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労働災害(労災)コラム

脳損傷とは? 後遺症を負ったら補償や損害賠償請求はどうすべきか

更新:2023年02月13日
公開:2023年02月13日
  • 脳損傷
  • 後遺症
脳損傷とは? 後遺症を負ったら補償や損害賠償請求はどうすべきか

労働現場などで不慮の事故に遭い、脳損傷(脳挫傷)によって高次脳機能障害などの後遺症を負ってしまった場合、労災保険給付を申請することができます。また、労災保険だけではカバーしきれない損害については、会社に対する損害賠償請求も可能です。

もしご自身やご家族が脳損傷による後遺症に悩まされている場合は、労災保険に加えて損害賠償請求もできる可能性があります。早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

この記事では、脳損傷によって起こり得る後遺症の内容や、後遺症を負ってしまった場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、脳損傷は自覚しにくいケースがある

脳は体全体に指令を出すため、人間の体の中でもっとも重要な組織であるといえます。
そのため、脳損傷を負った場合、後に深刻な後遺症を引き起こすケースがあります。

しかし、脳損傷によって引き起こされる後遺症には、本人でさえ無自覚であることも多いのが実情です。

脳損傷は、頭部外傷などとは異なり、受傷部位を外部から確認することができません。そのため、受傷前後で体調の変化などがあったとしても、それが脳損傷を原因としている事実が見落とされてしまう可能性が高いのです。

植物状態になってしまうなどの深刻な症状であれば、後遺症を認識するのは容易です。これに対して、「物覚えが悪くなった」「日常の作業に支障が生じるようになった」などの変化は、家族など、本人をよく観察している人でなければ、気づくことができないでしょう。

そのため、交通事故の後、体調を崩している、精神的に不安定な期間が長いと感じた場合には、その旨を指摘して医療機関の受診を勧めてください

医療機関で精密検査を行えば、早期に後遺症の原因を突き止め、進行を食い止めることができるかもしれません。また、後遺症の原因が労災による脳損傷であることがわかれば、労災保険給付の申請や、会社に対する損害賠償の請求が可能となります

2、脳損傷を受けた場合に起こり得る主な症状

脳は人間にとってきわめて重要な組織であるがゆえに、脳損傷は多くの重篤な後遺症を引き起こします。脳損傷によって生じ得る主な後遺症は、以下のとおりです。

  1. (1)遷延性意識障害

    遷延性意識障害は、一般に「植物状態」とも呼ばれています。生命維持に必要な脳機能はかろうじて残っているものの、意識が全くなく、自発運動もできない状態です。

    医学的には、種々の治療にもかかわらず、3か月以上にわたって以下の6項目を満たす状態と定義されています。

    • 自力移動不能
    • 自力摂食不能
    • 糞便失禁状態
    • 意味のある発語不能
    • 簡単な従命以上の意思疎通不能
    • 追視あるいは認識不能


    大脳半球が高度に損傷し、または機能不全に陥った場合に、遷延性意識障害を生じる可能性があります。

    遷延性意識障害に陥った人は、自ら活動することが一切不可能であるため、家族の介護負担がきわめて大きくなってしまうのが特徴です。また、多くのケースで治癒は不可能であり、生涯にわたって介護が必要になります。

  2. (2)高次脳機能障害

    外傷性脳損傷・脳血管障害などに起因して、記憶障害・注意障害・社会的行動障害などの認知障害を生じるケースがあります。これらの障害を総称して「高次脳機能障害」と呼んでいます。

    高次脳機能障害の具体的な症状としては、以下のものが挙げられます。

    ① 半側空間無視
    意識して見ている側とは反対側の空間を、無意識に無視してしまう症状です。

    ② 半側身体失認
    自分の身体の一部を見失ってしまう症状です。

    ③ 地誌的障害
    道が覚えられない、地図が書けないといった症状です。

    ④ 失認症
    物の名前や用途が分からなくなったり、人の名前や顔を覚えられなくなったりする症状です。

    ⑤ 失語症
    言葉で自分の意思を伝えることが困難になる症状です。

    ⑥ 記憶障害
    物覚えがきわめて悪くなる症状です。

    ⑦ 失行症
    頭で考えている動作を、身体で表現できなくなる症状です。

    ⑧ 注意障害
    物事に集中できず、すぐに気が散ってしまう症状です。

    ⑨ 遂行機能障害
    段取りを計画して物事を行うことができなくなってしまう症状です。

    ⑩ 行動や情緒の障害
    ちょっとしたことでパニックになったり、衝動的に行動してしまったりする症状です。


    高次脳機能障害のパターンは多種多様であるため、日常生活の小さな変化を感じ取り、速やかに医療機関を受診することが大切になります

  3. (3)身体性機能障害

    脳損傷の結果として、脳が身体をコントロールする機能の一部が失われ、身体に麻痺などが残ってしまうケースがあります。これを「身体性機能障害」といいます。

    身体性機能障害の部位や程度は、脳損傷を負った箇所や程度によって異なります。

    (例)
    • 全身麻痺
    • 片麻痺
    • 四肢麻痺
    • 対麻痺
    など


    後述する障害等級の認定においても、麻痺の程度や部位などによって、後遺症としての深刻度に対応した障害等級が割り当てられています。

3、脳損傷の後遺症を負ってしまった場合の対処法

仕事中または通勤中に脳損傷を負い、結果的に後遺症を負ってしまった場合、その後の生活に多大な影響が発生します。また、単に生活上不便であるというだけでなく、仕事にも支障を生じ、将来にわたって収入が減少してしまう事態にもなりかねません。

もし脳損傷により後遺症を負ってしまった場合には、障害(補償)給付の申請や、会社に対する損害賠償請求を行いましょう

  1. (1)障害(補償)給付の労災申請を行う

    労働災害(労災)によってケガをしたり病気にかかったりした場合には、労災保険給付を請求することができます。そのうち、後遺症を負った場合に請求できるのが「障害(補償)給付」です。

    障害補償給付は、認定される障害等級に応じて以下の金額が支給されます。

    <第1級~第7級>

    障害等級 障害(補償)年金 障害特別年金 障害特別支給金 ※一時金
    第1級 給付基礎日額の313日分 算定基礎日額の313日分 342万円
    第2級 〃277日分 〃277日分 320万円
    第3級 〃245日分 〃245日分 300万円
    第4級 〃213日分 〃213日分 264万円
    第5級 〃184日分 〃184日分 225万円
    第6級 〃156日分 〃156日分 192万円
    第7級 〃131日分 〃131日分 159万円

    <第8級~第14級>

    障害等級 障害(補償)一時金 障害特別一時金 障害特別支給金
    第8級 給付基礎日額の503日分 算定基礎日額の503日分 65万円
    第9級 〃391日分 〃391日分 50万円
    第10級 〃302日分 〃302日分 39万円
    第11級 〃223日分 〃223日分 29万円
    第12級 〃156日分 〃156日分 20万円
    第13級 〃101日分 〃101日分 14万円
    第14級 〃56日分 〃56日分 8万円

    症状別の障害等級については、以下のページの障害等級表をご参照ください。

    参考:「障害等級表」(厚生労働省)

    障害補償給付を含む各種労災保険給付の請求については、最寄りの労働基準監督署に相談してみましょう。

  2. (2)適正額の障害補償給付を受けるためのポイント

    障害補償給付の金額は、認定される障害等級に応じて決まります。そのため、適正額の給付を受けるためには、正しい障害等級を認定してもらうことが重要です。

    障害等級の認定に当たっては、医師に障害に関する診断書を書いてもらい、その診断書を労働基準監督署に提出します。診断書の内容は、障害等級の認定結果に直結するため、医師と適切にコミュニケーションを取りながら請求の準備を進めましょう。

    なお、特に高次脳機能障害の場合、厚生労働省が定める障害等級の認定基準を踏まえて、医師に診断書を作成してもらうことが大切です。

    そのため、診断書の内容については、弁護士に医師との調整を依頼することをおすすめします

    参考:「神経系統の機能及び精神の障害に関する障害等級認定基準について」(厚生労働省)

  3. (3)労災保険給付の不足額については、会社に対して損害賠償請求を

    労災保険給付は、被災労働者に発生した損害の全額を補填(ほてん)するものではありません。

    たとえば、精神的な損害を補償する慰謝料は、労災保険給付に含まれていません。
    また、労災保険給付は画一的な基準によって金額が決まるため、個別の事情を金額に反映できないケースがあります。

    もし労災保険給付だけではカバーしきれない損害が発生している場合には、不足額を会社に対して請求しましょう。会社の使用者責任(民法第715条第1項)や、安全配慮義務違反を追及することで、会社に対する損害賠償請求が可能となります

4、脳損傷による後遺症を負った場合には弁護士に相談を

労災が原因で脳損傷を負い、結果的に後遺症を負ってしまった場合、生活や仕事に生じる影響を少しでも埋め合わせるため、速やかに労災保険給付の請求や会社への損害賠償請求に着手しましょう。

弁護士に相談することで、障害等級認定の際の医師とのコミュニケーションや、会社に対する損害賠償請求の手続のサポートが受けられます。

特に、会社に対する損害賠償請求をご検討中の方は、会社に対して根拠のある法的主張を行うためにも、ぜひ事前に弁護士までご相談ください

5、まとめ

脳損傷によって生じ得る後遺症のパターンはさまざまです。特に高次脳機能障害は、本人に自覚がないケースも多いため、少しでも異変を感じたご家族は、すぐに医療機関の受診を勧めてください。

もし労災による脳損傷に起因して、何らかの後遺症を負ってしまった場合には、労災保険給付の請求を行いましょう。また、労災保険給付だけではカバーできない損害については、会社に対する損害賠償請求を検討することも大切です。

ベリーベスト法律事務所は、主に会社に対する損害賠償請求について、被災労働者が正当な補償を受けられるようにサポートいたします。仕事中または通勤中に脳損傷を負い、後遺障害が残ってしまった方やそのご家族は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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