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労働災害(労災)コラム

労災年金の種類と受給条件は? 金額算定や弁護士に相談すべきケース

更新:2022年12月12日
公開:2022年12月12日
  • 労災
  • 年金
労災年金の種類と受給条件は? 金額算定や弁護士に相談すべきケース

労災によって一定の障害が残った場合や、被災労働者が亡くなってしまった場合には、本人や遺族が労災年金を受給できます。

まずは受給可能な労災年金を漏れなく申請したうえで、労災発生に会社の責任があると考えられる場合には、弁護士に相談して会社への損害賠償請求をご検討ください。

本コラムでは、労災年金の種類・受給条件・金額の算出方法、さらに労災を弁護士に相談すべきケースなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労災で障害が残った場合などに受給できる年金の種類

業務上、または通勤中の事故などが原因で負傷または疾病が発生し、障害が残ったり死亡してしまったりした場合には、以下の3種類の年金のうちいずれかを受給できる可能性があります。

  1. (1)傷病(補償)年金

    「傷病(補償)年金」とは、傷病等級第3級以上に当たる負傷や疾病が、療養開始後1年6か月以上経過しても完治していない場合に支給される労災保険給付です。

    傷病(補償)年金は、症状固定※前の期間に対して支給されます。

    1. ※症状固定=労災による負傷や疾病が、これ以上治療しても改善しない状態。医師の判断が重要視される。
  2. (2)障害(補償)年金

    「障害(補償)年金」とは、障害等級第7級以上に該当する障害が残った場合に支給される労災保険給付です。

    障害(補償)年金は、症状固定後の期間に対して支給されます。

  3. (3)遺族(補償)年金

    被災労働者が亡くなった場合、受給権者である遺族が、その数に応じて「遺族(補償)年金」を受け取れます。

    遺族(補償)年金の受給権者は、被災労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた配偶者・子ども・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です(共稼ぎも可)。
    この順番で受給資格があり、優先順位者だけが受給することができます。

    ただし、配偶者以外の遺族については、被災労働者の死亡当時、以下のいずれかの要件を満たしている必要があります。

    • ① 55歳以上
    • ② 18歳未満
    • ③ 障害等級第5級以上の身体障害

2、労災年金を受給できるかどうかを左右する条件

各種の労災年金を受給するには、それぞれの受給要件について、労働基準監督署による認定を受ける必要があります。

労災年金を受給できるかどうかを左右する主な条件は、以下のとおりです。

  1. (1)業務起因性・業務遂行性

    業務中の負傷や疾病(業務災害)によって生じた障害や死亡について、労災年金を申請する際には、「業務起因性」と「業務遂行性」の要件を満たす必要があります。

    ① 業務起因性
    障害や死亡につながった負傷や疾病が、業務上の原因によって発生したことをいいます。

    ② 業務遂行性
    労働者が使用者の指揮命令下で労働している時に、負傷や疾病が発生したことをいいます。
  2. (2)通勤中であること

    通勤中に負傷や疾病(通勤災害)が発生した場合(通勤災害)にも、その結果生じた障害や死亡について、労災年金を申請することができます。

    通勤災害によって労災年金を申請する場合、以下のすべての条件を満たさなければなりません。

    ① 以下のいずれかの移動であること
    • 住居と就業場所の間の往復
    • 就業場所からほかの就業場所への移動
    • 単身赴任先住居と帰省先住居の間の往復

    ② 移動と業務が密接に関連していること
    1. (i)「住居と就業場所の間の往復」または「就業場所から他の就業場所への移動」の場合
      被災当日の就業が予定されていたこと、または現実に就業したことが必要です。
    2. (ii)「単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動」の場合
      就業日の前日・当日・翌日のいずれかの移動であることが必要です。

    ③ 合理的な経路・方法による移動であること
    仮に遠回りや寄り道をする場合には、その経路を選択することについて合理的な理由がなければ、労災認定の対象にはなりません。

    ④ 移動が業務の性質を有するものでないこと
    移動が業務の性質を有する場合、「業務災害」として補償されます。
  3. (3)傷病等級・障害等級

    「傷病(補償)年金」と「障害(補償)年金」を受給するには、傷病等級・障害等級の認定を得ることが必須となります。

    傷病等級・障害等級は、負傷や疾病(またはその後遺症)の症状の内容や重さによって、労働基準監督署が認定します。

    (参考:「傷病(補償)等年金について」(厚生労働省)
    (参考:「障害等級表」(厚生労働省)

3、受給できる労災年金額の算出方法

具体的に、被災労働者本人や遺族が受給できる労災年金額の計算方法について解説します。

  1. (1)給付基礎日額・算定基礎日額とは

    労災年金額は、「給付基礎日額」と「算定基礎日額」という2つの基準を用いて算定されます。

    「給付基礎日額」は、労働基準法上の平均賃金を意味し、毎月支給される基本給や残業代その他の手当に対応しています。

    「算定基礎日額」は、原則として通勤による負傷等の原因である発生した日の前1年間にその労働者が会社から受けた特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った額です。特別給与とは、ボーナスなど3か月を超える期間ごとに支払われる賃金をいいます。

    なお、複数の会社で働く人が被災した場合、被災のタイミングによって、給付基礎日額・算定基礎日額の算出基礎となる賃金の額が以下のとおり変わります。

    ① 2020年8月31日以前に被災した場合
    被災した事業場から受け取っている賃金のみが算出の基礎となります。

    ② 2020年9月1日以降に被災した場合
    すべての事業場から受け取っている賃金の合計が算出の基礎となります。
  2. (2)傷病(補償)年金・障害(補償)年金の算出表

    傷病(補償)年金と障害(補償)年金は、労働基準監督署が認定する傷病等級・障害等級に基づいて金額が決定されます。

    <傷病(補償)年金>

    傷病等級 傷病(補償)給付 傷病特別年金 傷病特別支給金※一時金
    第1級 給付基礎日額の313日分 算定基礎日額の313日分 114万円
    第2級 〃277日分 〃277日分 107万円
    第3級 〃245日分 〃245日分 100万円


    <障害(補償)年金>

    障害等級 障害(補償)給付 障害特別年金 障害特別支給金※一時金
    第1級 給付基礎日額の313日分 算定基礎日額の313日分 342万円
    第2級 〃277日分 〃277日分 320万円
    第3級 〃245日分 〃245日分 300万円
    第4級 〃213日分 〃213日分 264万円
    第5級 〃184日分 〃184日分 225万円
    第6級 〃156日分 〃156日分 192万円
    第7級 〃131日分 〃131日分 159万円


    なお、障害等級第8級以下の場合には、以下の内容の一時金が支給されます。

    障害等級 障害(補償)一時金 障害特別一時金 障害特別支給金
    第8級 給付基礎日額の503日分 算定基礎日額の503日分 65万円
    第9級 〃391日分 〃391日分 50万円
    第10級 〃302日分 〃302日分 39万円
    第11級 〃223日分 〃223日分 29万円
    第12級 〃156日分 〃156日分 20万円
    第13級 〃101日分 〃101日分 14万円
    第14級 〃56日分 〃56日分 8万円
  3. (3)遺族(補償)年金の算出表

    遺族(補償)年金は、受給権者である遺族の人数によって支給額が決定されます。

    遺族数 遺族(補償)年金 遺族特別年金 遺族特別支給金(一時金)
    1人 給付基礎日額の153日分
    (55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分)
    算定基礎日額の153日分
    (55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分)
    一律300万円
    2人 〃201日分 〃201日分
    3人 〃223日分 〃223日分
    4人 〃245日分 〃245日分
  4. (4)スライド率について

    労災年金の金額は、基本的に被災時の賃金(給付基礎日額・算定基礎日額)をベースとして算定されます。
    しかし、世間の賃金水準を反映し、労災年金の支給額を公平化するため、被災当時の賃金額に「スライド率」を乗じて調整が行われます。

    スライド率は毎年更新されていますが、平成以降はあまり大きな調整は行われていません。
    スライド制についての詳細は、以下の厚生労働省のページをご参照ください。

    (参考:「スライド率等の改定に伴う労災年金額の変更について」(厚生労働省)

  5. (5)ほかに年金を受け取っている場合、金額が調整されることがある

    労災年金とは別に、厚生年金(障害厚生年金・遺族厚生年金)または国民年金(障害基礎年金・遺族基礎年金)を受給している場合には、労災年金の金額が調整されることがあります

    このような調整が行われるのは、被災後の年金額が被災前の賃金よりも高額になってしまうことを防ぐとともに、事業主が厚生年金保険と労災保険を二重に負担することを防ぐためとされています。

    労災年金の支給調整に関しては、以下の厚生労働省のページをご参照ください。

    (参考:「障害(補償)年金や遺族(補償)年金などの労災年金と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか。」(厚生労働省)

4、労災被害を弁護士に相談すべきケースと依頼のメリット

労災年金を含む労災保険給付は、実際に被災労働者に生じた損害額にかかわらず、被災当時の賃金額などに応じて画一的に決定されます。そのため、労災保険給付の金額は、実際の損害を補填するために不十分なケースは少なくありません。

また労災保険給付は、精神的損害の補填に当たる「慰謝料」を補償対象外としています。

そのため、労災保険給付による損害補填の不足分や慰謝料については、会社の安全配慮義務違反(民法415条)、不法行為責任(民法709条)や使用者責任(民法第715条第1項)を根拠に、会社に対して損害賠償を請求することになります。

もし会社に対して損害賠償を請求したい場合には、弁護士にご相談ください。弁護士は、損害賠償請求の根拠をきちんと整えたうえで、会社に対して正当な請求を行うための全面的なサポートを行います。

また、会社との交渉や裁判手続きを弁護士が代行するため、被災労働者やご家族のご負担も大きく軽減されるかと思います。

5、まとめ

労災によって障害が残った場合や、被災労働者が死亡した場合には、労災年金を申請するとともに、会社への損害賠償を検討することをおすすめします

労災年金受給者の方や、これから労災年金の申請を行う方が、会社に対する損害賠償請求も併せて行う際には、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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