業務上・通勤上の原因からケガをしたり、病気になったりして仕事を休んだ場合、労災保険から休業補償給付を受けることができます。
被災労働者にとって、休業補償給付としてどの程度の金額を受け取れるか、その計算方法を知っておくことは、生活費を工面するための目安を立てる意味で非常に重要です。
この記事では、労災時に受給できる休業補償の計算方法につき、支給条件やその他の給付金の種類などと併せて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、休業補償給付とは? どのような場合に支給される?
まずは、休業補償給付に関する基本的な知識として、概要や支給条件、支給対象期間について解説します。
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(1)休業補償給付とは?
労働災害によって負傷したり、疾病にかかったりした労働者が、その治療のために仕事を休んだ場合、原則としてその期間分の賃金を受け取ることができません。
労災保険給付のひとつである休業補償給付は、この労災を原因とした休業期間の賃金を補償するためのものです。 -
(2)休業補償給付が支給される条件
労災保険から休業補償給付が支給される条件は、以下のとおりです。
- ① 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のために、労働することができないこと
- ② 賃金を受けていないこと
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(3)休業補償給付が支払われる期間
休業補償給付は、休業の初日から3日目までは支給されず(待機期間)、4日目から支給されます。
待機期間の3日間については、休業補償給付は受け取れません。
しかし、業務災害の場合、労働者は、働基準法第76条に基づき、待機期間の3日間においても、使用者に対して平均賃金の60%以上の休業補償を請求できます。
一方で、通勤災害の場合、事業主はこのような労働基準法上の休業補償責任を負いません。
2、休業補償給付の計算方法について
次に、労災保険から受け取ることができる休業補償給付の計算方法について解説します。
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(1)休業補償給付の計算式
休業補償給付には、「休業(補償)給付」と「休業特別支給金」の2つがあり、被災労働者が休業した場合には、その両方を受け取ることができます。
「休業(補償)給付」と「休業特別支給金」の計算式は、それぞれ以下のとおりです。- 休業(補償)給付=給付基礎日額の60%×休業日数
- 休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数
上記の「給付基礎日額」とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
平均賃金は、以下の計算式により求められます。平均賃金(=給付基礎日額)
=労災事故の発生日(※)の直前3か月間に被災労働者に対して支払われた賃金の総額÷その期間の日数
(※疾病の場合は、医師の診断により疾病の発生が確定した日。ただし、賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日) -
(2)休業補償給付の具体的な計算例
上記の計算式を前提として、以下の設例を用いて、実際に休業補償給付の金額を計算してみましょう。
<設例>- 2021年4月15日に労災事故により負傷、その後10日間休業
- 賃金締切日は毎月末日
- 同年1月、2月、3月の賃金は、それぞれ30万円、33万円、29万円
この設例では、賃金締切日が毎月末日に設定されているため、平均賃金(=給付基礎日額)の計算対象期間は、負傷日が属する月の前3か月間に当たる2021年1月・2月・3月となります。
この3か月間に支払いを受けた賃金総額は92万円、日数は92日です。
したがって、平均賃金(=給付基礎日額)は、92万円÷92日=「1万円」となります。
休業日数は10日間ですが、最初の3日間は「待機期間」として、休業補償給付が支給されません。
したがって、休業補償給付の支給対象期間は「7日間」となります。
よって、設例において労働者が受け取ることができる休業補償給付の金額は、以下のとおりです。休業(補償)給付
=1万円×60%×7日
=42000円
休業特別支援金
=1万円×20%×7日
=14000円
計56000円
3、休業補償給付以外にも支給される可能性がある給付の種類
休業補償給付のほかにも、被災労働者はさまざまな給付を受け取ることができます。
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(1)休業補償給付以外の労災保険給付一覧
被災労働者が受け取ることができる労災保険給付は、以下のとおりです。各給付の詳細については、厚生労働省の資料も併せてご参照ください。
参考:「労災保険給付の概要」(厚生労働省)
参考:「労災保険給付等一覧」(厚生労働省)① 療養(補償)給付
労災による負傷や疾病などの治療にかかった費用につき、実費相当額の補償が受けられます。
② 障害(補償)給付
労災による負傷や疾病が完治せずに症状固定し、後遺症が残った場合に、認定される障害等級に応じて逸失利益などの補償が受けられます。
参考:「障害等級表」(厚生労働省)
③ 遺族(補償)給付
労災事故によって死亡した被災労働者の遺族に対して、生活補償として一定の給付が行われます。
④ 葬祭料・葬祭給付
労災事故によって被災労働者が死亡した場合に、葬儀費用の補塡(ほてん)として一定の金額が給付されます。
⑤ 傷病(補償)給付
傷病等級第3級以上に該当する負傷や疾病が、1年6か月以上治らない場合に支給されます。
⑥ 介護(補償)給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者のうち、第1級または第2級の精神・神経障害および腹膜部臓器の障害がある人が、現に介護を受けている場合に、介護費用の補填として毎月支給されます。 -
(2)健康保険の傷病手当金とは? 被災労働者は受け取れる?
業務外の原因による負傷や疾病に対しては、加入している健康保険から傷病手当金の支給を受けることができます。
これに対して、労働災害による負傷や疾病は、業務上のものであるため、健康保険の傷病手当金の支給対象とはなりません。
労災保険の「休業補償給付」と、健康保険の「傷病手当金」は、ともに負傷や疾病による休業期間の収入を補償するという性質を共通にしています。そのため、業務上・業務外という基準ですみ分けが図られているのです。
したがって、労災による負傷や疾病について健康保険の傷病手当金を受け取ることはできず、労災保険の休業補償給付を申請することになります。
なお、業務外の理由による負傷や疾病のために就労不能となった場合でも、別の原因で労災保険から休業補償給付を受けている期間中は、傷病手当金が支給されません。
ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額よりも低いときは、差額分に限り、健康保険の傷病手当金を受け取ることができます。
4、労災に関して休業補償や損害賠償を請求する方法
労働災害に遭って負傷をしたり、疾病にかかったりした場合には、労災保険給付を適切に申請するとともに、会社に対する損害賠償請求も積極的に検討しましょう。
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(1)労災保険給付(休業補償給付)を請求する手続き
休業補償給付を含む労災保険給付を請求するためには、会社の所在地の労働基準監督署長に対して請求書を提出する必要があります。
請求書様式は以下のページに掲載されているので、受給対象となる給付の種類を選択して、漏れのないように請求しましょう。
参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省)
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(2)会社に損害賠償を請求したい場合の手続き
労災保険給付だけでは、労働者が負傷・疾病などによって受けた損害の全額が補填されるとは限りません。
特に、精神的な損害を補償する「慰謝料」については、会社に対して直接請求する必要があります。
会社に対して労災による損害の賠償を請求するには、主に以下の手続きによることになります。① 交渉
会社に対して法的な主張を直接伝え、任意に損害賠償金を支払うことを求めます。
② 労働審判
裁判所で開催される非公開の紛争解決手続きです。裁判官・労働審判員による客観的な審理を受けられるほか、期日が原則3回以内とされているため、訴訟よりも迅速に紛争解決を実現できるメリットがあります。
③ 訴訟
裁判所の公開法廷において、証拠を用いて会社に対する請求の根拠を立証する必要があります。訴訟は専門的な手続きであり、かつ時間がかかる難点がある反面、判決によって紛争を確定的に解決できる強力な手続きです。 -
(3)会社との交渉を適切に行うには弁護士に相談を
労災に関して、会社に対して損害賠償請求を行う場合、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
労働者の方が個人で会社という大きな組織に立ち向かうことは、相当に負担が重いことです。弁護士は、損害賠償を行うための主張構成や金額計算、実際の交渉や裁判手続きに至るまで、請求の手続きを全面的にサポートします。
なお、労災による被害解決のためには、労働災害の解決実績がある弁護士に相談することを検討しましょう。確かな解決実績を持つ法律事務所であれば、具体的な実績数や解決事例などをホームページで公表していることが少なくありません。信頼できる法律事務所か、インターネットで事前に調査することも大切です。
ベリーベスト法律事務所は、労働災害(労災)専門チームを組織し、数多くの労災トラブルの解決実績がある弁護士が所属しています。初回相談60分は無料ですので、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所にご相談ください。
5、まとめ
労災による負傷・疾病が原因で会社を休んだ場合には、休業4日目以降、労災保険から休業補償給付を受けることができます。しかし、休業補償給付をはじめとした労災保険給付だけでは、労災による損害の全額が補填されないケースも多々存在します。
補償が足りない、後遺症が不安など、会社に対して何らかの請求ができないかとお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。弁護士がご事情を詳しくお伺いし、対応策を親身にアドバイスいたします。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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