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労働災害(労災)コラム

熱中症は労働災害になる? 会社に対してできることとは?

更新:2023年10月02日
公開:2022年05月02日
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熱中症は労働災害になる? 会社に対してできることとは?

温暖化が進み、昔よりも熱中症が起こりやすくなっています。

たとえば、建設会社に転職した夫が現場で熱中症になり、長期入院をすることになり、重い後遺症が残るかもしれない……という状況に陥ってしまうケースがあります。熱中症が起きた状況を詳しく調べると、夫は、真夏にもかかわらず上司の命令のもと、長時間炎天下の屋外で作業していた、という事実が発覚するかもしれません。

このようなとき、会社に対して責任を追及したいとお考えになることは当然のことです。そのうえで、そもそも、熱中症は労働災害になりうるのか、炎天下での長時間労働が原因で熱中症になってしまったような場合、労働災害にあたるのかについても知っておくべきでしょう。

では、熱中症で重い後遺症が残るような場合、会社に対して何か請求できるのでしょうか。これらの疑問について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説していきます。

1、熱中症の危険性と重症度分類

私たち人間は、恒温動物です。
そのため、本来、暑い時でも体温が上がりすぎないよう、体温を調節する機能があります。

熱中症とは、暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態(熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病等)の総称です(東京地裁判決令和2年2月17日参照)。
熱中症の症状には、めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣・手足の運動障害、高体温等さまざまなものがあります。

熱中症は医学的に、重症度によって3つに区分されるといわれています(東京地判令和2年2月17日など)。

  • 重症度I(熱失神、日射病、熱痙攣)は、現場で対応可能な病態です。
  • 重症度II(熱疲労)は、速やかな医療機関への受診が必要な病態です。
  • 重症度III(熱射病)は、採血、医療者による判断により入院(場合により集中治療)が必要な病態です。

2、熱中症は労働災害になりうる

  1. (1)熱中症は労働災害になりうる

    作業中に起こった熱中症は労働災害保険給付の対象になりうるのでしょうか。
    結論から言いますと、なり得ます

    たとえば、労働者が亡くなった場合における死亡災害についての遺族補償給付や葬祭料の給付は、「労働者が業務上死亡した場合」に行われます(労働者災害補償保険法12条の8第2項、労働基準法79条、80条)。
    そのため、労働者が亡くなった場合で「労働者が業務上死亡した場合」といえるときには、遺族補償給付葬祭料の給付を受けることができます。

    ここで注意したいのは、業務中の熱中症が全て労災の対象になるわけではなく、熱中症が業務によって起きた場合に限って、労災の対象になるという点です。より詳しく言えば、熱中症が労災の対象になるには、「業務起因性」が必要になります。そのため、業務中に亡くなった場合であっても、「業務起因性」がなければ労災の対象になりません。

    熱中症が起きた場合、どのようなときに「業務起因性」が認められるのかについては、いくつも裁判例があり、複雑です。労災にあたるか、疑問に思われた場合は、弁護士に相談した方がよいでしょう

    なお、労働基準法施行規則では、あるリスクを含む業務に従事することにより、その業務による疾病が発症しうると医学上認められている疾病を列挙しています。そして、労働基準法施行規則35条、別表第1の2第2号8は、「暑熱な場所における業務による熱中症」を業務上の疾病としています。

    また、労働者が暑熱な場所における業務に従事中、熱中症を発症したとして死亡したと認められる場合には、特段の反証がない限り、業務起因性が認められる、と述べた裁判例があります(東京地判平成18年6月26日判例タイムズ1228号171ページ)。
    したがって、暑熱な場所における業務による熱中症により死亡したケースでは、「業務起因性」の立証がやや緩和される可能性があります

  2. (2)労災保険給付手続きの流れ

    労災保険給付手続きには、まず、労働者または遺族が会社の所在地を所管する労働基準監督署長に労災保険給付申請することが原則として必要です。
    申請書には事業主証明欄があり、原則として、被災事実や賃金関係について、事業主の証明印が必要です。

    労災保険給付申請の方法がわからない場合などは、社労士などに相談してみると良いでしょう。

3、企業がとるべき熱中症の対策とは?

では、企業はどのように熱中症対策をすれば良いのでしょうか。
使用者である企業は、労働者に対し、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負うとされています(労働契約法5条)。この義務を、安全配慮義務と呼んでいます。

では、熱中症に関する企業の安全配慮義務の内容として、具体的にどのようなものが考えられるのでしょうか。
ここで参考になるのが、厚生労働省が出している各種の通達やマニュアルです。
企業の損害賠償責任が問われた裁判においても、厚生労働省の通達等やマニュアルを考慮したものがあります(大阪高判平成28年1月21日など。以下「平成28年判決」といいます。)。

厚生労働省の通達やマニュアルには、平成28年判決で指摘されたものだけでも、以下のものがあります。

  • 熱中症の予防について(平成8年5月21日付基発第329号)
  • 熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について(平成17年7月29日付け基安発第0729001号)
  • 職場における熱中症の予防について(平成21年6月19日付基発第0619001号)
  • 職場における熱中症予防対策マニュアル(平成21年6月作成)


労務を担当される方は、上記の通達やマニュアルに沿って、熱中症予防をする必要があるといえるでしょう。

なお、大阪高判平成28年1月21日では、その日初めて当該労働に従事した労働者が、屋外作業中に熱中症で亡くなったという少し特殊な事例において、安全配慮義務の内容を述べています。全てを引用することはできませんので、その一部を引用します。

  • 負荷の大きい作業をさせないこと
  • できるだけ日陰で作業させること
  • 作業開始時に体調が悪くないことを確認すること
  • 十分な休憩時間をとらせること
  • 適切な休憩場所で休憩させること
  • 十分な水分補給をさせること
  • 直射日光にさらされない衣服を着用させること
  • 直射日光を避けることができ通気性の良い帽子を着用させること
  • 熱中症等体調不良の疑いがある場合には作業をやめさせること


安全配慮義務は、具体的状況、事案により、内容が異なります。
そのため、安全配慮義務違反があるかどうかわからない場合は、弁護士に相談することが望ましいでしょう

4、熱中症の労働災害の場合、会社に対してできることとは?

安全配慮義務があって、それにより、労働者が死亡したり熱中症になったりした場合、会社に対して損害賠償請求をすることが考えられます。

損害賠償請求の方法として、会社に対しご自身で請求するという方法もありますが、会社がとりあってくれなかったり、請求の際に自分でうっかり不利になるようなことをしてしまったりすることもあり、うまく進められないケースが多いでしょう。
そのため、会社への請求を行う場合には、専門的な知識をもった弁護士に依頼することをおすすめします

5、まとめ

ご家族やご自身が業務により熱中症になった場合で、会社の対応に納得がいかないときや、わからないことがあるときは、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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