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労働災害(労災)コラム

労災事故によって指の後遺障害が残った場合に受けることのできる補償について

更新:2022年07月28日
公開:2022年07月28日
  • 労災
  • 後遺障害
労災事故によって指の後遺障害が残った場合に受けることのできる補償について

工場での作業中の事故でケガをする方は少なくありません。機械に手の指を挟む、フォークリフトにひかれるなどがよくある事故です。

そして、指のケガは、足の骨折などに比べると治りにくい場合があります。実際、治療やリハビリを続けても、指の可動域が制限されたままであったり、痛みやしびれが残るといった後遺症が残ることもあります。

そのような時に検討すべきことが、労災の障害(補償)等給付の請求手続きです。手の指に障害が残ると、仕事だけでなく日常生活にも大きな影響を与えます。請求によってどんな補償や給付金が得られるのか、請求の手続きはどうするのかなど、弁護士が詳しく解説します。

1、指の障害は大きく分けて2種類

人間にとって、手の指を使った作業は不可欠です。箸をもつ、歯磨きをする、ボタンをとめる、小さなものをつまむ、スマートフォンやパソコンの入力など、全てが指を使う作業です。したがって、ケガによって指の細かい運動能力に制限がかかると、仕事にはもちろん日常生活にも幅広く支障が生じます。

指の障害は、大きくわけて2種類あります。それぞれ個別に見ていきましょう。

  1. (1)欠損障害

    欠損障害とは、手指の近位指節間関節(親指の場合は指節間関節)から先を失ったことに関する障害です。具体的には以下のような認定基準に該当すると、その等級が認定されます。

    等級 障害の程度
    第3級5号 両手の手指の全部を失ったもの
    第6級8号 1手の5の手指又は親指を含み4の手指を失ったもの
    第7級6号 1手の親指を含み3の手指を失ったもの又は親指以外の4の手指を失ったもの
    第8級3号 1手の親指を含み2の手指を失ったもの又は親指以外の3の手指を失ったもの
    第9級12号 1手の親指又は親指以外の2の手指を失ったもの
    第11級8号 1手の人差し指、中指又は薬指を失ったもの
    第12級9号 1手の小指を失ったもの
    第13級7号 1手の親指の指骨の一部を失ったもの
    第14級6号 1手の親指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
  2. (2)機能障害

    機能障害とは、手指の関節の動きが不十分になったことに関する障害、および欠損障害には該当しない部位を失ったことに関する障害のことをいいます。なお、手指の欠損や骨折に伴い、手関節患部の周辺に神経障害が残ることもあります。具体的には以下のような等級を指します。

    等級 障害の程度
    第4級6号 両手の手指の全部の用を廃したもの
    第7級7号 1手の5の手指または親指を含み4の手指の用を廃したもの
    第8級4号 1手の親指を含み3の手指の用を廃したもの又は親指以外の4の手指の用を廃したもの
    第9級13号 1手の親指を含み2の手指の用を廃したもの又は親指以外の3の手指の用を廃したもの
    第10級7号 1手の親指又は親指以外の2の手指の用を廃したもの
    第12級10号 1手の人差し指、中指又は薬指の用を廃したもの
    第13級6号 1手の小指の用を廃したもの
    第14級7号 1手の親指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

2、指をケガしたときに障害の認定を受ける方法は?

医師から症状固定といわれたら、労災事故に関する治療を終えることになります。
症状固定とは、治療を続けてもこれ以上は良くなる見込みが医学的に認められない状態のことをいいます。その時点で、可動域制限や身体の一部欠損、そして痛みやしびれ等の障害が残っているのであれば、障害(補償)等給付の請求手続き(障害の申請)に進みます。

申請にあたっては、担当医に、障害補償給付支給請求書の裏面の診断書(後遺障害診断書)を記載してもらいます。さらにレントゲンやCT、MRI画像などを添付して障害認定の申請を行います。

3、労災で指に障害が生じた際に、受けられる補償は?

労働災害で指に障害が生じたときに、労災から受けられる補償には次のようなものがあります。

  1. (1)療養(補償)給付

    労働者が業務上の負傷又は疾病により治療を必要とする場合、その治療に関する費用の給付を受けられます。療養(補償)給付は、労災指定医療機関であれば、原則として傷病が完治するか症状固定するまでの間、労働者の自己負担なしに療養が受けられます。
    給付の範囲としては、診察料、薬剤費、処置や手術費、居宅での療養看護費、移送費などが含まれます。

  2. (2)休業(補償)給付

    休業(補償)給付とは、労働者が業務上の負傷または病気のために労働することができず、収入が減ってしまう場合の給付です。具体的には、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%が給付されます。さらに、給付基礎日額の20%に相当する休業特別支給金も給付されます。

  3. (3)傷病(補償)年金

    傷病(補償)年金とは、業務災害または通勤災害による傷病が、療養開始後1年6か月を経過しても治癒(症状固定)せず、かつ、その時点で傷病等級(第1級~第3級)に該当するときに支給されるものです。さらに、傷病特別支給金と傷病特別年金も加算して支給されます。
    なお、傷病(補償)年金が支給されると、療養(補償)給付は引き続き支給されますが、休業(補償)給付の支給は停止になります。

  4. (4)障害(補償)給付

    業務上負傷し、または病気になった労働者が、治癒(症状固定)をしても身体に一定の障害が残った場合には障害の等級に応じて補償が受け取れます。具体的には、障害等級第1級~第7級に該当する場合は、障害補償年金が支給されます。障害等級第8級~第14級に該当する場合は、障害補償一時金が支給されます。また、これらとは別に、第1級~第7級に該当する人には障害特別支給金と障害特別年金が、第8級~第14級に該当する人には障害特別支給金と障害特別一時金が支給されます。

4、労災保険給付の中に慰謝料は含まれない

  1. (1)慰謝料は補償対象外

    労災保険により一定の給付は受けられるものの、労災で被った損害のすべてが補償されるわけではありません。たとえば、労災保険で支給されない損害の代表例は、精神的な損害に対する慰謝料です。

    まず、事故による慰謝料としては以下の3つがあります。

    • ① ケガをして入通院を余儀なくされたことに対する入通院慰謝料
    • ② 障害が残った苦痛に対する後遺障害慰謝料
    • ③ 被害者が亡くなった場合の死亡慰謝料


    一般的な交通事故などでは、被害者の被害状況に応じて①~③のいずれか、または複数が受け取れます。たとえば、ケガをして6か月治療のために入通院を続けたなら、6か月分の入通院慰謝料を請求できます。さらに、治療の結果、後遺障害が認定された場合は、認定された障害等級に応じて後遺障害慰謝料が別途請求できます。

    しかし、労災保険では慰謝料という支払い項目がありません。労災事故でケガをし、指を欠損し、または指に不具合が残ったとなると、相当な精神的苦痛を抱えていることでしょう。しかし、いくら精神的苦痛が大きくても、そもそも労災保険制度では慰謝料自体が補償対象には含まれていないのです

  2. (2)休業損害や逸失利益も一部補償にとどまる

    休業損害や障害が残ったことによる逸失利益についても、労災保険から補償されるのは一部にすぎません。たとえば、休業補償は当初の3日間は給付対象外で、仕事を休んで給料が入らなくても労災から休業補償を受け取ることはできません。また、支給額も基礎給付日額の6割と決まっており、特別支給金の2割加算をしたとしても、8割までしか労災では補填されません。不足する部分については、後述するとおり加害者側または会社に対して請求するしかありません。

  3. (3)会社に対する請求

    会社は、労働者を危険から保護するよう配慮しなければならない安全配慮義務があります。そのため、会社がこの安全配慮義務に違反して、労働者に損害が発生した場合には、労働者は、会社に対して、発生した損害について賠償請求することができます。会社に対する賠償請求では、労災保険のように項目の限定がなく、慰謝料も請求可能です。そのほか、休業損害や逸失利益など、労災ではカバーしきれない損害を請求できるため、特に障害が重い場合には積極的に検討したいところです。
    ただし、会社に対する損害賠償請求は、労災申請よりもはるかにハードルが高くなっています。まず、労災申請のように定型的な書類があるわけでもなく、労働者側は一から証拠を集め、会社に対して適切に請求する必要があります。
    例えば、安全配慮義務違反を主張して会社に対して損害賠償請求を行う場合、次のような点を調べ、証拠とともに主張しなければなりません。

    • 会社が労働者に対してどんな安全配慮義務を負っていたか
    • 実際に起きた事故の状況はどんなものか
    • 事故発生時の会社の管理体制はどうなっていたか
    • 会社側が安全配慮義務違反を怠ったために事故が起きたこと
    • 医師の診断、治療経過、障害の状況
    • 労働者に生じた損害と事故との因果関係
    • 労働者の今後の損害見込み額
    など


    これら以外にも、事故の状況に応じてさまざまな具体的事実を立証する必要があります。とはいえ、労災事故の場合、損害の立証に必要な証拠は労働者ではなく会社が握っていることがほとんどです。労働者側がそれらの証拠を開示するように求めても拒否されてしまい、結局のところ証拠が集められずに労働者が不利になりがちです。
    しかし、弁護士に依頼をすれば、弁護士が労働者に代わって会社に対して必要書類を請求し、安全配慮義務違反を追及していくこともできます。

    労災申請と異なり、会社に対する請求には法的な専門知識が必要なので、法律の専門家である弁護士に依頼することが望ましいでしょう。

5、まとめ

手指に関する障害が残ってしまった場合には、申請の内容によって等級が大きく変わることがあります。また、障害が残ってしまった場合は、今後の仕事や生活にも影響を及ぼし、収入も減少するリスクがあります。したがって、まずは、労災保険からしっかりとした補償を受けることが重要です。
ただし、労災保険で補償を受けても、自分の今後の生活や年齢を考えると、将来の備えとして十分とはいえないこともあります。そのような場合は、会社に対する損害賠償請求を検討すべきでしょう。

労災と異なり、会社に対する請求は、高度な法的知識や交渉力が必要とされるため、ご自身で手続きをすることはかなり困難です。できるだけ早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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