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労働災害(労災)コラム

自分の不注意で怪我をしても労災は使える? 会社が認めない時の対策

更新:2024年08月20日
公開:2024年08月14日
  • 自分の不注意で怪我
  • 労災
自分の不注意で怪我をしても労災は使える? 会社が認めない時の対策

自分の不注意で怪我をした場合にも、仕事中または通勤中の怪我であれば、労働基準監督署に申請して労災保険給付を受けられます。

さらに、会社に対する損害賠償請求も認められる余地があります。労災(労働災害)について十分な補償を受けるため、早めに弁護士へ相談しましょう。

本記事では、自分の不注意で怪我をした場合における労災補償の取り扱いについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、自分の不注意で怪我をした場合も、労災保険給付は受けられる

業務が原因で事故が起こった、または通勤中に怪我をした場合には、労働基準監督署への請求等によって労災保険給付を受けられます。
怪我が労働者自身の不注意による場合でも、労災保険給付は受給可能です。

  1. (1)労災保険給付の要件|業務災害・通勤災害

    労災保険給付は、「業務災害」または「通勤災害」に当たる怪我や病気などについて行われます。

    業務災害および通勤災害の要件は、それぞれ以下のとおりです。

    業務災害の要件
    以下の2つの要件をいずれも満たす必要があります。
    ① 業務遂行性:使用者の支配下にある状態で怪我などが発生したこと
    ② 業務起因性:会社の業務と労働者の怪我などの間に、社会通念上相当な因果関係があること

    通勤災害の要件
    以下の4つの要件をいずれも満たす必要があります。
    ① 怪我などが以下のいずれかの移動中に発生したこと
    (a)住居と就業場所の間の移動
    (b)就業場所から他の就業場所への移動
    (c)単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動
    ② 怪我などが業務と密接な関連のある移動中に発生したこと
    ③ 怪我などが、合理的な経路や方法を使って、移動している最中に発生したこと
    ④ 移動が業務の性質を有しないこと
  2. (2)労災保険給付の種類・内容

    労災に遭った労働者(=被災労働者)が受給できる労災保険給付の種類と内容は、以下のとおりです。

    労災保険給付の種類 内容
    療養(補償)給付 ① 療養の給付
    労災病院または労災保険指定医療機関において、治療を無料で受けられる
    ※労災による怪我などの治療については、健康保険は適用できません。
    ② 療養の費用の支給
    その他の医療機関における治療費の全額が還付される
    休業(補償)給付 怪我などの療養のために仕事を休んだ場合に、休業4日目以降平均賃金の80%相当額が支給される
    障害(補償)給付 労災の後遺症について、障害等級に応じた額の年金または一時金が支給される
    遺族(補償)給付 死亡した被災労働者の遺族に対して、生活保障として支給される
    葬祭料等(葬祭給付) 死亡した被災労働者の葬儀費用の補填として支給される
    傷病(補償)年金 傷病等級3級以上の怪我などが1年6か月以上治らない場合に支給される
    介護(補償)給付 傷病等級1級、または2級の精神・神経障害および腹膜部臓器の障害によって要介護となった被災労働者に対し、介護費用の補填として支給される
  3. (3)労災保険給付は過失相殺されない|自分の不注意でも満額受給できる

    労災保険給付には、労働者の過失に応じた減額の制度(=過失相殺)が適用されません。

    したがって、自分の不注意で事故に遭ってケガをした場合でも、業務災害または通勤災害の要件を満たす場合には、原則として労災保険給付を満額受給可能です。

2、自分の不注意による怪我が労災として認められないケース

労災は満額受け取れることが原則ですが、自分の不注意による怪我が以下のいずれかに該当する場合には、労災認定を受けられないことがあるので注意が必要です。



  1. (1)業務災害にも通勤災害にも当たらないとき

    業務災害または通勤災害として認められるためには、前述の要件を満たす必要があります。

    ひとつでも要件を満たしていなければ、怪我が自分の不注意によるものか否かを問わず、そもそも労災保険給付の対象になりません。

  2. (2)故意に事故を生じさせたとき

    労働者が故意に怪我やその直接の原因になった事故を生じさせた場合には、労災保険給付の対象外となります(労働者災害補償保険法第12条の2の2第1項)。

    (例)
    労災保険給付を受給するために、わざと高所から転落して怪我をした。
  3. (3)故意の犯罪行為によって事故を生じさせたとき

    故意の犯罪行為によって怪我やその直接の原因になった事故を生じさせ、または怪我の程度を増進(悪化)させ、もしくはその回復を妨げた場合には、労災保険給付の全部または一部が支給されないことがあります(労働者災害補償保険法第12条の2の2第2項)。

    (例)
    工場に放火したところ、犯人である労働者も逃げるのが遅れてやけどを負った。
  4. (4)重大な過失によって事故を生じさせたとき

    重大な過失によって怪我やその直接の原因になった事故を生じさせ、または怪我の程度を増進(悪化)させ、もしくはその回復を妨げた場合には、労災保険給付の全部または一部が支給されないことがあります(労働者災害補償保険法第12条の2の2第2項)。

    (例)
    火を使う作業中に居眠りをして火災を発生させ、その火災が原因でやけどを負った。
  5. (5)正当な理由なく医師の指示に従わなかったとき

    正当な理由なく療養に関する指示に従わないことによって怪我やその直接の原因になった事故を生じさせ、または怪我の程度を増進(悪化)させ、もしくはその回復を妨げた場合には、労災保険給付の全部または一部が支給されないことがあります(労働者災害補償保険法第12条の2の2第2項)。

    (例)
    医師の指示に反して骨折の治療を勝手に中断した結果、重い後遺症が生じた。

3、会社が労災申請に協力しない場合の対処法

労働基準監督署の行政処分等や助成金の支給停止を避けたいなどの理由で、会社が労働災害の事実を隠そうとするケースがあります。

労働者が労働災害によって負傷した場合、事業者は遅れることなく、労働基準監督署長に対して労働者死傷病報告を提出しなければなりません(労働安全衛生規則第97条第1項)。
したがって、労災隠しは法令違反に当たります。会社が労災隠しを行っている場合には、労働基準監督官に申告して是正措置を求めましょう(労働安全衛生法第97条第1項)。

なお、会社の協力を得られなくても、労災申請(労災保険給付の請求)を行うことは可能です。

労災申請は、療養の給付(=労災病院または労災保険指定医療機関における無償での治療)については医療機関の窓口へ、その他の労災保険給付については事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に対して、給付の種類に対応する請求書を提出して行います。

請求書の様式は請求先の窓口で交付を受けられるほか、厚生労働省のウェブサイトからもダウンロードできます。

参考:「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」(厚生労働省)

請求書には事業主の証明を記載する欄がありますが、会社が記載を拒否するなどやむを得ない場合には、記載がなくても請求書は受理されます。窓口担当者の指示に従って対応しましょう。

4、自分の不注意で怪我をした場合は、会社へ損害賠償請求はできる?

労災保険給付は、被災労働者が労災事故によって受けた損害のうち、最低限の補償を行うものに過ぎません。慰謝料は労災では出ないなど、労災保険給付の額は実際に受けた損害の額に対して、不足してしまうことが多いです。

労災保険給付と実際の損害との差額は、安全配慮義務違反を根拠として、会社に対して損害賠償を請求することができ、それで賄える可能性があります。

安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮を行う義務を負っています(=安全配慮義務)。
会社が安全配慮義務を怠った結果、労災が発生した場合には、被災労働者は会社に対して損害賠償を請求できます。


ただし、自分の不注意で怪我をした場合は、過失相殺によって損害賠償が減額されることがある点に注意が必要です(民法第418条)。

会社から適正な損害賠償を受けるためには、弁護士に和解交渉や法的手続きの対応を依頼することをおすすめします。

5、まとめ

自分の不注意で怪我をしたとしても、業務災害または通勤災害に該当すれば、労災保険給付は満額受給できます。

労災保険給付が実際の損害の額に及ばない場合は、会社に対する損害賠償請求も可能です。ただし、怪我が自分の不注意による場合は、過失相殺が行われることがあるのでご注意ください。

ベリーベスト法律事務所は、労災の損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けております。仕事中または通勤中に怪我をしてしまい、適正な補償を受けたいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修者
外口 孝久
外口 孝久
プロフィール
外口 孝久
プロフィール
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
所属 : 第一東京弁護士会
弁護士会登録番号 : 49321

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。

この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

交通事故部マネージャー弁護士として、交通事故(被害者側)、労災問題(被災労働者側)及びその周辺分野に精通しています。マネージャーとして全体を統括し、ノウハウの共有に努めつつ、個人としても多数の重傷案件を含む400件以上の案件を解決に導いてきました。お客様と真摯に向き合い最善の解決を目指すことをモットーとしています。

この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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