労災事故が発生した場合には、被災労働者は、怪我や障害などによりさまざまな損害を被ることになります。そのような損害の一部は、労災保険から補償を受けることができますが、労災保険で補償されない部分については、労災発生に関して落ち度のある会社に対して請求することが可能です。
特に、労災保険による補償では慰謝料が含まれていませんので、適切な慰謝料の支払いを受けることが重要です。
本コラムでは、労災による慰謝料請求の相場や慰謝料請求をする際の注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、労災で会社に請求できる慰謝料の種類
最初に、労災(労働災害)で会社に請求できる慰謝料の種類を説明します。
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(1)慰謝料には3つの種類がある
慰謝料とは、被害者が被った精神的苦痛に対する金銭的な補償です。以下、主な慰謝料の種類を解説します。
① 入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、労災によって怪我をしたことで生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。怪我に対する慰謝料であることから「傷害慰謝料」と呼ばれることもあります。
労災による痛み、苦しみ、不安、恐怖などは、この入通院慰謝料によって補償されます。
② 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、労災による後遺障害で生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
労災による傷病のなかには、治療を継続したとしてもそれ以上の症状改善が見込めない状態になるものもあります。このような状態を「症状固定」といいます。症状固定時点で残存している症状(後遺症)については、労災による障害等級認定の対象となります。
労災による障害等級認定を受けることができれば、認定された障害等級に応じた後遺障害慰謝料の支払いを受けることが可能です。
③ 死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、労災により労働者が死亡したことで生じる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。死亡慰謝料は、被災労働者の慰謝料請求権を相続した遺族が請求していくことになります。
なお、死亡した被災労働者固有の慰謝料以外にも、父母、配偶者、子どもといった被災労働者の近親者固有の慰謝料も認められます。 -
(2)労災保険からの補償には慰謝料は含まれない
労災による傷病については、労総基準監督署長による労災認定を受けることにより、労災保険から以下のような補償を受けることができます。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)年金
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
- 介護(補償)給付
- 二次健康診断等給付
上記の項目には、精神的苦痛に対する補償である慰謝料は含まれていません。そのため、労災保険からは慰謝料に関する補償を受けることはできません。
2、会社から支払われる慰謝料の相場
労災保険では慰謝料が補償されませんので、慰謝料の支払いを求める場合には、労災発生に関して落ち度のある会社に対して直接請求していく必要があります。以下では、会社から支払われる慰謝料の相場について説明します。
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(1)入通院慰謝料の相場
労災による怪我の痛み、苦しみ、恐怖や治療の不安などの感じ方は、人それぞれですので被害者の主観を基準に慰謝料を算定すると不公平な結果になってしまいます。
そこで、労災による入通院慰謝料の金額は、入通院期間や入通院日数などの客観的な要素に基づいて計算するのが一般的です。
具体的な、入通院慰謝料の相場は、以下の表のとおりです。
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 通院 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335 11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332 12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326 13月 158 187 213 238 262 282 300 316 14月 162 189 215 240 264 284 302 15月 164 191 217 242 266 286
たとえば、労災による治療のためには6か月間通院をしたという場合の慰謝料相場は、116万円となります。また、3か月間入院し、その後、6か月の通院を行ったという場合の慰謝料の相場は、211万円となります。
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(2)後遺障害慰謝料の相場
被災労働者に障害が残ってしまった場合には、障害等級認定の手続きによって、後遺症の内容および程度に応じた障害等級認定を受けることができます。
労災による後遺障害慰謝料は、認定された障害等級に応じて金額が定められていますので、どのような等級認定になるかが非常に重要です。
具体的な後遺障害慰謝料の金額は、以下の表のとおりです。
等級 後遺障害慰謝料の金額 1級 2800万円 2級 2370万円 3級 1990万円 4級 1670万円 5級 1400万円 6級 1180万円 7級 1000万円 8級 830万円 9級 690万円 10級 550万円 11級 420万円 12級 290万円 13級 180万円 14級 110万円
たとえば、労災事故により障害等級10級に該当する後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害慰謝料として、550万円が支払われることになります。
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(3)死亡慰謝料の相場
労災によって、労働者が死亡してしまった場合には、被災労働者の遺族(相続人)に対して、死亡慰謝料が支払われます。死亡慰謝料の金額は、被災労働者の家庭での立場によって、以下のように異なってきます。
被災労働者の立場 死亡慰謝料の金額 一家の支柱 2800万円 母親、配偶者 2500万円 その他(独身、子ども、高齢者など) 2000~2500万円
たとえば、主に労働者の収入により家族が生活していたという場合には、当該労働者は、一家の支柱に該当しますので、死亡慰謝料の相場としては2800万円となります。
また、被災労働者が一家の支柱とはいえないとしても、子育てや家事を担っていた場合には「母親、配偶者」に該当しますので、死亡慰謝料の相場としては2500万円となります。
なお、上記金額は、あくまでも死亡した労働者の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料ですので、これとは別に遺族固有の慰謝料が認められる場合もあります。
3、労災で慰謝料の金額を左右する要素と注意点
上記の金額は、あくまでも相場の金額ですので、個別具体的な要素によっては、慰謝料の金額が変動するケースもあります。ここからは、労災による慰謝料額を決める際の考慮要素と慰謝料請求の際の注意点について説明します。
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(1)慰謝料の金額を決める際に考慮される要素
第2章で説明した慰謝料の相場は、あくまでも一般的なケースを想定した慰謝料相場になりますので、すべてのケースがこの金額におさまるというわけではありません。
実際の慰謝料の計算においては、以下のような要素を踏まえて、金額を決める必要があります。- 怪我の内容および程度
- 後遺症による日常生活や仕事への影響の有無および程度
- 労働者の過失割合
- 精神的苦痛の程度
- 過去の裁判例の傾向
- 障害等級の認定を受けているかどうか
- 労災の発生原因となった加害者および会社の対応
たとえば、生死が危ぶまれる状態が継続した場合や手術を繰り返し行ったような場合には、一般的なケースに比べて、被災労働者の精神的苦痛は大きいといえます。そのため、相場となる金額よりも慰謝料額が増額される可能性があります。
他方、労災の発生原因が被災労働者にもあるような場合には、過失相殺により、慰謝料額が減額されるケースもあります。 -
(2)慰謝料請求をする際の注意点
労災による慰謝料請求をする場合には、以下の点に注意が必要です。
① 慰謝料を請求するには、会社の責任を立証する必要がある
労働基準監督署による労災認定を受けただけでは、会社への慰謝料請求はできません。会社に対して慰謝料請求をするためには、会社に労災発生の原因があることを労働者側で主張立証していくことが必要です。
会社には、労働者が安全かつ健康に働くことができるように配慮する義務(安全配慮義務)があります。そのため、会社の安全配慮義務により労災が発生したといえる場合には、会社への慰謝料請求が可能です。また、会社が雇用する従業員のミスにより労災が発生した場合には、使用者責任を根拠に慰謝料請求を行うこともできます。
② 慰謝料請求権には時効がある
労災により慰謝料請求権には、時効という期間制限がありますので、時効期間内に会社への慰謝料請求を行わなければなりません。
法律構成や請求権の内容によって時効期間が異なるので、注意が必要です。
4、慰謝料以外に会社に対して請求できるもの
労災発生に関して会社に責任が認められる場合には、慰謝料以外の損害についても請求することができます。
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(1)慰謝料以外に請求できる項目
労災保険による補償には、慰謝料以外も、以下の補償についても十分なものとはいえません。
- 積極損害(入院雑費、付添看護費、装具購入費など)
- 消極損害(休業損害、逸失利益など)
労災保険からの補償では不十分なこれらの損害項目については、労災発生に責任のある会社に対して請求することができます。
労災によって被災労働者は、苦痛や日常生活への支障が生じることになりますので、労災保険による補償だけで満足するのではなく、しっかりと会社に対して請求していくことができないか検討することが大切です。 -
(2)適正な賠償を受けるためにも弁護士に相談を
会社に対して賠償請求をするにあたっては、労災発生に対する会社の責任を立証していく必要があります。そのためには、労災問題の解決実績がある弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士であれば、労災の責任の立証に必要となる証拠を収集し、会社の責任を明らかにしたうえで、会社との交渉を進めていくことができます。また、会社が交渉に応じない場合でも裁判により責任を明らかにし、賠償金の支払いを求めていくよう最善を尽くします。
適正な賠償を受けるためにも、まずは、弁護士に相談することがおすすめです。
5、まとめ
労災によって生じた精神的苦痛に対しては、慰謝料の支払いを求めることができます。
慰謝料は、労災保険からの補償には含まれていませんので、会社に対して請求していくことになりますが、その前提となる会社の責任の立証や会社との交渉は、労働者個人では困難といえます。
そのため、会社への損害賠償請求をお考えの方は、まずは、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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