労災事故でケガや病気をした場合、病院を受診する必要もあり、仕事を休まなければならなくなるなど、身体的・精神的な負担だけでなく、金銭的な負担も発生します。
特に、仕事を休まなければならなくなると、給料が途絶えることにつながりますので、生活資金に対する焦りを感じてしまう方もいらっしゃるかと思います。
本コラムでは、労災事故に遭った方が治療に専念できるよう、労災申請の手続きから認定、実際に補償が行われ入金を受けられるまでの一般的な期間などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労災事故発生から手続きの流れとタイミング
まずは、労災保険の基本的な部分となる、労災保険がカバーする範囲、実際にお金が給付されるまでの流れについて解説します。労働災害が起きてから労災保険の申請を行うための手続きの流れについても確認しておきましょう。
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(1)労災保険がカバーする範囲
労災事故でケガ・病気をしたり、死亡したりした場合には、それぞれの状況(支給事由)に応じて、該当する保険が給付されます。
代表的なものを以下でご紹介します。
種類 支給事由 給付の内容 特別支給金 療養(補償)給付 傷病により療養するとき - 診察、薬剤、治療材料、処置、手術、在宅看護、入院、移送など
- 原則として現物給付
- 例外としてかかった費用の支給
休業(補償)給付 傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額
※休日や出勤停止期間も給付対象休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の20%相当額 障害(補償)給付 傷病が治癒(症状固定)した後に、身体に障害が残ったとき - 障害等級第1級から第7級の重い障害の場合、1年につき、給付基礎日額の313日分から131日分の年金
- 第8級から第14級の障害の場合、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金
障害等級に応じて、障害特別支給金、障害特別年金、障害特別一時金が支給 遺族(補償)年金 死亡したとき 遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金 - 遺族特別支給金
遺族の数にかかわらず、一律300万円 - 遺族特別年金
遺族の数に応じ、算定基礎日額の245日分から153日分の年金
このほかにも、労災事故による負傷の療養開始から1年6か月が経過しても治らず、障害が残ったときに給付される「傷病(補償)年金」、一定以上の等級の障害により、介護が必要になったときに給付される「介護(補償)給付」などがあります。
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(2)労災申請の手順とタイミング
労災保険の給付を受けるためには、労災申請の手続きが必要です。
ここでは、労災申請の手順をお伝えします。申請する労災保険の種類などによって異なる点がありますので、代表的なものとしてお考えください。労災事故の発生
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病院を受診する- 労災指定病院を受診した場合、窓口での費用の支払は必要ありませんが、申請書類は、労働基準監督署ではなく病院に提出することになります。
- 労災指定病院以外の病院の場合には、一旦窓口で費用(10割全額)を立て替えて、労災保険で補償を受けることになります。
- 労災指定病院ではない医療機関に受診した場合、窓口での費用はいったん自費で立て替える必要があります。
会社に事業主証明を書いてもらう- 労働者が申請書類に書いた内容(労災事故の日時、場所、内容など)に間違いがないことを、会社に証明してもらうためのものです。
- 会社に事業主証明を拒否された場合でも、その事情を説明した上申書をご自身で作成すれば、労災申請が可能です。
労働基準監督署に申請書類を提出する- 申請に当たっては、領収書などの添付が必要です。
- 時効に注意しましょう。
・療養(補償)給付は療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
・休業(補償)給付は賃金をもらえなかった日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
・障害(補償)給付は、傷病が治癒した日の翌日から5年
・遺族(補償)給付は、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
・葬祭料(葬祭給付)は、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年
などです。
労働基準監督署での調査・審査
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支給・不支給決定- 決定に不服がある場合には、不服申し立てが可能です。
審査請求→再審査請求か行政訴訟(取消訴訟)
保険の給付 -
(3)認定を受けるまでにかかる審査時間
労災の申請から支給決定までにかかる審査の期間は、請求する保険給付の種類によって異なります。
審査にかかる期間の目安は、厚生労働省から公表されています(内容によっては、詳細な調査・審査が行われることがありますので、注意が必要です)。- ケガ・病気の場合:おおむね1か月
- 休業補償の場合:おおむね1か月
- 障害が残った場合:おおむね3か月
- 死亡の場合:おおむね4か月
2、会社が労災申請をしてくれない場合は自分で申請可能!
労災保険料は会社が全額負担で、しかも、一定規模以上の場合には、過去3年間の労災の発生数などに応じて保険料率が増減する、メリット制が採用されています。そのため、会社側が負担を回避しようとするために「労災隠し」が行われることがあるようです。ただし、労災隠しは犯罪にあたるため、違反には50万円以下の罰金が科せられます。
しかし、万が一、労災隠しをされてしまった場合でも、労災申請を行うに当たっては、会社の同意は必要ないため、ご自身で行うことが可能です。
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(1)労災隠しをされた場合は自分で手続きできる
労災隠しをされた場合でも、労災申請をあきらめる必要はありません。
そもそも、労災申請は、労災事故に遭った労働者ご自身やご遺族から行うこととされていますので、会社が申請すべきものではありません。会社が積極的に手続きを進めてくれるケースのほうが多い傾向にあると考えられますが、それは、会社側が労働者の負担を軽減するために行われているものにすぎないのです。
申請のために必要な様式はすべて、厚生労働省のウェブサイトに掲載されています。まずは必要な書類を添付して提出することで申請が可能です。
労災保険給付関係請求書等 ダウンロード
どれを使うべきかわからないときは、会社の所在地に近い労働基準監督署に問い合わせて進めましょう。 -
(2)自分で手続きを行う場合の手順
自分で労災申請を行う際には、以下の流れを参考に手続きを行ってください。
厚生労働省のウェブサイトから、自身が該当する保険給付に対応した申請書類をダウンロードする- 保険給付の種類のほか、業務災害か通勤災害かによっても様式が異なりますので、確認が必要です。
会社に事業主証明を書いてもらう- 労災隠し、倒産などで会社に事業主証明を書いてもらえないときは、その事情を記載した上申書を作成する。
不明な点があれば、労働基準監督署などに問い合わせる- 時効にかかって消滅するおそれがあるため、分からないからといって放置しない。
労働基準監督署に申請書類を提出する
3、労災保険からの給付はいつ、どのぐらいの期間行われる?
労災事故の場合、数週間で完治するものから、治癒と呼ばれる状態になっても障害が残ってしまい、場合によっては生涯にわたり労災事故の後遺症に苦しめられてしまうケースもあります。労災申請が受理されたのち認定されたとしても、いつから、また、どれぐらいの期間、給付を受けられるのか不安に思う方は少なくないでしょう。
本章では、実際に給付が開始される日の目安と期間について解説します。
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(1)給付開始日の目安と給付期間
申請した労災が認められた場合、原則として、期間制限はなく、支給事由に該当する限りは保険給付を受け続けることができます。
各保険給付の給付開始日や給付期間を表に整理しましたので、参考になさってください。
種類 給付開始日・給付期間 療養(補償)給付 ケガや病気が治癒(症状固定)するまで支給が継続 休業(補償)給付 休業4日目から支給事由を満たす限り継続 障害(補償)給付 支給事由を満たす限り継続 遺族(補償)年金 受給者(遺族)が支給事由を満たす限り継続(失権しても次の受給者に支給)
※一時金の場合は1回限り傷病(補償)年金 支給事由を満たす限り継続
※治癒(症状固定)したときは、障害(補償)給付に切り替え介護(補償)給付 支給事由を満たす限り継続 -
(2)給付までの生活が厳しい場合にできること
このように、労災の補償の範囲は広く、また、原則として期間制限もありません。しかし、支給決定までに短くても1か月はかかってしまうことがわかるでしょう。給付が始まるまでの間、仕事に行けず休養が途絶えてしまえば、生活が苦しくなってしまう方もいると考えられます。
そのような場合には、健康保険の傷病手当金を申請することを検討してください。傷病手当金は、ケガや病気によって連続して3日間休んだとき、休業4日目以降の分に対して支給されます。
金額は標準報酬月額の2/3で、支給開始から最長で1年6か月間、支給を受けられます。ただし、傷病手当金と休業(補償)給付を2重で受給することはできません。したがって、労災の認定がおりた後で、重複する期間分に受給した傷病手当金を返還する必要があることを知っておきましょう。
このほか、労働協約や就業規則によっては、労災に上乗せする補償(労災上積み補償制度)を定めている場合があります。会社に確認し、このような制度がある場合には、労災認定の前に制度を利用できないかを相談してみてもよいでしょう。
4、不足する部分は会社に対して損害賠償請求を検討する
前述のとおり、労災は、支給事由に該当すれば、それに対応した給付を受けることができる制度です。しかし、支給事由ごとに給付内容が決められていますので、労災保険だけでは損害のすべてを補償できないケースもあり得ます。
たとえば、実際にかかった医療費は補償してもらえますが、精神的苦痛に対する慰謝料などは支払われません。
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(1)会社へ損害賠償請求ができるケース
労災保険で補償されない部分があるときは、会社を相手方とする損害賠償請求を行うことで、その部分を補ってもらえることがあります。
ただし、会社に一切の非がないときは、当然ながら損害賠償請求を行うことはできません。会社に使用者責任を問えるケースや、安全配慮義務違反がある場合には、損害賠償請求を行うことが認められます。
なぜなら、会社は、使用している労働者を指示・管理する責任があり、さらには、労働者の生命・身体などの安全を確保するよう配慮する義務を負っているためです。
具体的には、以下のケースで損害賠償請求を行えます。<使用者責任を問える可能性があるケース>- 勤務時間中に同僚から暴行を受けた
- 同僚の機械の操作ミスによって負傷した場合
<安全配慮義務違反を問える可能性があるケース>- 業務に使う車両の整備を怠っていた
- 有害な化学物質の中で対策なく作業をさせた
- 漫然と長時間労働を続けさせた
- いじめやハラスメントに気付きながら対応しなかった場合
なお、会社に損害賠償を請求する場合には、労災では補償されない慰謝料等を請求することができますので、賠償額が高額になる可能性が高くなります。
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(2)損害賠償請求を検討するときは弁護士に相談を
会社に損害賠償を請求する方法としては、交渉、調停、労働審判、通常訴訟などの方法が考えられます。いずれの方法で請求する場合であっても、請求の内訳(費目)や根拠(算定方法)を正しく示す必要がありますし、裁判手続きを取る場合には、専門的な知識が必要です。
労働事件に精通した弁護士にご相談いただければ、適正な金額を提示して交渉・裁判手続きを進め、より良い解決に向けた最大限のサポートが可能です。
労災で会社への損害賠償をお考えの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
5、まとめ
労災保険は、支給事由に該当する限り、原則として給付期間の制限なく受給することが可能です。また、ケガ・病気・死亡・介護・障害など、幅広い補償を受けることができます。
使用者責任を問える場合や安全配慮義務違反に該当する場合、会社に損害賠償を請求することも可能で、この場合には、労災では補償のない慰謝料も請求することができます。損害賠償を請求する際には、専門的な知識・手続きが必要となりますので、弁護士への相談をおすすめします。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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