健康保険を利用してリハビリを受ける際には、「150日ルール」が適用されます。これは、発症、診断を受けた日もしくは手術を受けた日から原則として150日までしか健康保険を利用してリハビリを受けることができないという診療報酬算定上のルールです。
では、労災で怪我をした場合にもこの150日ルールが適用されるのでしょうか。実は、労災保険を利用してリハビリをした場合は150日ルールの適用はありません。また、労災保険の補償でカバーできない慰謝料や逸失利益は、会社に損害賠償請求できる可能性があるので、ルールと請求方法について知っておくことが重要です。
今回は、労災でのリハビリと150日ルール、慰謝料(損害賠償)請求の方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、リハビリの150日ルールとは
まずは、リハビリの150日ルールの概要について解説します。併せて労災における150日ルールの適用についても理解しておきましょう。
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(1)リハビリの150日ルールの概要
健康保険を利用したリハビリについては、対象の部位ごとに健康保険を利用してリハビリができる日数が決められています。
骨折、腰痛、頸部痛、変形性関節症などの運動器(身体を動かすことに関係する器官や組織)に関する疾患に対するリハビリを「運動器リハビリテーション」と呼び、運動器リハビリテーションでは、発症や診断日、手術を受けた日等から150日が標準的算定日数の上限と定められています。これが、リハビリの150日ルールと呼ばれるものです。
健康保険を利用してリハビリをすることができるのは、原則として150日までとなりますので、リハビリはその時点で終了となります。それ以降も引き続きリハビリを受けるためには、健康保険ではなく自費での診療に切り替えなければなりません。 -
(2)労災でのリハビリには150日ルールの適用はない
労災による怪我に関しては、労災保険の療養(補償)給付によりリハビリを受けることになります。つまり健康保険を利用しないため、リハビリの150日ルールは適用されません。
しかし病院によっては、一律に150日でリハビリを打ち切るケースもあります。これは、病院側の認識不足や誤解によるものと考えられますので、労災には150日ルールが適用されないことをリハビリテーション科の主治医や理学療法士に対してしっかりと主張し、経緯を確認する必要があります。
2、労災の補償でカバーできない範囲は会社に請求できる可能性がある
労災保険では、怪我や休業に対してどの範囲まで補償されるのか確認しておきましょう。カバーされない分は会社に請求できる可能性があります。
労災による怪我に関しては、リハビリの150日ルールは適用されません。そのため、治療の必要性や相当性が認められる限りは、150日を経過しても、労災保険を利用してリハビリを継続することができます。
また、労災保険からは、以下のような補償を受けることができますので、経済的な不安もある程度は解消されるといえます。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)年金
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
- 介護(補償)給付
労災保険にはさまざまな補償がありますが、実は、労災保険からの補償だけではすべての損害をカバーすることはできません。たとえば、休業(補償)給付は、休業4日目から給付基礎日額の6割の補償になります。そのため、1~3日目および残りの4割が不足します。
また、労災保険からは慰謝料の支払いもありませんし、後遺障害が残った場合の逸失利益の補償も十分なものとはいえません。このような労災保険の不足部分については、会社に対して請求できる可能性があります。
ただし、労災認定を受ければ常に会社への損害賠償請求が認められるわけではない点に注意が必要です。会社に損害賠償請求をするには、会社に安全配慮義務違反があったことまたは使用者責任があることを労働者の側で「主張立証」していく必要がありますので、弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。
3、労災によってリハビリ通院となった場合に、不足分を会社へ請求する方法
労災によってリハビリ通院となったときは、以下のような方法で会社に不足分を請求します。
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(1)会社に請求できる損害の種類
先ほど述べた通り、一定の場合には、労災保険から補償を受けていたとしても、不足する分を会社に対して損害賠償請求することができます。
会社に請求できる損害の種類としては、主に以下のようなものが挙げられます。- 通院交通費
- 休業損害
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
- 将来介護費
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(2)会社に対する損害賠償請求を進めるときの流れ
会社に対して損害賠償請求をするには、以下の流れで進めていきます。
- 会社の過失や責任の有無の証拠集め
- 損害賠償額の算定
- 会社との示談交渉
- 示談が成立しなければ裁判手続き
まず会社との示談前に、労働者側において、会社に労災の責任があることを主張立証するための証拠を集める必要があります。その後、労災保険でカバーできない分の損害賠償額を計算します。これらの資料をもとに、会社と示談交渉を行い損害の支払いを求めていきます。
会社が損害賠償に応じてくれるのであれば、合意書などを作成して終了となりますが、会社との示談が成立しないときは労働審判や民事調停、民事訴訟などの裁判手続きを進めていくことになります。
会社との協議や労働審判・訴訟などの対応を労働者個人ですべて行うのは非常に困難ですので、まずは労働関連の実績が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)会社への損害賠償請求をお考えの方は弁護士に相談を
会社への損害賠償請求をお考えの方は、早い段階で弁護士に相談しましょう。
労働者が個人で会社と交渉をしようとしても会社側が交渉のテーブルにつかないことは珍しくありません。また、不利な条件で示談が成立するリスクも大きいため、できる限り弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
弁護士であれば、会社の責任を立証するための証拠収集のアドバイス、適正な損害額の算定、会社との交渉などの対応を一貫して行うことができます。また、会社が交渉に応じてくれないときでも、労働審判や民事訴訟などの法的手段にスムーズに移行し解決を図るため、個人の負担は大幅に軽減するでしょう。
労災による会社への損害賠償請求は、法的知識や経験が必要になる分野です。対応が難しいと感じたときは、おひとりで悩まず、実績ある弁護士にご相談ください。
4、まとめ
健康保険を利用したリハビリに関しては、150日ルールという特別なルールが定められています。これにより、健康保険を利用してリハビリができるのは、原則として150日までとなり、例外的に150日を超えることができてもリハビリの時間や日数が制限されてしまいます。
このような150日ルールは、あくまでの健康保険を利用したリハビリに適用されるものですので、労災による怪我でリハビリをしている方には適用はありません。そのため、労災による怪我は、労災保険を利用して、しっかりと治療やリハビリを行ってきましょう。
もっとも、労災保険ではすべての損害がカバーされるわけではありませんので、不足する部分については、会社に対して損害賠償請求を検討しなければなりません。会社への損害賠償請求にあたっては、実績のある弁護士のサポートが重要となります。労災でカバーできない範囲を会社に請求したい方は、ベリーベスト法律事務所の弁護士にお任せください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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