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労働災害(労災)コラム

労災で休業補償を受けるためには医師の証明が必要な理由とかかる料金

更新:2024年02月07日
公開:2023年03月28日
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労災で休業補償を受けるためには医師の証明が必要な理由とかかる料金

会社の業務中または通勤中にケガをし、または病気にかかった場合、労災保険から一定の補償を受けられます。たとえば、ケガや病気の療養のために仕事を休んだ場合には、労災保険給付の一種である「休業補償給付」が受給可能となるのです。

ただし、休業補償給付を受けるには医師の証明が必要になります。まずは、主治医と相談しながら請求の準備を進めましょう。

今回は、労働災害(労災)に遭った場合に受給できる休業補償給付の概要・請求手続きや、請求時に医師の証明が必要となる理由などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、労災保険から休業補償が給付される条件

「休業補償給付」は、労働災害によるケガや病気の療養のため、被災労働者が働けなくなった期間中の賃金を補償する労災保険給付です。

以下の3つの要件を満たす被災労働者に対して、休業補償給付が行われます。

  1. (1)業務災害または通勤災害に該当すること

    大前提として、ケガや病気が労働災害によって発生したことが必要です。

    労働災害には、「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。
    したがって、休業補償給付を受けるためには、業務災害または通勤災害のいずれかに該当しなければなりません

    ① 業務災害
    業務上の事由によってケガをし、または病気にかかったことなどを意味します。
    「業務遂行性」と「業務起因性」の2つを満たすことが必要です。

    • 業務遂行性とは:使用者(事業主)の支配下においてケガや病気などが発生したことを意味します。
    • 業務起因性とは:使用者の業務とケガや病気などの間に、合理的な因果関係があることを意味します。

    ② 通勤災害
    通勤中にケガをし、または病気にかかったことなどを意味します。
  2. (2)労働できないこと

    休業補償給付を受けるには、労働災害に起因するケガ・病気などにより、被災労働者が労働できない状態にあることが必要です。

    労働時間のすべてにおいて労働不能である場合(全部労働不能)のほか、通院などによって一部の時間労働できない場合(一部労働不能)にも、労働できない状態にあると評価されるため、休業補償給付を受けられます。

  3. (3)休業期間について賃金を受けていないこと

    休業補償給付が支給されるのは、休業期間について賃金を受けていない場合に限られます。

    「賃金を受けていない」日とは、以下のいずれかに該当する日を意味します。

    ① 全部労働不能であって、平均賃金の60%未満の金額しか受けない日
    (例)

    平均賃金が1万円である労働日に休業し、会社から被災労働者に対して、当該休業日の手当として3000円が支払われた。
    →使用者から支給された手当は平均賃金の30%にとどまるため、「賃金を受けていない」日に当たる

    ② 一部労働不能であって、平均賃金と実労働時間に対して支払われる賃金の差額の60%未満の金額しか受けない日
    (例)
    平均賃金が1万円である労働日に半日休業し、会社から被災労働者に対して、当該労働日の半日労働に対して5000円の賃金が支払われ、さらに半日休業に対応する手当として2000円が支払われた。
    →半日休業について使用者から支給された2000円の手当は平均賃金と実労働時間に対して支払われる賃金の差額である5000円の40%にとどまるため、「賃金を受けていない」日に当たる

2、休業補償給付の対象期間・計算方法

休業補償給付の受給資格がある場合、休業4日目以降、給付基礎日額の80%に相当する金額を受け取れます

  1. (1)対象期間は休業4日目以降

    休業補償給付の対象期間は、労働災害に起因するケガや病気の療養のために休業した期間の4日目以降です。

    休業初日から3日目までは待機期間とされており、待機期間については使用者が休業手当を支払う義務を負います(労働基準法第26条)。

  2. (2)休業補償給付額の計算方法

    休業補償給付には「休業(補償)等給付」と「休業特別支給金」の2種類があり、受給資格のある被災労働者は両方を受け取れます。

    休業(補償)等給付は給付基礎日額の60%休業特別支給金は給付基礎日額の20%です。
    合計すると、給付基礎日額の80%を休業補償給付として受給できます。

    なお「給付基礎日額」とは、原則として、労働基準法上の平均賃金に相当する額を言います。
    平均賃金は原則として、以下の期間に支払われた賃金の総額を、当該期間の暦日数で割った金額です。

    ① 賃金締切日が定められている場合
    事故直前の賃金締切日の直前3か月間

    ② 賃金締切日が定められていない場合
    事故発生日の直前3か月間

    ※臨時的に支払われた賃金や、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。
    (例)
    • 月給制(賃金締切日:毎月末日)
    • 2022年6月10日に労働災害が発生
    • 労働災害に起因するケガを治療するため、7日間休業した
    • 2022年3月、4月、5月の総賃金は92万円

    給付基礎日額
    =92万円÷92日(3~5月の暦日数)
    =1万円

    休業補償給付の対象期間は4日間(休業4日目~7日目)

    休業(補償)等給付
    =1万円×60%×4日
    =2万4000円

    休業特別支援金
    =1万円×20%×4日
    =8000円

    合計:3万2000円

    なお、通勤災害により療養給付を受ける場合には、初回の休業給付から一部負担金として200円が減額されます。

3、休業補償給付を受けるための手続きと必要書類

休業補償給付を受けるためには、労働基準監督署長に必要書類を提出して請求を行う必要があります。

  1. (1)労働基準監督署長に請求を行う

    休業補償給付の請求先は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長です。

    労働基準監督署の所在地は、以下の厚生労働省ウェブページから確認できます。
    (参考:「全国労働基準監督署の所在案内」(厚生労働省)

    もし、会社が労災の申請を拒んでいるなど、大前提として労災認定を受けていないというケースがあるかもしれません。その場合、まずは以下の手続きを行い、治療費などの請求も行いましょう。ご自身やご家族により、会社を介さずとも手続きが行えます

    • 労災保険に認定された病院で治療を受けた場合
      指定病院を介し、「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)または「療養給付たる療養の給付請求書」(様式第16号の3)を提出
    • 労災保険の指定病院など以外の医療機関で治療を受けた場合
      あなたの勤務先を管轄する労働基準監督局へ、「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号(1))を提出
  2. (2)休業補償給付請求の必要書類

    休業補償給付を請求する場合、業務災害の場合は「休業補償給付支給請求書」、通勤災害の場合は「休業給付支給請求書」を作成・提出します。

    請求書の書式は、以下の厚生労働省ウェブページからダウンロードできるほか、労働基準監督署の窓口でも交付を受けられます。
    (参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省)

    請求書の記載例は、厚生労働省のリーフレットをご参照ください。
    (参考:「休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続」(厚生労働省)

4、休業補償給付請求に医師の証明はなぜ必要?

休業補償給付の請求書には、「診療担当者の証明」(医師の証明)に関する事項を記載する必要があります。

  1. (1)「労働できないこと」を証明するために必要

    「診療担当者の証明」として請求書に記載すべき事項は、以下のとおりです。

    • ① 傷病の部位および傷病名
    • ② 療養の期間
    • ③ 傷病の経過(療養の現況・療養のため労働することができなかったと認められる期間)
    • ④ 病院または診療所の所在地・名称、診療担当者氏名、連絡先

    休業補償給付の請求に診療担当者の証明が必要とされているのは、「労働できないこと」が支給要件となっているためです。

    診療担当者(医師)が「療養のため労働することができなかったと認められる期間」を証明することをもって、休業補償給付の期間を確認・確定する運用となっています。

  2. (2)医師の証明の取得費用|最終的には労災保険により補填される

    休業補償給付の請求書に「診療担当者の証明」を記載してもらうには、2000円の費用が発生します(診断書を取得する場合は4000円)。

    労災保険指定医療機関(労災保険指定病院)であれば、被災労働者が証明費用を負担する必要はありません。それ以外の医療機関の場合は、一度被災労働者が証明費用を負担した後、労働基準監督署長へ療養補償給付を請求すれば還付を受けられます。

5、労災について弁護士に相談すべき場合とは?

労災保険給付の請求は、被災労働者本人でも行うことができます。

ただし労災保険給付は、必ずしも被災労働者に生じた損害の全額を補填するものではありません。もし労災保険給付が損害の補填に十分な金額でない場合には、使用者責任(民法第715条第1項)または安全配慮義務違反(民法第709条、労働契約法第5条参照)に基づき、会社に対する損害賠償請求をご検討ください

会社に損害賠償を請求する際には、弁護士へのご相談がおすすめです。

弁護士は、法的検討や証拠書類の準備、会社との交渉や裁判手続きなど、損害賠償請求に必要な対応を一括して代行します。
確固たる法的根拠に基づく請求を行うことができるため、適正な損害賠償を受けられる可能性が高まります。

労働災害によるケガや病気により、身体的・精神的・経済的な苦境に立たされている方は、お早めに弁護士までご相談ください。

6、まとめ

労働災害に起因するケガや病気によって仕事を休んだ場合、労災保険から休業補償給付を受けられます。

厚生労働省ウェブページにある記載例を参考にしたり、労働基準監督署の窓口でアドバイスを受けたりしながら、漏れのないように休業補償給付などの請求を行ってください。
請求書には診療担当者の証明(医師の証明)の記載も必要なので、主治医にお願いしましょう。

労災保険給付とは別に、会社に対する損害賠償請求を行いたい場合には、弁護士へのご相談をおすすめします。ベリーベスト法律事務所は、被災労働者が十分な損害賠償を受けられるように、会社との交渉や後遺症についての障害等級認定をサポートします。

業務中または通勤中に労働災害に遭ってしまった方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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