業務中の出来事が原因で労働者が怪我などを負ってしまった場合には、労災認定を受けることで労災保険からさまざまな補償が支払われます。このような労災のうち、労働者や会社以外の第三者の行為が原因となって生じたものを「第三者行為災害」といいます。
第三者行為災害に遭ってしまったときも労災申請は可能ですが、一般的な労災とは異なりいくつか注意すべきポイントがありますので、それらをしっかりと押さえておくことが大切です。
今回は、第三者行為災害に遭った場合の注意点や手続きの流れなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、そもそも第三者行為災害とは
そもそも、第三者行為災害とはどのようなものなのでしょうか。以下では、第三者行為災害に関する基本事項を説明します。
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(1)「第三者行為災害」とは?
第三者行為災害とは、労災の原因となった事故が第三者の行為によって生じたものをいいます。ここでいう「第三者」とは、労災保険の保険関係の当事者以外の人のことを言い、被災した労働者自身や事業主などは含まれません。
第三者行為災害に該当する場合には、労災保険から補償を受けられるとともに、労災の原因となった第三者に対しても損害賠償請求を行うことが可能です。しかし、同一の事由により両者から重複して損害の補填を受けることになれば、実際の損害額よりも過大な支払いを受けることになり、不合理な結果が生じてしまいます。
そこで、第三者行為災害では、労働者災害補償保険法(労災保険法)により、支給調整が定められています。 -
(2)「労災」と「第三者行為災害」の違い
労災とは、労働者が業務上の事由または通勤により傷病を負ってしまうことをいいます。第三者行為災害は、第三者による行為が原因となるという点に特徴がありますが、基本的には労災に含まれる概念になります。
ただし、一般的な労災では、被災労働者に生じた損害は、労災保険からの補償または労災発生の責任のある会社に対する損害賠償によって補填しますが、第三者行為災害では、これらに加えて、労災の原因となった第三者に対して請求することが可能です。
2、第三者行為災害のよくあるケース
以下では、よくある第三者行為災害のケースを紹介します。
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(1)勤務中または通勤時に事故に遭った
勤務中や通勤時に車、バイク、自転車などを利用する会社も多いと思います。このような交通手段を利用している場合には、勤務中や通勤時に交通事故に遭うリスクがあります。交通事故というと加害者や加害者が加入する保険会社から賠償金が支払われるイメージを持たれる方も多いと思いますが、通勤中や勤務中に発生した交通事故に関しては、労災保険からの補償を受けることも可能です。
交通事故は、第三者による行為が原因で生じるものになりますので、第三者行為災害の代表的なケースになります。 -
(2)他の従業員の不注意で怪我を負った
労災は、他の労働者の行為によっても発生します。たとえば、「同僚が機械の操作を誤ったため、機械に巻き込まれてしまった」「後方確認が不十分であったため、作業車と壁に挟まれてしまった」などの事故が発生した場合には、第三者行為災害に該当します。
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(3)従業員同士の喧嘩で暴力行為を受けた
仕事中に同僚と口論になり、感情的になった相手から殴られて怪我をすることがあります。従業員同士の喧嘩は、業務そのものではないものの、就業時間内に職場内で発生した場合には、労災認定を受けられる可能性があります。
これも第三者による行為によって発生した労災になりますので、第三者行為災害に該当します。 -
(4)客から暴行を受けて怪我を負った
接客業に従事している労働者は、客とのトラブルや客からのクレームが原因となって、客から暴行を受けるというケースも見受けられます。客とのトラブルやクレームに対応するのは、業務の一環といえますので、客から殴られて怪我をしたのであれば、労災認定を受けられる可能性があります。
客からの暴行も第三者による行為によって発生した労災ですので、第三者行為災害に該当します。
3、第三者行為災害で労災を利用する場合の注意点
第三者行為災害で労災保険を利用する場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)通勤時の事故は労災対象なので健康保険を利用できない
第三者行為災害の代表的なケースである業務中や通勤中の交通事故の事案は、労災保険の適用対象となりますので、病院での怪我の治療の際に健康保険を利用することはできません。
誤って健康保険を利用してしまった場合には、いったん医療費全額を支払ったうえで、労災保険に請求するといった煩雑な手続きが必要になります。そのため、業務中や通勤時の交通事故での治療では、必ず労災保険を利用するようにしましょう。 -
(2)相手と不用意に示談しない
交通事故の被害に遭った場合、加害者側の保険会社から賠償額の案内が届いて、示談を求められることがあります。不用意な示談を行ってしまうと、労災保険からの給付を受けられなくなってしまったり、すでに支払われた労災保険の給付金の返還を求められたりするリスクがあります。
そのため、第三者行為災害で第三者から示談を求められたとしても、自分だけで判断するのではなく、専門家である弁護士に相談してから示談するのがおすすめです。 -
(3)交通事故で相手(加害者)が不明な場合でも労災保険から補償が受けられる
交通事故の相手(加害者)が不明な場合には、加害者を特定できませんので、加害者に対して損害賠償請求をすることはできません。
しかし、第三者行為災害にあたるケースであれば、加害者が不明な場合であっても、労災保険から補償を受けることが可能です。この場合には、第三者行為災害として「第三者行為災害届」の提出が必要になります。 -
(4)どちらにも請求できるが二重取りはできない
第三者行為災害では、労災保険への補償請求と第三者への損害賠償請求を行うことができます。被災労働者としては、両者に請求しても問題ありません。
ただし、両者に対して請求できるといっても、同じ損害に対する補償・賠償を二重取りすることはできないため注意が必要です。
両者に対して請求した結果、二重取りが生じることになった場合には、支給調整により賠償額から控除される可能性もありますので注意が必要です。
4、第三者行為災害の労災手続きの流れ
第三者行為災害で労災保険を利用する場合には、以下のような手続きの流れになります。
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(1)第三者行為災害届の提出
第三者行為災害により労災保険を利用する場合には、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出する必要があります。具体的な期限は設けられていませんが、遅滞なく提出する必要があります。
正当な理由なく「第三者行為災害届」の提出をしない場合、労災保険給付が一時的に差し止められるおそれもありますので注意が必要です。 -
(2)第三者行為災害届に添付する書類
第三者行為災害届を提出する際には、以下の書類を添付する必要があります。
- 交通事故証明書または交通事故発生届
- 念書兼同意書
- 示談書の謄本
- 自賠責保険などの損害賠償金支払証明書または保険金支払通知書
- 死体検案書または死亡診断書(死亡の場合)
- 戸籍謄本(死亡の場合)
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(3)第三者行為災害で受けられる保険給付の内容
第三者行為災害についても、一般的な労災と同様に労災保険からの給付金の支払いを受けることが可能です。具体的には、以下のような労災保険給付が挙げられます。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
- 傷病(補償)年金
- 介護(補償)給付
5、会社に責任がある場合は損害賠償(慰謝料)請求も検討
労災の発生について会社に責任がある場合には、会社に対する損害賠償請求も検討する必要があります。
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(1)会社に対して損害賠償請求できるケースとは?
労災保険から保険給付の支払いを受けられたとしても、それだけでは被災労働者に生じた損害のすべてを補填することはできません。そのため、労災保険からの保険給付だけでは不十分な部分については、会社への損害賠償請求を検討する必要があります。
しかし、会社に対して損害賠償請求をするには、労災に関して会社側に責任があるといえなければなりません。会社側に責任が生じるケースとしては、以下の2つが挙げられます。① 安全配慮義務違反があったケース
会社には、労働者が安全かつ健康に働くことができるよう配慮する義務があります。これを「安全配慮義務」といいます。
たとえば、会社が機械の操作に関する教育や研修を怠ったために、労働者が機械の操作を誤り、他の労働者に怪我をさせてしまったという場合には、会社側にも安全配慮義務違反が認められる可能性があります。
このような事案では、会社側の安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求が可能です。
② 使用者責任が生じるケース
会社が雇用する労働者の行為によって、他の労働者に対して損害が生じた場合には、会社も被害を受けた労働者に対する賠償義務を負うことになります。このような会社側の責任を「使用者責任」といいます。
他の従業員の行為により発生した労災であれば、当該労働者への賠償請求のほかに、使用者責任に基づき、会社に対して損害賠償請求をすることができます。 -
(2)会社への賠償請求をお考えの方は弁護士に相談を!
会社への損害賠償請求をする際には、上記のような法的責任の有無を判断する必要があります。法的知識や経験のない方では、会社に労災に関する法的責任があるかどうかを判断するのは困難ですので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、会社の法的責任の有無を適切に判断してもらうことができ、会社への責任追及をする際にも代理人として労働者の代わりに交渉を行ってもらうことが可能です。労働者自身の負担を少しでも軽減するためにも、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
6、まとめ
第三者の行為により業務中または通勤中に怪我などが生じた場合には、第三者行為災害として労災保険から保険給付が受けられます。しかし、労災保険からの給付金だけでは、すべての損害を補填することはできませんので、会社への損害賠償請求を検討する必要もあります。
労災保険でカバーできない損害賠償請求や後遺障害認定を検討の際は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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