ベリーベスト法律事務所
労働災害(労災)コラム

労災治療終了後の手続き|症状固定(治癒)後も後遺症がある場合

更新:2024年04月17日
公開:2020年09月14日
  • 労災申請
  • 症状固定
労災治療終了後の手続き|症状固定(治癒)後も後遺症がある場合

業務中の事故などが原因で心身に不調をきたしたとき、労災認定がされれば労災保険から一定の給付を受けられることはご存じのとおりです。そのうえで治療を続け、ある程度の時間がたっても、怪我などが治らずにそれ以上の改善が期待できない状態となってしまうことがあります。

このような状態を「症状固定(治癒)」といい、残ってしまった症状を「後遺障害」や単に「障害」と呼んだりします。たとえば指が動かないなどの状態では、今後の生活に不安を覚えることは間違いありません。

そのような場合、残存した症状について労働基準監督署に「障害」として認定されれば、障害が残存したことについて一時金もしくは年金の給付を受けることが可能です。

本コラムでは、症状固定と後遺障害について、認定を受ける際のポイント、障害等級とそれに伴う障害(補償)給付の金額などについて、ベリーベスト法律事務所の労働災害専門チームの弁護士が解説します。

1、症状固定(治癒)とはどのような状態?

  1. (1)労災における後遺障害と症状固定

    労働災害(労災)とは、仕事中または通勤中に負った怪我や病気のことを指します。
    日本の医療技術は進んでおり、怪我や病気をしても治療をしっかり行うことで完治することが多いものです。しかし、症状によっては治療に限界があり、残念ながら心身に支障が残ってしまうことが多いのもまた現実といえます。

    このように、医学的にみて治療をしてもこれ以上症状が改善しないと判断できる状態のことを「症状固定」といいます。そして、症状固定の時点で心身に残った不具合を「後遺障害」といいます。

  2. (2)労災の治癒は完治とは限らない

    労災保険で「治癒」という表現を使う場合の注意点を説明しておきます。
    労災でいう「治癒」には、実は2つの意味が含まれています。ひとつは、怪我や病気が完治した場合です。つまり、治療の結果、怪我や病気がすっかり良くなり、もう医学的に問題ありませんよ、という場合です。一般的にイメージされるとおりですので、これはわかりやすいでしょう。

    もうひとつの意味が、前述した「症状固定」です。つまり、治療したけれど症状が残ったままそれ以上改善しないと診断された状態も、労災の手続き上は「治癒」と呼ばれるのです。

    完全に治っていないのに治癒とされることには違和感があるかもしれません。ポイントは、治ったかどうかではなく、それ以上治療を続ける意味が医学的にあるのかないのか、という点です。完全に治った場合、今後の治療の意味はありませんし、治療しても改善しないなら、やはり医学的には治療の意味はないのです。

    今後の治療の意味がなくなった状態が「治癒」なので、2つの意味が含まれるということです。したがって、労災上で治癒と判断された人の中には、「完全に治った人」と「後遺障害が残った人」との両方が含まれるということになります。

2、労災で「後遺障害」の認定を受けるには?

  1. (1)治癒(症状固定)後の療養給付・休業補償給付はストップする

    症状固定と診断されると、それ以降の治療は医学的には不要と判断されます。
    そのため、それ以降の療養給付(治療費)の支払いはストップします。また、症状固定後の仕事への支障については、後述の「障害(補償)給付」にて補償されますので、休業補償給付の支払いもストップします。本人としては、まだ心身に支障があるわけですから、療養費も休業補償も出なくなるという仕組みに納得がいかないかもしれません。

    ただ、労災で治療費が補償されるのは、あくまで治療を続けることで症状の改善が見込める期間に限られます。
    では、完治した場合は仕事に復帰できるので問題ないですが、後遺障害が残り、仕事が今までのようにできない場合はどうしたらよいのでしょう。

  2. (2)症状固定後の障害(補償)給付申請について

    治療をしても心身に不具合が残り、以前のように仕事ができない場合でも、「症状固定」と診断されると休業補償給付は止まってしまいます。
    しかし、仕事に支障が生じれば、収入が減少することで日常生活を送るのに支障が出ます。そこで、このような場合のために別の補償制度が用意されています。それが「障害(補償)給付」です。

    症状固定時に、一定以上の後遺障害が残った場合に金員が支給される仕組みです。障害(補償)給付は、それまでに労災認定を受けて療養費や休業補償の給付を受けていたとしても、それとは別に申請手続きが必要です。

    具体的には被災労働者自身で労働基準監督署に障害(補償)支給請求書を提出し、自分にはこれだけの障害が残ったので、労災の後遺障害等級を認定してほしいと請求するものです。
    この申請がなければ後遺障害の認定を受けられず、後遺障害の認定がなければ障害療養給付を受けることはできません。担当医に改めて診断書を書いてもらうなど、必要書類を集めて労働基準監督署に提出する必要があります。

  3. (3)障害等級の審査について

    労働基準監督署では、障害(補償)給付支給申請がなされると、障害(補償)給付の対象になるかどうかの審査が行われます。

    基本的には、担当医作成の診断書の内容や本人との面談に基づいて判断され、後遺障害に該当するか、該当するとすれば障害等級のどの段階に該当するかが決まります。後日、この障害等級の認定結果が本人宛てに郵送されます。
    自分の受けた等級認定に納得がいかない場合には、異議を申し立てる(審査請求)ことができます。

    なお、労災の決定に対する異議は、決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行わなければなりませんので、早めに検討する必要があります。審査請求を申し立てずに3か月が経過すると、等級認定が確定します。

    障害等級第7級以上の認定を受けた場合は、障害(補償)給付は年金として支給され、障害が治るか死亡するまで支給を受け続けることができますが、支給を受け続けるためには定期報告書という書面を毎年提出しなければなりません。後遺障害の状態は、その後も変化していく可能性がありますので、現在の状態を毎年報告することになっているのです。
    定期報告書を出さなければ、その後の障害補償給付が止められてしまう可能性もあるので、必ず提出しましょう。

3、障害等級と障害(補償)給付の金額

  1. (1)障害等級とは

    労災の障害等級は、労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級表にある、障害の内容や程度によって細かく定められた等級のことです。具体的には、第1級から第14級までの等級があります。第1級が最も重く、第14級が最も軽い障害とされています。

  2. (2)障害(補償)給付の金額

    障害(補償)給付金は、障害の程度に応じて定められている後遺障害等級に該当すると判断された人だけに支給されます。障害(補償)給付の金額は第1級が最も高額となり、第14級は最も低額となります。

    障害(補償)給付とは別に支払われる障害特別支給金(一時金)も同様に設定されています。
    第1級の具体例は、工事現場で高所から転落し脊髄を損傷、全身にまひが残り歩行困難になった場合や薬剤が目に入り両目を失明した場合などです。

    第14級は、打撲などの怪我により体の一部にしびれや痛みが残るような場合や、工場の機械により指先の一部を切断した場合が代表的な例です。
    なお、障害(補償)給付によって実際に支払われる金額は、認定を受けた障害の等級と労働者が労災事故の時点でもらっていた給与の額によって決まります。

  3. (3)障害(補償)給付の受給方法

    障害(補償)給付の受給方法には2種類あります。ひとつは一時金払い、もうひとつは年金払いです。
    特に障害が重い第1級から第7級の場合は、年金形式により継続的に障害補償給年金と障害特別年金が支給されます。第7級以上であれば、仕事に支障が出る可能性が高く、今後の収入も一生涯減ってしまうことが見込まれます。そのため、年金形式で将来にわたって支給を継続しようというシステムです。

    なお、先に説明したとおり、毎年後遺障害の状態を定期的に報告する必要があるのは、このように給付が将来にわたり継続するためです。
    仮に、途中で障害の程度に変化があった場合には、その状況に合わせて等級が変更され、給付金の支給額も変わることになります。

    一方、第8級から第14級の場合は一時金の形式で受け取ることになっています。一時金は、認定の時点でその全額が被災者本人に支払われます。

  4. (4)具体的な計算方法

    では、障害補償給付の金額はどうやって計算するのでしょうか。
    まず、年金方式で支給される第1級から第7級の場合、給付基礎日額と算定基礎日額に、それぞれの等級に応じて定められた日数分をかけることで、年金額を算出します。

    給付基礎日額とは、賞与(ボーナス)等を除いた収入額の1日分のことです。労災事故の当日、または疾病の発生が確定した日の直前3か月、または直前の締め日から計算した3か月の基本給を日数で割ると出てくる数字です。ボーナス分は算定基礎日額として把握します。

    一時金方式で支給される第8級から第14級の場合にも、給付基礎日額と算定基礎日額にそれぞれの等級に応じて決められた日数分をかけると算出することができます。

4、障害(補償)給付の申請をする際の留意点

以上のように後遺障害が残った場合、その後の生活を支えるためにきちんと障害等級を認定してもらい障害(補償)給付を得ることが重要になります。
そこで、障害(補償)給付の申請についての注意点をみていきましょう。

  1. (1)労災と自動車損害賠償責任保険(自賠責)の支給調整について

    よく問題となるのが、労災と自賠責の調整が必要になるケースです。
    労災事故の中には、通勤途中で交通事故に遭って怪我をした場合がかなり含まれています。この場合、怪我をした人は、労働災害の被災者であると同時に、交通事故の被害者でもあります。

    交通事故の被害者は、交通事故の加害者が加入する自動車賠償責任保険(自賠責保険)および任意保険会社に対して保険金の支払いを受ける権利があります。

    他方で、労災の被災者は労災保険に給付を求めることができます。そこで、この2つの権利を二重に行使できるのかが問題となります。
    結論としては、自賠責保険と労災保険とは別々の目的を持った異なる制度なので両方に申請することができ、どちらからも保険金を受け取ることが可能です。

    ただし、事故も怪我も実際にはひとつであって、それにより生じた損害もひとつですから、もらい過ぎにならないよう支給調整がなされます。
    すなわち、本来の2倍の賠償を受け取る形にならないよう、自賠責と労災で重なり合う項目について調整を行うことが決められています。

  2. (2)労災保険の請求権の時効について

    障害(補償)給付の請求の時効は、症状固定から5年と決められています。時効が成立すると、どんなに症状が重くても障害(補償)給付の申請自体ができなくなりますので、注意が必要です。

  3. (3)厚生年金や国民年金における障害年金との併給調整について

    労災によって重い後遺障害が残った場合、労災とは別の制度である厚生年金や国民年金の障害年金を申請することも検討するべきです。障害年金申請を行い第1~3級の障害認定を受けると、労災とは別に障害年金(本人が加入している年金によって、障害厚生年金と障害基礎年金とに分かれます)も受給資格が認められるからです。

    なお、この場合も前述の交通事故の場合と同じように、同一の障害について労災保険における障害(補償)年金と厚生年金や国民年金における障害年金という別の補償制度が共存することになりますので、障害年金と労災保険の障害補償年金についても、調整(減額)が行われることになっています。これを「併給調整」といいます。

    なお、この場合は、障害年金が優先され、労災補償が一定限度まで減額されることになっています。なお、被害者の受取額が減ってしまうということはありません。

  4. (4)会社に対して損害賠償請求ができることも

    このように労災事故で後遺障害が残った場合には、複数の補償制度があります。
    しかし、これらの補償制度があっても、十分に補償されない項目もあります。最も大きなものとして、慰謝料を指摘することができます。後遺障害が残るほどの怪我や病気をしたならば、その精神的苦痛はとても大きいでしょう。

    労働災害により後遺障害が残存し、今後も仕事に復帰できない、復帰できたとしても収入が減ってしまうとなれば、その不安や苦痛は被害者を苦しめることになります。
    しかし、残念ながら、労災保険は、こうした慰謝料(精神的損害)については一切補償してくれません。そこで、こうした場合に請求を検討するのが、会社への損害賠償請求です。

    雇用主は労働者に対して、安全に仕事を行えるように配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。労働者が職務として危険を伴う行為をすることで会社側が利益を得ている以上、会社としてできる限り安全な環境で労働者に働いてもらう義務があると考えられるからです。

    会社がこの安全配慮義務に違反したことを理由に労災が発生した場合、その責任は会社側にもあるといえます。そこで、労働者は労災によって生じた損害の賠償を、会社に請求することができるのです(ここでは触れませんが、会社の従業員の過失により労働災害が発生した場合、会社に対して不法行為責任を追及することもできます。このときに会社の負う責任を「使用者責任」といいます。)。

    この損害には精神的苦痛に対する慰謝料も含まれます。ただし、会社への損害賠償請求は、労災申請とは全く異なる手続きで、そのハードルは格段に高いものです。
    会社に対して損害賠償を請求する場合には、会社が法的な観点から、どんな安全配慮義務を負っているのかなどの種々の要件について、具体的に主張していかなければなりません。そのため、会社に対する請求には、かなり高度な法的な知識が要求されます。

    具体的には、実際に事故が起きたときに会社側に安全配慮義務の違反があったこと、その違反と怪我や病気との因果関係があること、さらには事故によって労働者に生じた損害の具体的な内容や金額についても、すべて労働者側が主張しなければなりません。
    さらに、それらの項目についてすべて証拠による裏付けが必要となりますが、これも大変困難です。なぜなら、会社で起きた事件の証拠の多くは、労働者側ではなく会社側が握っているからです。

    会社は労災の手続き自体には協力的なところが多いものです。しかし、会社に対して損害賠償請求を起こす場合には、会社の協力を期待することはできません。会社と労働者との間で真っ向から利害が対立する形になるからです。
    そのため、会社に対して労働災害の責任を追及する場合、会社を相手とした交渉だけでなく、労働審判や裁判手続きに進むことも珍しくありません。ひと言で労災といっても、労働条件や事故の発生状況、そして、怪我や病気の内容など、具体的な事情は大きく異なるので、労災手続き自体はご自身で行えるとしても、会社相手の損害賠償について独力でやり遂げることはかなり難しいため、経験豊富な弁護士に依頼するほうが望ましいといえます。

5、まとめ

労災事故によって後遺障害を負うと、労働者は、心身に残った支障によって今までどおりの仕事を続けることが難しくなります。
また、仕事だけでなく日常生活、家族との関係すらも変化する場合もあります。つまり、治療を続けて症状固定に至っても、労働者側の問題は解決したわけではなく、むしろそこからが問題であるとすらいえるのです。

ところが、労働災害の仕組みは他の制度とも複雑にからみあっていますし、上記のとおり会社が責任を負うのか負わないのかについても、ケース・バイ・ケースと言わざるを得ません。
ご自身が法的にみてどんな状況にあるのか、正確に把握するだけでも困難な作業となりますので、会社相手の損害賠償請求を検討する際にはなおのこと、労働者本人が手続きをすべてこなすのは相当に難しいといわざるを得ません。

労災の手続きそのものについては、労働基準監督署等に直接聞いてしまうのが適切だと思いますが、会社に対する請求をお考えであれば、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、労災等級が認定された後の会社に対する損害賠償請求について経験豊富な弁護士が多数在籍しています。おひとりおひとりの事情に沿って、丁寧にお話をうかがう体勢をとっています。

賠償請求には時効もあり成立してしまうと請求ができなくなってしまいます。ぜひお早めにご相談においでくださるようお待ちしています。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

同じカテゴリのコラム

労働災害(労災)コラム一覧はこちら