
労災(労働災害)によって生じたケガや病気については、アフターケア制度を利用できる場合があります。
アフターケア制度を利用すれば、ケガや病気の再発や、後遺症に伴う合併症の発症を防ぐための診察などを無料で受けることが可能です。
今回は、労災保険のアフターケア制度の概要や、その他労災による損害の補償・賠償を受ける方法などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、アフターケアの前に|労災時に受給できる給付金の種類・請求方法
業務上の原因により、または通勤中に生じた負傷・疾病・障害・死亡については、各種の労災保険給付を請求できます。アフターケア制度を利用する前に、まずは支給要件に該当する労災保険給付の請求を行いましょう。
(参考:「労災保険給付の概要」(厚生労働省))
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(1)労災保険給付の種類
労災保険給付の種類は、以下のとおりです。
① 療養(補償)給付
労災病院または労災保険指定医療機関において、ケガや病気の治療を無償で受けられます(療養の給付)。
それ以外の医療機関を受診する際には、いったん治療費等の全額を支払う必要がありますが、後日に費用全額の償還を受けられます(療養の費用の支給)。
② 休業(補償)給付
労災によるケガや病気が原因で仕事を休んだ場合、休業4日目以降の収入(給与等)につき、平均賃金(給付基礎日額)の80%が補償されます。
③ 障害(補償)給付
労災によるケガや病気が完治せずに後遺症が残った場合に、労働基準監督署が認定する障害等級に応じて支給されます。
障害等級は、後遺症の部位・症状・程度に応じて、1級から14級までの14段階で認定されます。
(参考:「障害等級表」(厚生労働省))
④ 遺族(補償)給付
被災労働者が死亡した場合に、遺族の生活保障として支給されます。
⑤ 葬祭料(葬祭給付)
被災労働者が死亡した場合に、葬儀費用の補償として支給されます。
⑥ 傷病(補償)年金
傷病等級第3級以上に該当するケガ・病気が1年6か月以上治らない場合に支給されます。労働基準監督署長の職権で支給が開始されるため、請求手続きは不要です。
⑦ 介護(補償)給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち、第1級の者、または第2級の精神・神経障害もしくは胸腹部臓器の障害がある者が、現に介護を受けている場合に支給されます。 -
(2)労災保険給付の請求方法
労災保険給付のうち、治療等を無償で受けられる「療養の給付」については、労災病院または労災保険指定医療機関の窓口で手続きを行います。
その他の労災保険給付については、給付の種類に応じた請求書を、事業場を管轄する労働基準監督署に提出して請求を行います。
各種請求書の様式については、厚生労働省ウェブサイトでダウンロードするか、または労働基準監督署の窓口で入手可能です。
(参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省))
2、労災のアフターケア制度とは
労災によるケガや病気については、完治した(または症状が固定された)後でも「アフターケア制度」を通じて、労災保険指定医療機関において無料で診察・保健指導・検査などを受けることができます。
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(1)アフターケア制度の目的
アフターケア制度の目的は、被災労働者のケガや病気の再発や、後遺症に伴う新たな病気の発症を防ぐことです。
必要に応じて無償で診察・保健指導・処置・検査などを行い、被災労働者が円滑な社会生活を営むためのサポートを受けられます。 -
(2)アフターケアの対象となるケガ・病気
アフターケア制度の対象となるのは、以下の20種類のケガ・病気です。
- せき髄損傷
- 頭頚部外傷症候群等(頭頚部外傷症候群、頸肩腕障害、腰痛)
- 尿路系障害
- 慢性肝炎
- 白内障等の眼疾患
- 振動障害
- 大腿骨頸部骨折および股関節脱臼、脱臼骨折
- 人工関節、人工骨頭置換
- 慢性化膿性骨髄炎
- 虚血性心疾患等
- 尿路系腫瘍
- 脳の器質性障害
- 外傷による末梢神経損傷
- 熱傷
- サリン中毒
- 精神障害
- 循環器障害
- 呼吸機能障害
- 消化器障害
- 炭鉱災害による一酸化炭素中毒
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(3)アフターケア制度を利用する際の手続き
アフターケア制度を利用する際には、労災によるケガや病気が治った段階で、所属事業場を管轄する都道府県労働局長に申請を行う必要があります。
「治った」とは、完全に回復した場合に加えて、医療を行ってもそれ以上の効果が期待できず、症状が安定している場合も含みます(いわゆる「症状固定」)。
利用申請時には、「健康管理手帳交付申請書」を提出します。
申請書の様式は、都道府県労働局または労働基準監督署で交付を受けられます。また、厚生労働省ウェブサイトからもダウンロード可能です。
(参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省))
申請が適法に受理されると、都道府県労働局長からアフターケア健康管理手帳が交付されます。労災保険指定医療機関の窓口でアフターケア健康管理手帳を提示すると、傷病の種類に応じたアフターケアを無償で受けられます。
なお、アフターケア健康管理手帳の交付申請は、各傷病によって異なる申請期間中に行う必要があります。申請期間が過ぎると、交付申請は認められません。
また、アフターケア健康管理手帳には有効期間があり、更新するためには期間満了日の1か月前までに更新申請を行わなければなりません。更新期限を超過すると、更新が認められなくなるので注意が必要です。 -
(4)アフターケアの通院費の支給について
アフターケアを受けるために通院費を要した場合、以下のいずれかに該当すれば、所属事業場を管轄する都道府県労働局長への申請によって、当該通院費の支給を受けることができます。
- ① 鉄道・バス・自家用車などを利用して、片道2キロメートル以上かつ同一市町村内のアフターケアを受けられる医療機関へ通院するとき
- ② 片道2キロメートル未満であっても、ケガや病気の状態から鉄道・バス・自家用車などを利用しなければ通院できないとき
- ③ 同一市町村内に通院できる医療機関がない、または隣接市町村の医療機関の方が通院しやすいため、隣接市町村のアフターケアを受けられる医療機関へ通院するとき
- ④ 同一市町村・隣接市町村に通院できる医療機関がないため、それ以外の最寄りのアフターケアを受けられる医療機関へ通院するとき
申請の際には、「アフターケア通院費支給申請書」と、領収書など通院費の額を証明する書類を提出します(鉄道・バスの運賃等については領収書不要)。
申請書の様式は、都道府県労働局または労働基準監督署で交付を受けられます。また、厚生労働省ウェブサイトからもダウンロード可能です。
(参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省))
3、労災保険の補償が不十分な場合は、会社に対する損害賠償請求を
労災保険給付だけでは、被災労働者に生じた損害全額はカバーされません。精神的損害に対応する慰謝料は労災保険給付の対象外であるほか、休業損害や逸失利益の補償も、実際の損害額には及ばないケースが多いです。
労災保険給付が損害の補填に不十分な場合は、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)または使用者責任(民法第715条第1項)に基づき、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
会社に対する損害賠償請求の流れは、大まかに以下のとおりです。
安全配慮義務違反や使用者責任を裏付ける証拠の収集、請求に関する主張構成の検討、目標とする解決内容の設定などの準備を行います。
② 会社との交渉
会社と直接協議を行い、労災の損害賠償に関する合意を目指します。合意が成立すれば、和解合意書(示談書)を締結します。
③ 労働審判
交渉がまとまらない場合は、裁判所に労働審判を申し立てることが考えられます。
労働審判は非公開で行われ、裁判官1名と労働審判員2名が労使の主張を公平に聴き取り、調停または労働審判による解決を図ります。
④ 訴訟
労災に関する紛争を解決するための最終手段が訴訟です。労働審判に異議が申し立てられた場合は訴訟に移行するほか、労働審判を経ずに訴訟を提起することもできます。
訴訟は公開法廷で行われ、被災労働者が損害賠償請求権の存在・金額を立証しなければなりません。
労災について会社に損害賠償を請求する際には、準備段階から弁護士にアドバイスを求めるのが安心です。
4、労災に遭った場合は弁護士にご相談を
業務上の原因によってケガをし、または病気にかかった場合は、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
弁護士は被災労働者の代理人として、労災不認定時の不服申立てや会社に対する損害賠償請求をサポートいたします。法的根拠に基づく主張・請求を行うことにより、労災に関する適正な補償を受けられる可能性が高まることが、弁護士に依頼することの大きなメリットです。
アフターケア制度の利用に関してもアドバイスいたしますので、効果的にケガ・病気の再発防止を図ることができます。弁護士へのご相談が早ければ早いほど、労災について適切な対応ができるようになりますので、お早めに弁護士へご相談ください。
5、まとめ
労災によるケガや病気については、無料でアフターケア制度を利用することができる可能性があります。ただしその前に、各種の労災保険給付を受給できるかどうかを確認し、支給要件に該当するものを漏れなく請求しましょう。
労災保険給付やアフターケア制度によってカバーされない損害については、会社に対する損害賠償請求をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所にご依頼いただければ、損害賠償請求の対応をはじめとして、労災の被害に遭ったお客さまやご家族を幅広くサポートいたします。
ご自身やご家族が労災に遭ってしまったら、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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