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労働災害(労災)コラム

脳梗塞は労災認定される? 基準や補償内容、損害賠償請求の方法とは

更新:2024年04月03日
公開:2023年11月14日
  • 労災
  • 脳梗塞
脳梗塞は労災認定される? 基準や補償内容、損害賠償請求の方法とは

脳梗塞は、長時間労働や仕事上のストレスなどが原因で生じることが多い脳血管疾患です。

仕事の負担が重い状況で脳梗塞になった場合は、労災保険給付を請求することができます。さらに、会社に対して損害賠償を請求できる場合もあります。労災(労働災害)について適切な補償を受けるためには、弁護士にご相談ください。

本記事では脳梗塞の労災認定について、認定基準、労災保険給付の内容、会社に対する損害賠償請求などについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、脳梗塞は労災認定される? 認定基準を解説

脳梗塞は、業務上の原因により発生した場合には労災認定の対象となります。脳梗塞の業務起因性は、厚生労働省が公表している労災認定基準に従って判断されます。

  1. (1)業務遂行性・業務起因性

    脳梗塞について労災認定を受けるには、「業務遂行性」と「業務起因性」の要件をいずれも満たすことが必要です。

    ① 業務遂行性
    脳梗塞を業務の遂行中に発症したことが必要です。
    オフィスや作業場など、使用者の管理する施設において脳梗塞を発症した場合は、特段の事情がない限り業務遂行性が認められることが多いと思われます。
    使用者の管理する施設外で脳梗塞を発症した場合でも、テレワークなどにより業務に従事していた最中の発症であれば、途中で積極的な私的行為がなされたなどの事情がない限り業務遂行性が認められやすいと考えられます。

    ② 業務起因性
    業務と脳梗塞の間に因果関係が存在する必要があります。脳梗塞の業務起因性は、次に紹介する労災認定基準によって判断されます。
  2. (2)脳血管疾患の労災認定基準

    脳血管疾患である脳梗塞については、厚生労働省が労災認定基準を公表しています(心臓疾患についても、同基準が適用されます)。

    参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省・令和3年9月14日・基発0914第1号)

    労災認定基準によれば、脳血管疾患の業務起因性を判断するに当たっては、発症に近接した時期における負荷、および長期間にわたる疲労の蓄積が考慮されます。

    具体的には、以下のいずれかの業務で明らかな過重負荷を受けたことによって発症した脳血管疾患が、労災認定の対象です。

    ① 長期間の過重業務
    発症前おおむね6か月間にわたって、著しく疲労が蓄積するような特に過重な業務です。
    (例)
    • 長時間労働(1か月間に100時間超、または2~6か月間の平均が1か月当たり80時間超の時間外労働。1か月当たり45時間を超えると、業務と発症における関連性が徐々に強まる)
    • 拘束時間が長い
    • 休日のない連続勤務
    • 不規則な勤務時間
    • 出張が多い
    • 日常的に大きな心理的プレッシャーを受けている
    • 日常的に大きな身体的負荷がかかっている
    • 作業環境が過酷である(暑い、寒い、うるさいなど)

    ② 短期間の過重業務
    発症前おおむね1週間における特に過重な業務です。
    (例)
    • 特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務(労働時間の長さのみで判断できない場合は、労働時間以外の負荷要因も含めて総合判断)

    ③ 異常な出来事
    発症直前から前日までの間で、発生状態を時間的・場所的に明確にし得る異常な出来事です。
    (例)
    • 強度の精神的負荷(緊張、興奮、恐怖、驚愕(きょうがく)など)を引き起こす事態
    • 急激で著しい身体的負荷を強いられる事態
    • 急激で激しい作業環境の変化

2、脳梗塞が労災認定された場合の補償内容

脳梗塞について、労働基準監督署により労災認定が行われた場合、被災労働者は労災保険給付を受給できます

脳梗塞について受給できる主な労災保険給付は、以下のとおりです。

  1. (1)療養(補償)給付

    「療養(補償)給付」は、労災によるケガや疾病の治療に関する労災保険給付です。

    被災労働者は、労災病院または労災保険指定医療機関に入院・通院した際、脳梗塞の治療を無償で受けられます(=療養の給付)。

    その他の医療機関で治療を受けた場合は、治療費全額がいったん自己負担となりますが、後日労働基準監督署に請求すれば還付を受けられます(=療養の費用の支給)。

  2. (2)休業(補償)給付

    「休業(補償)給付」は、労災によるケガや疾病の影響で仕事を休んだ場合に、収入を補塡(ほてん)する労災保険給付です。

    休業4日目以降、給付基礎日額(原則として労働基準法上の平均賃金)の80%が補償されます(特別支給金含む)。

  3. (3)障害(補償)給付

    「障害(補償)給付」は、労災によるケガや疾病が完治せず、障害が残った被災労働者に対して支給される労災保険給付です。

    労働基準監督署が認定する障害等級に応じて、年金または一時金が給付されます。
    参考:「障害等級表」(厚生労働省)

  4. (4)介護(補償)給付

    「介護(補償)給付」は、労災によって要介護状態に陥った被災労働者に対して、介護費用を補塡(ほてん)するために支給される労災保険給付です。

    たとえば、脳梗塞によって障害等級第1級の障害、または第2級の精神・神経障害もしくは腹膜部臓器の障害が残り、現に介護を受けている場合には介護補償給付を請求できます。

  5. (5)遺族(補償)給付・葬祭料

    「遺族補償給付」は、労災によって亡くなった被災労働者の遺族に対して、生活保障を目的として支給される労災保険給付です。
    「葬祭料」は、労災によって亡くなった被災労働者の葬儀費用等を補塡(ほてん)する労災保険給付です。

    労災に当たる脳梗塞によって被災労働者が亡くなった場合は、遺族が遺族補償給付および葬祭料を請求できます。

3、労災保険では補償されない損害はどうなる?

労災保険給付は、被災労働者に生じた損害全額が補塡(ほてん)されるものではありません。実際の損害に対する不足額については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります

  1. (1)労災保険では補償されない損害の内容

    たとえば以下の損害は、労災保険給付による補償の対象外です。

    • 休業時に得られなかった収入の20%相当額
    休業補償給付で補償されるのは、得られなかった収入の80%相当額のみです。
    なお、会社に安全配慮義務違反等に基づく損害賠償が認められる場合、特別支給金として支給される収入の20%分は既払い金額として扱われないので、40%相当額の休業損害を会社に対し請求することが可能です。

    • 障害が残り、労働能力が低下した場合における逸失利益の一部
    障害補償給付は障害等級のみに応じて金額が決まるため、逸失利益の実額とは差が生じます。

    • 慰謝料(労災による精神的損害)
    精神的損害は、労災保険給付では一切補償されません。
  2. (2)会社に対する損害賠償請求の法的根拠

    会社に対しては、「安全配慮義務違反」または「使用者責任」を根拠として、労災に関する損害賠償を請求できる可能性があります。

    ① 安全配慮義務違反
    会社は労働者に対して、生命および身体等の安全を確保しつつ労働できるように配慮する義務を負います(民法第415条・労働契約法第5条)。
    会社が安全配慮義務に違反した結果、労働者が脳梗塞を発症した場合には、会社に対して損害賠償を請求可能です。
    ※不法行為責任(民法第709条)により請求することも可能です。
    (例)
    • 過剰な長時間労働を放置した場合
    • 労働者の体調が悪いことを把握しながら、配置転換や業務の軽減などの配慮をしなかった場合
    など

    ② 使用者責任
    他の労働者の故意または過失による行為が原因で脳梗塞を発症した場合、被災労働者は会社に対して使用者責任(民法第715条第1項)に基づく損害賠償を請求できます。
    (例)
    • 上司が過剰な長時間労働を指示した場合
    など

4、会社に対する労災の損害賠償請求の手続き

会社に対する労災の損害賠償請求は、主に以下のいずれかの手続きを通じて行います。

  1. (1)会社との和解交渉

    まずは、会社との間で和解交渉を行うのが一般的です。会社と被災労働者が損害賠償の金額や根拠を提示し合い、互いに歩み寄ることで和解を目指します。

    ただし、会社と被災労働者の主張がかけ離れている場合、和解交渉がまとまる可能性は低いといえます。その場合は、和解交渉を早期に打ち切り、労働審判や訴訟へ移行することも検討することができます。

  2. (2)労働審判

    労働審判は、地方裁判所において非公開で行われる、労使紛争の解決手続きです。裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、労使双方の主張を公平に聴き取ったうえで、調停または労働審判によって紛争解決を図ります。

    労働審判の期日は原則として3回以内で終結するため、迅速な紛争解決が期待できます。ただし、労働審判に対して異議が申し立てられた場合は、自動的に訴訟へ移行します。

  3. (3)訴訟

    訴訟は、裁判所で行われる公開の紛争解決手続きです。

    労災に関する損害賠償請求訴訟では、被災労働者(または遺族)が原告として、会社側の安全配慮義務違反または使用者責任を立証しなければなりません。証拠に基づく厳密な主張・立証が求められるため、弁護士へのご依頼をおすすめします。

5、まとめ

業務に起因して脳梗塞を発症した場合、被災労働者または遺族は、労働基準監督署に対して労災保険給付を請求できます。
また、労災保険給付ではカバーされない損害については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります労災の損害賠償請求は弁護士にご依頼いただくのが安心です

ベリーベスト法律事務所は、労災に関するご相談を随時受け付けております。ご自身やご家族が労災の被害に遭い、会社に対する損害賠償請求などをご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が、親身になって丁寧にサポートいたします。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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