ベリーベスト法律事務所
労働災害(労災)コラム

労災で高次脳機能障害… 症状の具体例や後遺障害等級の認定基準

更新:2024年04月24日
公開:2022年09月22日
  • 高次脳機能障害
  • 労災
  • 具体例
  • 基準
労災で高次脳機能障害… 症状の具体例や後遺障害等級の認定基準

仕事の種類によっては、業務中にさまざまな危険に巻き込まれるリスクがあります。

たとえば、業務中に頭部に落下物が当たった場合には、脳に損傷を負う可能性があります。それによって、新しいことが覚えられない、物事に集中することができないという症状が出た場合には、高次脳機能障害の可能性があります。

今回は、労災によって生じる高次脳機能障害について、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。

1、高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とはどのような障害のことをいうのでしょうか。以下では、高次脳機能障害の症状について具体的に説明します。

  1. (1)高次脳機能障害の特徴

    高次脳機能障害とは、事故や病気などによって、脳が損傷を受け、認知、行為、記憶、思考、言語、判断、注意の持続などに障害が残ることをいいます。

    高次脳機能障害になると、記憶力や集中力の低下、行動や感情の抑制が効かなくなるなどのさまざまな症状が出てきて、仕事だけでなく日常生活を送ることも困難になることがあります。

  2. (2)高次脳機能障害の症状

    高次脳機能障害には、いくつかの症状が複合的に出現することがあります。高次脳機能障害の代表的な症状としては、以下のものが挙げられます。

    ① 注意障害
    注意障害とは、物事に集中できなかったり、周囲に注意を向けることができなかったりする障害のことをいいます。たとえば、他のことが気になってしまい、仕事をしていても頻繁に手が止まってしまう状態です。

    ② 記憶障害
    記憶障害とは、新しく物事を覚えることができなかったり、過去のことを思い出すことができなかったりする障害のことをいいます。たとえば、自分や家族の名前を思い出すことはできるものの、新しく出会った人の名前を思い出すことができない状態です。

    ③ 遂行機能障害
    遂行機能障害とは、事態の変化に臨機応変に対応することができず、物事の段取りが悪い障害のことをいいます。たとえば、あらかじめ段取りを組んでいたにもかかわらず、その通りに進めることができない状態です。

    ④ 社会的行動障害
    社会的行動障害とは、感情のコントロールがうまくできなかったり、一つのことに固執してしまったりする障害のことをいいます。

    ⑤ 失語症
    失語症とは、聴力や記憶力には問題がないにもかかわらず、話の内容が理解できなかったり、口やのどに麻痺がないにもかかわらず言葉が出てこなかったりする障害のことをいいます。

    ⑥ 失行症
    失行症とは、記憶や手足に障害がないにもかかわらず、食事や文字を書くといった日常的な動作ができなくなる障害のことをいいます。無意識に行っていた動作を意識的に行おうとするとできなくなってしまう症状です。

    ⑦ 失認症
    失認症とは、視力、聴力、感覚に問題がないにもかかわらず、見た物、聞いた物、触った物が何なのかがわからない障害のことをいいます。

2、仕事中の事故による後遺症は「後遺障害」

仕事中の事故が原因で生じた後遺症については、労災認定を受けることによって労災保険から一定の給付を受けることができる可能性があります

  1. (1)仕事中の事故は労災保険の申請が可能

    労災とは、仕事中や通勤中に生じた怪我や病気のことをいいます。労働基準監督署に労災申請を行い、労災認定を受けることによって、治療費や生活費などの補償を受けることができます。

    労災保険の申請は、怪我や病気をした本人が行いますが、仕事中の事故であり会社にも一定の責任があることや労災事故にあった本人の負担を軽減するために、会社が代理で手続きをすることが一般的です。そのため、労災事故にあった場合には、会社の担当者に相談をしてみるとよいでしょう

    会社に相談をしても担当部署がないなどの理由で対応をしてくれない場合には、本人が申請をすることになります。高次脳機能障害が生じるような労災事故にあった場合には、本人だけでは、適切に労災申請を行うことができないと考えられますので、本人の家族が申請を行うか、社会保険労務士などの専門家に依頼をして労災申請を行うとよいでしょう。

  2. (2)症状固定後に後遺症が残っていれば障害等級認定の申請が可能

    労災事故にあった場合には、上記のとおり、労災認定を受けて、労災保険の給付を受けながら治療に専念することになります。治療を継続することによって、症状が完治すればよいですが、脳に損傷を受けた場合には、治療を継続したとしても、それ以上改善が見られないことがあります。

    このように、医学的にみてこれ以上治療をしても症状が改善できない状態のことを「症状固定」といいます。症状固定時点で障害が残っている場合には、障害等級認定の申請をすることが可能です。

    障害等級認定の申請をした結果、後遺障害等級認定を受けることができれば、労災保険から障害(補償)給付を受けることができます。障害(補償)給付とは、症状固定後に障害が残った場合に、認定された障害等級に応じて、年金または一時金の支給を受けることができる制度のことをいいます。

3、高次脳機能障害の等級について

高次脳機能障害と診断された場合には、どのような障害等級認定を受けることができるのでしょうか。以下では、障害等級に応じた給付金と高次脳機能障害の認定基準について説明します。

  1. (1)症状の程度に応じて受け取ることができる給付が変わる

    労災事故によって高次脳機能障害と診断された場合には、症状の程度によって障害等級が変化し、重い症状になれば、労災保険から受け取ることができる給付も手厚いものになります。

    後遺障害等級が第1から7級に該当する場合には、障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金が支給され、第8から14級に該当する場合には、障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。

  2. (2)高次脳機能障害の認定基準

    高次脳機能障害の等級認定は、以下のような認定基準に従って判断されることになります。具体的には、介護が必要な状況かどうかを判断し、常時介護が必要な場合には第1級、随時介護が必要な状態であれば第2級と判断されます。

    介護が必要でない場合でも、意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力など)、問題解決能力(理解力、判断力など)、作業負荷に対する持続力・持久力、社会行動能力(協調性など)といった4能力についてどの程度の支障が生じているかを判断します。

    ① 第1級の3
    高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するものであって、以下のいずれかに該当するもの

    • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
    • 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの


    ② 第2級の2の2
    高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するものであって、以下のいずれかに該当するもの

    • 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
    • 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
    • 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの


    ③ 第3級の3
    生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもので、以下のいずれかに該当するもの

    • 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
    • 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの


    ④ 第5級の1の2
    高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもので、以下のいずれかに該当するもの

    • 4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの
    • 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの


    ⑤ 第7級の3
    高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもので、以下のいずれかに該当するもの

    • 4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの
    • 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの


    ⑥ 第9級の7の2
    通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるものであって、高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているもの

    ⑦ 第12級の12
    通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの

    ⑧ 第14級の9
    通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すものであって、MRI、CTなどによる他覚的所見は認められないものの、脳損傷があることが医学的に見て合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの

4、高次脳機能障害を負った場合は弁護士に相談

労災事故によって高次脳機能障害を負った場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)労災保険ではカバーできない損失がある

    労災認定を受けることによって、労災保険から治療費や休業補償などの給付を受けることができます。また、後遺症に関する障害等級の認定を受けることによって、症状に応じた一時金または年金を受け取ることができます。

    しかし、労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度に過ぎないことから、労災保険では、労災被害にあった労働者が被ったすべての損害をカバーすることはできません。特に、後遺症が生じた場合の逸失利益の補償は不十分であり、慰謝料の支払いもありません。

    そのため、労災保険でカバーできない損害については、労災の原因を引き起こした責任のある会社に対して請求する必要があります

  2. (2)弁護士に依頼することによって弁護士基準で請求することが可能

    高次脳機能障害の後遺症が生じた方は、さまざまな症状によってご自身で会社と交渉を進めていくことが難しい場合があります。弁護士に依頼をすることによって、弁護士が労働者の代理人として会社との間で交渉を進めていくことが可能です。

    弁護士であれば、労災事故の発生について、会社に落ち度があったことを立証するための証拠収集から、複雑な損害額の計算まで損害賠償請求に関する一連の手続きをサポートすることができます

    弁護士に依頼をすることによって、弁護士基準という、より高額な賠償額を算定できる基準で計算をすることができますので、最終的に受け取ることができる金額もご本人が請求する場合よりも高額になる可能性があります。

5、まとめ

高次脳機能障害は、症状によっては日常生活も困難になるような重い障害です。障害等級認定基準も非常に複雑となっていますので、適切な補償や賠償額を得るためには、高次脳機能障害に通じた弁護士のサポートが必要となります。

労災事故によって高次脳機能障害と診断された場合には、早期に弁護士に相談をするようにしましょう。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

同じカテゴリのコラム

労働災害(労災)コラム一覧はこちら