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労働災害(労災)コラム

労災の休業補償は会社に負担してもらえる? 会社へ請求できるケース

更新:2023年10月03日
公開:2023年10月03日
  • 労災
  • 休業補償
  • 会社負担
労災の休業補償は会社に負担してもらえる? 会社へ請求できるケース

労災(労働災害)による負傷や疾病の治療のために仕事を休んだ場合、労災保険の休業補償給付を請求できます。

ただし、休業補償給付は賃金全額を補償するものではありません。賃金の不足分については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。その他の損害と併せて、弁護士に相談のうえで会社に賠償を請求しましょう。

本記事では、労災の休業損害が会社負担となる条件や、会社に対して損害賠償を請求する際に知っておくべきことなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労災保険の休業(補償)給付とは?

労災保険の「休業補償給付」とは、労災による負傷や疾病を治療するために仕事を休んだ被災労働者に対して、賃金の補償として行われる給付です。
通勤災害の場合は「休業給付」と呼ばれます。

※以下、休業補償給付と休業給付を総称して「休業(補償)給付」といいます。

  1. (1)休業(補償)給付の支給要件

    休業(補償)給付の支給要件は、以下のとおりです。

    ① 業務災害または通勤災害に該当すること
    労働者の負傷または疾病が、業務上の原因により、または通勤中に発生したことが必要です。

    ② 療養のため、労働することができないこと
    入院や通院の必要性がある、負傷や疾病の症状によって身体が労働に耐えられないなど、労働することができない状態にあることが必要です。

    ③ 賃金を受けていないこと
    会社から平均賃金の60%以上の休業補償が支払われている場合は、休業(補償)給付の対象外となります(休業補償が平均賃金の60%に満たない場合は、休業(補償)給付を受給できます)。

    ④ 4日以上休業していること
    休業(補償)給付は、休業4日目以降に支給されます。休業期間は連続している必要はなく、ひとつの労災についての通算日数でカウントします。
  2. (2)休業(補償)給付の支給期間・支給額

    休業(補償)給付の支給期間は、休業4日目から負傷・疾病が治癒するまでです。

    「治癒」とは、治療を継続しても症状の改善が見込めないと医学的に判断される状態をいいます。医師によって治癒の診断がなされると、それ以降の期間は休業(補償)給付の対象外となります。

    休業(補償)給付の支給額は、1日当たり給付基礎日額の計80%です(休業(補償)等給付:60%、休業特別支給金:20%)。
    「給付基礎日額」とは、原則として、労働基準法における平均賃金に相当する額のことです。

    ただし、通勤災害において療養給付を受ける場合、初回の休業給付の中から一部負担金として200円(日雇特例被保険者については100円)が減額されることになります。

2、休業(補償)給付で補償されない分は会社に負担してもらえる?

労災保険の休業(補償)給付では、休業1日目から3日目までの賃金が補償されず、休業4日目以降も賃金の20%を受領することはできません。

休業(補償)給付では補償されないこれらの賃金については、労災の原因が会社にある場合、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります

  1. (1)使用者責任・安全配慮義務違反|会社へ損害賠償を請求できる可能性があるケース

    休業(補償)給付では補償されない賃金につき、会社負担で支払う必要があるのは、労災について会社の「使用者責任」または「安全配慮義務違反」が認められる場合です。

    ① 使用者責任(民法第715条第1項)
    他の労働者(=被用者)が、使用者の事業の執行についてした行為により労災が発生した場合、使用者も被災労働者に対して使用者責任を負います。
    ただし、使用者が被用者の選任および事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者責任が免責されます。

    ② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条、民法第415条第1項、同法第709条)
    使用者は、労働者が心身の安全を確保しながら労働できるように、必要な配慮を行う義務を負っています(=安全配慮義務)。
    使用者の安全配慮義務違反に起因して労災が発生した場合、使用者は被災労働者に対して債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負います。
  2. (2)通勤災害の場合、会社に賃金の補償は請求できない

    会社の使用者責任または安全配慮義務違反が認められるのは、業務上の原因により発生した労災(=業務災害)に限られます。

    これに対して、通勤中に発生した労災(=通勤災害)については、会社の使用者責任または安全配慮義務違反が認められません。したがって、通勤災害の場合は、会社に休業補償の負担を求めることはできず、労災保険の休業給付を受けられるにとどまります。

  3. (3)休業(補償)給付・損害賠償に対する課税の取り扱い

    被災労働者に支給される休業(補償)給付は、一律非課税とされています(労働者災害補償保険法第12条の6)。

    これに対して、会社負担で被災労働者に支給される休業補償は、非課税となる額の上限が平均賃金の60%とされています(所得税法第9条第1項第3号、所得税法施行令第20条第1項第2号、労働基準法第76条第1項)。

    被災労働者が労災保険の休業(補償)給付を受ける場合、そのうち平均賃金の60%に相当する金額は、労働基準法に基づく休業補償とみなされます。この場合、会社負担により追加で休業補償(損害賠償)を受けたときは、その金額が課税対象となる点に注意が必要です。

    ※所得税法第9条第1項第18号により、損害賠償金で「心身に加えられた損害または突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」は非課税とされています。
    しかし、会社負担の休業補償のうち平均賃金の60%を超える部分は、役務の対価たる性質を有するため、非課税の対象から除外されます(所得税法施行令第30条第3号)。

3、労災の原因が会社にある場合、休業補償以外にも請求できるのか

労災については、休業補償のほかにも、会社に対して以下の項目の損害賠償を請求できる可能性があります。

  1. (1)慰謝料

    労災による精神的損害に相当する「慰謝料」は、労災保険によっては一切補償されません。会社の使用者責任または安全配慮義務違反が認められる場合は、慰謝料全額を会社に対して請求できます

    慰謝料の金額は、入院・通院の日数や障害の症状・部位などによって決まります。特に重篤な障害が残った場合は、高額の慰謝料が認められる可能性が高いでしょう。

  2. (2)逸失利益

    労災によって被災労働者が死亡し、または障害が残った場合には、将来にわたって失われた収入が「逸失利益」として損害賠償の対象となります。
    死亡や重篤な障害についての逸失利益は、数千万円から数億円に上ることもあります。

    逸失利益の一部は労災保険給付により補償されますが、全額は補償されません。逸失利益について十分な補償を受けるためには、会社に対して損害賠償を請求しましょう

  3. (3)入院雑費

    労災保険給付では補償されない損害としては、比較的少額ではありますが「入院雑費」も挙げられます。

    入院雑費とは、入院中の日用品購入費用などに相当する損害です。裁判実務では、基本的に、入院1日当たり1500円程度の入院雑費が認められます。会社に対して慰謝料や逸失利益の損害賠償を請求するに当たっては、入院した場合には入院雑費についても併せて請求することができます

4、会社に対する損害賠償請求の方法

労災についての会社に対する損害賠償請求は、以下のいずれかの方法によって行います。

  1. (1)和解交渉

    まずは会社との間で、損害賠償に関する和解交渉を行うのが一般的です。和解交渉がまとまれば、早期に損害賠償を受けることができます。

    和解交渉を有利に進めるためには、会社の使用者責任または安全配慮義務違反、および客観的な損害額に関する有力な証拠を確保することが大切です。弁護士のサポートを受けながら、入念に準備を整えて和解交渉に臨みましょう。

  2. (2)労働審判

    和解交渉が決裂した場合は、裁判所に労働審判を申し立てることが考えられます。
    労働審判とは、労使紛争の解決を目的とする非公開の裁判手続きです。裁判官1名と労働審判員2名が、労使双方の主張を公平に聞き取ったうえで、調停または労働審判によって紛争解決を図ります。

    労働審判の期日は原則として3回以内で終結するため、早期に紛争解決の結論を得られる可能性が高いといえます。
    ただし、労働審判に対して異議が申し立てられた場合は、自動的に訴訟手続きへ移行します。

  3. (3)訴訟

    労使の主張が大きく食い違っており、労働審判による終局的な解決が見込めない場合は、裁判所に訴訟を提起することになります。

    訴訟において被災労働者(または遺族)は、会社の使用者責任または安全配慮義務違反の根拠事実を立証しなければなりません。証拠に基づく厳密な立証を要するため、弁護士を代理人として対応することをおすすめします

5、まとめ

休業(補償)給付を含む労災保険給付は、労災によって被災労働者が受けた損害全額を補償するものではありません。不足額については、会社に対して損害賠償請求を検討することができます。

労災に関する損害賠償請求に当たっては、弁護士のサポートが欠かせません。
弁護士にご依頼いただければ、示談交渉・労働審判・訴訟などの対応を全面的に代行し、適正額の損害賠償を得られるように尽力いたします。また、心身ともに大きな負担がかかる被災労働者やご家族に弁護士が寄り添い、精神的な支えになれるようにサポートいたします。

労災に関する損害賠償請求は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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