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労働災害(労災)コラム

休業補償とは? 労災保険からの支給条件と金額、その他給付の概要

更新: 2024年02月13日
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休業補償とは? 労災保険からの支給条件と金額、その他給付の概要

仕事中の病気やケガによって休業を余儀なくされた場合、その間の補償として、労災保険から休業補償の支給を受けることができる可能性があります。これにより、休業中の収入減をある程度補填することができるでしょう。しかし、いくら給付されるのか、いつまで給付を受けられるのかなどの不安がある以上、治療に専念することは難しいかもしれません。

そこで本コラムでは、労災保険から支払われる休業補償やその他の給付内容について、ベリーベスト法律事務所の労災専門チームの弁護士が解説します。

1、「労働災害」の定義と労災保険が給付される要件

労災保険からの補償を受けるためには、前提として、当該病気やケガが労働災害で発生したものであることが必要になります。
以下では、「労働災害」の定義と、労災保険給付を受けるための条件について、解説いたします。

  1. (1)「労働災害」とは?

    労働災害とは、業務中や通勤中に発生した病気やケガのことをいいます。このうち業務中の病気やケガのことを「業務災害」といい、通勤中の病気やケガのことを「通勤災害」といいます。そして、業務災害と通勤災害をあわせて、「労働災害」(労災)と呼ぶのです。

    つまり、業務上の事故のほか、通勤途中の事故も労働災害に含まれるのです。

  2. (2)労災保険給付を受けられる場合とは?

    労働災害によって病気やケガをした場合、一定の要件を満たしたときには、労災保険給付を受けることができます。

    労災保険とは、労働者が業務中や通勤中に病気やケガをした場合に被災労働者やその遺族を保護することを目的として、一定の金額について給付をする保険のことをいいます。

    労災保険から支給を受けるための条件は、業務災害と通勤災害とで異なります。
    それぞれの条件について、解説いたします。

    ① 業務災害の場合
    業務災害とは、業務から生じた災害、すなわち労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下において労働を提供する過程で、業務に起因して発生した災害をいいます。
    業務災害であると認められるためには、以下の「業務遂行性」と「業務起因性」のどちらの要件も満たす必要があります。

    ● 業務遂行性
    業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態をいいます。
    そのため、労働者が業務に従事している最中はもちろんのこと、業務に従事していなくても、休憩時間中など、事業主が指揮監督を行いうる余地があって、その限りで事業主の支配下にある場合には、原則として業務遂行性があると判断されます。
    ● 業務起因性
    業務起因性とは、「業務が原因」となってケガを負ったこと、すなわち、業務と負傷や疾病などとの間の因果関係のことを指します。


    ② 通勤災害の場合
    通勤災害とは、労働者の通勤によって発生した傷病等をいい、「通勤」のときに負ったケガや病気に対して認定される労働災害です。
    「通勤」に該当するケースとしては、以下の3つがあります。

    • 住居と就業場所との往復
    • 就業場所から他の就業場所への移動
    • 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動


    そして、これらの移動は合理的な経路および方法により行う必要があります。
    したがって、移動経路からの「逸脱」や「中断」があった場合には、原則として「通勤」とは認められません。
    もっとも、この逸脱・中断が、日常生活を行ううえで必要な行為(日用品の購入・選挙権の行使など)をやむを得ない事由のために最小限度で行うものである場合には、これらの逸脱・中断後の移動は「通勤」にあたるとされています。

2、ケガで出勤できないときには休業補償がもらえる?

労災によって病気やケガを負って、仕事を休むことになったときには、労災保険から休業補償が支給される可能性があります。
以下では、休業補償の金額や支給期間などの基本的な内容について解説いたします。

  1. (1)休業補償の金額は?

    労災保険から支給される休業中の給付は、「休業補償給付」と「休業給付」の2種類に分けられます。休業補償給付は休業の原因が業務災害であるときに、休業給付は休業の原因が通勤災害であるときに支払われます。ただし、違いは名称だけであり、受けられる補償内容は休業補償給付でも休業給付でも同一です。そのため、以下では「休業補償」と一括して説明します。

    労働災害によって仕事を休んだときには、給付基礎日額の60%相当にする金額の支給を受けることができます。加えて、給付基礎日額の20%が「特別支給金」として支給されます。したがって、休業期間中であっても、合計給付基礎日額の80%の収入が補償されることになるのです。
    なお、給付基礎日額とは、原則として、労働災害が発生した日以前の3か月の賃金(ボーナスや臨時に支払われた賃金を除く)の総額を、その期間の総日数で除した金額となります。

  2. (2)休業補償はいつからいつまで支払われる?

    休業補償は、休業したらすぐに支払われるわけではありません。支払われるまでには「待期期間」が存在します。

    休業補償の待期期間は、休業初日から3日までです。したがって、休業4日目からは休業補償を受け取ることができます。ただし、休業補償を受けるためには、申請が必要とされます。そのため、休業4日目以降の休業補償を受け取ることができるのが申請から1か月程度かかってから、ということも珍しくないのです。

    また、休業補償を受け取ることができる期間については、上限はありません。しかし、ケガや病気が治った場合には、たとえ休業していたとしても休業補償の支給はストップします。

    なお、休業初日から3日目までは労災保険における休業補償は支給されませんが、労働基準法76条に基づき、会社が平均賃金の60%を支払う義務を負っています。

3、休業補償のほかにも、労災保険からお金は支払われる?

労災保険からは、休業補償のほかにも、ケガや病気の状態によって支払われる補償があります。

  1. (1)休業補償以外の給付とは?

    休業補償以外の給付としては、以下のものがあります。

    ① 療養(補償)給付
    療養(補償)給付とは、労働者が労働災害により病気やケガをしたときに、病院で治療費などを負担することなく治療を受けられる制度のことをいいます。療養(補償)給付には、治療費、入院費用、看護料など、療養のために通常必要なものはすべて含まれます。

    ② 障害(補償)給付
    障害(補償)給付とは、障害(補償)年金や障害(補償)一時金等からなる給付です。障害(補償)給付は、労災によって病気やケガが治癒の状態に至ったのちにも障害が残ったときに、その障害等級に応じて年金または一時金の支給が受けられる制度のことをいいます。障害等級が1級から7級のときは年金が支給され、8級から14級のときには一時金が支給されます。

    ③ 遺族(補償)給付
    遺族(補償)給付は、遺族(補償)年金や遺族(補償)一時金等からなる給付金です。労災によって労働者が亡くなったときには、労働者の死亡当時に労働者の収入で生計を維持していた遺族に対して、遺族(補償)年金が支給されます。また、もし遺族(補償)年金の対象となる遺族がいないときには、一定の範囲の遺族に遺族(補償)一時金が支給されることになります。

    ④ 傷病(補償)給付
    労災により病気やケガをして、療養開始後1年6か月を経過しても病気やケガが治癒しない場合には、傷病等級に応じた傷病(補償)年金等が支給されます。
    休業給付を受けている方が、1年6か月を経過した時点で、傷病等級第1級から3級に該当するという場合には、休業(補償)給付から傷病(補償)年金に切り替わります。他方、傷病等級の認定がないときには、引き続き休業(補償)給付が支給されることになります。

    ⑤ 介護(補償)給付
    傷病(補償)年金または障害(補償)年金を受給しており、一定の重い障害のために現に介護を受けている場合には、介護(補償)給付が支給されます。
    介護(補償)給付が支払われるためには、障害が「常時の介護」または「随時の介護」を必要とする程に重い状態であることが、要件とされています。

  2. (2)傷病手当金も支払われるの?

    労災保険からの休業補償と似たものとして、健康保険から支給される傷病手当金というものが存在します。

    傷病手当金とは、業務外の病気やケガによって仕事を休んだときに、休業4日目から1年6か月までの間に支給される補償金のことです。

    労災保険からの休業補償と健康保険からの傷病手当金のどちらも受け取れる資格がある場合でも、2つの補償を同時に受けることはできません
    いずれの補償も休業中の所得補償を目的としているために、原則として、労災保険から休業補償を受けているときには健康保険からの傷病手当金は支給されないのです。ただし、休業補償の金額が傷病手当金の金額よりも低いときには、その差額分が支払われる場合はあります。

4、労災保険や損害賠償を請求する方法は?

実際に労災にあって病気やケガをしたときには、まずは「労災保険の申請」を行います。また、労災の認定を受けたら、「会社に対する損害賠償請求」を検討してください。なぜなら、労災保険で保障される範囲は必要最低限であるためです。労災の原因が会社にあるのであれば、治療費などの不足分や後遺症となり将来にわたり影響がある場合などについての不足分も会社に対して請求できます。

以下では、それぞれの手続きの流れを解説します。

  1. (1)労災の請求の流れは?

    労災保険の申請は、たとえ会社が対応してくれなくても個人の方で行える手続きです。たとえ会社が労災保険を使うことに対して難色を示したとしても、あなた自身やご家族のために申請すべきでしょう。

    労災が起きたときに労災保険を請求する流れは、次の通りです。

    ① 会社に労働災害が起きたことを報告
    まず、労働災害が発生したという事実を会社に報告して、療養(補償)給付を受けるために必要である「療養給付たる療養の費用請求書」に会社からの証明をもらいましょう

    その後、労災によって負った病気やケガを治療するために、病院を受診してください。その際、労働災害保険指定医療機関を利用すれば、治療費を立て替える必要がないため、労働者は、何らの負担なく治療を受けることができます。

    ② 労働基準監督署に必要書類を提出
    労災保険給付を受けるためには、労働基準監督署に必要書類を提出しなければなりません。なお、給付の内容によって申請する書類は異なりますので注意が必要です。

    ③ 労働基準監督署の調査
    労災給付を受けるためには、労働基準監督署による調査を受けた後に、労働基準監督署による労災認定を受ける必要があります。

    労働基準監督署では、被災した従業員や会社に対する聞き取り調査、受診した医療機関に対する照会などが行われたのちに、労働災害の事実に関する調査が行われます。

    ④ 保険金の給付
    提出された書類の内容や調査の結果をふまえて、労働基準監督署から「労働災害である」という旨の認定を受けた段階で、保険金が給付されることになります。

  2. (2)会社に損害賠償を請求することはできる?

    労災によって病気やケガになったときには、労災保険から一定の補償を受け取ることができます。しかし、労災保険から給付される金額だけでは、被災労働者が被った損害のすべてが補償されるわけではありません。その不足分については、会社に対して賠償を求めていくこととなります。

    なお、労災であれば常に会社に対して損害賠償請求することができるというわけではありません。会社に対して損害賠償を請求するためには、該当の労働災害に関して、会社側に安全配慮義務違反などの賠償責任の根拠が必要となるのです。

    なお、会社に対して賠償を請求できる損害の種類は、下記のようなものがあります。

    ● 入院雑費や物損などの積極損害
    積極損害のうち治療費については、労災保険から補償されますが、入院雑費については補償されません。また、物損についても労災保険の補償対象外です。そのため、会社に対してこれらの賠償を請求する必要があります。

    ● 休業損害
    労災保険から休業補償給付として支給されるものは、特別支給金をあわせても、給付基礎日額の80%までとなります。もっとも、特別支給金については、加害者に対する損害賠償額から控除されないものと考えられているため、労働者は、実際の休業損害額から休業(補償)給付として支払われる60%分を差し引いた、残り40%を会社に対して請求することとなります。

    ● 慰謝料
    慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償となります。
    労災保険からは、慰謝料の補償は一切ありません。そのため、慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)については、会社に対して請求を行う必要があります

    ● 逸失利益
    逸失利益とは、労災によって障害が残ったり死亡したりしたときに、将来得られる予定であった収入の減額部分を賠償するものです。労災保険からは、障害(補償)給付や遺族(補償)給付などが支給されます。しかし、支給された場合であっても、補償としては十分な金額とはいえないのです。
    したがって、労災保険の不足分については、会社に対して請求をしていくことになります。

  3. (3)会社との交渉を適切にすすめる方法は?

    労災によって病気やケガを負い、治療に専念しなければならない状態にある場合には、万全の体勢で会社との話し合いを行うことは難しくなるでしょう。

    また、会社に対して損害賠償を請求するためには、会社に落ち度があったことを証明しなければなりません。逆にいうと、十分な証拠がない状態で請求を行うと、会社に落ち度があることを客観的に示せず、適切な金額の損害賠償を得られなくなってしまう可能性があります。

    そのため、会社に損害賠償を請求するための交渉を行う際には、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士であれば、必要な手続きをとり、適切な賠償額を計算したうえで、会社に請求することが期待できます。

    労災にあったときには、早期に弁護士に相談をすることで、労働者にとって不利益な対応をとってしまうことなく、適切に手続きをすすめることができます。

    なお、会社に対して損害賠償請求するときには、以下のような流れで請求することになります。

    ① 会社との交渉
    会社に対して、労災によって病気やケガをしたこと、その労災によって損害を被ったことを主張して、損害賠償を請求するための交渉を行います。

    会社が責任を認める場合には、金額についての具体的な交渉に進むことになります。
    一方で、会社が責任を認めないときには、交渉での解決は難しいために、労働審判裁判などの法的手続きが必要となるでしょう。

    ② 裁判
    会社との交渉による解決が困難であり、労働審判でも決着がつかなかった場合、最終的には裁判を起こすことになります。
    裁判になれば、労働者側において、労働災害が会社の落ち度であることを証明していかなければなりません。もし証明に失敗すれば、裁判で敗訴してしまい、会社に対して損害賠償を請求できなくなってしまうおそれがあります。
    そのため、労災の裁判では、証拠の保全や収集を行うことが非常に重要となります。労災にあったときには、早期に弁護士に相談をして、裁判になる可能性も考慮した対応を依頼することをおすすめいたします。

5、まとめ

労災にあったときには、労災保険から一定の補償を受けることができます。

しかし、労災保険からの補償のみでは十分でないケースは少なくないでしょう。たとえば、労災によって仕事ができない状態であっても支給される休業補償の給付額は、特別支給金と合わせても給付基礎日額の80%に過ぎません。その不足分については会社に対して請求をしていく必要があります

労働災害の原因が会社側にある場合、会社に対して補償を求めることは、労働者に認められた正当な権利です。たとえ退職するつもりがなくても請求できますし、会社側は請求をした従業員に対して不利益扱いすることは許されません。ただし、適切に請求を行うためにも弁護士への依頼を検討してみるべきでしょう。

労災保険からの補償だけでは納得できず、会社への損害賠償を検討している方は、労働災害の損害賠償の請求も多数手がけてきた実績を持つ、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。労災専門チームの弁護士が、親身になってあなたが適切な賠償を受けられるよう力を尽くします。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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