たとえば、仕事中、同僚が運転するクレーンによってケガをする労災事故が起きた場合、会社に対しては、どのような請求ができるのでしょうか。
労災保険から一定の給付を受けることができますが、労災保険には慰謝料が含まれていないなど、労災保険だけでは、被災者(労災被害にあった従業員)が受けた損害のすべてを補償してもらえるとは限りません。
このような場合には、会社に対して、損害賠償を請求することができないかを検討することになります。
この記事では、どのような場合に会社に損害賠償を請求することができるのか、損害賠償を請求する法的根拠は何かなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、使用者責任とは|労災事故はすべて、使用者責任を問えるのか
使用者責任とは、従業員が業務の執行に関連して第三者に損害を与えた場合に、会社がその従業員と併存的に賠償する責任を負うものです(民法715条)。
会社は従業員を雇用して利益を得ているため、その従業員が損害を発生させた場合には、これを負担すべきという考え方に基づくものです。このような考え方は報償責任と呼ばれています。
このような使用者責任の考え方からすれば、労災事故が起きた場合、被害者に損害が発生していることから、会社が常に使用者責任を負うようにも思えるかもしれません。
しかし、使用者責任が成立するためには、以下の4つの要件に該当する必要があります。
不法行為とは、故意または過失によって、他社の権利または利益を侵害し、損害を与える行為です。たとえば、重機の操作ミスによって事故を起こして同僚にケガをさせてしまったり、部下にパワハラやセクハラをして精神的被害を与えてしまったりしたという場合が、これに該当します。
② 使用者と被用者(従業員)の間に使用関係があること
典型的な例は、雇用契約を締結しているケースですが、雇用関係がない元請けと下請けのような関係でも、使用者が実質的に被用者を指揮監督する関係にあると認められれば、使用関係にあると判断される場合があります
③ 被用者(従業員)の不法行為が事業と関連して行われたものであること
就業時間中に業務として行われた行為が該当するのは当然ですが、世間一般から見て事業に関連した行為と判断されるだけの外観があれば足りると考えられています。そのため、就業時間外に社用車を無断で私的に利用している最中に起きた交通事故などでも、この要件に該当すると考えられており、広く解釈されています。
④ 免責事由に該当しないこと
民法715条では、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」、すなわち、会社に何らの落ち度がないときには、会社は使用者責任を負わないとされています。
これらの4つの要件に当てはまっていれば、会社に対して使用者責任を問うことが可能です。
2、会社に対して問える責任
それでは、会社には使用者責任以外で、どのような責任を問うことができるのでしょうか。
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(1)債務不履行責任(安全配慮義務違反)
会社には、「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務があります(労働契約法5条)。すなわち、会社は、従業員が安全に就労できるよう環境を整える義務を負っており、これを安全配慮義務といいます。
会社が作業中の危険を回避するための安全管理や労働環境の整備を怠っている場合、従業員は会社に対して、安全配慮義務違反の債務不履行を理由とする損害賠償を請求することが可能です。
また、物理的な事故によるケガといった事案だけでなく、パワハラやセクハラによる精神的被害、長時間労働による心身の不調、過労死などの事案において、会社の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求できる場合もあります。
たとえば、以下のようなケースで労災が生じた場合は、安全配慮義務違反として会社の責任を問うことができるでしょう。- 会社が機械の操作方法について、事前に何らの説明や指導もしていなかった
- ハラスメントがあることを認識していながら対策を講じずに放置していた
- 長時間労働を強いていた
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(2)不法行為責任
不法行為責任とは、故意または過失によって他人の権利や利益等を侵害したことによって生じた損害を賠償する責任のことです。前述の「使用者責任」も不法行為責任の一種ですが、使用者責任に当てはまらない労災事故でも会社が不法行為責任を負う場合があります。
労災事故で不法行為責任が生じる典型的な事例は、会社の違法な行為により従業員に損害を与える場合で、会社が機械の操作方法について何らの説明や指導もしていなかった場合や、長時間労働を強いられている場合が当てはまります。
使用者責任以外の不法行為責任が生じる場面は、債務不履行責任(安全配慮義務違反)と重なる場面も多いため、どちらの責任を問うか法的な判断が必要となります。
3、会社に損害賠償を請求する場合は弁護士へ相談を
会社に対して損害賠償請求をする場合は、弁護士へ依頼することをおすすめします。
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(1)慰謝料は労災保険で給付されない
労災保険を利用すれば、業務中のケガ・病気や、通勤中のケガについて、一定の給付を受けることが可能です。
労災保険で補償される内容には、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、葬祭料・葬祭給付、傷病(補償)年金、介護(補償)給付などがあります。
このような労災保険を利用すれば、治療費、通院のための交通費、ケガや病気のせいで仕事を休まざるを得なかった期間中の休業補償などについて、補償を受けることが可能です。
しかし、労災保険は、被災者に発生した損害のすべてが補償されるというわけではありません。
たとえば、休業損害は、休業の4日目からしか補償の対象になりませんし、4日目以降も、給付基礎日額(≒労災発生前の給料)の8割(内2割は特別給付)が上限です。また、労災保険では、精神的苦痛に関する慰謝料は、一切補償されません。
したがって、労災で補償されない慰謝料などを請求したい場合については、会社に損害賠償を請求する必要があります。しかし、会社に対して損害賠償請求をしたい場合は、会社に非があったことを被災者側で証明しなくてはなりません。
このような場合、被災者個人で証拠を集めたり会社とやり取りをしたりするのは非常に困難です。 -
(2)後遺症がある場合
労災によるケガや病気で通院していても、医師が、これ以上治療を続けても症状が改善しないと判断すれば(これを症状固定といいます)、後遺障害が残ったことになります。
後遺障害は、部位や症状や程度などに応じて、重い順から、1~14までの等級が認定される可能性があり、どの等級に認定されるかによって、損害賠償請求を行うことで支払われる慰謝料や逸失利益の金額が大きく異なります。
そのため、適正な慰謝料などの支払いを受けるためには、実際の症状などに応じた適正な後遺障害認定を受けることが極めて重要です。 -
(3)弁護士に依頼するべき理由
労災を受けて心身に負担がある中で、労災申請の手続きを進めるとともに、会社との交渉も行わなければならないとなれば、極めて大きな負担となってしまうでしょう。法律知識に乏しい個人で交渉を進めてしまうと、適正でない条件や金額で示談を成立させてしまい、事後に気付いても取り返しがつかなくなってしまうおそれもあります。
弁護士であれば、法律や裁判例に基づき、適切な賠償金を算定して会社との交渉を行うことが可能です。
また、後遺障害が残りそうな場合には、等級認定が重要となり、これを誤ってしまうと慰謝料の金額が大きく異なってしまいます。
この点、後遺障害等級認定に詳しい弁護士に依頼すれば、通院治療中から、通院・治療・投薬・転院などについて、後遺障害等級認定を見据えたアドバイスを受けることができ、適正な後遺障害等級の認定が期待できます。
4、まとめ
労災保険では補償の内容が限られており、十分な補償を受けることができないことがあります。このような場合、会社に使用者責任の他、債務不履行責任(安全配慮義務違反)や不法行為責任が認められれば、これらを理由として損害賠償を請求することができ、慰謝料の請求も可能となります。
しかし、労災事故によるケガを治療しながら、個人で労災申請と会社との交渉を並行して行うことは、大きな負担となるだけでなく、適正でない条件で示談に応じてしまうリスクがあり得ます。
労災事故に遭われたときには、弁護士へ依頼することが、有利な条件での解決を獲得するために有効です。
ベリーベスト法律事務所では、労災に関する初回相談は60分無料でご対応しています。労災で会社への損害賠償請求をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。
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