労災により怪我をしてしまったり、病気になってしまったりした場合、治療やリハビリのために仕事を休まなければなりません。そうすると、会社を休んでいる期間の収入がなくなってしまうため、経済的な不安を感じる方もいるでしょう。
労災による休業で給料が減ってしまう場合には、労災保険や会社から休業補償が支払われるため、経済的な不安なく治療に専念することができます。ただし、休業補償だけでは十分な補償とはいえず、別途会社への損害賠償請求なども検討していくことが必要です。
今回は、労災による休業で給料が減ったときの補償について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労災で働けなくなると給料は減る? ボーナスは?
最初に、労災で働けなくなった場合の給料やボーナスの扱いについて、解説していきます。
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(1)労災で休むと給料は減る?
労災により病気になったり、怪我を負ったりした場合には、治療やリハビリのために会社を休まなければなりません。療養のために働けない期間については、労働契約上の義務を履行していないことになりますので、原則として給料は減額されてしまいます。
しかし、それでは経済的な不安から治療に専念することができないため、労災により休業する場合には、給料の補償制度を利用することで傷病の治療に専念することが可能です。
なお、業務災害により休業した場合、有給休暇の出勤率算定においては、欠勤ではなく出勤扱いになります(労働基準法39条10項)。
そのため、業務災害であれば、会社を休んだとしても有給休暇の算定において不利益が生じることはありません。 -
(2)労災で休むとボーナスは減る?
労災による療養のために会社を休んだ場合、就業規則や賃金規程の定めによっては療養のための休暇が「欠勤」として扱われ、ボーナスが減る可能性があります。
そもそも賞与は、法律上支払いが義務付けられているものではなく、支給するかどうか、支給する際の条件等は、労働契約書や就業規則、賞与規程の内容などによって定められる使用者と労働者との労働契約の内容次第となります。そのため、労災による休業期間について、賞与の算定上「欠勤」として扱うことも違法とはならないこともあります。
また、2章で説明するような休業期間中の給料補償に関し、ボーナスについては労働契約で特別に定めていなければ法律上規定はないので、ボーナスが減額されたとしてもやむを得ないといえるでしょう。
2、労災で働けない間の給料を補償する制度
労災で働けない間の給料を補償する制度として、労働基準法上の保障制度と労災保険法上の保障制度の2つが存在します。以下では、それぞれの給料補償制度の概要を説明します。
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(1)労働基準法上の休業補償
労働基準法では、労働者が労災による療養のために働けなくなった場合、会社は、労働者に対して休業補償を支払わなければならないと規定しています。
労働基準法上の休業補償の金額は、平均賃金の60%です。給料の全額が補償されるわけではありませんが、一定の補償が受けられます(労働基準法76条1項)。
ただし、療養開始後3年を経過しても傷病が治癒しない場合、使用者から平均賃金の1200日分相当の打ち切り補償がなされることで、休業補償の支払いが打ち切りとなる場合があります(労働基準法81条)。 -
(2)労災保険法上の休業(補償)給付
労災による傷病に関しては、労働基準監督署による労災認定を受けることで、労災保険法上の休業(補償)給付が支払われます。この労災保険法上の休業(補償)給付も、労働基準法上の休業補償と同様に、労働者が働けない期間の給料を補償する制度です。
労災保険法上の休業(補償)給付は、給付基礎日額の60%相当の金額に加えて、特別支給金として給付基礎日額の20%相当の金額が補償されます。つまり、給付基礎日額の80%が補償されることになります。
労災保険法上の休業(補償)給付は労災による休業の4日目から支給されるため、1~3日目までは労働基準法上の休業補償、4日目以降は労災保険法上の休業(補償)給付とするのが一般的な扱いです。
3、労災による給料の補償を受ける際の注意点
労災による給料の補償を受ける際には、以下の点に注意が必要です。
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(1)有給休暇と休業(補償)給付の二重取りはできない
休業(補償)給付は、特別支給金を含めても給付基礎日額の80%までしか補償されず、給料を減らさないために有給休暇の併用を考えている方もいるでしょう。
しかし、休業(補償)給付は、労災による療養のため賃金を受け取ることができないときの補償として支払われるものになります。そのため、有給休暇を取得して、休業日に賃金が支払われるのであれば、その日は休業(補償)給付の対象とはなりません。
つまり、有給休暇と休業(補償)給付の二重取りはできないということです。
有給休暇は万が一のときに使えるよう残しておき、基本的には休業(補償)給付で対応するのがよいでしょう。 -
(2)通勤災害では会社から休業補償は支払われない
労働基準法上の休業補償は、業務上負傷し、または疾病にかかった場合に適用される制度です。これを「業務災害」といいます。
これに対して、通勤中に発生した負傷、疾病、障害、死亡を「通勤災害」といいます。
たとえば、通勤中に転倒して怪我をした場合、通勤中に交通事故に巻き込まれて怪我をした場合などがこれにあたります。
このような通勤災害は労働基準法上の休業補償の対象外となり、会社から休業補償の支払いを受けることはできません。
ただし、通勤災害であっても労災保険法上の休業(補償)給付の対象であるため、休業4日目からは、労災保険法上の休業(補償)給付を受けることが可能です。
また、通勤中の交通事故による怪我で、当方が被害者であれば、加害者の保険会社からも休業損害の支払いが受けられるため、休業1日目から3日目までも補償されます。 -
(3)会社に対する損害賠償請求も検討する
労働基準法上の休業補償や労災保険法上の休業(補償)給付により、労働者が働けない期間の給料が補償されますが、給料の全額が補償されるわけではありません。このような場合には、会社に対して損害賠償請求をすることで、不足する部分の支払いを受けられる可能性があります。
ただし、労災によって怪我や病気が生じたからといって、常に損害賠償請求ができるわけではありません。会社に対して損害賠償請求をするには、会社側に落ち度があるといえなければならず、安全配慮義務違反や使用者責任を立証できるケースでなければ、損害賠償請求ができない点に注意が必要です。
労災に関して会社に非がある場合には、会社に対する損害賠償請求も視野に入れて行動していくとよいでしょう。
4、損害賠償請求を検討するときに弁護士に相談するべき理由
労災を理由とする会社への損害賠償請求をお考えの方は、以下のような理由から弁護士に相談するのがおすすめです。
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(1)損害賠償請求の可否を判断できる
会社に対して損害賠償請求をするには、会社側に安全配慮義務違反または使用者責任があるといえなければなりません。これらの判断にあたっては、法的知識や経験が不可欠であるため、一般の労働者の方では、正確に判断するのは困難といえるでしょう。
弁護士であれば、具体的な状況を踏まえて会社に法的責任があるかどうかを判断することができます。会社への責任追及をお考えの方は、まずは弁護士に相談するようにしましょう。 -
(2)労働者の代理人として会社と交渉できる
会社に法的責任があるといえる場合には、会社に対して労災により生じた損害の賠償を求めていくことになります。その方法としては、まずは会社との交渉を行うことが必要です。
しかし、労働者個人で会社を相手に交渉をするのは非常に負担が大きく、立場の弱い労働者が不利な条件で示談を強いられる可能性も少なくありません。
このようなリスクを回避するためにも、会社との交渉は弁護士にお任せください。
弁護士であれば、会社と対等な立場で交渉を進めることができるため、適切な条件で示談できる可能性が高いといえます。また、労働者の手元の証拠だけでは会社の責任を立証するのに不十分という場合には、証拠収集のサポートも行うことが可能です。 -
(3)労働審判や裁判にも対応可能
会社との交渉が決裂した場合、裁判所に労働審判の申立てや訴訟の提起が必要になります。労働者個人では対応が難しいこのような法的手続きについても、弁護士であれば適切に対応することが可能です。
交渉段階から弁護士に依頼をしていれば、労働審判や訴訟の手続きも引き続き任せることができるため、労働者本人の負担は大幅に軽減できるでしょう。
5、まとめ
労災による傷病の治療のために会社を休んだとしても、労働基準法または労災保険法上の補償により、休業中の賃金の補償を受けることができます。これにより、療養期間が長期に及んだとしても、生活費の不安なく治療に専念することが可能です。
ただし、これらは給料の100%を補償するものではないため、労災に関して会社に非がある場合には、会社への損害賠償請求を検討する必要があります。
その際には、弁護士のサポートが不可欠です。労災による損害賠償請求については、労働問題専門チームを編成するベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
知見・経験豊富な弁護士が、誠心誠意、サポートいたします。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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