を判断するには、法律の知識や経験が不可欠になりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談をすれば、労働災害による会社の法的責任の有無を適切に判断し、必要な証拠収集などのアドバイスが得られるでしょう。 -
(2)労働者に代わって会社と交渉できる
会社に労働災害の法的責任が認められる場合には、まずは会社との交渉により損害の賠償を求めていきます。
しかし、労働者個人では会社がまともに取り合ってくれないことも多く、労働災害により傷病を負った状態では肉体的にも精神的にも負担が大きいといえます。
弁護士であれば労働者の代わりに会社との交渉を行うことができますので、被災労働者の負担は大幅に軽減されます。また、会社も弁護士が窓口になれば対応せざるを得なくなりますので、交渉での解決の可能性が高くなるといえます。 -
(3)労働審判や訴訟手続きを任せることができる
会社との交渉で解決できない場合には、労働審判の申し立てや訴訟提起が必要になります。
弁護士に依頼をしていれば、交渉から引き続き労働審判や訴訟手続きを任せることができるため安心です。労働審判や訴訟手続きは、法的知識や経験がない方では適切に進めていくのが困難ですので、弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう。
5、まとめ
労働災害に遭った場合には、労災保険からさまざまな補償が受けられます。一見すると十分な補償がなされるようにも思えますが、労災保険からは慰謝料が支払われず、逸失利益なども十分な補償とはいえません。そのため、労災保険では賄えない部分については、会社への損害賠償請求を検討しなければなりません。
会社への損害賠償請求にあたっては、弁護士のサポートが必要になりますので、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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